完全歩合の営業業務委託契約書|SES企業が決める記載項目12と条文ひな形、労働者と判断されない書き方
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
完全歩合の営業業務委託とは?
完全歩合の営業業務委託とは、固定の報酬を払わず、成約した案件の成果に応じてだけ報酬を払う営業の外注のことです。SES企業では「成約した要員の粗利の◯%を、稼働が続く間払う」形が多く見られます。
業務委託契約とは、会社が仕事を外部の人や会社に任せる契約の呼び名のことです。用語の意味はSES用語一覧|営業が現場で使う用語60と意味・例文つきでも確認できます。法律上は、営業のように作業そのものを任せる場合、主に準委任契約(民法第656条)にあたります。
完全歩合の業務委託と、社員の歩合給は、見た目が似ていても中身が違います。
| 項目 | 完全歩合の業務委託 | 社員の歩合給 |
|---|---|---|
| 契約 | 業務委託(準委任など) | 雇用契約 |
| 固定報酬ゼロ | できる | できない(保障給が必要) |
| 最低賃金 | かからない | かかる |
| 働き方の指示 | 成果の合意まで | 時間・場所・方法も指示できる |
営業の業務委託の全体像は、営業代行・営業の業務委託契約書|条項例と成果報酬の決め方で解説しています。この記事は完全歩合の報酬条文とひな形に絞ります。
完全歩合が違法になるのはどんなときか
完全歩合が問題になるのは、実態が雇用なのに業務委託の形にしているときです。契約書の名前ではなく、働き方の実態で判断されます。
労働基準法第9条は、労働者を「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めています。労働者と判断されると、次のルールがかかります。
保障給:出来高払いでも、労働時間に応じた一定額の賃金を保障しなければなりません(労働基準法第27条)。
最低賃金:時間あたりの賃金が最低賃金を下回れません。東京都は2026年10月1日から1,280円です(発効日は都道府県ごとに違います)。
社会保険・残業代:加入の要否や割増賃金の問題が出てきます。
判断の中心は、指揮監督の下で働いているかと、報酬が働いた時間の対価かです。厚生労働省は、仕事を断る自由、業務の指示、時間・場所の拘束、代わりの人に任せられるか、などを見るとしています。
判断の8項目は業務委託の労働者性の判断基準|偽装フリーランスを防ぐ8項目でくわしく確認できます。
完全歩合の営業委託契約書に書く12項目
契約書には、次の12項目を必ず入れます。★はフリーランス法第3条の明示事項に関係する項目です(個人に委託する場合)。
| # | 項目 | 書くことの例 |
|---|---|---|
| 1 | 当事者 ★ | 会社名と委託先の氏名・屋号 |
| 2 | 委託日 ★ | 契約(発注)をした日 |
| 3 | 業務の内容 ★ | 新規顧客の開拓、案件の獲得、要員提案の補助 |
| 4 | 業務の期間 ★ | 2026年11月1日〜2027年4月30日 |
| 5 | 成果の定義 | 注文書を受け、要員が稼働を始めたこと |
| 6 | 報酬の算定方法 ★ | 月間粗利の30% |
| 7 | 支払期間 | 稼働開始から最長12か月 |
| 8 | 支払期日 ★ | 顧客から入金があった月の翌月末日 |
| 9 | 途中退場・減額時 | 実際に受け取った粗利で計算し直す |
| 10 | 顧客情報の帰属 | 顧客・BP・人材の情報は会社のもの |
| 11 | 競業の範囲 | 紹介した顧客に他社の人材を提案しない |
| 12 | 解除・終了後 | 予告期間、終了後の報酬、情報の返却 |
フリーランス法とは、従業員を使わない個人などに仕事を頼むときのルールを定めた法律のことです(2024年11月1日施行)。金額を示すのが難しいやむを得ない事情があれば、算定方法を示せば足ります。根拠は公正取引委員会関係規則第1条第3項です。
完全歩合は、委託した時点では金額が決まりません。そのため「粗利の30%」のように計算の式を書いておくことが大切です。フリーランス法の明示事項はフリーランス法の3条通知ひな形|SESの発注書・メール記載例にまとめています。
報酬の計算基準は4点を数字で決める
完全歩合のトラブルの多くは、「何を元に」「いつの分を」払うかのずれから起きます。次の4点を数字で書けば、ほとんどのもめごとを防げます。
1. 何の何%か
計算の元は、粗利にするのがおすすめです。粗利とは、顧客から受け取る単価から、要員に払う原価(給与やBPへの支払い)を引いた金額のことです。
| 計算の元 | 例 | よい点 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 粗利の◯% | 粗利の30% | 会社が赤字にならない | 粗利の計算方法も書く |
| 単価の◯% | 単価の5% | 計算が簡単 | 粗利が薄い案件で赤字になる |
| 1名ごとに定額 | 入場1名10万円 | 支払いが読みやすい | 1か月で終わると割高 |
2. いつの売上か
「稼働した月の粗利」か「入金された月の粗利」かを決めます。入金ベースにすると、顧客の支払いが遅れても会社が立て替えずにすみます。
3. いつまで払うか
「稼働が続く限りずっと」は、委託契約が終わった後も払い続けることになりがちです。最長12か月のように上限を決めます。
4. 途中退場・単価変更のとき
途中退場で精算控除(稼働時間が下限を下回ったときの減額)があったときは、実際に受け取った粗利で計算し直すと書きます。
計算例
単価80万円、要員への支払い62万円の案件を成約したとします。
月の粗利:80万円 − 62万円 = 18万円
委託営業への報酬:18万円 × 30% = 5万4,000円(税抜)
12か月続いた場合の合計:5万4,000円 × 12 = 64万8,000円
報酬率の決め方は、社員のインセンティブ設計とそろえると不公平感が出にくくなります。SES営業のインセンティブ設計|粗利連動の計算式と失敗例も参考にしてください。
労働者と判断されないための書き方
契約書では、会社が決めるのは「成果」と「報告」までにします。時間・場所・行動量を指定する条文は入れません。
| 場面 | 書いてよい例 | 避けたい例 |
|---|---|---|
| 目標 | 「成果の目安を毎月協議する」 | 「毎日100件電話する」 |
| 時間 | 書かない(本人の裁量) | 「9時〜18時に稼働する」 |
| 場所 | 「打合せは双方協議の場所」 | 「毎日出社する」 |
| 報告 | 「月1回、成果を報告する」 | 「1時間ごとに行動を報告する」 |
| 他の仕事 | 「秘密保持に反しない範囲で可」 | 「他社の仕事を一切禁止」 |
契約書の文面だけ整えても、実際に毎日の出社を求めれば意味がありません。営業責任者が、日々の指示の出し方も合わせて変える必要があります。
顧客情報と競業の条項は「範囲」を絞る
委託営業が集めた顧客・BP・人材の情報は、会社のものと契約書に書くのが基本です。書いていないと、契約終了後に委託営業がその情報で他社の営業をしても、止める根拠が弱くなります。
競業避止(同じ業界で競合する仕事をしない約束)は、範囲を絞るほど有効と認められやすくなります。「SES業界の営業を一切しない」のような広すぎる条項は避けます。
対象:本契約で紹介・担当した顧客とBP
内容:その顧客に、会社以外の人材・案件を提案しない
期間:契約終了後6か月
競業の考え方は、SESの競業避止義務と退職エンジニア|客先への転籍を防ぐ契約の範囲で解説しています。
完全歩合の営業業務委託契約書のひな形
次のひな形は、個人の委託営業(フリーランス)と結ぶ場合の主な条文です。自社の実態に合わせて直し、締結前に専門家に確認してください。
営業業務委託契約書
株式会社〇〇(以下「甲」)と〇〇(以下「乙」)は、次のとおり営業業務委託契約を結ぶ。
第1条(委託業務)
甲は乙に、次の業務(以下「本業務」)を委託する。
(1) 甲のSES事業の新規顧客の開拓
(2) 顧客からの案件情報の取得と、甲への取次ぎ
(3) 甲が指定する要員提案の補助第2条(業務の遂行)
乙は、本業務の遂行方法、時間配分および場所を自らの裁量で決める。甲は、成果の目安を乙と協議して定めるが、業務の具体的な手順は指示しない。第3条(成果)
本契約で「成果」とは、乙が取り次いだ顧客から甲が注文書を受領し、甲の要員が稼働を開始したことをいう。第4条(報酬)
甲は乙に、成果1件ごとに、当該案件の月間粗利の30%を報酬として支払う(消費税別)。
月間粗利とは、甲が顧客から当該月に入金を受けた額から、当該要員の当該月の原価を差し引いた額をいう。
報酬の支払対象は、稼働開始月から最長12か月とする。
精算控除・単価変更・途中退場があった月は、実際に入金を受けた額で計算する。
第5条(支払期日)
甲は、前条の報酬を、乙からの報告を受けた月の翌月末日までに、乙の指定口座に振り込む。ただし、本業務の提供を受けた日から60日以内とする。第6条(報告)
乙は、毎月末日までに、取次ぎの状況を甲に報告する。第7条(情報の帰属と管理)
本業務で得た顧客・取引先・人材の情報は甲に帰属する。乙は、甲の指定する方法で情報を管理し、本業務以外に使わない。第8条(競業の制限)
乙は、本契約の期間中および終了後6か月間、本業務で担当した顧客に対し、甲以外の者の人材・案件を提案しない。第9条(他の業務)
乙は、第7条および第8条に反しない範囲で、第三者から業務を受けることができる。第10条(契約期間・解除)
本契約の期間は2026年11月1日から2027年4月30日までとする。
本契約を終了または更新しないときは、少なくとも30日前までに相手方に予告する。
第11条(終了後の報酬と情報の返却)
本契約の終了前に成果が生じた案件は、終了後も第4条第3項の期間まで報酬を支払う。
乙は、本契約の終了後直ちに、第7条の情報を返却または削除する。
第5条の「60日以内」は、フリーランス法第4条の支払期日のルールに合わせたものです。第10条の予告は、6か月以上続く委託の解除・不更新に30日前の予告を求めるフリーランス法第16条に合わせています。
損害賠償・反社条項などは、フリーランス法の契約書の記載事項|9項目の書き方と条項チェックも合わせて確認してください。
締結前のチェックリスト
契約書を送る前に、次の8点を確認します。
成果の定義が「注文書の受領」「稼働開始」など、あとで確かめられる事実になっている
報酬の計算の元(粗利の計算方法)が書いてある
支払期間の上限(例:12か月)がある
支払期日が、役務の提供を受けた日から60日以内になっている
時間・場所・行動量を指定する条文がない
顧客・BP・人材の情報の帰属と返却が書いてある
競業の範囲が「担当した顧客」「6か月」などに絞られている
報酬の源泉徴収の要否を税理士に確認した
源泉徴収は、所得税法第204条第1項に列挙された報酬が対象です。第4号には「外交員」などの報酬が挙げられています。委託営業の報酬が当たるかは契約の中身で変わるため、税理士に確認してから支払いの仕組みを決めます。
委託営業の探し方や任せる範囲は、営業を業務委託で増やす方法|フリーランス・副業営業の報酬と契約で解説しています。
委託営業に渡す情報を、チョータツで会社の手元に置く
完全歩合の委託営業を増やすと、案件・人材の情報が委託営業ごとの手元に散らばることが一番の困りごとになります。契約書で「情報は会社のもの」と書いても、Excelや個人のメールに残れば回収は難しくなります。
自分でやる場合は、次の3つのルールを決めます。
案件・人材の情報は、会社の共有フォルダの1つのシートにだけ書く
委託営業には、会社のメールアドレスを発行して使ってもらう
契約終了日に、シートとメールのアクセス権を止める
もっと楽にするなら、チョータツを使う方法があります。チョータツとは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有するツールのことです。3,000社以上が利用し、無料で始められます。
| やること | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 案件・人材の情報を集める | 委託営業がExcelに転記 | 1か所で管理・共有し、AIが入力を手伝う |
| BPへ案件・人材を届ける | 各自のメールで送る | メール配信機能で送れる |
| 提案できる人材を探す | BPに1社ずつ問い合わせる | 連携した会社の営業中人材をデータベースで見られる |
委託営業が使う情報を会社の仕組みの中に置けば、成果の確認(どの顧客を誰が取り次いだか)もしやすくなります。
よくある質問
- Q. 営業を完全歩合の業務委託にするのは違法ですか?
- 業務委託の実態があれば違法ではありません。ただし、時間や場所を指定するなど実態が雇用なら、労働者として扱われます。その場合は保障給(労働基準法第27条)や最低賃金が必要です。
- Q. 完全歩合の報酬は、契約書に金額を書かなくてもよいですか?
- 金額が決まらない場合は、算定方法を書けば足ります。個人に委託するなら、フリーランス法の明示として「粗利の30%」などの式を書面かメールで示します。
- Q. 委託営業が契約終了後に取った案件にも報酬は払いますか?
- 契約の決め方しだいです。「終了前に成果が生じた案件だけ払う」と書けば、終了後の新しい案件には払いません。
- Q. 歩合の営業委託契約に競業避止は入れられますか?
- 入れられます。ただし広すぎると有効と認められにくいです。「担当した顧客」「終了後6か月」のように範囲を絞ります。
- Q. 完全歩合の営業委託の報酬に源泉徴収は必要ですか?
- 所得税法第204条第1項の報酬にあたるかで決まります。第4号に外交員などの報酬が挙げられているため、契約の中身を税理士に確認してください。
まとめ
完全歩合の業務委託は結べるが、実態が雇用なら保障給・最低賃金が必要になる
報酬の条文は「何の何%か」「いつの売上か」「いつまで払うか」「途中退場時」の4点を数字で書く
個人に委託するなら、フリーランス法第3条の明示事項(報酬は算定方法でも可)を示す
契約書で決めるのは成果と報告まで。時間・場所・行動量は指定しない
顧客情報は会社のものと書き、競業は「担当した顧客」「6か月」などに絞る
委託営業の情報はチョータツなど会社の仕組みに集め、終了時に回収しやすくする
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「労働基準法」(第9条 定義、第27条 出来高払制の保障給)
厚生労働省「労働基準法における「労働者」とは」(使用従属性の判断基準)
厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」(東京都1,280円、発効日)
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)」(第3条 取引条件の明示、第4条 報酬の支払期日、第16条 解除等の予告)
e-Gov法令検索「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」(第1条 明示事項、第3項 算定方法の明示)
e-Gov法令検索「民法」(第656条 準委任)
e-Gov法令検索「所得税法」(第204条第1項 源泉徴収義務)