偽装請負の罰則はどちらに?発注者・SES企業・担当者・フリーランス別に条文で整理
公開日:2026年9月29日更新日:2026年9月29日
偽装請負の罰則は「どちらか」ではなく「両方」
偽装請負の罰則は、発注者とSES企業のどちらか一方ではありません。両方に、それぞれ別の法律で責任がかかります。
偽装請負とは、契約書は請負や準委任なのに、実態が派遣と同じになっている状態のことです。発注者が作業者に直接指示を出すと、この状態になります。偽装請負は、法律上は次の2つのどちらかとして扱われます。
| 実態 | 法律上の扱い | 中心になる法律 |
|---|---|---|
| SES企業が雇っている人に、発注者が指示している | 労働者派遣 | 労働者派遣法 |
| SES企業が雇っていない人に、発注者が指示している | 労働者供給 | 職業安定法 |
最高裁の2009年12月18日の判決が、この区別を示しています。請負会社が雇う人に注文者が直接指示していたケースを「労働者派遣」と判断しました。そのうえで、労働者派遣である以上、職業安定法の労働者供給にはあたらないと述べています。
つまり、雇用関係があるかどうかで、適用される罰則が変わります。判例の詳細は偽装請負の判例・摘発事例|IT・SES業界の事例と営業の教訓にまとめています。
立場別の罰則とリスク一覧(発注者・SES企業・個人)
立場ごとの罰則とリスクを1つの表にまとめました。取引先に説明するときは、この表の条文番号を根拠として使えます。
| 立場 | 主な法律 | 刑事罰 | 行政処分・民事のリスク |
|---|---|---|---|
| SES企業(派遣の許可なし) | 労働者派遣法 第5条・第59条・第62条 | 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。会社にも罰金 | 行政指導 |
| SES企業(派遣の許可あり) | 労働者派遣法 第14条・第49条・第61条 | 就業条件の明示を欠くなどで30万円以下の罰金になりうる | 許可取消し、事業停止命令、改善命令 |
| 発注者(客先) | 労働者派遣法 第24条の2・第40条の6・第49条の2 | 無許可派遣の受入れ自体への刑事罰はなし | 直接雇用のみなし、勧告、社名の公表 |
| 雇っていない人を出した会社 | 職業安定法 第44条・第64条・第67条 | 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。会社にも罰金 | 行政指導、派遣許可への影響 |
| その人を受け入れて指示した会社 | 職業安定法 第44条・第64条・第67条 | 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。会社にも罰金 | 行政指導 |
| 雇っていない人を出して利益を得た会社 | 労働基準法 第6条・第118条 | 1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金になりうる | 行政指導 |
| 会社の担当者(営業・現場責任者) | 各法の両罰規定 | 実際に違反した「行為者」として罰せられうる | 社内処分など |
| フリーランス本人 | 労働基準法 第9条ほか | 本人を罰する規定はない | 労働者と認められれば保護の対象 |
※ 2025年6月1日に刑法が改正され、「懲役」は「拘禁刑」に変わりました。古い記事では「1年以下の懲役」と書かれています。2025年5月31日以前の行為には、改正前の刑(懲役)が適用されます。
次の見出しから、立場ごとに詳しく説明します。
SES企業(受注者)の罰則
SES企業の罰則は、派遣の許可を持っているかどうかで大きく変わります。許可がなければ刑事罰、許可があれば許可取消しなどの行政処分が中心です。
派遣の許可がない場合:無許可派遣
労働者派遣事業を行うには、厚生労働大臣の許可が必要です(労働者派遣法第5条)。許可のないSES企業の偽装請負は、無許可で労働者派遣事業を行ったことになります。
罰則:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(第59条第2号)
会社への罰金:社員が会社の業務として違反したときは、会社にも罰金が科される(第62条)
両罰規定とは、社員が会社の業務として違反をしたとき、行為者本人を罰するほか、会社にも罰金を科す仕組みのことです。
派遣の許可がある場合:許可取消し・事業停止
派遣の許可を持つSES企業でも、偽装請負は違反です。派遣契約で決めるべき事項を決めず、派遣として必要な手続きもしていないからです。
許可取消し・事業停止命令:労働者派遣法や職業安定法に違反したとき(第14条)
改善命令:労働に関する法律に違反したとき(第49条)
罰金:派遣する人への就業条件の明示(第34条)などに違反すると、30万円以下の罰金(第61条)
許可の取消しは、派遣事業そのものを続けられなくなる重い処分です。派遣の許可番号の調べ方は、労働者派遣の許可番号を検索する方法|取引前の確認手順3つで紹介しています。
発注者(客先)の罰則とリスク
発注者が無許可の会社から派遣を受け入れること自体は禁止されています(労働者派遣法第24条の2)。ただし、この違反に対する刑事罰の規定は派遣法にはありません。 代わりに、次の3つのリスクがあります。
リスク1:直接雇用のみなし(労働契約申込みみなし制度)
労働契約申込みみなし制度とは、違法な派遣を受け入れた発注者が、エンジニアに雇用を申し込んだとみなす制度のことです。根拠は労働者派遣法第40条の6です。労働条件は、その時点のエンジニアの労働条件と同じです。
偽装請負の場合は、法律の適用を免れる目的で請負などの契約を結んだことが条件です。発注者が違法と知らず、知らなかったことに過失もなければ、適用されません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 始まった時期 | 2015年(平成27年)の施行 |
| 撤回できない期間 | 違法な状態が終わった日から1年間(第40条の6第2項) |
| 成立の条件 | エンジニアが1年以内に承諾すると、雇用契約が成立 |
| 相談先 | 厚生労働大臣(窓口は都道府県労働局)が、該当するかどうか助言できる(第40条の8) |
東リ事件の控訴審(大阪高裁・2021年11月4日)は、偽装請負についてこの制度による直接雇用の成立を認めました。
リスク2:勧告と社名の公表
厚生労働大臣は、違法な派遣を受け入れている発注者に、是正を勧告できます。勧告に従わない場合は、その旨を公表できます(第49条の2)。
みなし制度で雇用契約が成立したのに、発注者がエンジニアを働かせない場合もあります。この場合も、勧告と公表の対象です(第40条の8)。
リスク3:行政指導と労働法上の責任
発注者も、労働局の指導監督の対象です。厚生労働省の集計では、令和7年度に発注者214件の指導監督が行われ、そのうち74件が文書指導でした。
さらに、厚生労働省のガイドは、請負の形式でも派遣と判断される場合は、派遣と同じ責任分担になると説明しています。発注者は、派遣先として労働時間などについての責任を負う可能性があります。
労働者供給にあたる場合は、発注者も刑事罰
SES企業が雇っていない人を受け入れて指示した場合は、職業安定法第44条の労働者供給にあたります。この場合、発注者は「供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させた者」にあたります。1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です(第64条)。
東京労働局の資料も、労働者供給事業者からの受入れであれば職業安定法第44条違反になると説明しています。二重派遣のパターンはSESの二重派遣(多重派遣)は違法?罰則と避ける契約の組み方で詳しく解説しています。
中間搾取(労働基準法第6条)にあたる場合
雇っていない人を出して手数料を得る形は、労働基準法第6条(中間搾取の排除)の問題にもなりえます。第6条は、法律で許される場合以外に、業として他人の就業に入り込んで利益を得ることを禁じています。
違反すると、第118条で1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。一方、許可を受けた派遣元が自社の社員を派遣する形は、通常は中間搾取にあたらないと考えられています。派遣元が雇用主だからです。
個人の罰則:担当者とフリーランスはどうなる?
個人の扱いは、会社の担当者とフリーランス本人で正反対です。担当者は罰せられる側になりえますが、フリーランス本人は守られる側です。
会社の担当者(営業・現場責任者)
労働者派遣法第62条と職業安定法第67条は、どちらも「行為者を罰するほか」会社にも罰金を科すと定めています。つまり、実際に違反行為をした社員個人も、罰則の対象になりえます。
「会社の方針だったから」という理由で、担当者の責任がなくなるわけではありません。営業担当者は、違法と気づいた時点で上司や法務に相談する必要があります。
一方で、刑法第38条は、罪を犯す意思がない行為は原則として罰しないと定めています。刑事罰が問題になるのは、主に違法と知りながら続けた場合です。
フリーランス(個人事業主)本人
労働者派遣法と職業安定法には、派遣や供給をされたフリーランス本人を罰する規定はありません。 罰則の対象は、人を出す事業を行った者と、その人を受け入れて指示した者です。
厚生労働省のガイドは、フリーランスの扱いを次のように説明しています。
請負会社がフリーランスに再委託し、雇用関係がない限り、労働者派遣法との関係では問題にならない
ただし、契約の名前にかかわらず、実態から労働者性が認められれば、労働基準法などが適用される「労働者」になる
その労働者が注文主の指揮命令を受けていれば、偽装請負になる
労働者性とは、形式が業務委託でも、実態として会社の指揮監督の下で働き、その対価として報酬を受けている状態のことです。労働者性が認められると、労働時間や賃金についての労働基準法の保護が及びます。使う側の会社には、使用者としての義務が問題になります。
なお、2024年11月1日にはフリーランス・事業者間取引適正化等法が施行されました。フリーランスに仕事を頼む会社に、取引条件の明示などを義務づける法律です。SES企業がフリーランスと取引するときは、この法律も確認します。
準委任(業務委託)契約でも罰則は同じ
準委任契約でも、偽装請負の罰則は同じようにかかります。根拠は厚生労働省の疑義応答集(第3集)Q1です。準委任契約でも、実態として発注者の指揮命令があれば、労働者派遣にあたると回答しています。
「請負ではなく準委任だから大丈夫」という説明は通りません。判断の基準は、契約の名前ではなく37号告示による実態の判断です。
現場でどこまでの指示なら許されるかは、準委任契約の指揮命令はどこまで?SES現場のOK・NG具体例20で具体例を挙げています。
37号告示の読み方は、偽装請負の37号告示をやさしく解説|厚労省Q&AのSES該当箇所で解説しています。具体的なNG行為は、偽装請負の判断基準|SES営業が避けたいNG行為10選にまとめています。
取引先に説明するときの根拠と例文
取引先に指示ルートの見直しをお願いするときは、条文を添えて伝えます。「お互いに罰則やリスクがある」と示すと、協力を得やすくなります。
相手別の説明ポイント
| 相手 | 伝えること | 根拠 |
|---|---|---|
| 客先(発注者) | 直接雇用のみなしと、社名公表のリスクがある | 労働者派遣法 第40条の6・第49条の2 |
| 客先(発注者) | 令和7年度は発注者214件が指導監督を受けた | 厚生労働省の指導監督の実施状況 |
| BP(下位の会社) | 雇っていない人を出すと、出した側も受けた側も刑事罰 | 職業安定法 第44条・第64条 |
| 自社の営業・現場責任者 | 担当者個人も行為者として罰せられうる | 労働者派遣法 第62条、職業安定法 第67条 |
客先への依頼メール例
件名:作業のご依頼方法についてのお願い(株式会社△△) 株式会社〇〇 □□様 いつもお世話になっております。株式会社△△の◇◇です。 弊社エンジニアへの作業のご依頼は、弊社の責任者××を通して いただけますでしょうか。 準委任契約でも、ご発注者様からエンジニアへ直接指示が出る状態は、 偽装請負と判断されるおそれがあります。その場合、ご発注者様にも 直接雇用のみなし(労働者派遣法第40条の6)などのリスクが生じます。 御社と弊社の双方を守るためのお願いです。 ご理解のほど、よろしくお願いいたします。
罰則を受けないために営業ができる予防策
営業ができる予防策は、案件を受けた時点での確認と稼働中の見直しの2つに分かれます。次の順番で進めます。
契約形態と許可を確認する:準委任か派遣か。派遣なら、出す会社に派遣の許可があるか
雇用関係を確認する:提案する人を雇っている会社はどこか。正社員・契約社員・派遣社員・個人事業主のどれか
指示の流れを決める:客先の依頼は自社の責任者が受け、責任者がエンジニアに伝える形にする
契約書に書く:個別契約書に、業務範囲・自社の責任者・指示の流れを書く
稼働中に確認する:月1回、エンジニアに「誰から、どんな指示を受けているか」を聞く
迷ったら相談する:労働局は、みなし制度に該当するかどうかの助言ができる
契約書の条項はSES基本契約書のテンプレート|個別契約・注文書と条項チェック15を参考にしてください。SESと派遣の違いから整理したい場合は、SES契約と派遣契約の違い|指揮命令など営業の確認ポイント7つが役立ちます。
チョータツで案件情報をまとめ、提案前に気づく
罰則を避ける一番の方法は、リスクのある案件に人を出す前に気づくことです。そのためには、案件の条件が1か所にまとまっている必要があります。
自分で行うなら、案件一覧に「契約形態」「許可の有無」「雇用している会社」「指示の流れ」の4列を足します。空欄がある案件は、提案前に上位の会社へ確認するルールにします。
ただ、案件メールが毎日大量に届くと、転記と確認が追いつきません。チョータツを使うと、案件と人材の情報を1か所で管理し、社内やパートナーと共有できます。
| 場面 | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 案件情報を集める | メールからExcelに転記 | 案件情報をチョータツで管理。入力はAIが手伝う |
| 社内で共有する | ファイルを送り合う | 同じ案件情報を社内で共有できる |
| パートナーの案件・人材を見る | メールを1通ずつ探す | 連携した会社の営業中案件・人材をデータベースとして見られる |
| 自社の情報を届ける | BCCで一斉送信 | メール配信機能でパートナーに配信できる |
案件情報がまとまっていれば、「契約形態と商流を確認したか」をチームで共有しやすくなります。
よくある質問
- Q. 偽装請負の罰則は、発注者と受注者のどちらにありますか?
- 両方にあります。受注者(SES企業)は無許可派遣の刑事罰や許可取消しの対象です。発注者は、直接雇用のみなしや勧告・公表の対象で、労働者供給にあたる場合は刑事罰の対象にもなります。
- Q. 偽装請負の罰則で、発注者に刑事罰はありますか?
- 無許可派遣を受け入れたこと自体への刑事罰は、労働者派遣法にはありません。ただし、雇用関係のない人を受け入れて指示した場合は別です。職業安定法第64条で、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です。
- Q. フリーランスが偽装請負の状態で働いていたら、本人も罰せられますか?
- 本人を罰する規定はありません。実態から労働者と認められれば、労働基準法などで保護される側になります。
- Q. 準委任契約なら、偽装請負の罰則はかかりませんか?
- かかります。厚生労働省の疑義応答集(第3集)は、準委任契約でも実態として指揮命令があれば労働者派遣にあたると明記しています。
- Q. 偽装請負の罰則は個人にもありますか?
- あります。労働者派遣法と職業安定法の両罰規定は、実際に違反した「行為者」を罰するほか、会社にも罰金を科すと定めています。
- Q. 偽装請負の罰則は「懲役」ですか「拘禁刑」ですか?
- 2025年6月1日から「拘禁刑」です。懲役と禁錮が廃止され、拘禁刑にまとめられました。
まとめ
偽装請負の責任は、発注者とSES企業の両方に及ぶ。ただし中身は立場で違う
SES企業は、許可がなければ1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。許可があれば許可取消しなどの処分
発注者は、直接雇用のみなし、勧告・公表、指導監督のリスクがある。令和7年度は発注者214件が指導監督を受けた
雇っていない人を出す形は労働者供給となり、出した側も受け入れた側も刑事罰の対象。労働基準法の中間搾取の問題にもなりうる
担当者個人も行為者として罰せられうる。フリーランス本人を罰する規定はない
準委任契約でも同じ。営業は契約形態・雇用関係・指示の流れを提案前に確認する
案件情報をチョータツにまとめると、リスクのある案件に提案前に気づきやすい
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツ(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月29日|更新日:2026年9月29日
参考資料(2026年9月28日確認)
e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(5条・14条・24条の2・40条の6・40条の8・49条・49条の2・59条・61条・62条)
e-Gov法令検索「職業安定法」(4条・44条・64条・67条)
e-Gov法令検索「労働基準法」(6条・9条・118条)
e-Gov法令検索「刑法」(38条)
厚生労働省「労働契約申込みみなし制度の概要」
厚生労働省「労働者派遣事業に係る指導監督の実施状況」
厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」
厚生労働省「37号告示に関する疑義応答集(第3集)」