SES営業のインセンティブ設計|粗利・新規・継続の連動比較、粗利連動の計算式と計算例、失敗例

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

SES営業のインセンティブとは?

SES営業のインセンティブとは、固定の給与とは別に、営業の成果(粗利・決定数など)に応じて払う報酬のことです。「歩合」「成果給」「コミッション」とも呼ばれます。

SES営業のインセンティブで考えることは、次の4つです。

決めること選び方の例
何に連動させるか粗利・新規の決定・継続(更新)
どう計算するか基準額を超えた分×支給率、1件あたりの定額
誰に配るか個人だけ、個人+チーム
いつ払うか毎月、四半期ごと、半期ごと

インセンティブは、評価制度(半期ごとの評価で賞与や昇給を決めるしくみ)とは別に持つ会社も、評価に組み込む会社もあります。評価の項目はSES営業の評価シートの作り方|数字と行動の評価項目と記入例で紹介しています。

SES営業の歩合の相場は?公的な統計はない

SES営業の歩合の相場を示す、国などの公的な統計はありません。求人や業界の記事では「粗利の〇%」という数字も見られます。ただし出典のある平均値ではないため、自社の基準にするのはおすすめしません。

相場を探すより、自社の粗利と固定費から逆算する方が確実です。逆算の考え方は次のとおりです。

  1. 営業1人あたりの年間の粗利目標を決める

  2. 営業1人にかかる年間の費用(給与・社会保険料・交通費など)を出す

  3. 粗利目標から費用を引き、会社に残したい額を引く

  4. 残った額の中で、インセンティブに回せる上限を決める

粗利の計算方法はSESの粗利率の平均は?利益率の計算式と計算例・上げる方法5つで解説しています。

何に連動させるか:粗利・新規・継続の比較

インセンティブを何に連動させるかで、営業の動き方が変わります。粗利を中心にし、新規と継続を少し足すのが編集部のおすすめです。

連動させる数字営業が力を入れること起きやすい問題
売上単価の高い案件を取る仕入れ値が高くても通すので、利益が残らない
粗利利益の残る案件・人材を組み合わせる粗利が出るまで時間がかかる新規開拓を避ける
新規の決定数新しい案件・新しいエンジニアの稼働更新や待機の解消が後回しになる
継続(更新)今のエンジニアの更新・単価アップ新しい取引先が増えない

粗利とは、売上から、その売上を作るために直接かかった費用(自社エンジニアの給与や、BPへの支払い)を引いた金額のことです。BPとは、ビジネスパートナーの略で、案件や人材を紹介し合う取引先のSES企業のことです。自社エンジニアとの違いはSESのプロパーとBPの違い|営業が使い分ける意味と提案時の注意点で確認できます。

おすすめの組み合わせ

おすすめの組み合わせは、粗利連動7割・新規3割、または粗利連動6割・新規2割・継続2割です。どれか1つだけに連動させると、上の表の「起きやすい問題」がそのまま出ます。

粗利連動の計算式と計算例

粗利連動のインセンティブは、「(担当案件の月の粗利−基準額)×支給率」で計算します。基準額とは、固定給でまかなうと決めた粗利の水準のことです。

計算例1:基準額を超えた分の10%を払う

項目金額
担当している案件の月の粗利の合計180万円
基準額(固定給でまかなう分)100万円
基準額を超えた粗利80万円
支給率10%
その月のインセンティブ8万円

計算式にすると、(180万円−100万円)×10%=8万円です。粗利が100万円以下の月は、インセンティブは0円です。

計算例2:粗利連動と新規を組み合わせる

新規の決定1件につき定額を足す形です。

項目計算金額
粗利連動の分(150万円−100万円)×10%5万円
新規決定の分2件×1万円2万円
その月のインセンティブ5万円+2万円7万円

新規の定額は、稼働が始まった月に払うと決めておきます。決定の連絡だけで払うと、参画前に辞退されたときに取り消しの話が必要になります。

担当粗利の数え方を先に決める

計算で揉めやすいのは、「誰の担当の粗利か」の数え方です。次の3点を、制度を始める前に文章で決めておきます。

  1. 案件担当と人材担当が別の場合、粗利を何対何で分けるか(例:5対5)

  2. 担当が途中で変わった案件は、どの月から新しい担当に数えるか

  3. 精算幅の控除や、客先からの減額があった月は、実際の粗利で数えるか

案件ごとの粗利の出し方はSESの収支管理の方法|案件別粗利の計算と原価に入れる費用一覧でくわしく解説しています。

チーム成果との配分

インセンティブの2〜3割をチームの成果で配ると、案件や人材の情報を抱え込む人が減ります。個人の成果だけで配ると、「自分の見つけた人材は、ほかの人の案件に出したくない」という動きが起きます。

配分良い点注意点
個人10割成果を出した人がすぐに報われる情報の抱え込み、担当の取り合い
個人7割・チーム3割共有への協力も報われるチームの目標を全員に見える形にする
個人5割・チーム5割チームの一体感が高い成果を出す人の不満が出やすい

チーム分の計算例です。チームの月の粗利が目標を20万円上回り、チーム分の支給率が10%なら、2万円をチーム4人で分けて1人5,000円です。

チームで案件・人材を共有するしくみはSES営業の属人化を解消する方法|マニュアル作りと共有の5手順も参考にしてください。

失敗例:インセンティブが招く5つの問題

インセンティブの設計を間違えると、会社の利益や取引先との関係を削る動きが起きます。よくある5つの失敗例と、防ぎ方をまとめました。

失敗例何が起きるか防ぎ方
売上連動にした仕入れ値の高いBP人材をそのまま提案し、粗利が残らない粗利連動にする
新規決定だけに連動した更新の打診が遅れ、稼働中のエンジニアが待機に入る継続の分を入れる。待機が出た月は減らす
粗利だけに連動したBPの仕入れ単価を無理に値切り、取引先が離れる仕入れ単価の交渉ルールを別に決める
支給率を後から下げた営業の不信感が高まり、辞める人が出る変更は理由を示し、前もって話し合う
計算を担当者の自己申告にした数字の食い違いで毎月揉める案件一覧から集計し、上司が確認する

待機を招く失敗

新規決定だけに連動させると、営業は新しい案件に時間を使い、今稼働しているエンジニアの更新の打診を後回しにしがちです。その結果、契約が切れて待機が出ると、待機中の給与は会社の負担になります。

待機とは、エンジニアが案件に入っておらず、売上がない状態のことです。待機の対応はSESの待機期間の給与と対応|休業手当の計算例と早く案件に入る7手順で解説しています。

BP単価の値切りを招く失敗

粗利だけに強く連動させると、営業がBPの仕入れ単価を無理に下げようとすることがあります。自社がBPに仕事を頼む取引で取適法が当てはまる場合、次の行為は禁止されています。

  • 同じような仕事に通常払われる額より、著しく低い代金を不当に決めること(買いたたき。取適法第5条第1項第5号)

  • 受注側から代金の協議を求められたのに応じない、または必要な説明をせず一方的に代金を決めること(取適法第5条第2項第4号)

取適法とは、発注側の会社が受注側の中小企業に不当な扱いをしないよう定めた法律です。下請法を改正し、2026年1月1日に施行されました。仕入れ単価の交渉の進め方はSESの仕入れ単価のBP交渉|関係を壊さない伝え方と例文5つを参考にしてください。

賃金規程・就業規則に書く項目

社員の営業に払うインセンティブは、労働の対価として払うものなので、労働基準法の「賃金」に当たります(労働基準法第11条)。そのため、計算方法や支払時期を文章にしておく必要があります。

法律で押さえる点

決まり中身根拠
労働条件の明示賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期を、雇うときに示す労働基準法第15条、同法施行規則第5条
就業規則への記載常時10人以上を使う会社は、賃金の決定・計算・支払方法などを就業規則に書き、届け出る労働基準法第89条
賃金の支払い方通貨で、直接、全額を、毎月1回以上、決まった日に払う労働基準法第24条
最低賃金固定給が低い設計では、最低賃金を下回らないか確かめる最低賃金法第4条
歩合だけの給与出来高払制などで使う場合は、労働時間に応じた一定額の保障が必要労働基準法第27条
不利益な変更就業規則の変更で不利益に変えるには、周知と合理性が必要労働契約法第9条・第10条

残業代の計算に入るかどうか

毎月払うインセンティブは、残業代(割増賃金)を計算するときの基礎に入ります。1か月を超える期間ごとに払うもの(四半期ごとの成果給など)は、基礎に入れない賃金です。根拠は労働基準法第37条第5項と同法施行規則第21条です。

どの払い方が自社に合うかは、残業の多さや制度の目的で変わります。制度を決める前に、社会保険労務士に相談することをおすすめします。

賃金規程に書く項目のひな形

例文・テンプレート
第〇条(営業インセンティブ)
1 対象者:営業職の正社員
2 計算期間:毎月1日から末日まで
3 計算方法:
  (1)個人分=(担当案件の月の粗利合計−100万円)×10%
       ただし0円を下回る場合は0円とする
  (2)新規分=その月に稼働を開始した新規案件1件につき1万円
  (3)チーム分=(チームの月の粗利−チーム目標)×10%÷チームの人数
4 担当粗利の数え方:案件担当と人材担当が異なる場合は5対5で按分する
5 支払時期:計算期間の翌々月の給与支払日に支払う
6 見直し:年1回、4月に見直す。変更するときは1か月前までに説明する

支払時期を翌々月にしているのは、客先からの入金と精算の確定を待つためです。数字は一例なので、自社の粗利と費用に合わせて変えてください。

業務委託で営業を頼む場合は、インセンティブではなく委託報酬になり、考え方が変わります。営業を業務委託で増やす方法|フリーランス・副業営業の報酬と契約で解説しています。

インセンティブ制度を作る6ステップ

インセンティブ制度は、次の6ステップで作ります。

  1. 目的を1つ決める:粗利を増やすのか、新規を増やすのか、定着を上げるのか

  2. 連動させる数字と割合を決める:粗利中心に、新規・継続を足す

  3. 計算式と基準額を決める:前の年の実績で試算し、会社に残る額を確かめる

  4. 担当粗利の数え方を文章にする:按分、担当の変更、控除の扱い

  5. 賃金規程に書き、全員に説明する:始める1か月前までに配る

  6. 半年ごとに見直す:待機の増減、BPとの関係、辞めた人の理由を確かめる

ステップ3の試算で、インセンティブを払っても会社に残る粗利が目標を下回らないかを必ず確かめます。

チョータツで「担当ごとの粗利」を集計しやすくする

インセンティブの計算でいちばん手間がかかるのは、誰がどの案件を担当し、どの人材を出したかを毎月そろえることです。

自分でやる方法

Excelで案件一覧を作り、「案件担当」「人材担当」「売上」「仕入れ」の列を持たせます。毎月、この一覧から担当ごとの粗利を集計します。担当者が自分のメールから一覧に書き写す手間と、書き忘れが課題です。

もっと楽にするなら

チョータツとは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有するツールのことです。3,000社以上が利用し、無料で始められます。

集計で困ること自分でやる場合チョータツを使う場合
担当ごとの案件がわからない担当者に聞いて一覧を直す案件・人材の情報をチームで管理・共有できる
一覧への入力が続かない手で書き写すAIが入力を手伝う
粗利の出る人材が見つからないBPに1社ずつ問い合わせる連携した他社の営業中案件・人材がデータベースになる

チーム分のインセンティブを入れるなら、全員が同じ一覧を見ていることが前提です。一覧が1つになると、「誰の成果か」の話し合いも短くなります。

よくある質問

Q. SES営業の歩合の相場はどれくらいですか?
公的な統計はありません。相場を探すより、営業1人あたりの粗利目標と費用から、インセンティブに回せる上限を逆算する方が確実です。
Q. SES営業のインセンティブは、売上と粗利のどちらに連動させるべきですか?
粗利です。売上連動にすると、仕入れ値の高いBP人材や、自社の取り分が少ない案件でも報酬が増えてしまいます。
Q. 営業のインセンティブ制度は、どうやって作ればいいですか?
目的を決め、連動させる数字と計算式を決め、前の年の実績で試算します。そのうえで賃金規程に書き、始める前に全員に説明します。
Q. インセンティブは残業代の計算に入りますか?
毎月払うものは、原則として割増賃金の基礎に入ります。1か月を超える期間ごとに払うものは、基礎に入れない賃金とされています(労働基準法施行規則第21条)。
Q. 一度決めたインセンティブの支給率を下げてもいいですか?
就業規則の変更で不利益に変える場合は、周知と合理性が必要です(労働契約法第10条)。理由を示し、前もって話し合ったうえで進めます。

まとめ

  • SES営業のインセンティブは、売上ではなく粗利に連動させる

  • 計算式は「(担当案件の月の粗利−基準額)×支給率」が基本。新規・継続を少し足す

  • 担当粗利の数え方(按分、担当の変更、控除)を始める前に文章にする

  • 支給額の2〜3割をチーム成果で配ると、情報の共有が進む

  • 新規だけの連動は待機を、粗利だけの強い連動はBP単価の値切りを招く

  • インセンティブは賃金なので、賃金規程に書き、最低賃金・残業代の計算にも気をつける

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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