インボイス制度で誰が得する?SES企業・BP・客先の負担を数字で比べた表と打ち手5つ

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

インボイス制度を一言で言うと?

インボイス制度を一言で言うと、「登録番号のある請求書がないと、払った消費税を差し引けなくなる制度」です。2023年10月1日に始まりました。

インボイス制度とは、登録した事業者の請求書(インボイス)がある場合だけ、仕入れの消費税を差し引ける制度のことです。登録した事業者を、適格請求書発行事業者と呼びます。

仕入税額控除とは、売上で預かった消費税から、仕入れで払った消費税を差し引いて納める仕組みのことです。SES企業なら、BPやフリーランスへの支払いが「仕入れ」に当たります。

免税事業者と「益税」とは

免税事業者とは、2年前(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下などの理由で、消費税を納めなくてよい事業者のことです。免税事業者は登録していないので、インボイスを出せません。

益税とは、取引先から受け取った消費税相当額が、納税されずに免税事業者の手元に残ることです。インボイス制度は、この益税を減らす効果があります。

インボイス制度で得するのは誰?損するのは誰?

得をするのは国、損をする可能性があるのは本則課税のSES企業と免税BPです。客先やSES企業の一部は、ほとんど影響を受けません。

SESの商流に当てはめて、立場ごとに整理すると次のとおりです。

立場影響損得
国免税事業者の分の消費税が納められる得をする
客先(エンド・元請け)SES企業が登録していれば変わらない影響なし
SES企業(本則課税)免税BPへの支払いで控除が減る損をする可能性
SES企業(簡易課税・2割特例)仕入れの内容で納税額が変わらない仕入れ側は影響なし
免税BP(登録しない)納税はないが、単価見直しの相談を受けやすい損をする可能性
免税BP(登録する)消費税を納める必要が出る手取りが減る
登録済みの課税事業者のBPもともと納税していた影響は小さい

ポイントは、「消費税の負担をSES企業とBPのどちらが持つか」の押し付け合いになりやすいことです。一方が得をすると、もう一方が損をする形になります。

「インボイスに関係ない人」は誰か

SES企業の実務で、インボイスの影響をほぼ受けないのは次の3者です。

  1. 客先:取引先のSES企業が登録していれば、今までどおり控除できる

  2. 簡易課税・2割特例のSES企業:仕入れ先が免税でも、納める消費税は変わらない。ただし2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終わり、法人は3割特例を使えません。その後の計算方法を確認しましょう

  3. 登録済みBPとだけ取引するSES企業:支払った消費税を全額控除できる

ただし、SES企業自身が登録していないと、客先が控除できなくなります。客先との取引を続けるなら、SES企業の登録はほぼ必須です。

数字で見る:同じ取引で誰がいくら負担する?

月額単価60万円の免税フリーランス1人なら、2026年10月からの負担はSES企業でもBPでも年216,000円前後です。どちらが持つかで、損をする側が入れ替わります。

前提は次のとおりです。

  • 月額単価60万円(税抜)、消費税相当額は月6万円、年間72万円

  • BPの年間売上は720万円(取引先はこのSES企業1社)

  • SES企業は本則課税。BPが免税のまま、単価+消費税相当額を払い続ける

免税BPのまま取引を続けた場合のSES企業の負担

経過措置により、免税事業者への支払いでも消費税の一部は控除できます。経過措置とは、インボイスがなくても一定割合を控除できる、期間限定のルールのことです。

期間控除できる割合SES企業の月の負担年間の負担
2023年10月〜2026年9月80%12,000円144,000円
2026年10月〜2028年9月70%18,000円216,000円
2028年10月〜2030年9月50%30,000円360,000円
2030年10月〜2031年9月30%42,000円504,000円
2031年10月以降0%60,000円720,000円

控除割合は令和8年度税制改正で見直され、2026年10月からは70%です(2026年9月時点)。なお、免税事業者1者からの仕入れが年1億円(税込)を超えた部分には、経過措置を使えません。2026年10月1日以後に始まる課税期間からです。期間ごとの詳しい計算は、インボイス経過措置2026年10月の変更|控除割合の計算例とSESで解説しています。

BPが登録した場合のBPの納税額

BPが登録すると、SES企業の負担はなくなり、代わりにBPが消費税を納めます。BPの納税額は、選べる計算方法で大きく変わります。

BPの計算方法使える時期・条件年間の納税額(目安)
2割特例2026年9月30日を含む課税期間まで144,000円
3割特例個人事業者の2027年分・2028年分(基準期間の課税売上高1,000万円以下)216,000円
簡易課税(第5種)基準期間の課税売上高5,000万円以下で届出360,000円
本則課税条件なし720,000円から仕入れの消費税を引いた額

2割特例とは、免税事業者から登録した事業者が、売上の消費税の2割だけを納めればよい特例のことです。3割特例とは、令和8年度税制改正でできた、個人事業者が売上の消費税の3割を納めればよい特例のことです。法人は使えず、2年前(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下であることが条件です。

簡易課税とは、売上の消費税に業種ごとの割合をかけて、仕入れの消費税とみなす計算方法のことです。SESのようなサービス業は一般的に第5種で、みなし仕入率は50%です。

2つの表からわかること

2026年10月から2028年9月の間は、2つの額が同じです。SES企業が持つ負担もBPが3割特例で納める額も、年216,000円です。どちらが持っても、負担の総額は変わりません。

2028年10月以降は、SES企業の負担が年360,000円以上に増えていきます。BPは3割特例が2028年分で終わると、2029年分からは簡易課税で年360,000円になり、ここでも近い額になります。

つまり、「どちらか一方だけが得をする方法」はほとんどないということです。大事なのは、負担をどう分けるかを話し合いで決めることです。

インボイス制度が「ひどい」「やばい」と言われる理由

「ひどい」と言われる主な理由は、小規模な事業者ほど手取りが減りやすく、事務の手間も増えるからです。SES企業から見ても、同じ理由でBPとの関係がぎくしゃくしやすくなります。

よく挙がる理由を、SESの現場に当てはめると次のようになります。

言われる理由中身SESの現場で起きること
免税事業者の手取りが減る登録すると納税、しないと値下げの相談フリーランスBPが単価に敏感になる
事務の手間が増える登録番号の確認、帳簿の書き方の変更営業事務の月次作業が増える
取引から外されやすい免税だと敬遠されることがある免税BPの提案が通りにくくなる
ルールが何度も変わる経過措置・特例の見直しが続く期間ごとに負担額を計算し直す必要がある

公正取引委員会などは、一方的な取引停止や値下げは独占禁止法などで問題になるおそれがあると示しています。SES企業は、自社が「ひどい」と言われる側にならない進め方を選ぶ必要があります。

困る人・損する人が出やすいケース

SESの取引で特に負担が大きくなるのは、次のようなケースです。

  1. 本則課税のSES企業が、免税のフリーランスを何人も使っている

  2. 単価が高く、1人あたりの消費税相当額が大きい

  3. 免税BPが「税込の総額」で請求しており、消費税分がわかりにくい

  4. 登録済みBPが2割特例の終了後に登録をやめ、免税に戻る

4つ目は見落としがちです。今は登録済みでも、2027年以降に免税に戻るBPが出る可能性があります。

インボイス制度の「抜け道」はある?合法な負担軽減策

違法な抜け道はありませんが、国が用意した合法な負担軽減策は5つあります。「抜け道」と検索されることが多いのは、これらの特例のことです。

軽減策誰が使う中身
経過措置SES企業(本則課税)免税事業者への支払いも一部控除できる
2割特例免税から登録した事業者納税額を売上の消費税の2割にできる
3割特例個人事業者(2027年分・2028年分)納税額を売上の消費税の3割にできる
簡易課税売上5,000万円以下の事業者業種ごとのみなし仕入率で計算できる
少額特例基準期間の課税売上高1億円以下などの事業者税込1万円未満の仕入れはインボイスなしで控除できる

少額特例とは、税込1万円未満の仕入れなら、インボイスがなくても帳簿だけで控除できる特例のことです。期限は2029年9月30日までに延びました。SESの月額報酬は1万円を超えるので、主に交通費や備品に関係します。

一方で、次のような方法は「抜け道」ではなく、税法違反や法律違反になるおそれがある行為です。

  • 他人の登録番号を請求書に書く、登録番号を偽る

  • 報酬を細かく分けて、少額特例に当てはめようとする

  • 消費税分を「支払わない約束」を一方的に押し付ける

SES企業とBPの双方が損を減らす打ち手5つ

損を減らすには、まず自社とBPの状況を数字で把握し、特例の情報を共有したうえで、契約更新の前に協議することです。順番に進めると、関係を壊さずに済みます。

  1. 自社の計算方法を確認する:本則課税か、簡易課税・2割特例かを経理や顧問税理士に聞く

  2. BPの登録状況を一覧にする:国税庁の公表サイトで登録番号を確認する

  3. 案件ごとの負担額を出す:月額単価×10%×(1−控除割合)で計算する

  4. 免税BPに特例の情報を伝える:2割特例・3割特例・簡易課税の存在を案内する

  5. 更新前に単価を協議し、書面に残す:発注済みの分には手をつけない

打ち手1〜3:自社の負担を数字でつかむ

自社が簡易課税や2割特例なら、免税BPとの取引で仕入れ側の負担は増えません。本則課税の場合だけ、手順2と3に進みます。

BPの登録状況は、国税庁のインボイス制度 適格請求書発行事業者公表サイトで確認できます。契約更新のたびに確認すると、免税に戻ったBPを見落としにくくなります。

負担額は、案件の粗利から差し引いて考えます。売値70万円・仕入れ60万円の案件なら、見かけの粗利10万円から、70%の期間は18,000円が減ります。粗利の見方はSESの粗利率の平均は?利益率の計算式と計算例・上げる方法5つが参考になります。

打ち手4:免税BPに特例を案内する

特例を知らないまま「登録すると手取りが大きく減る」と考えている免税BPは少なくありません。情報として特例を案内するのは、BPのためにもなる進め方です。

ただし、登録するかどうかはBPが決めることです。税額の判断は、BP自身の税理士や税務署に確認してもらいましょう。

案内メールの例文は次のとおりです。

件名:インボイス制度の特例についてのご案内(ご参考)

〇〇様

いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。

2026年10月1日から、免税事業者からの仕入れで控除できる割合が80%から70%になります。参考までに、登録された場合に使える特例をお知らせします。

・2割特例:2026年9月30日を含む課税期間まで(個人の方は2026年分まで)
・3割特例:個人事業者の方の2027年分・2028年分
・簡易課税:届出により、売上の消費税の一定割合で計算

登録のご判断は〇〇様にお任せしております。登録されない場合も、取引を一方的に変えることはございません。

詳しくは、国税庁のホームページや税理士の方にご確認ください。
次回の契約更新(2026年12月末)の前に、今後の条件について一度ご相談できればと考えております。

何卒よろしくお願いいたします。

打ち手5:更新前に協議し、書面に残す

単価を見直すなら、次の契約更新の前に、根拠を示して協議するのが基本です。月額単価と負担額の計算を見せ、BPの意見も聞いたうえで決めます。

協議の日付・内容・合意した単価は、メールや議事録で残しましょう。単価交渉を切り出す時期の考え方は、SESの単価交渉のタイミング|更新の何か月前か・例文と資料5点が参考になります。

やってはいけない値下げの線引き

やってはいけないのは、「発注済みの報酬を下げること」と「協議せずに一方的に値下げすること」です。協議して双方が納得した単価なら、結果として下がっても問題になりにくいとされています。

「今月分から消費税分は払えない」「登録しないなら次の案件は紹介できない」といった伝え方は、取適法(2026年1月1日に下請法が改正されてできた法律)やフリーランス法、独占禁止法で問題になるおそれがあります。

違反になる境目の一覧表、請求書の例での判定、取引停止の注意、協議メール例文は、インボイスで免税事業者に値下げは違反?SESの取引と単価交渉にまとめています。

チョータツでBPごとの取引条件を管理する

自分で管理するなら、ExcelにBPごとの登録状況・月額単価・契約更新日・協議の記録をまとめます。更新月の2か月前に一覧を見直すルールにすると、協議の出し忘れを防げます。

ただ、案件と人材が増えると、どのBPのエンジニアがどの案件に入っているかを追うのが大変になります。情報がメールとExcelに散らばると、営業同士で状況を確認するだけで時間がかかります。

チョータツとは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールのことです。3,000社以上が使っていて、無料で始められます。

場面自分でやる場合チョータツを使う場合
案件と人材の情報を残すExcelやメールに散らばるまとめて管理できる
提案前に条件を確認するメールを探して読み返す案件・人材の情報を開いて確認できる
社内で共有するファイルを送り合うチームで同じ情報を共有できる
情報を入れる1件ずつ手で書き写すAIが入力を手伝う

他社と連携すると、他社の営業中案件・営業中人材もデータベースとして見られます。免税BPとの協議がまとまらない場合でも、次の提案の選択肢を広げやすくなります。

よくある質問

Q. インボイス制度で誰が得するのですか?
仕組みの上で得をするのは国です。免税事業者の手元に残っていた消費税の一部が、納税されるようになるからです。SES企業とBPは、負担をどちらが持つかで損をする側が決まります。
Q. インボイス制度で損する人は誰ですか?
SESの取引では、本則課税で免税BPに支払っているSES企業と、免税BP本人です。BPが登録しなければSES企業が負担し、登録すればBPが消費税を納めます。
Q. インボイスに関係ない人はいますか?
一般の消費者や、給与だけを受け取る会社員は直接は関係ありません。SESの取引では、登録済みのSES企業と取引する客先や、簡易課税・2割特例のSES企業も、仕入れ側の影響はほぼありません。
Q. インボイス制度に抜け道はありますか?
違法な抜け道はありません。合法な負担軽減策として、経過措置・2割特例・3割特例・簡易課税・少額特例があります。登録番号を偽るなどの行為は法律違反になるおそれがあります。
Q. インボイス制度はなぜ「ひどい」と言われるのですか?
小規模な事業者ほど、登録すれば納税、しなければ値下げや取引停止の心配があり、手取りが減りやすいからです。登録番号の確認など、事務の手間が増えることも理由です。
Q. 免税BPに、消費税分を値下げしてほしいと言ってよいですか?
次の契約更新の前に、根拠を示して協議することは可能です。発注済みの報酬を下げたり、協議せず一方的に通知したりすると、法律で問題になるおそれがあります。

まとめ

  • インボイス制度で仕組みの上で得をするのは国。損をするのは本則課税のSES企業か免税BPのどちらか

  • 客先、簡易課税・2割特例のSES企業、登録済みBPとだけ取引するSES企業は影響が小さい

  • 月額単価60万円なら、2026年10月からのSES企業の負担は年216,000円。BPが3割特例で納める額と同じ

  • 経過措置は2028年10月から50%、2030年10月から30%、2031年10月から0%に下がる

  • 「抜け道」は違法なものではなく、経過措置・2割特例・3割特例・簡易課税・少額特例の5つ

  • 打ち手は、自社の計算方法の確認→BPの登録確認→負担額の計算→特例の案内→更新前の協議

  • 発注済み報酬の減額と、協議なしの一方的な値下げはしない

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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