SESの会社売却の相場は?企業価値の算定方法と計算例、買い手が見る項目、売却前に営業データを整える準備7つ

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

SESの会社売却の相場は?公的な相場はなく「算定+交渉」で決まる

SESの会社がいくらで売れるかについて、国などが出している相場の統計はありません。売却価格は、企業価値の算定結果を出発点に、買い手との交渉で決まるものです。

ネット上には「営業利益の◯年分」「年商の◯割」といった数字もあります。ただし、何社を調べた数字なのか示されていないことがほとんどです。出典のない数字を自社の値段だと思い込まないことが、最初の注意点です。

M&Aとは、会社や事業を売ったり買ったりすることです。英語の Mergers(合併)and Acquisitions(買収)の頭文字をとった言葉です。

企業価値とは、その会社が持つ資産と、これから生み出す利益をお金に換算した値のことです。売り手と買い手は、まずこの企業価値を共通のものさしにして話し合います。

企業価値の算定方法3つと計算例

中小のSES企業の売却では、年買法・EBITDA倍率・DCF法の3つがよく使われます。1つの方法だけで決めず、複数の結果を並べて価格の幅をつかむのが一般的です。

算定方法考え方向いている会社
年買法時価純資産+営業利益の数年分利益が毎年安定している小規模な会社
EBITDA倍率本業の稼ぐ力×倍率同じ業種の売買例が比べやすい会社
DCF法将来の利益の見込みを今の価値に割り戻す事業計画を数字で作れている会社

年買法:時価純資産+営業利益の数年分

年買法とは、会社の今の財産(時価純資産)に、営業利益の数年分を「のれん代」として足す方法のことです。計算がわかりやすいので、小規模な会社の売却でよく使われます。

時価純資産とは、会社の資産と負債を今の値段で評価し直し、資産から負債を引いた額のことです。帳簿の数字ではなく、回収できない売掛金や価値のない備品などを除いた額になります。

計算例(数字はすべて仮のものです)

  1. 時価純資産を出す:資産1億2,000万円−負債4,000万円=8,000万円

  2. 営業利益を「実態の利益」に直す:営業利益2,500万円+私的な経費など500万円=3,000万円

  3. 何年分を足すか決める:仮に3年分なら、3,000万円×3=9,000万円

  4. 合計する:8,000万円+9,000万円=1億7,000万円

同じ会社でも、足す年数を3年から5年に変えると、合計は2億3,000万円になります。何年分になるかは、取引先の安定度やエンジニアの定着率などを見て、買い手と交渉して決まります。

EBITDA倍率:本業の稼ぐ力に倍率をかける

EBITDA(イービットディーエー)とは、営業利益に減価償却費を足した、本業で稼ぐ力を表す利益のことです。設備の少ないSES企業では、営業利益とほとんど同じ額になることが多いです。

計算例(数字はすべて仮のものです)

  1. EBITDAを出す:営業利益3,000万円+減価償却費100万円=3,100万円

  2. 倍率をかける:仮に5倍なら、3,100万円×5=1億5,500万円(事業全体の価値)

  3. 借入金と現預金を調整する:借入3,000万円−現預金5,000万円=−2,000万円

  4. 株式の価値を出す:1億5,500万円−(−2,000万円)=1億7,500万円(現預金が借入より多い分だけ上乗せ)

倍率は、同じ業種の上場企業や過去の売買例を参考に決めます。ここでの5倍は計算を説明するための仮の数字で、SESの相場を示すものではありません。

DCF法:将来の利益の見込みから計算する

DCF法とは、これから先に生み出すお金の見込みを、今の価値に割り戻して合計する方法のことです。理論的には正確ですが、事業計画の数字によって結果が大きく変わります。

SES企業でDCF法を使うなら、稼働人数×平均単価×粗利率の見込みを、根拠つきで示せることが前提です。根拠の薄い計画は、買い手に割り引いて見られます。

買い手がSES企業で必ず見る項目

買い手は、決算書の利益が来年以降も続くかどうかを確かめます。SES企業では、特に次の項目で価格が上下します。

見られる項目買い手が気にすること用意しておく資料
取引先の集中度1社との取引が終わると売上が大きく減らないか取引先別の売上・粗利(3期分)
エンジニアの定着率売却後にエンジニアが辞めないか在籍人数・退職者数・稼働率の推移
契約書の整備契約のない取引や、偽装請負のおそれがないか基本契約書・個別契約書・注文書
商流の位置元請けに近いか、下請けの深い位置か取引先ごとの商流の一覧
BP(取引先の協力会社)との関係外部エンジニアの調達先が安定しているかBPの一覧と取引実績
営業の属人化社長が抜けても案件が取れるか営業担当別の担当取引先・実績

取引先の集中度:1社に頼っていないか

取引先の集中度とは、売上のうち上位の取引先が占める割合のことです。上位1社の比率が高いほど、その1社との取引が終わったときの影響が大きくなります。

売却前に、上位1社・上位3社・上位5社の売上比率を期ごとに出しておきましょう。比率が高い場合は、取引が長く続いている理由や、担当部署の数などの補足もあわせて説明します。

エンジニアの定着率:人が会社の価値そのもの

SES企業の売上は、エンジニアが客先で働くことで生まれます。そのため買い手は、売却の前後でエンジニアが辞めないかを強く気にします。

在籍人数、年ごとの退職者数、待機の人数を3期分まとめておきましょう。定着率を上げる施策は、SESエンジニアの離職対策と定着率を上げる施策7つで詳しく紹介しています。

契約書の整備:株主が変わると解約できる条項に注意

契約書が取引先ごとにそろっているかは、デューデリジェンスで必ず確認されます。デューデリジェンスとは、買い手が売り手の会社の財務・法務・人事などを詳しく調べることです。

特に注意したいのがチェンジ・オブ・コントロール条項です。チェンジ・オブ・コントロール条項とは、相手の会社の株主や経営者が変わったときに、契約を解約できると定めた条項のことです。主要な取引先の契約にこの条項があると、売却後に取引が続くかどうか、事前の確認が必要になります。

契約書のひな形と条項の確認点は、SES基本契約書のテンプレートと条項チェック15を参考にしてください。

売却の方法は「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つ

中小のSES企業の売却は、株式譲渡で行うことが多いです。会社をまるごと引き継ぐため、取引先との契約やエンジニアの雇用がそのまま会社に残るからです。

株式譲渡とは、社長などが持っている会社の株式を買い手に売り、会社の持ち主を替える方法のことです。事業譲渡とは、会社の中の事業の一部または全部を、契約や資産ごとに買い手へ移す方法のことです。

比べる点株式譲渡事業譲渡
売るもの会社の株式(会社ごと)事業(選んだ契約・資産・人)
取引先との契約会社に残る(条項の確認は必要)1社ずつ移す手続きが必要
エンジニアの雇用会社に残る一人ひとりの同意を得て移る
お金を受け取る人株主(社長個人など)会社

株式に譲渡の制限がある会社では、株式を売るときに会社の承認が必要です。会社法第136条・第139条により、原則として株主総会(取締役会がある会社は取締役会)で承認を決めます。

労働者派遣事業の許可は、会社ごとに受けるものです。事業譲渡で派遣の事業を移す場合、買い手側に許可が必要になります。どちらの方法でも、税金のかかり方と手取り額が変わるので、税理士に試算を頼みましょう。

売却の流れ8ステップ

SES企業の売却は、相談から引き渡しまで、次の順番で進みます。期間は会社によって異なるため、思い立ってすぐ売れるものではないと考えて、早めに準備を始めましょう。

  1. 相談先を選ぶ:M&Aの仲介会社・税理士・公的な支援センターなどに相談する

  2. 秘密保持契約を結ぶ:会社名や数字を出す前に、相談先や候補の買い手とNDAを結ぶ

  3. 企業概要書を作る:事業内容・財務・取引先・エンジニアの情報を資料にまとめる

  4. 買い手候補と会う:トップ面談で、経営方針やエンジニアの処遇について話す

  5. 基本合意を結ぶ:価格の目安・スケジュール・独占交渉の期間などを決める

  6. デューデリジェンスを受ける:財務・法務・人事などを買い手が詳しく調べる

  7. 最終契約を結ぶ:株式譲渡契約などで、価格と条件を確定させる

  8. 引き渡しと引き継ぎ:代金を受け取り、取引先やエンジニアへの説明・引き継ぎをする

引き継ぎで営業の担当が替わる取引先・BPには、挨拶のメールを送ります。文面は営業担当者変更の挨拶メール例文|SESの取引先・BP・要員向けを使うと、取引が続くことを短く伝えられます。

仲介会社を選ぶときは、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録されているかを確認しましょう。登録した支援機関は、中小企業庁が作った「中小M&Aガイドライン」を守ることが登録の要件になっています。手数料の決まり方も、契約前に書面で確かめておくと安心です。

高く売るための準備7つ(営業データを整える)

高く売るための準備は、「利益が来年以降も続く」と数字で説明できる状態を作ることです。営業の現場のデータを整えるだけで、買い手の不安を減らし、減額の理由をつぶせます。

準備1:取引先別の売上・粗利を3期分の一覧にする

取引先ごとの売上と粗利を、最低3期分の表にまとめます。取引先の集中度と、取引が長く続いていることの両方を示せます。

案件別の粗利の出し方は、SESの収支管理の方法|案件別粗利の計算と原価に入れる費用一覧で紹介しています。

準備2:エンジニア別の稼働・単価の履歴を整える

エンジニアごとに、参画先・単価・稼働期間・待機期間の履歴をそろえます。稼働率と単価の推移は、将来の利益の見込みを示す一番の根拠になります。

準備3:契約書と注文書を取引先ごとにそろえる

基本契約書・個別契約書・注文書を、取引先ごとにフォルダにまとめます。契約書がない取引や、期限切れの契約があれば、売却の話を始める前に結び直しておきましょう。

あわせて、チェンジ・オブ・コントロール条項や、再委託を禁止する条項の有無を一覧にします。デューデリジェンスで聞かれてから探すと、交渉が止まる原因になります。

準備4:BPの一覧と取引実績をまとめる

BPとは、ビジネスパートナーの略で、エンジニアを出してくれる協力会社のことです。BPごとに、取引の件数・期間・契約の有無をまとめると、外部からの調達力を資産として説明できます。

管理の項目は、SESのBP登録管理方法|取引先情報の管理項目15を参考にしてください。

準備5:営業の属人化をなくす

取引先との関係が社長個人に集中していると、買い手は「社長が抜けたら取引が減る」と考えます。取引先ごとに会社側の担当者を2人以上つけ、商談の記録を共有しましょう。

進め方は、SES営業の属人化を解消する方法|マニュアル作りと共有の5手順で紹介しています。

準備6:定着率と待機の数字を出す

在籍人数・退職者数・待機人数を、月ごとに3期分出します。数字が悪い時期があれば、その理由と、行った対策をあわせて書いておきます。

営業責任者向け:売却準備のデータ棚卸しチェックリスト

売却準備で営業データの整理を任されたら、次の表を上から埋めていきます。「ある・ない」と保管場所を書くだけでも、足りない資料がすぐわかります。

資料期間確認すること
取引先別の売上・粗利3期分上位1社・3社・5社の比率
エンジニア別の参画先・単価3期分単価の上がり方、待機の月
基本契約書・個別契約書現在有効なもの全部期限切れ、チェンジ・オブ・コントロール条項
注文書・注文請書3期分契約書のない取引がないか
BPの一覧と取引件数3期分継続して取引しているBPの数
取引先ごとの担当者現在社長だけが担当の取引先がないか
提案数・面談数・成約数直近1年月ごとの推移

社長しか担当していない取引先は、売却の話が出る前に、営業担当を同席させて顔つなぎをしておきます。

準備7:実態の利益を説明できるようにする

決算書の利益と、実際の稼ぐ力がずれていることがあります。たとえば、社長の役員報酬が高すぎる、私的な経費が混ざっている、といった場合です。

税理士と一緒に、足し戻す費用とその根拠を一覧にしておきましょう。年買法でもEBITDA倍率でも、土台になる利益が増えれば、算定額も上がります。

チョータツで営業データを「会社の資産」にする

営業データの整理は、Excelと共有フォルダでも始められます。自分で始めるなら、SESの案件・人材管理をExcelで無料で行う方法|テンプレ付きの管理表を使うと、項目をそろえやすくなります。ただし、担当者ごとにファイルが分かれていると、3期分の履歴をそろえるだけで何週間もかかることがあります。

チョータツは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールです。日々の営業でチョータツを使っておくと、売却を考えたときに、次のような準備が楽になります。

  • 案件と人材の情報が1か所にまとまり、担当者が辞めても情報が会社に残る

  • パートナーへのメール配信機能で、BPとのやりとりを会社として続けられる

  • 他社と連携すると、連携先の営業中案件・営業中人材をデータベース化でき、営業の仕組みそのものを示せる

  • AIが入力を手伝うので、日々の記録を続けやすい

チョータツは3,000社以上が利用しており、無料で始められます。売却の予定がなくても、いつでも説明できる会社にしておくことが、結果として会社の価値を守ります。

後継者がいないSES企業の事業承継の選択肢

後継者がいない場合の選択肢は、親族への承継・社員への承継・第三者への売却(M&A)・廃業の4つです。エンジニアと取引先を守るなら、廃業の前に承継や売却を検討しましょう。

事業承継とは、会社の経営を次の人に引き継ぐことです。家族や社員に引き継ぐ方法と、外部の会社に売る方法があります。

公的な相談先として、事業承継・引継ぎ支援センターがあります。国が設置する公的な相談窓口で、各都道府県にあり、相談は無料です。後継者が不在の会社向けに、相談から買い手の紹介、成約までの第三者承継を支援しています(2026年9月時点)。

相談する前に、「高く売るための準備7つ」の資料を用意しておくと、話が早く進みます。

買い手がSES会社を買収するメリット

買い手がSES企業を買う主な理由は、エンジニアと取引先を一度に手に入れられることです。売り手は、この理由に合わせて自社の強みを数字で示すと、交渉を有利に進めやすくなります。

買い手のメリット売り手が示すとよい数字
エンジニアを一度に確保できる在籍人数・職種別の人数・定着率
取引先と商流を引き継げる取引先数・取引年数・商流の位置
営業の仕組みを手に入れられる提案数・成約率・BPの数
自社サービスとの組み合わせ取引先の業種・案件の技術分野

エンジニアの採用が難しい時期ほど、人がそろっている会社の価値は高く見られやすくなります。業界の動きは、中小SESの生き残り戦略|商流・採用・自社サービスの打ち手5つもあわせて確認してください。

よくある質問

Q. SESの会社売却の相場は、営業利益の何年分ですか?
公的に決まった年数はありません。年買法では営業利益の数年分を足しますが、年数は取引先の安定度や定着率を見て交渉で決まります。
Q. 赤字のSES会社でも売却できますか?
売却できる場合もあります。エンジニアの人数や取引先に価値があれば、買い手が見つかることがあります。ただし価格は、純資産に近い額になりやすいです。
Q. 売却の話は、いつ社員に伝えればいいですか?
一般的には、最終契約の前後に伝えます。早く広まると、エンジニアの退職や取引先の不安につながるためです。時期は買い手と相談して決めましょう。
Q. 取引先に売却を知らせる必要はありますか?
契約にチェンジ・オブ・コントロール条項がある場合は、事前の通知や承諾が必要なことがあります。まず主要な取引先の契約書で条項の有無を確認しましょう。
Q. 売却の準備は、何年前から始めるべきですか?
買い手は3期分ほどの数字を見ることが多いため、少なくとも数年前から準備すると安心です。営業データの整理は、売却を決める前から始められます。

まとめ

  • SESの会社売却に公的な相場はない。算定した企業価値を土台に、交渉で決まる

  • 算定方法は、年買法(時価純資産+営業利益の数年分)・EBITDA倍率・DCF法の3つ

  • 買い手が特に見るのは、取引先の集中度・エンジニアの定着率・契約書の整備

  • 中小のSES企業の売却は株式譲渡が多い。契約と雇用が会社に残るため

  • 高く売る準備は、取引先別の売上・粗利、稼働の履歴、契約書、BPの実績を3期分そろえること

  • 後継者がいない場合は、事業承継・引継ぎ支援センターに相談できる

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

関連する記事