偽装請負の判断基準をSES営業向けに解説|現場でやりがちなNG行為10選と予防チェックリスト
公開日:2026年9月29日更新日:2026年9月29日
偽装請負とは?SESで問題になる理由
偽装請負とは、契約書の上では「準委任」や「請負」なのに、実際の働き方が「派遣」になっている状態のことです。派遣の許可を持たずにこの状態を続けると、労働者派遣法などに違反します。
準委任契約とは、決まった成果物を納めるのではなく、決まった仕事をきちんと行うことを約束する契約のことです。SESの契約は、ふつう準委任契約です。準委任では、エンジニアに指示を出すのはエンジニアが所属する会社(SES企業)でなければいけません。
| 契約の種類 | エンジニアに指示を出す人 | 必要な許可 |
|---|---|---|
| 準委任(SES) | SES企業(自社) | 不要 |
| 請負 | 請負会社(自社) | 不要 |
| 派遣 | 客先(派遣先) | 労働者派遣事業の許可が必要 |
SESで偽装請負が起きやすい理由は3つあります。
エンジニアが客先の職場に常駐し、客先の社員と毎日一緒に働く
1人や少人数で入ることが多く、自社の責任者が現場にいない
商流が深い(間に何社も入る)ため、誰が指示を出しているのか見えにくい
契約形態ごとの違いは、SESの準委任・派遣・請負の違い|比較表と営業が確認する5項目で詳しく比べています。
判断基準は「37号告示」の2つの独立
偽装請負の判断基準は、厚生労働省の37号告示です。37号告示とは、派遣と請負を分けるための国の基準のことです。
正式名は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)です。厚生労働省の疑義応答集(第3集)Q1は、準委任契約にも同じ基準で判断すると明記しています。
37号告示のポイントは、SES企業が2つの意味で独立しているかです。告示は「いずれにも該当する場合を除き」派遣と判断すると定めています。つまり、1つでも欠けると派遣と判断されるしくみです。
1. 労務管理の独立(エンジニアの管理を自社でしているか)
| 見られるポイント | SESの現場でいうと |
|---|---|
| 仕事のやり方の指示・評価を自社でしているか | 作業の指示を出すのは自社のリーダーか |
| 勤務時間の管理を自社でしているか | 始業・終業・休憩・残業・休日の指示を出すのは自社か |
| 職場のルールや配置を自社で決めているか | 服務規律や、担当の変更を決めるのは自社か |
勤務時間は、客先が「知っておく」だけなら問題ありません。告示は「単なる把握」を管理から除いています。
2. 事業経営の独立(仕事を自社で独立して処理しているか)
| 見られるポイント | SESの現場でいうと |
|---|---|
| 必要なお金を自社でまかなっているか | 仕事に必要な経費を自社で負担しているか |
| 事業主として責任を負っているか | トラブル時の責任を自社が負う契約になっているか |
| ただの「人手の提供」になっていないか | 自社の技術やノウハウで仕事をしているか |
条文を1項目ずつ読みたい場合は、偽装請負の37号告示をやさしく解説|厚労省Q&AのSES該当箇所を参照してください。
偽装請負の4つの典型パターン
東京労働局は、偽装請負の典型を4つのパターンに分けて説明しています。SESでは、4つとも起こりえます。
| パターン | 東京労働局の説明の要点 | SESで起きる形 |
|---|---|---|
| 代表型 | 発注者が細かい指示を出し、出退勤や勤務時間も管理する | 客先がタスクを割り振り、勤怠も承認する |
| 形式だけ責任者型 | 責任者はいるが、発注者の指示を伝えるだけ | 自社のリーダーが客先の指示をそのまま流すだけ |
| 使用者不明型 | 受けた仕事を別の会社にそのまま出し、上位の会社が指示する | 商流が深く、エンドや元請けが直接指示する |
| 一人請負型 | 働く人も個人事業主の契約にし、実態は発注者の指示で働く | フリーランスを準委任で入れ、客先が指示する |
特に注意したいのは形式だけ責任者型です。自社の責任者を置いていても、指示を中継するだけなら、客先が指示しているのと同じと見られます。
指揮命令にあたる・あたらないの具体例
指揮命令にあたるかどうかは、話の中身が「指示」か「情報のやりとり」かで分かれます。客先と話すこと自体が問題なのではありません。
| 場面 | 指揮命令にあたりやすい | あたりにくい |
|---|---|---|
| 作業の依頼 | 客先の社員がエンジニア個人にタスクを割り振る | 客先が自社の責任者に依頼し、責任者が割り振る |
| 仕様の確認 | 客先が作業の順序や方法を細かく指定する | エンジニアが仕様の不明点を客先に質問する |
| 会議・メール | 朝会やメールで、客先が作業の割り振りを決める | 責任者の判断で朝会に同席する。依頼メールをccで受け取る |
| 勤務時間 | 客先が残業や休日出勤を命じる | 自社の責任者が、客先と相談して勤務時間を決める |
| 勤怠の管理 | 客先が勤怠表を承認する | 自社が勤怠を管理し、稼働報告書を客先に出す |
| 評価 | 客先がエンジニア個人を評価・注意する | 客先が自社に要望を伝え、自社が本人に伝える |
会議やメールの扱いは、厚生労働省の疑義応答集(第2集Q9・Q10)に書かれています。同席やccだけでは直ちに派遣とされません。ただし、その場で作業の順序や割り振りが指示されると、派遣と判断されます。
場面ごとのOK・NGをもっと細かく見たい場合は、準委任契約の指揮命令はどこまで?SES現場のOK・NG具体例20が役立ちます。
SES営業が現場でやりがちなNG行為10選
SES営業がやりがちなNG行為は、次の10個です。営業がよかれと思ってやったことが、偽装請負の証拠になることがあります。
客先の社員がエンジニアに直接タスクを割り振るのを放置している
客先が、エンジニアの出退勤や残業を決めている
エンジニアの勤怠表を客先が承認している
客先がエンジニアの評価や注意をしている
契約書に作業場所と時間の指定しかなく、業務範囲が書かれていない
自社の責任者が現場にいない、または名前だけ
客先から「この人を入れて」と人を指名されて配置している
契約前の面談で、客先がエンジニアを選ぶ形になっている
エンジニアが、客先の社員と同じ朝会・同じ指示系統に組み込まれている
商流が深く、誰が指示を出しているのか自社でも把握できていない
7と8は、疑義応答集(第2集Q13)に関係します。事前面談の結果、客先が特定の人を指名したり断ったりすると、配置の決定に関わったと判断されます。進め方はSESの事前面談は違法?営業が守りたい適法な進め方7つとNG例で解説しています。
10の商流は、SESの一次請け・二次請けの違い|単価差と商流を上げる方法で自社の位置を確認できます。
違反するとどうなる?罰則と発注側のリスク
偽装請負は、SES企業(受ける側)だけでなく、客先(発注する側)も責任を問われます。主な法律と罰則は次のとおりです(2026年9月時点)。
| 関係する法律 | 対象になる行為 | 主な罰則・効果 |
|---|---|---|
| 労働者派遣法 第59条 | 許可なく労働者派遣事業を行う(SES企業側) | 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
| 職業安定法 第64条(第44条違反) | 禁止されている労働者供給を行う・受ける | 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 |
| 労働者派遣法 第49条の2 | 許可のない会社から派遣を受け入れる(客先側) | 勧告に従わないと、社名が公表されることがある |
| 労働者派遣法 第40条の6 | 法律を免れる目的で偽装請負の状態で受け入れる(客先側) | 客先がエンジニアに直接雇用を申し込んだとみなされる |
労働契約申込みみなし制度とは、違法な派遣を受け入れた会社が、働く人に雇用を申し込んだものとみなす制度のことです。エンジニアが承諾すると、客先との労働契約が成立します。
2025年6月1日施行の改正刑法で、それまでの「懲役」は「拘禁刑」に変わりました。罰則のほかにも、行政からの指導や取引停止などで、営業に大きな損失が出ることがあります。
誰がどの罰則を負うかは、偽装請負の罰則はどちらに?で整理しています。実際の事件は、偽装請負の判例・摘発事例で確認できます。
案件を受ける前に確認する5つのこと
偽装請負を防ぐ一番の方法は、リスクの高い案件を、提案する前に見分けることです。案件情報を受け取ったら、次の5つを確認します。
| # | 確認すること | 注意が必要なサイン |
|---|---|---|
| 1 | 契約形態 | 準委任なのに、勤務時間や残業を客先が決める前提になっている |
| 2 | 商流 | 自社の上に何社いるかわからない。「商流不問」とだけ書かれている |
| 3 | 体制 | 1人だけの常駐で、自社の責任者を置く余地がない |
| 4 | 面談 | 客先が複数の候補者から「選ぶ」形になっている |
| 5 | 業務内容 | 「〇〇さんの指示で作業」など、個人の指示下に入る書き方になっている |
1つでも当てはまる案件は、提案の前に上位の会社へ確認します。確認できないまま提案しないことを、社内ルールにしておくのがおすすめです。
自分でやる方法:案件一覧に確認欄を足す
Excelなどの案件一覧に、「契約形態」「商流」「体制」「面談」「業務内容」の5列を足します。空欄がある案件には印をつけ、提案前に埋めます。
Excelでの管理のしかたは、SESの案件・人材管理をExcelで無料で行う方法|テンプレ付きで紹介しています。
もっと楽にするなら:案件情報をチョータツで管理する
案件の確認を毎回きちんと行うには、案件情報が1か所にまとまっていることが前提です。メールの受信箱に案件が埋もれていると、条件の確認が後回しになりがちです。
| 場面 | 自分でやる場合 | DrivenXのツールを使う場合 |
|---|---|---|
| 案件メールを仕分ける | 案件か人材か、1通ずつ目で分ける | チョータツメールAIが案件メールと人材メールに切り分ける |
| 案件情報をまとめる | メールを読んでExcelに転記 | チョータツで管理。入力はAIが手伝う |
| 社内で共有する | ファイルを送り合い、版がずれる | 同じ案件情報を社内で共有できる |
| BPの案件を見る | 届いたメールを1通ずつ探す | 連携した会社の営業中案件をデータベースとして見られる |
チョータツメールAIとは、届いたメールをAIが処理し、案件メールと人材メールに切り分ける機能のことです。転送設定で取り込めて、案件・人材以外のメールはデータに残りません。
稼働中の予防策
稼働が始まった後は、指示ルートを自社の責任者経由に保つことが予防の中心です。
| タイミング | やること |
|---|---|
| 契約前 | 契約書に「業務範囲」「成果物やゴール」「自社の責任者」を書く。客先に「指示は責任者経由」と説明する |
| 稼働開始時 | 自社の責任者を決め、エンジニアにも「指示は責任者から受ける」と伝える |
| 稼働中 | 月1回、エンジニアに「誰から、どんな指示を受けているか」を確認する |
| 1人常駐のとき | 自社の責任者が巡回や定例で現場と話し、指示をまとめて受ける |
1人常駐の現場では、その本人は責任者を兼ねられません(疑義応答集 第1集Q4・第2集Q8)。別の責任者が連絡体制と勤怠管理を確実に行えば、常駐していないことだけで派遣とはされません。
客先には「客先も指導や社名公表の対象になるので、一緒に守りましょう」と伝えます。客先にとっても自分ごとになるので、協力してもらいやすくなります。
契約書に書く条項は、SES基本契約書のテンプレートと条項チェックが参考になります。勤怠を自社で管理する形は、稼働報告書のテンプレートと書き方で確認できます。
よくある質問
- Q. 客先と同じチャットツールを使うのは偽装請負になりますか?
- ツールを使うこと自体は問題ありません(疑義応答集 第3集Q6)。問題になるのは、そのツールで客先がエンジニアに直接作業の指示を出しているかです。
- Q. エンジニアが1人だけのSES現場でも大丈夫ですか?
- 別の責任者を決め、連絡体制と勤怠管理を自社で行えば可能です。1人常駐の本人を責任者にしても、責任者を置いたことにはなりません。
- Q. システム開発の準委任契約でも37号告示で判断されますか?
- 判断されます。厚生労働省の疑義応答集(第3集)Q1は、準委任契約でも実態に指揮命令があれば派遣にあたると明記しています。同Q8で、アジャイル以外のシステム開発にも当てはまるとされています。
- Q. 偽装請負と二重派遣は何が違いますか?
- 二重派遣とは、派遣されてきた人をさらに別の会社へ派遣することです。商流が深いSESでは、偽装請負と二重派遣が同時に起きやすくなります。→ SESの二重派遣(多重派遣)は違法?罰則と避ける契約の組み方
- Q. 偽装請負の疑いがある案件に、すでにエンジニアが入っていたら?
- まず自社の責任者を決め、指示ルートを責任者経由に切り替えられるか、客先と相談します。改善できない場合は、弁護士などに相談したうえで契約の見直しを検討してください。
- Q. 判断に迷ったときは、どこに相談できますか?
- 各都道府県労働局の、労働者派遣事業を担当する部署で相談できます。疑義応答集にない事例は、労働局が実態に即して個別に判断するとされています。
まとめ
偽装請負は、契約書ではなく「現場の指示の流れ」で決まる
判断基準は37号告示の「労務管理の独立」と「事業経営の独立」。1つでも欠けると派遣と判断される
典型は「代表型」「形式だけ責任者型」「使用者不明型」「一人請負型」の4つ
違反すると、SES企業は罰則、客先は指導・社名公表・直接雇用のリスクを負う
案件を受ける前の5項目チェックと、稼働中の指示ルートの確認で予防できる
案件情報はチョータツに集め、チョータツメールAIで案件メールを切り分けると、確認の抜けが減る
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツ(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月29日|更新日:2026年9月29日
参考資料(2026年9月28日確認)
厚生労働省「37号告示関係疑義応答集(第1集〜第3集)」
厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」
東京労働局「あなたの使用者はだれですか?~偽装請負ってナニ?~」
e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(40条の6・49条の2・59条)
e-Gov法令検索「職業安定法」(44条・64条)