派遣先から損害賠償を請求されたら?派遣元の責任の範囲・上限・判例と対応6手順
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
派遣と損害賠償の関係を先に整理する
派遣社員のミスによる損害は、派遣先が指示を出していた仕事で起きたという点が出発点です。ここがSES(準委任契約)との大きな違いです。
労働者派遣とは、自社で雇う社員を、他社の指揮命令を受けて、他社のために働かせることです(労働者派遣法2条1号)。指揮命令とは、仕事のやり方や順番、時間を具体的に指示することです。
| 項目 | 派遣契約 | SES(準委任契約) |
|---|---|---|
| 仕事の指示を出す人 | 派遣先 | SES企業(受託側) |
| 受託側が約束すること | 契約に合う人を派遣する | 業務を注意深く行う |
| ミスの責任の考え方 | 派遣先の指示・管理も考慮 | 受託側の注意義務が中心 |
| 上限を決める場所 | 労働者派遣基本契約書 | 基本契約書・個別契約書 |
派遣では、仕事の中身を管理しているのは派遣先です。そのため、一般に「仕事の結果そのものは派遣元が保証するものではない」と考えられています。
SES(準委任)で請求されたときの動き方は、準委任契約で損害賠償を請求されたら?責任の範囲と対応5手順にまとめました。この記事は、派遣契約の責任に絞ります。
→ 立場の違いは派遣元・派遣先とは?違いと責任の分担をSES営業向けに一覧で解説
派遣元が損害賠償の責任を負う2つの根拠
派遣先が派遣元に損害賠償を求めるとき、根拠は主に「契約違反」と「使用者責任」の2つです。どちらで請求されているかで、反論のポイントが変わります。
根拠1:契約違反(債務不履行・民法415条)
債務不履行とは、契約で約束したことを守らないことです。約束を守らず損害が出たら、相手は賠償を請求できます(民法415条)。
派遣元の約束は、主に「契約で決めた業務に合う人を派遣すること」です。たとえば、次のような場合は契約違反を問われやすくなります。
契約で決めた資格やスキルがない人を派遣した
前の派遣先で問題があったと知りながら、伝えずに派遣した
派遣社員の問題を相談されたのに、派遣元が何もしなかった
ただし、民法415条にはただし書きがあります。派遣元の責任とはいえない事情なら、賠償の責任は負いません。
根拠2:使用者責任(民法715条)
使用者責任とは、人を使って事業をする者が負う賠償の責任のことです。使われている人が仕事中に他人へ与えた損害が対象です(民法715条1項)。
派遣社員を雇っているのは派遣元です。そのため、派遣社員が仕事中に派遣先へ損害を与えると、派遣元が使用者責任を問われることがあります。
一方で、実際に指示を出しているのは派遣先です。派遣先も、派遣社員を指揮監督する立場として、責任の一部を負うと考えられることがあります。
派遣元が責任を問われやすい場面・問われにくい場面
| 場面 | 派遣元の責任 | 理由 |
|---|---|---|
| 派遣社員が派遣先の金品を盗んだ | 問われやすい | 故意の行為で、派遣元の選び方も問われる |
| 契約のスキルがない人を派遣した | 問われやすい | 契約で約束した内容を守っていない |
| 指示どおりの作業で起きた操作ミス | 問われにくい | 派遣先の指示・確認体制も原因になる |
| 派遣先がチェックを省いて起きたミス | 大きく減りうる | 派遣先の落ち度として差し引かれる |
派遣の損害賠償に上限はある?上限がない契約の考え方
派遣の損害賠償に、法律で決まった上限額はありません。上限は、派遣元と派遣先が結ぶ契約書で決めるものです。
契約書に上限がある場合
基本契約書に「〇か月分の派遣料金を上限とする」などとあれば、それが請求額の目安です。まずは基本契約書と個別契約書の両方を確認します。
ただし、故意や重大な過失(重過失)による損害には、上限条項が効かないと考えるのが一般的です。重過失とは、少し注意すれば簡単に防げたのに、それを大きく怠ったことです。
契約書に上限がない場合
上限を決めていない場合は、民法の考え方で額が決まります。ポイントは次の2つです。
損害の範囲:賠償するのは、ふつう起こると考えられる損害(通常損害)が基本です(民法416条1項)。特別な事情で起きた損害は、予見すべきだった場合だけ対象です(同条2項)。
過失相殺:過失相殺とは、損害を受けた側にも落ち度があるとき、その分を差し引くことです(民法418条)。派遣では、派遣先の指示や確認の不足が差し引かれることがあります。
つまり、上限がなくても「言われた金額を全部払う」ことにはなりません。どこまでが損害で、派遣先の落ち度はどれくらいかを、一つずつ確かめます。
上限の決め方の例(次の契約から)
| 上限の型 | 書き方の例 | 向いている取引 |
|---|---|---|
| 派遣料金の月数 | 直近3か月分の派遣料金を上限 | 長期の派遣 |
| 契約期間の総額 | 当該個別契約の派遣料金総額を上限 | 短期の派遣 |
| 固定額 | 金〇〇万円を上限 | 金額を明確にしたい取引 |
| 保険金の範囲 | 保険で支払われる額を上限 | 保険に入っている場合 |
なお、違約金を決めておくと、損害賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。上限と「予定額」は意味が違うので、条文の言葉を正確に選びましょう。
→ 条項の文例はSESの損害賠償の上限条項|準委任の責任限定の書き方と有効性
→ 基本契約と個別契約の役割は労働者派遣契約とは|基本契約と個別契約、準委任からの切替手順
判例が示す考え方:茨石事件と派遣社員への請求
派遣元が派遣先に払ったお金を、派遣社員本人に全額請求できるかというと、難しいことが多いです。最高裁の茨石事件が、会社から社員への請求を制限しているからです。
茨石事件(最高裁第一小法廷 昭和51年7月8日判決)
茨石事件は、社員がタンクローリーを運転中に起こした事故の損害を、会社が社員に請求した裁判です。最高裁は、信義則上、請求できるのは損害の4分の1が限度と判断しました。
信義則とは、契約の当事者はお互いに誠実にふるまうべきだという、民法の基本的な考え方のことです。求償とは、代わりに払ったお金を、本来の責任がある人に請求することです。
判決は、会社が保険に入っていなかったことなども考慮しました。会社は、事業のリスクを社員に全部押しつけられないという考え方です。
派遣の場面でどう使うか
民法715条3項は、会社が社員に求償することを認めています。ただし、茨石事件の考え方により、その額は制限されやすいと考えられます。
| 請求の向き | 基準になるもの | 営業の見立て |
|---|---|---|
| 派遣先 → 派遣元 | 派遣契約、民法415条・715条 | 契約と派遣先の落ち度しだい |
| 派遣元 → 派遣社員 | 雇用契約、民法715条3項、茨石事件 | 一部に制限されやすい |
| 派遣元 → 保険会社 | 保険契約 | 補償の範囲と免責しだい |
故意の不正(横領や情報の持ち出しなど)は、ふつうのミスとは別に考えます。この場合は、社員本人の責任が重く見られやすくなります。
→ 情報漏えいの場合はSESの情報漏洩の責任は誰に?損害賠償の範囲と事故報告の流れ
派遣先から請求されたとき、営業が最初にやる6手順
請求の連絡を受けたら、その場で金額を認めない・断らないのが原則です。次の順で動くと、交渉で不利になりにくくなります。
事実を記録する:いつ、だれの指示で、どんな作業中に、何が起きたかを書き出す。派遣社員本人からも聞き取る
契約書を確認する:基本契約書と個別契約書の損害賠償・上限・免責の条項を確認する
保険会社に連絡する:賠償責任保険に入っていれば、交渉を始める前に事故の報告をする
損害の中身を出してもらう:損害の金額と、その計算の根拠を書面で出してもらう
派遣先の関わりを整理する:指示の出し方、確認手順、教育の有無を整理し、過失相殺の材料にする
書面で回答する:社内で方針を決め、必要なら弁護士に相談してから、書面で回答する
保険で確認すること
派遣会社向けの賠償責任保険に入っている会社もあります。保険に入っているなら、次の点を保険会社か代理店に確認しましょう。
| 確認すること | 見る場所 | 理由 |
|---|---|---|
| 事故の報告の期限 | 約款・保険証券 | 報告が遅れると支払いに影響することがある |
| 示談の前に同意が必要か | 約款 | 勝手に示談すると払われないことがある |
| 補償されない場合 | 免責事由の一覧 | 故意や契約で重くした責任の扱い |
| 支払いの上限額 | 保険証券 | 契約の上限条項とそろえるため |
最初の連絡の返し方(例文)
件名:〇月〇日の件につきまして(株式会社〇〇)
〇〇株式会社 〇〇様
このたびは、弊社の派遣社員の業務に関してご迷惑をおかけし、申し訳ございません。
現在、当日の状況を弊社で確認しております。
契約書の内容とあわせて確認のうえ、2026年10月5日(月)までにご報告いたします。
お手数ですが、損害の内容と金額の内訳を、書面でお送りいただけますでしょうか。
謝罪は、迷惑をかけたことに対してだけにします。「全額お支払いします」などの責任を認める言葉は入れないようにしましょう。
上限を決めていない契約で、営業がやる交渉
上限を決めていない契約でも、交渉の余地はあります。ポイントは損害の範囲、派遣先の落ち度、今後の契約の3つです。
交渉で使う3つの論点
損害の範囲:派遣先の社員の残業代や、売上の減少など、損害と言えるかあいまいな項目を分ける
派遣先の落ち度:派遣先の指示やダブルチェックの有無を確認し、過失相殺を求める
再発防止:派遣社員の交代や教育、手順の見直しを提案し、金額以外の解決も示す
派遣先が本当に求めているのは、お金よりも「同じことが起きないこと」である場合も多いです。再発防止策を先に出すと、話がまとまりやすくなります。
書面回答の例文(上限条項がない契約)
件名:〇月〇日の事案に関するご回答(株式会社△△) 〇〇株式会社 〇〇様 先日は内訳をお送りいただき、ありがとうございました。 弊社で当日の経緯と契約書を確認し、次のとおりご回答いたします。 1. 再発防止として、10月13日(月)から担当者を交代いたします。 後任には、同じ手順の経験者を予定しております。 2. ご請求の内訳のうち、復旧作業の外注費については、 弊社の保険会社と支払いの範囲を協議しております。 3. 社員の方の残業代と売上の減少分については、 当日の作業手順と確認体制をふまえ、あらためてご相談させてください。 回答期限:10月20日(月)までに、保険会社の見解を添えてご連絡いたします。
金額を約束せず、項目ごとに「払う方向」「協議する」を分けるのがポイントです。
次の契約更新で入れる条項
今回のトラブルを機に、次の更新では次の条項を入れるよう交渉しましょう。
損害賠償の上限(派遣料金の〇か月分など)
故意・重過失の場合は上限を適用しないこと
派遣先の指示や管理に原因がある場合の扱い
事故が起きたときの報告と協議の手順
→ 派遣先から契約を切られそうなときは派遣契約の解除|派遣先が講ずべき措置と派遣元の交渉6手順
代わりの人を出すときは、チョータツで早く探す
損害賠償の話と並行して、派遣社員の交代を求められることがあります。代わりの人を早く出せれば、派遣先の損害が広がらず、交渉も落ち着きやすくなります。
自分でやる方法
自社の待機中の社員から、同じスキルの人を探す
付き合いのあるパートナー企業に、メールで人材を問い合わせる
届いた人材メールを一覧にし、スキルと開始日で絞り込む
ただし、派遣で出せるのは自社で雇っている社員です。他社の社員をそのまま派遣先に出すと、二重派遣として職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)に違反するおそれがあります。
→ 二重派遣のルールはSESの二重派遣(多重派遣)は違法?罰則と避ける契約の組み方
チョータツで楽にする方法
チョータツは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールです。他社と連携すると、相手の営業中の人材をデータベース化できます。
自社の待機中の社員や、派遣以外の形(準委任など)で提案する候補を管理・共有できる
案件ごとの契約条件を管理しておけば、トラブル時にすぐ確認できる
パートナーへのメール配信機能で、人材の問い合わせをまとめて送れる
AIが入力を手伝うので、案件情報の登録も手間がかかりません。無料で始められます。
よくある質問
- Q. 派遣社員のミスの損害は、派遣元が全部払うのですか?
- 全部払うとは限りません。派遣では、仕事の指示を出すのは派遣先です。派遣先の指示や確認に不足があれば、過失相殺で差し引かれることがあります(民法418条)。
- Q. 派遣の損害賠償に上限はありますか?
- 法律で決まった上限額はありません。契約書に上限条項があれば、それが目安になります。上限がない場合は、通常生ずべき損害の範囲で判断されます(民法416条)。
- Q. 派遣元が払った分を、派遣社員の給与から差し引けますか?
- 勝手に差し引くことはできません。労働基準法24条は、賃金を全額払うよう定めています。本人への請求も、茨石事件の考え方で一部に制限されやすいです。
- Q. 派遣と準委任(SES)では、損害賠償の考え方は違いますか?
- 違います。準委任では受託側が業務を注意深く行う責任を負います。派遣では、仕事の指示を出す派遣先の責任も大きく考慮されます。
- Q. 請求されたら、すぐ保険会社に連絡すべきですか?
- はい。保険によっては、事故の報告期限や、示談の前に同意が必要なことがあります。派遣先と金額の話をする前に、保険会社か代理店に連絡しましょう。
まとめ
派遣では派遣先が指示を出すため、派遣社員のミスの損害を派遣元が全額負うとは限らない
派遣元の責任の根拠は、契約違反(民法415条)と使用者責任(民法715条)の2つ
法律上の上限はない。上限がない契約では、通常損害の範囲と過失相殺で額が決まる
派遣社員本人への請求は、茨石事件の考え方で一部に制限されやすい
請求されたら、事実の記録・契約書の確認・保険会社への連絡を先に行い、書面で回答する
次の更新では、上限条項と「故意・重過失は除く」を入れる。契約条件はチョータツで管理しておくと、すぐ確認できる
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「民法」(第415条 債務不履行による損害賠償、第416条 損害賠償の範囲、第418条 過失相殺、第420条 賠償額の予定、第715条 使用者等の責任)
e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(第2条 用語の意義、第26条 契約の内容等)
e-Gov法令検索「職業安定法」(第44条 労働者供給事業の禁止)
e-Gov法令検索「労働基準法」(第24条 賃金の支払)