偽装請負の判例・摘発事例をSES営業向けに整理|判決と労働局の処分で見る問題行為と契約前の防ぎ方
公開日:2026年9月29日更新日:2026年9月29日
偽装請負の「判例」と「摘発事例」の違い
偽装請負の事例には、裁判所が出す判例と、労働局が行う摘発の2種類があります。判例は「誰と誰の間に雇用関係があるか」を決め、摘発は「会社に是正や処分をさせる」ものです。
偽装請負とは、契約書は請負や準委任なのに、実態が派遣と同じになっている状態のことです。発注者が作業者に直接指示を出すと、この状態になります。
判例とは、裁判所が具体的な事件で示した判断のことです。摘発事例とは、この記事では、労働局が調査して指導・命令・公表などを行った事例のことを指します。
| 種類 | 判断する人 | 主に決まること | 公開のされ方 |
|---|---|---|---|
| 判例 | 裁判所 | 直接雇用が成立するか、賠償が必要か | 判決文(一部が裁判所サイトに載る) |
| 行政指導 | 労働局 | 是正のための指導(文書指導など) | 件数のみ公表。社名は原則出ない |
| 行政処分 | 労働局 | 事業停止命令・改善命令・許可取消し | 報道発表で社名が出ることがある |
| 勧告・公表 | 厚生労働大臣(労働局) | 勧告に従わない派遣先の社名公表 | 公表された場合は社名が出る |
| 刑事罰 | 検察・裁判所 | 拘禁刑・罰金 | 報道されることがある |
SES営業にとって大事なのは、行政指導の件数が圧倒的に多いことです。裁判や社名の公表まで進む例は少なくても、指導を受けるだけで取引先との関係は悪くなります。
この記事の事例の選び方
この記事では、次の資料で確認できた事例だけを載せています。
裁判所ウェブサイトの判例データベースに載っている判決
厚生労働省・都道府県労働局が公表した資料や報道発表
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JIL)の論文で、判決日と掲載誌まで確認できた判決
ネット上には「〇〇社が偽装請負で摘発」という情報もあります。ただし、公的な資料で確認できないものは載せていません。
裁判所の判例:SES営業が知っておきたい5つの事件
偽装請負をめぐる裁判の争点は、ほぼ「発注者と作業者の間に雇用関係が生まれるか」です。偽装請負と認められても、直接雇用まで認められるとは限りません。
| 事件(裁判所・判決日) | 何が争われたか | 結論 |
|---|---|---|
| パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件(最高裁・2009年12月18日) | 注文者と作業者に黙示の雇用契約があるか | 違法な派遣と判断。ただし雇用契約は否定 |
| 東リ事件(大阪高裁・2021年11月4日) | みなし制度で直接雇用が成立するか | 偽装請負と認め、直接雇用の成立を認めた |
| 日本貨物検数協会(日興サービス)事件(名古屋高裁・2021年10月12日) | みなし制度の「承諾」があったか | 偽装請負は認めたが、直接雇用は否定 |
| ハンプテイ商会ほか1社事件(東京地裁・2020年6月11日) | システム開発の現場で、法律を免れる目的があったか | 目的を否定し、みなし制度は不適用 |
| 竹中工務店ほか2社事件(大阪高裁・2023年4月20日) | 間に会社が2社入る「二重の偽装請負」で最上位の注文者が対象か | 最上位の注文者はみなし制度の対象外 |
※ 1件目は裁判所ウェブサイトで確認しました。2〜5件目は、JILの論文(日本労働研究雑誌2025年10月号)で判決日・掲載誌を確認しています。
1. パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件
この事件の作業者は、注文者の工場で注文者から直接具体的な指揮命令を受けて働いていました。最高裁は、この状態を労働者派遣法に違反すると判断しました。
一方で、注文者は採用に関わらず、給与も事実上決めていませんでした。そのため、注文者との黙示の雇用契約は成立していないとしました。また、違法な派遣であっても、作業者と請負会社の雇用契約は原則として無効にならないと述べています。
問題になった行為:注文者の社員が、請負会社の作業者に作業を直接指示していた
営業が防げたポイント:受注時に「現場で作業を指示するのは誰か」を契約書と実態の両方で確認する
2. 東リ事件
東リ事件では、一審の神戸地裁(2020年3月13日)は偽装請負を認めませんでした。控訴審の大阪高裁は、37号告示の基準を項目ごとに当てはめ、偽装請負にあたると判断しました。
労働契約申込みみなし制度とは、違法な派遣を受け入れた会社が、作業者に雇用を申し込んだものとみなす制度のことです。根拠は労働者派遣法第40条の6です。
偽装請負では、法律を免れる目的があったことが条件になります。大阪高裁は、偽装請負の状態を日常的・継続的に続けていた場合は、特段の事情がない限り、その目的を推認できるとしました。
JILの論文は、偽装請負でみなし制度が争われた事件について指摘しています。作業者の承諾まで認められたのは、東リ事件の控訴審判決だけです。
問題になった行為:発注者の社員と請負会社の作業者が同じ工程で混在し、発注者の社員が指導していた。派遣契約へ切り替えた後も、働き方が変わらなかった
営業が防げたポイント:「契約の名前を変えれば大丈夫」と考えない。契約を切り替えるときは、現場の指示の流れも変える
3. 日本貨物検数協会(日興サービス)事件
名古屋地裁(2020年7月20日)と名古屋高裁(2021年10月12日)は、偽装請負の状態を認めました。ただし、みなし制度で必要な「作業者の承諾」が認められず、直接雇用は成立しませんでした。
問題になった行為:請負などの形で働かせていたが、実態は労働者派遣にあたると判断された
営業が防げたポイント:「最終的に直接雇用にならなかったから安全」ではない。偽装請負と認定されること自体が、取引先にとって大きなリスクになる
4. ハンプテイ商会ほか1社事件
ハンプテイ商会ほか1社事件は、システム開発の現場で争われた事件です。パッケージソフトのカスタマイズ業務をしていた技術者が、発注者の事業所で働いていました(労働判例1233号26頁)。
東京地裁(2020年6月11日)は、発注者に法律を免れる目的があったとは認めず、みなし制度を適用しませんでした。判決は、発注者が過去に労働局から指導を受けていなかったことなどを理由に挙げています。
問題になった行為:ソフトウェア開発の契約で、技術者が発注者の事業所に常駐して働いていた(結論は目的の立証で分かれた)
営業が防げたポイント:裁判で勝っても、紛争の時間と費用はかかる。契約書と実態を最初からそろえておく
5. 竹中工務店ほか2社事件
この事件では、注文者→元請→下請と会社が重なる「二重の偽装請負」が争われました。大阪地裁(2022年3月30日)は、最上位の注文者は作業者の雇用主と契約していないため、みなし制度の対象外としました。大阪高裁(2023年4月20日)も、類推して適用することを認めませんでした。
問題になった行為:会社が2社重なる形で、最上位の注文者側から下請の作業者に指示が及ぶ状態になっていた
営業が防げたポイント:商流が深い案件ほど、誰が誰に指示しているか見えにくい。自社の上に何社いるかを必ず確認する
→ 商流が重なる場合の違法パターンは、SESの二重派遣(多重派遣)は違法?罰則と避ける契約の組み方で詳しく解説しています。
行政の摘発事例:労働局の指導・処分・公表
行政の摘発で最も多いのは、社名が出ない行政指導です。厚生労働省の集計では、令和7年度に請負事業者241件、発注者214件の指導監督が行われました。
厚生労働省の指導監督件数(請負・発注者)
| 年度 | 請負事業者の指導監督 | 発注者の指導監督 | 発注者への文書指導 |
|---|---|---|---|
| 令和3年度 | 825件 | 470件 | 137件 |
| 令和5年度 | 403件 | 369件 | 138件 |
| 令和7年度 | 241件 | 214件 | 74件 |
※ 厚生労働省「労働者派遣事業に係る指導監督の実施状況」より(令和7年度)。
発注者(客先)も指導の対象になっている点が重要です。「偽装請負はSES企業の問題」と考える取引先には、この数字を示すと話が早く進みます。
事例A:システム開発の請負で発注者が直接指示(東京労働局の資料)
東京労働局は、派遣先向けの資料(令和7年度改訂版)で偽装請負の典型例を挙げています。その1つ目が次の事案です。
システム開発の請負契約なのに、受託者の労働者が発注者から直接指示を受けながら開発作業をしていた事案
同じ資料では、偽装請負の場合は「労働者を受け入れていた者も指導対象」になると説明しています。SESの現場でいえば、客先も指導を受けるということです。
事例B:請負と称した契約に派遣社員を入れた二重派遣(大阪労働局・2018年3月29日)
大阪労働局は2018年3月29日、派遣元事業主の株式会社キャリアシップに、事業停止命令と改善命令を出したと発表しました。静岡労働局との合同調査の結果です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 契約の形 | A社と「請負契約と称する契約」を結んでいた |
| 実態 | A社の指揮命令の下で働かせており、実態は労働者派遣 |
| 二重派遣 | 働かせた人のうち32名は、B社から派遣を受けた人だった |
| 違反 | 職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止) |
| 規模 | 2016年6月6日〜2017年11月22日で2,640人日 |
| 処分 | 2018年3月30日〜5月29日の事業停止命令と改善命令 |
製造現場の事例ですが、構造はSESと同じです。他社から受け入れた人を、請負の形でさらに別の会社に出すと、偽装請負と二重派遣が同時に起きます。
企業名の公表について
労働者派遣法第49条の2は、違法な派遣を受け入れた会社への勧告を定めています。勧告に従わない場合、厚生労働大臣はその旨を公表できます。
IT・SES業界の偽装請負で派遣先の社名が公表された例は、本記事の調査では見つかりませんでした。厚生労働省・労働局のサイトを2026年9月28日に確認した結果です。
ただし、公表がないことは安全の証明ではありません。指導の件数が示すとおり、表に出ない是正指導は毎年行われています。
事例に共通する「問題になった行為」5つ
判例と摘発事例を並べると、問題になった行為は5つにまとまります。どれも、契約書ではなく現場の実態で判断されています。
| # | 問題になった行為 | 出てきた事例 |
|---|---|---|
| 1 | 発注者の社員が、作業者に直接作業を指示する | 最高裁2009年、東京労働局資料 |
| 2 | 発注者の社員と作業者が混在し、発注者が指導する | 東リ事件 |
| 3 | 契約の名前だけ変え、働き方は変えない | 東リ事件 |
| 4 | 他社から受け入れた人を、さらに別の会社に出す | 大阪労働局2018年 |
| 5 | 商流が深く、上の会社の指示が作業者に届く | 竹中工務店ほか2社事件 |
1と2は、37号告示の「業務の遂行に関する指示を自ら行う」という基準に反する行為です。37号告示の読み方は、偽装請負の37号告示をやさしく解説|厚労省Q&AのSES該当箇所で説明しています。
営業が契約前に防げたポイント:確認チェックリスト
事例から逆算すると、営業が案件を受けた時点で確認すべきことは7つです。1つでも「わからない」があれば、提案の前に上位の会社へ確認します。
契約形態:準委任・請負・派遣のどれか。派遣なら、自社に派遣の許可があるか
指示を出す人:現場で作業を割り振るのは、自社の責任者か客先の社員か
自社の責任者:責任者を置けるか。1人常駐の場合、責任者は誰がどう関わるか
勤怠の管理:始業・終業・残業を決めるのは誰か。勤怠表を承認するのは誰か
商流:自社の上に何社いるか。「商流不問」とだけ書かれていないか
再委託のルール:自社が受けた人を、さらに別の会社に出す形になっていないか
面談のやり方:客先が候補者を選ぶ形になっていないか
7の面談は、厚生労働省の疑義応答集(第2集・Q13)に示されています。事前面談の結果、発注者が特定の人を指名したり断ったりすると、配置の決定に関わったと判断されます。詳しくはSESの事前面談は違法?営業が守りたい適法な進め方7つとNG例を参照してください。
2の「指示を出す人」の線引きは、準委任契約の指揮命令はどこまで?SES現場のOK・NG具体例20で場面別に確認できます。
5の商流の見方は、SESの一次請け・二次請けの違い|単価差と商流を上げる方法で解説しています。
取引先に説明するときの伝え方
取引先に指示ルートの見直しをお願いするときは、「御社も指導の対象になる」ことを事実として伝えるのが効果的です。
現場での作業のご依頼は、弊社の責任者〇〇を通していただけますでしょうか。 偽装請負は、厚生労働省の指導監督で発注者側も対象になっております (令和7年度は発注者214件)。御社と弊社の双方を守るためのお願いです。
自分でできる事例の共有と案件チェックのやり方
事例を知っていても、案件ごとに確認しなければ意味がありません。まずは、今ある道具で次の3つを始めます。
案件管理表に確認欄を足す:Excelの案件一覧に「指示者」「責任者」「商流」「面談の形」の4列を足す
確認できない案件に印をつける:4列のどれかが空欄の案件は、提案前に上位へ確認する
月1回、稼働中の現場を確認する:エンジニアに「誰から指示を受けているか」を聞き、表に記録する
Excelでの管理方法は、SESの案件・人材管理をExcelで無料で行う方法|テンプレ付きを参考にしてください。
チョータツで案件情報をまとめ、提案前の確認を習慣にする
Excelでの確認は、案件が増えると続きません。メールで届く案件情報を1件ずつ表に写す作業が、大きな負担になるからです。チョータツを使うと、案件の情報を1か所にまとめて管理・共有できます。
| 場面 | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 案件情報を集める | メールを読んでExcelに転記 | 案件情報をチョータツで管理。入力はAIが手伝う |
| 社内で共有する | ファイルを送り合い、版がずれる | 同じ案件情報を社内で共有できる |
| パートナーの案件を見る | 届いたメールを1通ずつ探す | 連携した会社の営業中案件をデータベースとして見られる |
| 提案前に確認する | 担当者の記憶に頼りがち | 案件ごとに条件をまとめて確認できる |
偽装請負を防ぐ一番の方法は、リスクのある案件に人を出す前に気づくことです。案件情報が1か所にあれば、契約形態や商流の確認を後回しにしにくくなります。
こんな会社に向いています
案件メールが多く、条件の確認が担当者任せになっている
商流が深い案件を扱うことが多い
偽装請負のリスクを社内で共有する仕組みがない
よくある質問
- Q. IT業界で偽装請負の判例はありますか?
- あります。ハンプテイ商会ほか1社事件(東京地裁・2020年6月11日)は、ソフトウェアのカスタマイズ業務で争われました。東京労働局の資料も、システム開発で発注者が直接指示した事案を典型例に挙げています。
- Q. 偽装請負で企業名が公表されることはありますか?
- 勧告に従わない派遣先は、社名が公表されることがあります(労働者派遣法第49条の2)。また、事業停止命令などの行政処分は、労働局の報道発表で社名が出ることがあります。
- Q. 業務委託(準委任)契約でも偽装請負の判例の考え方はあてはまりますか?
- あてはまります。厚生労働省の疑義応答集(第3集)は、準委任契約にも同じ基準を使うと明記しています。実態として発注者の指揮命令があれば、労働者派遣にあたります。
- Q. 偽装請負と判断されたら、エンジニアは客先の社員になりますか?
- 必ずなるわけではありません。みなし制度は、法律を免れる目的の立証などが必要です。直接雇用まで認めた例は、東リ事件の控訴審判決など限られています。
- Q. 摘発はどうやって始まるのですか?
- 労働局の定期的な指導監督や、働いている人からの相談がきっかけになります。令和7年度は、請負事業者と発注者を合わせて455件の指導監督が行われました。
まとめ
偽装請負の事例は「判例」と「労働局の摘発」に分けて読む
最高裁2009年判決は、発注者が直接指示する請負を違法な派遣と判断した
東リ事件の控訴審は、みなし制度による直接雇用まで認めた
行政では、令和7年度に発注者214件も指導監督を受けている
問題になった行為の中心は「発注者から作業者への直接の指示」と「深い商流」
営業は、契約前に指示ルート・責任者・勤怠・商流・面談など7項目を確認する
案件情報をチョータツで1か所にまとめると、提案前の確認を習慣にしやすい
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツ(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月29日|更新日:2026年9月29日
参考資料(2026年9月28日確認)
労働政策研究・研修機構 小宮文人「労働者派遣法―労働契約申込みみなし制度の効果と問題点」日本労働研究雑誌 No.783(2025年10月)
労働新聞社「ハンプテイ商会ほか1社事件(東京地判令2・6・11)」(判決の概要)
厚生労働省「労働者派遣事業に係る指導監督の実施状況」(需給調整事業課業務統計)
厚生労働省・大阪労働局「いわゆる違法な「二重派遣」を行っていた派遣元事業主に対する行政処分について」(2018年3月29日)
東京労働局「あなたの使用者はだれですか?~偽装請負ってナニ?~」
厚生労働省「労働契約申込みみなし制度の概要」
e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(40条の6・49条の2)