SESのM&Aデューデリジェンスの注意点|契約・偽装請負・定着率の確認項目チェックリストと案件一覧の作り方

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

デューデリジェンスとは?SESのM&Aで行う調査

デューデリジェンス(DD)とは、M&Aの前に、買い手が売り手の会社のリスクを細かく調べることです。 中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、主に譲り受け側が専門家に頼んで行う調査として説明されています。

調べる範囲はいくつかに分かれます。SES企業で特に大事なのは、次の4つです。

種類調べることSES企業で見られる点
財務DD資産・借金・利益案件別の粗利、支払いサイトの差
法務DD契約・許可・株式基本契約書、再委託、派遣の許可
人事労務DD雇用・労働時間・残業代待機中の給与、未払い残業代
ビジネスDD事業の強さ・将来性取引先の集中、商流の深さ、定着率

このほか、税務・IT・知的財産などのDDもあります。SES企業は工場や大きな設備を持たないことが多いです。そのため、契約と人に関わるDDの比重が大きくなります。

→ M&Aの全体の流れは、SESの会社売却の相場|企業価値の算定方法と高く売る準備7つで解説しています。

SESのデューデリジェンスで契約が特に見られる理由

SES企業では、会社の価値のほとんどが「エンジニア」と「取引先との契約」にあるからです。ここが崩れると、買った直後に売上が減ります。

買い手が心配するのは、主に次の3つです。

  1. 売上が続くか:大口の取引先が抜けたり、契約が切られたりしないか

  2. 法律違反を引き継がないか:偽装請負や二重派遣があると、買った後に責任を負うおそれがある

  3. 人が残るか:M&Aをきっかけに、エンジニアや営業が辞めないか

この3つは、決算書を見るだけでは判断できません。だから、案件1件ずつの契約と、現場での働き方まで確認されます。

SES特有の確認項目チェックリスト【4分野・20項目】

SES企業のDDでは、次の20項目を確認されることが多いです。中小M&Aガイドライン第3版などを基に、編集部が整理しました。売り手は事前に自分で確認し、買い手は質問リストとして使えます。

1. 取引先の集中

取引先の集中とは、売上の多くが少数の取引先に頼っている状態のことです。上位の1社が抜けると、会社の売上が大きく減ります。

#確認すること見るポイント
1上位1社・上位3社の売上比率1社に大きく頼っていないか
2大口取引先との契約の残り期間更新が近い契約が多くないか
3チェンジ・オブ・コントロール条項株主が変わると解約できる条項がないか
4商流の深さ何次請けの案件が多いか
5取引先の信用支払いの遅れ・倒産の心配がないか

チェンジ・オブ・コントロール条項とは、会社の株主や経営者が変わったとき、相手が契約を解除できるとする条項のことです。 大口の基本契約書にこの条項があると、M&Aの前に相手の同意が必要になることがあります。

計算例:取引先の集中度

  • 年間売上:3億円

  • 上位1社の売上:1億2,000万円 → 1億2,000万円 ÷ 3億円 = 40%

  • 上位3社の売上:2億1,000万円 → 2億1,000万円 ÷ 3億円 = 70%

この場合、上位1社との関係がM&Aの後も続くかが大きな論点になります。取引の年数や担当者との関係も、説明できるようにしておきましょう。

2. 契約書と実態の差

契約書と実態の差とは、契約書に書いた働き方と、現場で実際に行われている働き方が違うことです。SESではここが一番のリスクになります。

#確認すること見るポイント
6全案件に契約書・注文書があるか口約束だけで動いている案件がないか
7契約形態準委任・請負・派遣のどれか、書類と一致しているか
8単価・精算幅・支払いサイト注文書と請求書の金額が一致しているか
9契約の期間と更新期限切れのまま働いている案件がないか
10引き抜き禁止・秘密保持の条項自社を守る条項が入っているか

特に多いのが、注文書の期間が切れたまま、エンジニアが働き続けているケースです。M&Aの前に、全案件の期間を一度そろえて確認しましょう。

→ 条項の確認はSES基本契約書のテンプレートと条項チェック15が参考になります。

3. 偽装請負・二重派遣

偽装請負とは、契約は準委任や請負なのに、実際は客先がエンジニアに直接指示を出している状態のことです。二重派遣とは、派遣先が受け入れたエンジニアを、さらに別の会社へ送り、その会社の指示で働かせることです。 職業安定法で禁止されています。

#確認すること見るポイント
11客先からエンジニアへの指示準委任なのに、客先が直接仕事を指示していないか
12勤怠の管理客先が勤怠を管理・承認していないか
13再委託の流れ自社の先に、さらに別の会社が入っていないか
14派遣の許可派遣契約があるなら、許可番号があるか
15過去の指導・トラブル労働局の指導や、取引先とのもめごとがないか

偽装請負は、厚生労働省の「37号告示」という基準で判断されます。法律を免れる目的の偽装請負と判断されると、労働契約申込みみなし制度(労働者派遣法40条の6)の対象になります。労働契約申込みみなし制度とは、客先がエンジニアに直接雇用を申し込んだとみなされる仕組みです。

買い手から見ると、偽装請負がある会社を買うのは大きなリスクです。取引先との関係が壊れたり、エンジニアが客先に移ったりするおそれがあるからです。

→ 詳しくは偽装請負の判断基準|SES営業が避けたいNG行為10選と予防策、SESの二重派遣(多重派遣)は違法?罰則と避ける契約の組み方をご覧ください。

4. エンジニアの定着

エンジニアの定着とは、エンジニアが辞めずに会社で働き続けることです。SES企業の売上は、エンジニアが現場にいることで生まれます。

#確認すること見るポイント
16プロパーとBPの人数の比率自社社員が売上の中心か
17年間の離職率ここ3年で上がっていないか
18待機中の人数と期間待機が長いエンジニアが多くないか
19残業代・待機中の給与の支払い未払いがないか
20主要な営業担当の残留取引先との関係を一人が持っていないか

プロパーとは自社で雇っているエンジニア、BPとは取引先の会社から来てもらうエンジニアのことです。 BP比率が高いと粗利は薄くなりがちです。一方で、BPとの関係がM&Aの後も続くかも確認されます。

営業責任者が準備する「案件・契約一覧」の整え方

売り手の営業責任者が最初にやるべきことは、全案件を1行ずつ並べた一覧表を作ることです。DDの質問の多くは、この一覧表があればすぐに答えられます。

一覧表に入れる項目

分類項目書き方の例
案件案件名・エンド・取引先〇〇社 基幹システム改修
商流自社の位置・間に入る会社二次請け(エンド→A社→自社)
契約契約形態・契約書の有無準委任/基本契約・注文書あり
条件単価・精算幅・支払いサイト80万円/140〜180h/30日
期間開始日・終了日・更新の予定2026年4月1日〜2026年12月31日
人担当エンジニア・所属山田(プロパー)/BP:B社
状態指示・勤怠の実態自社リーダーが指示、日報は自社管理

1案件に複数のエンジニアがいる場合は、エンジニアごとに1行にします。こうすると、人数と売上の関係がひと目でわかります。

一覧表を作る5つの手順

  1. 元データを集める:注文書・請求書・営業のメモ・Excelを、全営業担当から集める

  2. 1案件1行で書き出す:現在動いている案件と、直近1年に終わった案件を並べる

  3. 書類と照らし合わせる:単価・期間を注文書と請求書で確かめ、違いに印をつける

  4. 現場の実態を聞く:エンジニアに、誰から指示を受け、勤怠を誰に出しているかを聞く

  5. 問題の直し方を決める:期限切れの注文書や、指示の問題を直す担当と期限を決める

手順4は、営業が一番見落としやすいところです。契約書が正しくても、現場の働き方が違えば問題になります。

エンジニアへの聞き取りに使う質問例

聞き取りは、責める調子にならないよう「確認のため」と前置きして行います。M&Aの話はまだ伝えない前提の聞き方です。

契約書の内容と現場の進め方が合っているか、年に1回の確認をしています。

  1. 毎日の作業の指示は、どなたから受けていますか。

  2. 勤怠や残業の申請は、どこに出していますか。

  3. 現場で、ほかの会社の方から直接仕事を頼まれることはありますか。

答えは一覧表の「状態」の列にそのまま書きます。1つでも客先からの直接指示があれば、手順5の「直し方」に回します。

よくある指摘と直し方

よくある指摘直し方
注文書の期間が切れている取引先と実際の期間・条件を確認し、日付を偽らずに注文書や合意書を取り交わす
客先がエンジニアに直接指示している自社の責任者を通す流れに変え、取引先と話し合う
BPの先に別の会社が入っていた再委託のルールを確認し、承諾の書面を整える
営業担当しか取引先の情報を知らない案件・人材・取引先の情報を会社で共有する

→ 取引先ごとの情報の整え方は、SESのBP登録管理方法|取引先情報の管理項目15と更新の仕組みも参考になります。BPの先に別の会社がいたときは、SESでBPが無断で商流を増やしていたら|発覚時の対応と再発防止で解説しています。

案件・人材の情報はチョータツで一か所にまとめる

一覧表づくりで一番時間がかかるのは、担当者ごとに散らばった情報を集める作業です。Excelやメールに情報が分かれていると、集めるだけで何日もかかります。

チョータツは、SES営業のための案件・人材の管理・共有ツールです。普段から案件・人材の情報をチョータツに入れておくと、M&Aの準備でも役に立ちます。

場面自分でやる場合チョータツを使う場合
案件・人材の情報を集める営業担当ごとのExcelやメールから集める会社で一か所にまとまっている
情報を入力する1件ずつ手で打ち込むAIが入力を手伝う
担当者が変わったとき引き継ぎのたびに説明が必要情報をチームで共有できる

「特定の営業しか取引先の情報を知らない」という状態は、DDでもよく指摘されます。情報を会社で共有しておくことは、M&Aをしない場合でも会社の強さになります。チョータツは3,000社以上が使っていて、無料で始められます。

問題が見つかったときの考え方

DDで問題が見つかっても、すぐにM&Aが止まるとは限りません。大事なのは、隠さずに開示し、直した記録を残すことです。

問題の扱い方は、主に次の3つに分かれます。

扱い方内容向いている問題
契約の前に直す売り手が問題を直してから契約する注文書の不備、書類の抜け
価格に反映するリスクの分だけ売却の価格を下げる未払い残業代など金額がわかるもの
契約書で約束する表明保証や補償の条項を入れる見えにくいリスク

表明保証とは、売り手が「契約書に書いた内容は正しい」と買い手に約束することです。 後で違っていたとわかると、売り手が補償を求められることがあります。

問題を隠してM&Aを進めると、後で表明保証の違反として責任を問われるおそれがあります。わかっている問題は、先に伝えるほうが安全です。

株式譲渡と事業譲渡で確認の重さが変わる

M&Aの方法によって、DDで確認することの重さが変わります。株式譲渡は会社ごと引き継ぐため、過去の契約や問題もそのまま引き継がれます。

事業譲渡は、引き継ぐ事業や契約を選べます。ただし、取引先の契約やエンジニアの雇用は、1つずつ相手の同意を取り直す必要があります。

方法引き継ぐものDDで特に見る点
株式譲渡会社そのもの過去の偽装請負・未払いなど隠れた問題
事業譲渡選んだ事業・契約取引先とエンジニアが同意してくれるか

派遣の許可を持つ会社では、方法によって許可の扱いも変わります。株式譲渡なら許可は会社に残り、役員が変わるときは変更の届け出をします。事業譲渡では許可を引き継げないため、買い手側が許可を持っている必要があります。

→ 違いの詳細はSESの株式譲渡と事業譲渡の違い|M&Aで取引先と契約はどうなる?をご覧ください。業界のM&Aの流れはSES業界のM&A動向2026|買収事例と営業・取引先への影響にまとめています。

よくある質問

Q. SES企業のデューデリジェンスには、どのくらいの期間がかかりますか?
会社の規模や調べる範囲で変わります。売り手が案件・契約の一覧表を先に用意しておくと、質問への回答が早くなり、期間を短くしやすくなります。
Q. 営業責任者は、デューデリジェンスで何を聞かれますか?
取引先ごとの売上、契約の条件、商流、再委託の有無、現場での指示の実態などです。1案件1行の一覧表があれば、ほとんどの質問にすぐ答えられます。
Q. 偽装請負が見つかったら、M&Aはできなくなりますか?
必ずできなくなるわけではありません。契約の前に働き方を直す、価格に反映する、契約書で約束するなどの方法があります。専門家に相談しながら、隠さずに開示しましょう。
Q. 取引先の集中は、どのくらいだと問題になりますか?
決まった基準はありません。上位1社への依存が大きいほど、その取引先との関係がM&Aの後も続くかを詳しく確認されます。契約の年数や更新の実績を説明できるようにしましょう。
Q. BPのエンジニアが多いと、評価は下がりますか?
BPが多いこと自体が悪いわけではありません。ただし、BPとの契約が続くか、再委託の流れが正しいかは確認されます。BPとの基本契約書と、再委託の承諾の書面をそろえておきましょう。
Q. M&Aのことを、エンジニアや取引先にはいつ伝えますか?
一般的には、秘密保持を守るため、契約の直前か後に伝えます。伝える順番と説明の内容は、買い手や専門家と相談して決めましょう。

まとめ

  • SES企業のDDでは、取引先の集中・契約書と実態の差・偽装請負や二重派遣・エンジニアの定着の4つが特に見られる

  • 20項目のチェックリストで、売り手は事前に自分で確認できる

  • 営業責任者の一番の準備は、1案件1行の「案件・契約一覧」を作ること

  • 一覧は、書類との照らし合わせと、現場の実態の聞き取りまでやって完成する

  • 問題が見つかったら隠さず、直した記録と一緒に開示する

  • 普段から案件・人材の情報を会社で共有しておくと、M&Aの準備も引き継ぎも楽になる

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)