SESと受託開発の違い|アウトソーシングの種類と、顧客の相談から提案を決める判断フロー
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
SESと受託開発の違いは「売るもの」と「責任の範囲」
SESと受託開発の違いは、顧客に売るものが「人の作業」か「完成したシステム」かです。売るものが違うので、契約の種類も、失敗したときの責任も変わります。
SESとは、エンジニアの技術や作業を、決められた期間・時間だけ顧客に提供する取引のことです。システムエンジニアリングサービスの略で、多くは準委任契約で結びます。
受託開発とは、顧客から依頼されたシステムやソフトウェアを、自社で作って納める取引のことです。多くは請負契約で結び、完成して納めることで代金を受け取ります。
準委任契約とは、仕事の完成ではなく、決められた作業を行うこと自体を約束する契約のことです(民法656条)。請負契約とは、仕事を完成させることを約束し、その結果に対して報酬を払う契約のことです(民法632条)。
SESと受託開発の比較表
SES営業が知っておきたい違いは、次の表の6点です。特に「責任」と「指示を出す人」の2行は、提案を決めるときに必ず確かめます。
| 比べる点 | SES | 受託開発 |
|---|---|---|
| 売るもの | エンジニアの作業(時間) | 完成したシステム・成果物 |
| 主な契約 | 準委任契約(民法656条) | 請負契約(民法632条) |
| 料金の決め方 | 月額単価×人数(精算幅つきが多い) | 見積もった総額(一括) |
| 完成の責任 | 負わない(作業を丁寧に行う義務はある) | 負う。不具合には契約不適合責任 |
| 作業場所 | 顧客先への常駐やリモートが多い | 自社に持ち帰って開発することが多い |
| 現場の指示を出す人 | SES企業の責任者 | 受託した会社の責任者 |
契約不適合責任とは、納めたものが契約の内容に合っていないときに、直す・代金を下げる・損害を払うなどの責任を負うことです。民法637条では、顧客が不具合を知ってから1年以内に通知すれば、請負人に責任を問えると定めています。
SESにも、作業を丁寧に行う義務(善管注意義務)はあります(民法644条)。
表にない注意点:どちらも「顧客が直接指示する」とNG
SESも受託開発も、顧客がエンジニアに直接指示を出す形にはできません。顧客が直接指示できるのは、派遣契約だけです。
厚生労働省は、請負か派遣かを契約の名前ではなく働き方の実態で判断するとしています。判断基準は、昭和61年労働省告示第37号(通称37号告示)です。準委任契約にも同じ考え方が当てはまるとされています。
受託開発なのに顧客の席で顧客の指示を受けて作業すると、偽装請負と判断されるおそれがあります。偽装請負とは、契約は請負や準委任なのに、実態は派遣になっている状態のことです。派遣との線引きはSESと派遣の違い|準委任・派遣・請負の比較表と確認5項目で解説しています。
アウトソーシングの種類とSES・受託開発の位置
アウトソーシングとは、会社の仕事の一部を外部の会社に任せることです。IT分野では主にSES・派遣・受託開発・BPOの4つがあり、「人を出すか、仕事ごと引き受けるか」で2つに分かれます。
| 種類 | 顧客が買うもの | 主な契約 | 現場の指示 |
|---|---|---|---|
| SES | エンジニアの作業 | 準委任 | SES企業 |
| 派遣 | 人を指示して使う権利 | 労働者派遣 | 顧客(派遣先) |
| 受託開発 | 完成したシステム | 請負(準委任もある) | 受託した会社 |
| BPO | 業務の運用そのもの | 準委任や請負 | 受託した会社 |
BPOとは、ビジネス・プロセス・アウトソーシングの略で、業務の一連の流れをまとめて外部に任せることです。例として、ヘルプデスクや運用監視を、手順づくりから担当者の管理まで任せる形があります。
図にすると、次のような位置関係です。
【人を出す】 【仕事ごと引き受ける】
顧客が指示 ┌─────────┐
│ 派遣 │
└─────────┘
受託側が指示 ┌─────────┐ ┌─────────┐ ┌─────────┐
│ SES │ │ 受託開発 │ │ BPO │
│(準委任) │ │(請負) │ │(運用) │
└─────────┘ └─────────┘ └─────────┘
作業に責任 ──────────→ 結果に責任右へ行くほど、受託側が負う責任が重くなり、1件あたりの金額も大きくなりやすいです。その分、見積もりの失敗や不具合のリスクも受託側が抱えます。
BPOとの違いはSESとBPO・BPの違い|営業が押さえる契約形態と売り方3点で詳しく比べています。受託開発そのものの仕組みと請負の見積もり例は受託開発とは?SESとの違いと営業が請負案件を扱う注意点をご覧ください。この記事は「どちらで提案するか」の判断に絞ります。
受託開発にも「準委任」がある:工程ごとに契約を分ける
受託開発はすべて請負、というわけではありません。工程ごとに、準委任と請負を使い分けるのが一般的な考え方です。
IPA(情報処理推進機構)は「情報システム・モデル取引・契約書」を公開しています。その中では、開発の工程ごとに契約の種類を選ぶ考え方が示されています。また、アジャイル開発向けのモデル契約も別に用意されています。
| 工程 | 向いている契約 | 理由 |
|---|---|---|
| 要件定義 | 準委任 | 何を作るかを顧客と一緒に決める段階で、完成の形がない |
| 設計〜開発・テスト | 請負が多い | 作るものが決まり、完成を約束しやすい |
| アジャイル開発 | 準委任 | 作りながら中身を変えるので、完成の形を先に決めにくい |
| 運用・保守 | 準委任 | 決まった作業を続けることが中心 |
アジャイル開発とは、短い期間で「作る・確かめる」を繰り返し、少しずつ完成させていく開発の進め方のことです。
また、準委任でも「成果物を納めたら報酬を払う」という約束もできます(民法648条の2)。この形を成果完成型の準委任と呼びます。チームを決まった期間まるごと確保する形の準委任は、ラボ契約とは?SESとの違いと準委任で結ぶときの注意で解説しています。
営業として押さえたいのは、「受託開発=一括請負」と決めつけないことです。仕様があいまいな相談を一括請負で受けると、追加作業が無料になりやすく、赤字の原因になります。
営業の売り分け方:顧客の相談から判断する7つの質問
SESで出すか受託開発で受けるかは、最初の打ち合わせで7つの質問をすれば決められます。上から順に聞き、当てはまった答えで提案の形を決めます。
困っていることは「人が足りない」か「作ってほしいものがある」か
→ 「人が足りない」ならSESの候補。「作ってほしい」なら2へ作るものの仕様(画面・機能・納期)は決まっているか
→ 決まっていないなら、要件定義を準委任で受けるかSESで入る。決まっているなら3へ途中で仕様が変わる可能性は高いか
→ 高いなら準委任(アジャイル型)かSES。低いなら4へ自社(またはBP)に、完成まで責任を持てるチームと責任者がいるか
→ いないならSESで人を出す形にとどめる。いるなら5へ作業場所は自社に持ち帰れるか
→ 持ち帰れるなら請負の受託開発を提案しやすい。顧客先で作業するなら、指示の流れを6で確かめる顧客の社員が、エンジニアに直接作業を指示する想定か
→ 直接指示したいなら、派遣契約でないと受けられない。派遣の許可がなければ、体制を変えるか見送る予算は「月いくら」か「総額いくら」で考えているか
→ 月額で考えているならSES・準委任、総額で考えているなら請負の受託開発が合いやすい
| 顧客の相談の例 | 7問の答え | 向いている提案 |
|---|---|---|
| 「Javaが書ける人を2名、来月から」 | 1で人が足りない | SES |
| 「予約サイトを作りたいが、中身はこれから」 | 2で仕様が未定 | 要件定義を準委任、その後に受託開発 |
| 「この仕様書どおりに3か月で作ってほしい」 | 2〜5がすべてそろう | 請負の受託開発 |
| 「社内で新サービスを試しながら作りたい」 | 3で変更が多い | 準委任(アジャイル型)かSES |
| 「うちの社員の指示で動く人がほしい」 | 6で直接指示 | 派遣(許可がある場合のみ) |
私たちの考えでは、迷ったらSESか準委任から始めるのがおすすめです。一緒に作業するうちに仕様が固まれば、次の工程を請負で受けられるからです。
ヒアリングで使える聞き方の例文
顧客への質問は、「どちらで出しますか」ではなく、困りごとを聞く形にすると答えやすくなります。
件名:【ご相談内容の確認】〇〇のご支援について 〇〇株式会社 〇〇様 いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。 先日はご相談ありがとうございました。 最適な進め方をご提案するため、次の点を教えてください。 1. 今回の目的(人手の補強か、新しい仕組みづくりか) 2. 作りたいものの内容と、決まっている範囲(画面・機能・納期) 3. 進めながら内容が変わる可能性の大きさ 4. 作業場所(貴社内か、弊社での持ち帰りが可能か) 5. 現場で作業の指示を出していただく方のお立場 6. ご予算の考え方(月ごとか、総額か) いただいた内容をもとに、弊社メンバーの参画(SES)か、 開発のお引き受けかを含めて、進め方をご提案いたします。
SES会社が受託開発を受ける前の確認点
SES会社が受託開発を受けるときは、完成の責任を負えるかを先に確かめます。SESと同じ感覚で受けると、赤字や不具合の責任で苦しくなります。
見積もりの前提を書面に残す:作る範囲・作らない範囲・前提条件を見積書に書く
検収の方法と期限を決める:何をもって完成とするか、顧客がいつまでに確認するかを契約で決める
仕様変更の扱いを決める:追加や変更は別見積もりにする、と契約に入れる
責任者を置く:自社の責任者がメンバーに指示を出す体制にする。顧客が直接指示しない
BPに再委託するか決める:顧客との契約で再委託に承諾が必要とされていないかを確かめる。BPとの契約の中身(範囲・検収・責任)も顧客との契約とそろえる
SESの案件と違い、受託開発は見積もりの読み違いがそのまま自社の損になります。はじめは小さな案件や、要件定義だけの準委任から受けると安全です。
請負で受ける前の確認点は請負契約とは?民法の意味・特徴とSESが受ける前の確認点7つに、契約書での見分け方は準委任契約と請負契約の違い|業務委託契約書を見分ける判定シートにまとめています。エンドに体制ごと提案するときの資料は、エンド直案件の提案書の作り方|SESの体制提案の構成と見本が参考になります。
受託開発をBPに出すときは下請取引のルールも確認
受託した開発を別の会社に出すときは、取適法が関わる場合があります。取適法とは、2026年1月1日に下請法から改正・改称された「中小受託取引適正化法」のことです。発注内容を示す書面や支払期日に決まりがあります。自社と相手の資本金・従業員数を先に確かめます。
自分でやる:案件管理表に「提案の形」の列を作る
売り分けを社内で毎回そろえるには、案件管理表に「提案の形」と「判断の理由」の列を足すのが簡単です。担当者によって判断がぶれるのを防げます。
案件一覧に列を足す。「提案の形(SES/準委任/請負/派遣)」「仕様の決まり具合」「指示を出す人」「作業場所」「予算の考え方」
顧客の相談を受けたら、7つの質問の答えをその列に書く
「提案の形」を決めた理由を1行で残す
月に1回、請負で受けた案件の結果(黒字か赤字か)を振り返る
チョータツで案件の条件と人材をまとめて見る
案件が増えると、契約形態や体制の情報がメールやExcelに散らばります。チョータツを使うと、案件・人材の情報を1か所で管理し、社内で共有できます。
| 場面 | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 案件の条件を記録する | メールを読んでExcelに転記 | 案件情報をチョータツで管理。AIが入力を手伝う |
| SESで出せる人を探す | 社内の名簿やファイルを探す | 人材の情報を管理・共有し、社内で探せる |
| 取引先の案件・人材を把握する | 届く配信メールを1通ずつ確認 | 他社と連携すると、他社の営業中案件・営業中人材をデータベース化 |
| パートナーに声をかける | 1社ずつメールを作る | パートナーへのメール配信機能で送れる |
SESか受託開発かの判断は、人が顧客の相談内容と契約を見て行います。チョータツは、その判断に必要な案件と人材の情報を集めて見やすくする道具です。3,000社以上が利用しており、無料で始められます。
よくある質問
- Q. SESと受託開発の違いを一言でいうと?
- SESは「エンジニアの作業」を売り、受託開発は「完成したシステム」を売ります。受託開発は完成に責任を持ち、不具合には契約不適合責任を負います。
- Q. アウトソーシングとSESの違いは?
- アウトソーシングは、仕事を外部に任せること全体を指す言葉です。SESはその一つで、エンジニアの作業を準委任契約で提供する形です。ほかに派遣・受託開発・BPOがあります。
- Q. SESと受託開発、営業としてどっちを提案すればいい?
- 顧客が「人が足りない」ならSES、「仕様の決まったものを作ってほしい」なら受託開発が基本です。仕様が決まっていなければ、SESか準委任から始めるのが安全です。
- Q. 受託開発は必ず請負契約ですか?
- いいえ。要件定義やアジャイル開発は準委任で結ぶことが多いです。IPAのモデル契約でも、工程ごとに契約の種類を選ぶ考え方が示されています。
- Q. 受託開発で顧客先に常駐してもいいですか?
- 常駐そのものは可能です。ただし顧客がエンジニアに直接指示すると、偽装請負と判断されるおそれがあります。自社の責任者が指示を出す体制にしましょう。
- Q. SES会社が受託開発を始めるときの注意点は?
- 見積もりの前提・検収の方法・仕様変更の扱いを契約で決めることです。はじめは小さな案件や要件定義だけの準委任から受けると、赤字のリスクを抑えられます。
まとめ
SESは「作業」、受託開発は「完成品」を売る。契約は主に準委任と請負
受託開発(請負)は完成に責任を持ち、不具合には契約不適合責任を負う
アウトソーシングは「人を出す(SES・派遣)」と「仕事ごと引き受ける(受託開発・BPO)」に分かれる
受託開発でも、要件定義やアジャイル開発は準委任が多い
SESも受託開発も、顧客が直接指示すると偽装請負のおそれがある
最初の打ち合わせで7つの質問をし、迷ったらSESか準委任から始める
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「民法」(632条・637条・648条の2・656条)
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(中小受託取引適正化法〈取適法〉。令和7年法律第41号による改正、2026年1月1日施行)
IPA(情報処理推進機構)「情報システム・モデル取引・契約書」(第二版・アジャイル開発版)
厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集」(第3集で準委任も同様と明記)