準委任契約の指揮命令はどこまで許される?SES現場でよくある20場面のOK・NG一覧と、営業がつくる業務責任者の体制
公開日:2026年9月29日更新日:2026年9月29日
準委任契約の指揮命令とは?
指揮命令とは、仕事のやり方・順番・時間・配置などを具体的に指示し、管理することです。準委任契約では、客先はエンジニアに指揮命令をしてはいけません。
準委任契約とは、法律行為ではない事務(作業)を行うことを約束する契約のことです(民法656条)。SESの契約は、ふつう準委任契約です。準委任では、エンジニアへの指示はエンジニアを雇っている会社が出します。
客先がエンジニアに直接指揮命令できるのは、労働者派遣だけです。労働者派遣法は、派遣を「他人の指揮命令を受けて、その他人のために働かせること」と定めています(2条1号)。派遣を事業として行うには、厚生労働大臣の許可が必要です。
準委任なのに客先が指揮命令している状態を、偽装請負といいます。偽装請負の全体像は「偽装請負の判断基準|SES営業が避けたいNG行為10選」で解説しています。
指揮命令にあたるかの判断基準:37号告示の3つの管理
指揮命令にあたるかは、37号告示の「3つの管理」を自社が行っているかで判断します。37号告示とは、厚生労働省が定めた「派遣と請負を分ける基準」(昭和61年労働省告示第37号)のことです。
37号告示のQ&A(第3集)は、準委任契約にも同じ基準が当てはまると明記しています。判断は契約の形式ではなく実態で行います。
| 管理の種類 | 自社が行う必要があること | 客先がやるとNGになりやすい例 |
|---|---|---|
| 業務の遂行の管理 | 仕事のやり方の指示、仕事ぶりの評価 | 作業手順の指示、個人の査定 |
| 労働時間の管理 | 始業・終業・休憩・休暇、残業・休日出勤の指示 | 残業の指示、休暇の承認 |
| 秩序の維持の管理 | 服務規律の指示、人の配置の決定・変更 | 服装の直接指示、人の指名や交代の決定 |
労働時間については、客先が単に把握するだけなら管理にあたらないと、37号告示に書かれています。入館記録で出退勤の時刻を知るだけなら、問題になりにくいということです。
37号告示は、3つの管理に加えて、仕事を自社の業務として独立して処理することも求めています。資金を自社で用意し、法律上の責任を自社で負い、単に人を差し出すだけではないことが条件です。
37号告示の全文の読み方は「偽装請負の37号告示をやさしく解説」にまとめています。
SES現場のOK・NG具体例20
SESの現場でよくある20の場面を、OK・条件付き・NGに分けました。「客先」は、エンジニアが常駐しているお客さんの会社のことです。
| # | 客先が直接すること | 判定 | 根拠・ポイント |
|---|---|---|---|
| 1 | 仕事に関係のない雑談をする | OK | 指揮命令にあたらない(Q&A第1集Q1) |
| 2 | 仕様や要件を説明する | OK | 開発に必要な情報提供(第3集Q4) |
| 3 | 聞かれた質問に情報を返す | OK | 必要な範囲の情報提供(第2集Q1) |
| 4 | 対等な立場で技術を議論・提案する | OK | エンジニアが自分で判断していればよい(第3集Q5) |
| 5 | 入館のため氏名を事前に確認する | OK | セキュリティ上の必要(第2集Q12) |
| 6 | 個人を特定しないスキルシートを受け取る | OK | 人を選ぶ材料にしなければよい(第3集Q7) |
| 7 | 災害時に避難などの指示をする | OK | 緊急の安全確保(第2集Q3) |
| 8 | 不具合の直しを自社の責任者に求める | OK | 会社どうしの注文(第1集Q2) |
| 9 | 会議や朝礼にエンジニアも出る | 条件付き | 責任者の判断で同席ならよい。場で細かい指示はNG(第2集Q9) |
| 10 | 責任者あての依頼メールをエンジニアにもCCする | 条件付き | 責任者の了解があればよい。直接の返信要求はNG(第2集Q10) |
| 11 | チャットやタスク管理ツールを一緒に使う | 条件付き | 対等な情報共有ならよい。指示の場になるとNG(第3集Q6) |
| 12 | 入館記録で出退勤の時刻を知る | 条件付き | 単なる把握ならよい。時間の管理はNG(37号告示) |
| 13 | 服装やセキュリティのルールを守ってもらう | 条件付き | 合理的な理由があり、契約で事前に決めればよい(第1集Q9) |
| 14 | 作業する場所や席を用意する | 条件付き | 場所の提供はよい。誰をどこに置くかは自社が決める(37号告示) |
| 15 | 新しいツールの使い方を説明する | 条件付き | 自社の責任者の監督のもとでならよい(第1集Q10) |
| 16 | 作業の順番ややり方を指示する | NG | 業務の遂行の管理にあたる(第1集Q7) |
| 17 | タスクを誰がやるか割り振る | NG | 仕事の割り付けは自社が行う(第1集Q7・第3集Q3) |
| 18 | 残業や休日出勤を指示する | NG | 労働時間の管理にあたる(37号告示) |
| 19 | 休暇や遅刻を承認・却下する | NG | 休暇などの管理にあたる(37号告示) |
| 20 | 面談で人を選ぶ・交代させる人を決める | NG | 人の配置に関わる(第2集Q13・第3集Q7) |
表の判定は、厚生労働省の疑義応答集をもとにした一般的な目安です(2026年9月28日確認)。実際には、全体の実態を見て判断されます。
「OK」でも言い方しだいでNGになる
OKの場面でも、中身が指示になっていればNGです。たとえば「仕様の説明」の中で「この順番で、今日中にやって」と伝えれば、作業の指示になります。
疑義応答集も、説明や情報提供が実態として指揮命令になっていれば偽装請負と判断される、としています。
「条件付き」は自社の責任者がカギ
条件付きの場面は、自社の責任者が関わっているかどうかで分かれます。責任者の了解のもとで同席する、責任者あてのメールをCCする、という形ならOKに近づきます。
「NG」は会社どうしのやりとりに置きかえる
NGの場面は、客先から自社の責任者へ伝え、責任者がエンジニアに指示する形に変えればよいのが基本です。残業が必要なら、客先は責任者に業務量の増加を伝え、責任者が残業を決めます。
契約にない仕事の依頼も、会社どうしで決める
契約書にない仕事を客先がエンジニアに直接頼むのも、作業の指示にあたりやすい行為です。業務の範囲を広げるなら、客先と自社の責任者で話し合い、個別契約を変えてから始めます。
事前面談で人を選ぶことの扱いは「SESの事前面談は違法?営業が守りたい適法な進め方7つとNG例」で詳しく説明しています。
アジャイル開発やチャットでの指示はどう考える?
アジャイル開発でも、対等な立場で協力し、エンジニアが自分で判断して進めているなら、偽装請負にはあたりません。厚生労働省は、2021年に実務者へのヒアリングを行い、この考え方を疑義応答集(第3集)にまとめています。
アジャイル開発とは、要件を固めきらずに開発を始め、短い期間で作ってはリリースをくり返すやり方のことです。客先と受注側が1つのチームで動くのが特徴です。
第3集では、次の点がはっきりしました。
客先の開発責任者が、やりたい機能の一覧や優先順位を説明するのは、それだけでは偽装請負にならない
会議・メール・チャット・タスク管理ツールに全員が参加しても、それだけでは偽装請負にならない
受注側の責任者がすべての会議に同席していなくても、それだけでは偽装請負にならない
ただし、客先がエンジニアにやり方や時間を直接指示すれば、責任者を置いていても偽装請負になる
2026年5月には、同じ考え方がアジャイル以外のシステム開発にも当てはまると追記されました(第3集Q8)。チャットでのやりとりが多い現場ほど、指示と情報共有の線引きを客先と決めておくことが大切です。
業務責任者を置く体制の作り方(営業がやること)
偽装請負を防ぐいちばんの方法は、自社の業務責任者を決め、指示がその人を通る体制をつくることです。業務責任者とは、自社のエンジニアに作業の指示を出し、客先との窓口になる自社の担当者のことです。
営業は、案件を決める前に次の手順で体制をつくります。
業務責任者を決める:自社の社員から選ぶ。エンジニアが1人だけの現場では、その本人は責任者を兼ねられない
指示ルートを文書にする:「客先からの依頼は責任者を通す」と、個別契約書や覚書に書く
客先に説明する:現場のリーダーにも、直接指示ができないことと、依頼の出し方を伝える
連絡の仕組みをつくる:責任者が常駐しないなら、チャットや定期の打ち合わせで確実に連絡できるようにする
勤怠と評価は自社で行う:出退勤・休暇・残業の管理と、仕事ぶりの評価は自社がする
定期的に確認する:月1回はエンジニアに「客先から直接指示されていないか」を聞く
1番のルールは、疑義応答集(第1集Q4・第2集Q8)に書かれています。現場に作業者が1人しかおらず、その人が責任者を兼ねると、客先の注文がそのまま指示になるからです。一方で、責任者が常駐していなくても、連絡の体制があり、管理を自社が行っていれば直ちに違反にはなりません。
体制の例
| 役割 | 誰がやるか | すること |
|---|---|---|
| 客先の窓口 | 客先のプロジェクトリーダー | 依頼・仕様・優先順位を責任者に伝える |
| 業務責任者 | 自社の社員(リーダーや営業担当) | 依頼を受けて、エンジニアに作業を割り振る |
| エンジニア | 自社のエンジニア | 責任者の指示で作業し、進み具合を報告する |
勤怠の管理方法は「SESの勤怠管理の方法|営業が押さえる注意点5つ」で紹介しています。
客先から直接指示されたときの対応
エンジニアが客先から直接指示を受けたら、その場で受けずに、責任者に回すのが基本です。営業は、エンジニアが困らないように、前もって返し方を決めておきます。
エンジニアは責任者に報告する:「〇〇さんから△△の依頼がありました」と、責任者に伝える
責任者が客先と調整する:依頼の中身を確かめ、自社として受けるかを決める
営業が体制を見直す:直接指示がくり返されるなら、客先の窓口に指示ルートを改めて説明する
客先にお願いするときのメール例文
件名:作業のご依頼方法についてのお願い
〇〇株式会社 〇〇様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
弊社エンジニアへの作業のご依頼は、契約にもとづき、業務責任者の◇◇を通していただけますでしょうか。
仕様のご説明や技術的なご相談は、これまでどおり直接いただいて問題ございません。
引き続き、よろしくお願いいたします。
改善されないまま続けると、偽装請負と判断されるおそれがあります。罰則は「偽装請負の罰則はどちらに?」を見てください。
指揮命令の線を越えるとどうなる?
客先の指揮命令が続くと、実態は派遣と判断されます。SES企業も客先も、法律上のリスクを負います。
| 誰のリスク | 起きうること | 根拠 |
|---|---|---|
| SES企業 | 許可なく派遣事業をしたとみなされる | 労働者派遣法5条・59条 |
| 客先 | 派遣法を免れる目的があれば、エンジニアに直接雇用を申し込んだとみなされる | 労働者派遣法40条の6 |
| 商流の途中の会社 | 実態が「労働者供給」と判断されることがある | 職業安定法44条・64条 |
| 両方 | 労働局の指導・是正の対象になる | 労働者派遣法 |
許可を受けずに派遣事業を行うと、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です(労働者派遣法59条)。労働者供給事業の禁止(職業安定法44条)に違反した場合も、同じ重さの罰則があります(64条)。
商流が深いときのリスクは「SESの二重派遣(多重派遣)は違法?」、実際の摘発例は「偽装請負の判例・摘発事例」で紹介しています。派遣・準委任・請負の違いは「SESの準委任・派遣・請負の違い|比較表」でまとめています。
チョータツで案件ごとの体制と条件を管理する
体制の確認で抜けが出るのは、案件ごとの条件がメールに散らばっているときです。チョータツを使うと、案件の情報を1か所で管理・共有できます。
| 場面 | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 案件の条件を残す | メールを読んでExcelに転記 | 案件情報をチョータツで管理。AIが入力を手伝う |
| 責任者や体制を確認する | 担当者に聞いて回る | 案件の情報を社内で共有 |
| パートナーの案件を把握する | 届くメールを1通ずつ確認 | 連携すると、他社の営業中案件・営業中人材をデータベース化 |
| 自社の人材を紹介する | BCCでメールを一斉送信 | メール配信機能でパートナーに配信 |
指揮命令にあたるかの判断は、人が現場の実態を見て行います。チョータツは、その判断に必要な案件の情報をいつでも見られるようにする道具です。無料で始められます。
成果物を納める形の準委任なら、報酬や検収の条件も確認が必要です。「準委任契約の成果完成型とは」もあわせて読んでください。
よくある質問
- Q. 準委任契約で、客先はどこまで指示できますか?
- 仕様の説明・情報提供・対等な技術的議論・緊急時の安全の指示などはできます。作業の順番や割り振り、残業、休暇の承認などを直接行うことはできません。
- Q. SESと派遣では、指揮命令の何が違いますか?
- 派遣は客先(派遣先)がエンジニアに直接指示できます。SES(準委任)では、指示を出すのはSES企業の責任者です。
- Q. 業務責任者はエンジニア本人が兼ねてもいいですか?
- 複数人の現場なら、責任を果たせる範囲で兼ねられます。エンジニアが1人だけの現場では、本人は兼ねられず、別の責任者が必要です。
- Q. 客先の朝会やチャットに参加するのは偽装請負ですか?
- 参加するだけでは偽装請負になりません。その場で客先から作業のやり方や時間を直接指示されていれば、偽装請負と判断されるおそれがあります。
- Q. 客先が勤怠を記録するのはNGですか?
- 入館記録などで時刻を把握するだけなら、問題になりにくいです。休暇の承認や残業の指示など、時間を管理することはNGです。
- Q. 偽装請負の判断基準はどこで確認できますか?
- 厚生労働省の37号告示と、その疑義応答集(第1集〜第3集)で確認できます。詳しくは「偽装請負の判断基準」も見てください。
まとめ
準委任では、客先はエンジニアに仕事のやり方・時間・配置を直接指示できない
判断基準は37号告示の3つの管理(業務の遂行・労働時間・秩序の維持)
仕様説明・情報提供・対等な議論・緊急時の指示はOK。作業の割り振り・残業・休暇承認・評価はNG
アジャイル開発やチャットでも、対等に協力していればよい。直接の指示はNG
契約にない仕事の依頼は、会社どうしで話し合い、契約を変えてから受ける
営業は業務責任者を決め、指示ルートを契約前に客先と合意する
案件ごとの体制と条件はチョータツに集めると、提案前の確認がしやすい
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツ(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月29日|更新日:2026年9月29日
参考資料(2026年9月28日確認)
厚生労働省「37号告示に関する疑義応答集(第1集)」
厚生労働省「37号告示に関する疑義応答集(第3集)」
厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」(疑義応答集第2集を含む)
e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(2条・5条・40条の6・59条)
e-Gov法令検索「職業安定法」(44条・64条)
e-Gov法令検索「民法」(656条)