SESの株式譲渡と事業譲渡の違い|取引先との契約・派遣許可・雇用の引き継ぎ比較表と通知メール文例
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
株式譲渡と事業譲渡の違いは「会社ごと渡すか、事業だけ渡すか」
株式譲渡と事業譲渡のいちばんの違いは、契約の相手になる会社が変わるかどうかです。株式譲渡では会社が同じまま残り、事業譲渡では契約の相手が買い手の会社に変わります。
株式譲渡とは、会社の株を売り手から買い手へ渡し、会社の持ち主(株主)を変えることです。会社の名前・法人番号・契約は、何もしなければそのまま残ります。
事業譲渡とは、会社の事業の全部または一部を、契約・社員・資産などとまとめて別の会社へ売ることです。売り手の会社は残ります。買い手は「何を引き継ぐか」を選べます。
| 比べる点 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 何が動くか | 会社の株(持ち主) | 事業(契約・社員・資産) |
| 契約の相手 | 変わらない | 買い手の会社に変わる |
| 引き継ぐ範囲 | 会社の全部(借金や問題も) | 選んだものだけ |
| 手続きの重さ | 比較的軽い | 契約ごと・社員ごとに承諾が必要 |
SES企業のM&Aでは、手続きが軽い株式譲渡が選ばれることが多いといわれます。ただし「一部の部門だけ売る」「過去の問題を引き継ぎたくない」ときは、事業譲渡が使われます。業界全体の買収の動きは、SES業界のM&A動向2026|買収事例と営業・取引先への影響で整理しています。
取引先との契約・派遣許可・雇用はどうなる?3点の比較表
SESで大事な3つの引き継ぎを、表にまとめます。株式譲渡は「原則そのまま」、事業譲渡は「承諾や手続きが必要」と覚えておけば大きく外れません。
| 引き継ぐもの | 株式譲渡 | 事業譲渡 | 営業がすること |
|---|---|---|---|
| 取引先との基本契約・個別契約 | そのまま続く(条項しだいで通知・同意が必要) | 取引先1社ずつの承諾が必要 | 契約書の条項を確認し、連絡する |
| 労働者派遣事業の許可 | 会社に残る(役員などの変更は届出) | 買い手が許可なしなら新規許可が必要 | 派遣契約の有無と許可番号を確認 |
| エンジニア(社員)の雇用 | そのまま続く | 本人の承諾が必要 | 稼働中の要員リストを作る |
| BP(協力会社)との契約 | そのまま続く(条項しだい) | BP1社ずつの承諾が必要 | 再委託先の一覧を作る |
基本契約とは、取引先との取引全体に共通するルールを決めた契約です。個別契約とは、案件ごとの期間・単価・人数を決めた注文書や契約のことです。どちらも引き継ぎの対象になります。基本契約の条項の見方は、SESの基本契約書とは|テンプレートと個別契約の優先・印紙7号を見てください。
取引先との契約:事業譲渡は「相手の承諾」がないと移らない
事業譲渡で契約を買い手に移すには、取引先の承諾が必要です。民法第539条の2は、契約上の地位の譲渡は「その契約の相手方がその譲渡を承諾したとき」に移ると定めています。
契約上の地位の移転とは、契約の当事者としての立場を、まるごと別の会社に渡すことです。承諾が取れない取引先の契約は、買い手に移りません。そのため事業譲渡では、取引先の数だけ承諾の連絡が必要になります。
営業の現場で見落としやすいのは、取引先側での「買い手の取引先登録」です。事業譲渡では契約の相手が買い手の会社に変わります。そのため取引先が、買い手の反社チェックや与信審査、発注システムへの登録をやり直すことがあります。承諾書とあわせて、取引先の購買・経理の担当者に必要な書類を早めに確認してください。
株式譲渡では、会社が変わらないので、原則として承諾は要りません。ただし基本契約に次のような条項があると、話が変わります。
チェンジオブコントロール条項:支配株主が変わったら、事前の通知・同意が要る、または相手が解約できる決まり
地位の譲渡禁止条項:相手の書面の承諾なしに、契約上の地位を他社に渡せない、という決まり(事業譲渡に関係)
反社会的勢力の排除・通知義務:役員や株主の変更を知らせる決まり
派遣許可:株式譲渡なら残り、事業譲渡では新規許可が要ることがある
労働者派遣事業の許可は、許可を受けた会社に付いています。株式譲渡では会社が同じなので、許可はそのまま使えます。ただし役員や派遣元責任者が変わったら、派遣法第11条にもとづく変更の届出が必要です。
事業譲渡の扱いは、厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」に書かれています。第3の8(2)「法人の合併等に際しての取扱い」の部分です。要領では、事業譲渡は吸収分割に準じ、吸収分割は吸収合併に準じて扱うとしています。つまり次のとおりです。
買い手が派遣許可を持っていない:新規許可申請が必要
買い手が派遣許可を持っている:新規申請は不要。名称などが変わる場合は変更の届出、事業所が増える場合は事業所の新設の届出をする
SESは準委任契約が中心ですが、派遣契約の案件を混ぜている会社もあります。派遣契約が1件でもあれば、この確認が欠かせません。準委任と派遣の違いは、SESと派遣の違い|準委任・派遣・請負の比較表と確認5項目で解説しています。相手の許可の有無は、労働者派遣の許可番号を検索する方法|取引前の確認手順3つで確かめられます。
エンジニアの雇用:事業譲渡では本人の承諾が必要
事業譲渡で社員を買い手に移すには、社員本人の承諾が要ります。民法第625条第1項は「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない」と定めています。
営業にとって大事なのは、稼働中のエンジニアが移籍を断ると、その案件を買い手が続けられないことです。取引先に「担当エンジニアは変わりません」と言う前に、本人の意向を確認してください。株式譲渡では雇い主が同じ会社なので、雇用はそのまま続きます。
移籍を断る人が出たときは、取引先に早めに相談し、代わりの要員を探します。進め方はSESで参画決定後にエンジニアが辞退したら|客先への連絡と代替要員の手順が参考になります。
株式譲渡でも取引先への連絡が必要な3つの場面
株式譲渡は「何もしなくてよい」わけではありません。次の3つに当てはまるときは、効力が生じる前に取引先へ連絡します。
| 場面 | なぜ連絡が必要か | 連絡のタイミング |
|---|---|---|
| 基本契約にチェンジオブコントロール条項がある | 事前通知・同意がないと契約違反や解約の理由になる | 条項で決まった期限まで(多くは事前) |
| 社名・代表者・振込先が変わる | 請求書や注文書の宛名・支払先がずれる | 変更の1か月前が目安 |
| 買い手が取引先の競合、または商流が変わる | 取引先が「情報が漏れないか」を気にする | 公表と同時か、その直前 |
取引先の中には、上場企業のように取引先の審査(反社チェック・与信)をやり直す会社もあります。審査に時間がかかると、次の契約更新に間に合わないことがあります。早めの連絡が、いちばんの防御です。
取引先に連絡する時期と順番
取引先への連絡は、契約が決まった後、公表の前後に、影響が大きい順で行います。交渉中に営業が先に話すと、秘密保持の約束(NDA)に違反するおそれがあります。
営業が進める手順は次のとおりです。
連絡してよい時期を経営者に確認する:M&Aの契約書や秘密保持契約で、いつ誰に話してよいかが決まっています
契約の棚卸しをする:取引先ごとに、基本契約の有無・条項・稼働中の人数・月の売上を一覧にします
連絡の順番を決める:チェンジオブコントロール条項がある先、売上が大きい先、事業譲渡で承諾が要る先から順に並べます
窓口と説明の中身をそろえる:誰が・何を・どこまで話すかを1枚にまとめます
通知メールを送り、必要なら訪問する:大口の取引先は、メールだけでなく面談で説明します
承諾書・覚書を回収する:事業譲渡では、承諾を書面で残します
注文書・請求書の宛名と振込先を切り替える:効力発生日から、新しい情報で出します
棚卸しで作る一覧の例です。
| 取引先 | 契約の種類と条項 | 稼働人数 | 対応 |
|---|---|---|---|
| A社(エンド) | 準委任/CoC条項あり | 5名 | 事前同意を取る(最優先) |
| B社(元請け) | 準委任/譲渡禁止条項あり | 3名 | 事業譲渡なら承諾書を回収 |
| C社(BP) | 準委任/特別な条項なし | 2名 | 通知メールのみ |
BPとは、案件や人材を紹介し合う協力会社のことです。自社がBPに仕事を出している場合、そのBPとの契約も引き継ぎの対象です。再委託の条件は、SESの再委託禁止条項の書き方|承諾条件と個人事業主の扱いも参考にしてください。
そのまま使える通知メールの文例
ここでは、2026年12月1日(火)に効力が生じる前提で、2026年11月2日(月)に送る文例を載せます。社名や日付は自社に合わせて書き換えてください。
文例1:株式譲渡の通知(取引は変わらない場合)
件名:【ご連絡】当社株主の異動について
株式会社〇〇 〇〇部 〇〇様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
このたび当社は、2026年12月1日付で、株式会社××の子会社となることになりました。当社の社名・所在地・振込先、および貴社との契約内容に変更はございません。
ご稼働中のエンジニアの体制も、これまでどおり継続いたします。貴社との基本契約書第〇条に基づき、あらかじめご通知申し上げます。
ご不明な点がございましたら、□□までお問い合わせください。
今後とも変わらぬお引き立てを賜りますよう、お願い申し上げます。
文例2:事業譲渡の通知と承諾のお願い
件名:【ご相談】事業譲渡に伴う契約上の地位の移転についてのお願い
株式会社〇〇 〇〇部 〇〇様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
当社は、2026年12月1日付で、SES事業を株式会社××へ譲渡することになりました。つきましては、貴社との基本契約および個別契約の当事者を、同日付で株式会社××へ移すことについて、ご承諾をいただきたく存じます。
契約の条件(単価・精算幅・支払いサイト)と、ご稼働中のエンジニアに変更はございません。承諾書を添付いたしましたので、2026年11月20日(金)までにご返送いただけますと幸いです。
近日中に、××社の担当者とともにご説明に伺えればと存じます。
文例2の「エンジニアに変更はない」という一文は、本人の移籍の承諾が取れてから書いてください。承諾前に書くと、あとで約束を守れなくなるおそれがあります。
営業の担当者も変わる場合は、あわせて担当変更のあいさつを送ります。例文は営業担当者変更の挨拶メール例文|SESの取引先・BP・要員向けにあります。
自分の取引先(BP)がM&Aされたときの確認ポイント
自社ではなく、取引先やBPが買収されることもあります。その場合は、相手の説明を待たずに、自社から4点を確認します。
株式譲渡か事業譲渡か:事業譲渡なら、契約の相手が変わります。承諾書の依頼が来るはずです
支払い条件が変わらないか:支払いサイト(締め日から支払日までの日数)や振込先を確認します
商流が変わらないか:買い手が上位の会社なら、商流が1つ短くなることがあります。反対に、間に1社増えることもあります
秘密保持と引き抜き:自社のエンジニア情報が、買い手の会社で使われないかを確認します
買う側で相手のリスクを調べる方法は、SESのM&Aデューデリジェンスの注意点|偽装請負など確認20項目にまとめています。
取引先・案件の棚卸しをチョータツで楽にする
M&Aの営業準備で一番時間がかかるのは、取引先・案件・人材の一覧づくりです。自分でやるなら、表計算ソフトで「取引先×案件×担当エンジニア」の一覧を作り、担当者ごとに埋めてもらいます。
ただ、営業ごとにバラバラの表やメールに情報が散らばっていると、集めるだけで数日かかります。チョータツは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールです。日ごろからチョータツで案件と人材を管理しておくと、M&Aのときに一覧をすぐ出せます。
案件・人材の情報を、チーム全体で管理・共有できる
パートナーへのメール配信機能で、通知の連絡にも使える
他社と連携すると、他社の営業中案件・人材をデータベース化できる
AIが入力を手伝うので、登録の手間が減る
チョータツは3,000社以上が利用しており、無料で始められます。
よくある質問
- Q. SESの株式譲渡で、取引先の同意は必要ですか?
- 原則は不要です。会社が同じまま残るからです。ただし基本契約にチェンジオブコントロール条項があれば、事前の通知や同意が必要です。
- Q. 事業譲渡では、取引先の契約は自動で引き継がれますか?
- 自動では引き継がれません。民法第539条の2により、取引先の承諾があって初めて契約上の地位が移ります。
- Q. 事業譲渡で、労働者派遣事業の許可は引き継げますか?
- そのままは引き継げません。買い手が許可を持っていなければ、新規の許可申請が必要です。許可を持っていれば、変更の届出で対応します。
- Q. 事業譲渡で、エンジニアは自動で移籍しますか?
- 移籍しません。民法第625条第1項により、本人の承諾が必要です。断った人は売り手の会社に残ります。
- Q. 取引先にはいつ伝えればいいですか?
- M&Aの契約が決まり、社内で話してよい時期になってからです。承諾や事前通知が要る取引先には、効力発生日の1か月前を目安に連絡します。
- Q. 会社分割や合併の場合はどうなりますか?
- 合併や会社分割では、契約や雇用がまとめて移る仕組みがあります。ただし派遣許可は新規申請が必要な場合があります。個別の判断は専門家に確認してください。
まとめ
株式譲渡は「持ち主が変わるだけ」。契約・派遣許可・雇用は原則そのまま続きます。
事業譲渡は「契約の相手が変わる」。取引先とエンジニアの承諾、場合によっては派遣許可の新規取得が要ります。
株式譲渡でも、チェンジオブコントロール条項があれば事前の対応が必要です。
営業は、契約の棚卸し→連絡の順番決め→通知メール→条件の再確認の順で進めます。
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「民法」(第539条の2 契約上の地位の移転、第625条 使用者の権利の譲渡の制限等)
e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(第5条 許可、第11条 変更の届出)
e-Gov法令検索「会社法」(第467条 事業譲渡等の承認等)
厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領・様式・各種報告書」(第3の8(2)「法人の合併等に際しての取扱い」。令和8年10月1日適用版の公表を確認)