SES営業の属人化を解消する方法|原因4つと、取引先・案件情報を共有DBへ移す5手順
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
SES営業の属人化とは?
SES営業の属人化とは、営業に必要な情報や判断が、特定の担当者の頭やメールの中にしかない状態のことです。 その人が休んだり辞めたりすると、ほかの人は同じ営業を続けられません。
SESの営業は、取引先(BP)とのやりとりの量がとても多い仕事です。BP(ビジネスパートナー)とは、案件や人材を紹介し合う取引先の会社のことです。 毎日届く案件メールと人材メールを、担当者が個人の受信箱で処理していると、情報は自然とその人に集まります。
担当者の退職で消える情報の典型例
よくあるのは、エース営業が辞めたあとに「何がどこにあるかわからない」と気づくケースです。消えやすい情報を、表にまとめました。
| 消える情報 | ふだんの置き場所 | 消えると困ること |
|---|---|---|
| 取引先の担当者名と連絡先 | 個人メールの受信箱 | どのBPに誰へ連絡すればいいかわからない |
| 取引先ごとの商流・支払い条件 | 担当者の記憶 | 提案してよい案件かを判断できない |
| 案件の提案・面談の履歴 | 個人Excel・メールの送信済み | 同じ人を二重に提案してしまう |
| 要員(エンジニア)の希望条件 | チャットの個別メッセージ | 次の案件の提案が遅れる |
| 取引先ごとの「暗黙のルール」 | 担当者の経験 | 知らずに失礼な提案をして関係が悪くなる |
商流とは、SESの仕事がエンド(発注元)から、いくつもの会社を通って流れてくる経路のことです。 「このBPは二次請けまでしか受けない」といった条件は、メールに1回書かれるだけです。そのため、担当者しか覚えていないことがよくあります。
SES営業が属人化する原因4つ
属人化の原因は、担当者の性格ではなく「情報が個人の道具に置かれる仕組み」にあります。 仕組みを変えれば、担当者が変わっても営業は続けられます。
案件・人材メールを個人アドレスで受けている:取引先ごとの履歴が、その人の受信箱にしか残りません。
管理表が担当者ごとにバラバラ:Excelの列や書き方が人によって違い、ほかの人が読めません。
判断の基準が言葉になっていない:「この単価なら出す」「この商流は断る」が、経験の中にしかありません。
関係づくりが1対1で閉じている:取引先の窓口が1人だけで、ほかの営業は相手の顔を知りません。
原因の1と2は「情報の置き場所」の問題です。3と4は「やり方の共有」の問題です。後で紹介する5手順は、置き場所を先に直し、やり方をあとからマニュアルにする順番にしています。
属人化を放置すると起きること
属人化を放置すると、売上が1人の退職で落ちるだけでなく、情報の管理そのものが危うくなります。 特に、個人情報と会社の大事な情報の扱いに注意が必要です。
| リスク | 具体的に起きること |
|---|---|
| 売上が落ちる | 担当者の退職で、その人の取引先との取引が止まる |
| 提案が遅くなる | 担当者が休むと、案件への回答が1日以上止まる |
| 二重提案・連絡ミス | 同じ要員を別の営業が同じ案件に出してしまう |
| 個人情報の管理があいまいになる | スキルシートが個人のPCやメールに散らばる |
エンジニアのスキルシートには、氏名や経歴などの個人情報が入ります。個人情報保護法は、会社に安全管理措置(第23条)と従業者の監督(第24条)を求めています。個人のメールやPCにだけ置いた状態では、会社として管理できているとは言いにくくなります。
営業秘密とは、秘密として管理され、事業に役立ち、公に知られていない情報のことです(不正競争防止法第2条第6項)。取引先の情報を会社の情報として守るには、まず会社が「秘密として管理している」状態をつくる必要があります。個人の受信箱にしかない情報は、会社の管理が届きにくい情報です。
SES営業の仕事の流れと、情報がたまる場所
SES営業の仕事は、大きく7つの工程に分けられます。 工程ごとに、どの情報が個人にたまりやすいかを知っておくと、共有DBに何を入れるべきかがはっきりします。
案件・人材情報を受け取る:BPから案件メール・人材メールが届く
マッチングする:案件の条件に合う要員を、自社とBPから探す
提案する:スキルシートと条件を添えて、BPや客先に提案する
面談を調整する:客先とエンジニアの面談日程を決め、同席する
契約する:単価・精算幅・支払いサイトなどを決め、契約書を交わす
稼働中のフォロー:勤怠の確認、エンジニアや客先との定期連絡
更新・終了:契約を続けるか、次の案件を探すかを決める
要員とは、案件に参加するエンジニアのことです。 工程ごとに、個人にたまりやすい情報と共有先をまとめると、次のようになります。
| 工程 | 個人にたまりやすい情報 | 共有DBでの置き場所 |
|---|---|---|
| 1 受け取る | 案件メール・人材メールの本文 | 案件一覧・人材一覧 |
| 2〜3 マッチング・提案 | 誰をどの案件に出したか | 提案履歴 |
| 4 面談 | 面談の結果・客先の感想 | 提案履歴のメモ |
| 5 契約 | 単価・商流・支払い条件 | 取引先情報・契約情報 |
| 6〜7 稼働・更新 | 満了日・次の希望 | 要員情報・稼働表 |
ポイントは、1の「受け取る」の段階で情報が個人に入ってしまうことです。入口を共有にすれば、2〜7の情報も自然と共有に残りやすくなります。
SES営業の属人化を解消する5手順
属人化の解消は「情報を集める場所を決める → 移す → やり方を書く → 回す」の順に進めます。 5手順を、1〜2か月で終える目安で並べました。
手順1:誰が何を持っているかを棚卸しする(1週間)
最初にやるのは、営業ごとに「持っている情報」を書き出すことです。 担当者を責めるためではなく、移す量を知るための作業だと伝えます。
営業1人ずつに、次の5点を書き出してもらいます。
窓口になっている取引先の会社名と担当者名
使っている管理表(Excelのファイル名・置き場所)
案件・人材メールを受けているアドレス
稼働中・提案中の要員と、その契約の満了日
取引先ごとの「気をつけていること」(商流の制限、連絡の時間帯など)
手順2:共有DBの項目と入力ルールを決める(1週間)
共有DBとは、会社の全員が同じ情報を見て、更新できる一つの管理場所のことです。 ツールは表計算ソフトでも専用ツールでもかまいません。大事なのは、項目と書き方をそろえることです。
最低限そろえたいのは、次の4つの表です。
| 表の名前 | 主な項目 | 更新するタイミング |
|---|---|---|
| 取引先 | 会社名・担当者・商流・支払い条件・注意点 | 取引開始時・条件変更時 |
| 案件 | 案件名・スキル・単価・期間・勤務地・受け取った日 | メールを受け取った日 |
| 要員 | スキル・希望単価・稼働可能日・所属 | 面談後・満了の1か月前 |
| 提案履歴 | 案件・要員・提案日・結果・担当営業 | 提案した日と結果が出た日 |
入力ルールは3つに絞ると守られます。
その日のうちに入れる(翌日まで持ち越さない)
単価は「万円/月」、日付は「2026/10/01」のように書き方をそろえる
担当営業の名前を必ず入れる(誰に聞けばいいかがわかる)
取引先情報の細かい項目は、SESのBP登録管理方法|取引先情報の管理項目15と更新の仕組みが参考になります。
手順3:個人メールから会社の共有DBへ移す(2〜3週間)
この手順が、属人化を解消するうえで一番効果が大きい工程です。 過去の情報を移すことと、これから届く情報の入口を変えることの2つを行います。
① これから届くメールの入口を変える
案件・人材メール専用の共有アドレスを作る(例:
anken@自社ドメイン)取引先に、送り先を共有アドレスに変えてほしいと連絡する
切り替えまでの間は、個人アドレスに届いたメールを共有アドレスへ自動転送する
取引先への連絡は、次のような短い文面で十分です。
件名:【ご案内】案件・人材情報の送付先変更のお願い
いつもお世話になっております。株式会社〇〇の△△です。
2026年10月16日(金)より、案件・人材情報の送付先を下記に変更いたします。
新しい送付先:anken@〇〇.co.jp
担当者が不在でも、社内の営業全員で確認し、早くお返事できるようにするためです。
お手数ですが、配信リストの変更をお願いいたします。
② 過去の情報を移す
過去のメールをすべて移す必要はありません。直近3か月にやりとりがあった取引先と、稼働中・提案中の要員から優先して移します。古い情報は、使うときに探せば十分です。
手順4:営業マニュアルを作る(1〜2週間)
情報の置き場所が決まってから、やり方をマニュアルに書きます。 先にマニュアルを作ると、「どこに入力するか」が書けず、使われない文書になりがちです。書き方のコツは、次の章で説明します。
手順5:週1回、共有DBを点検して回す(ずっと続ける)
仕組みは作って終わりではなく、週1回の点検で定着させます。 15〜30分の営業会議で、次の3点だけを確認します。
今週届いた案件のうち、共有DBに入っていないものはないか
提案履歴に「結果」が空欄のままのものはないか
満了日が1か月以内の要員に、次の動きが決まっているか
点検で見る数字を決めたいときは、SES営業のKPIの目安|1日の提案数・面談数と1人あたり売上目標も参考になります。
営業マニュアルは「共有DBの使い方」から書く
属人化の解消で作る営業マニュアルは、仕事の流れと、各工程で共有DBに何を入れるかを中心に書きます。立派な文書より、新人が迷ったときに開いて答えが見つかる文書を目指します。
属人化を防ぐうえで、押さえたいコツは次の3つです。
エース営業に書かせず、話を聞いて別の人が書く:本人には当たり前すぎて、大事なことほど書き漏れます。
取引先ごとの情報はマニュアルに書かない:変わりやすい情報は共有DBに置き、マニュアルからリンクします。
3か月に1回、新人に読ませて直す:新人がつまずいた箇所が、書き足すべき箇所です。
目次の例と各章の書き方は、営業マニュアルの作り方|SES営業のノウハウを共有する手順と目次例で詳しく解説しています。
担当者が辞めるときの引き継ぎチェックリスト
退職が決まったら、最終出社日の2週間前までに、次の10項目を終わらせます。 共有DBが整っていれば、ほとんどの項目は確認だけで済みます。
| # | 確認すること | 済 |
|---|---|---|
| 1 | 窓口の取引先すべてに、新しい担当者を紹介した(挨拶メールを送った) | □ |
| 2 | 個人アドレスに届く案件・人材メールを、共有アドレスへ転送設定した | □ |
| 3 | 稼働中の要員と満了日を、共有DBで新担当と確認した | □ |
| 4 | 提案中・面談待ちの案件を、提案履歴で引き継いだ | □ |
| 5 | 取引先ごとの注意点を、取引先表に書き足した | □ |
| 6 | 個人のPC・メールにあるスキルシートを、会社の保管場所へ移した | □ |
| 7 | 個人のPC・メールに残ったスキルシートを削除した | □ |
| 8 | 契約・精算で確認中の件を、営業事務と共有した | □ |
| 9 | チャットやSNSでやりとりしていた取引先を洗い出した | □ |
| 10 | 退職後に問い合わせが来たときの連絡先を、取引先に伝えた | □ |
1の挨拶メールは、営業担当者変更の挨拶メール例文|SESの取引先・BP・要員向けの文面をそのまま使えます。
たとえば最終出社日が2026年10月30日(金)なら、10月16日(金)までに1〜5を終えます。残りの2週間は、新担当との同行にあてると安心です。
スキルシートと個人情報の扱いは、スキルシートの個人情報と第三者提供の同意で説明しています。
チームで案件・要員情報を共有する方法の比べ方
案件・要員情報をチームで共有する方法は、主に3つあります。 人数と、1日に届くメールの量で選ぶのが現実的です。
| 方法 | 向いている会社 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 共有の表計算ソフト(Excel・スプレッドシート) | 営業が1〜3人で、メールが少ない | 書き方がずれやすく、同時編集で上書きが起きる |
| 汎用のCRM・SFA | 顧客との商談管理が中心の会社 | 案件と人材を組み合わせる管理には合わないことがある |
| SES向けの管理・共有ツール | 案件・人材メールが毎日大量に届く | 入力の手間と、メールの取り込み方法を確認する |
CRMとは、顧客の情報とやりとりの履歴を管理する仕組みのことです。 SESでは「案件」と「人材」を組み合わせる管理が中心になるため、一般的なCRMでは項目が足りないことがあります。
共有の手順は、SESの案件・要員情報をチームで共有する方法|一元管理の5手順で解説しています。
チョータツとチョータツメールAIで属人化を減らす
共有DBは自分で作れますが、毎日の入力が負担で続かないこともあります。 入口のメール処理と、案件・人材の共有をツールに任せると、手順3と手順5がぐっと楽になります。
チョータツは、SES営業のための案件・人材の管理・共有ツールです。3,000社以上が利用していて、無料で始められます。属人化の解消に役立つのは、次の点です。
案件・人材の情報を、チームで管理・共有できる
AIが入力を手伝うので、1件ずつ手で打ち込む手間を減らせる
パートナーへのメール配信機能があり、個人のメールソフトに頼らずに案件・人材を案内できる
他社と連携すると、他社の営業中案件・営業中人材をデータベース化できる
チョータツメールAIは、メールを取り込む機能です。届いたメールをAIが処理し、案件メールと人材メールに切り分けます。
転送設定で取り込めるので、手順3の「共有アドレスへの転送」とそのまま組み合わせられる
案件・人材以外のメールはデータに残らない
「個人の受信箱に届く → 担当者だけが読む」流れを、「転送で取り込む → 全員が同じ一覧を見る」流れに変えられます。ただし、取引先ごとの注意点や判断の基準は、ツールだけでは残りません。営業マニュアルと週1回の点検は、ツールを入れても続けてください。
よくある質問
- Q. SES営業の属人化は、どこから手をつければいいですか?
- 最初は、案件・人材メールの受け取り先を共有アドレスに変えることです。入口が共有になると、そのあとの提案や契約の情報も共有に残りやすくなります。マニュアル作りはそのあとで十分です。
- Q. SESの営業マニュアルには何を書けばいいですか?
- 仕事の流れ、提案してよいかの判断基準、例文集の3つを中心に書きます。取引先ごとの細かい情報は変わりやすいので、マニュアルではなく共有DBに置いてリンクします。
- Q. エース営業が情報共有をいやがるときは、どうすればいいですか?
- 共有の目的を「評価のため」ではなく「本人が休める・提案が速くなるため」と伝えます。入力の手間を減らす工夫も効果的です。共有した情報から決まった案件は、本人の成果として数えるルールにすると協力を得やすくなります。
- Q. SESの案件・要員情報は、Excelでチーム共有しても大丈夫ですか?
- 営業が少人数で、届くメールが少ないうちは十分使えます。人数やメールが増えると、書き方のずれや上書きが起きやすくなります。そのときは、SES向けの管理・共有ツールへの移行を考えましょう。
- Q. 退職する営業の個人メールに残った取引先情報は、どう扱えばいいですか?
- 最終出社日の前に、必要な情報を会社の共有DBへ移し、個人のPCやメールに残ったスキルシートは削除します。退職後も個人アドレスに届くメールは、共有アドレスへ転送する設定にしておきます。
まとめ
SES営業の属人化は、取引先・案件・要員の情報が個人のメールとExcelにしかない状態から起きる
担当者の退職で、取引先の窓口、商流の条件、提案履歴、要員の希望が一度に消える
スキルシートなどの個人情報を個人の道具に置いたままにすると、会社として管理しにくくなる
解消の5手順は、棚卸し → 項目とルール決め → 個人メールから共有DBへ移す → マニュアル化 → 週1回の点検
一番効果が大きいのは、案件・人材メールの入口を共有アドレスに変えること
営業マニュアルは、仕事の流れ・判断の基準・例文の3つを中心に書く
退職が決まったら、最終出社日の2週間前までに引き継ぎ10項目を終える
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(第23条 安全管理措置、第24条 従業者の監督)
個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(安全管理措置の具体例)
e-Gov法令検索「不正競争防止法」(第2条第6項 営業秘密の定義)
経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」(営業秘密管理指針、秘密情報の保護ハンドブック)