SESの損害賠償の上限条項|条項例4つの比較と重過失で上限が効かない裁判例

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

損害賠償の上限条項(責任限定条項)とは?

損害賠償の上限条項とは、契約の相手に損害を与えたときに、払う賠償金の最大額を決めておく条項のことです。責任限定条項とも呼ばれます。

契約に上限がなければ、民法のルールで賠償の範囲が決まります。民法第416条は、通常生ずべき損害を賠償の対象としています。当事者が予見すべきであった特別な事情による損害も対象です。

用語意味SESでの例
通常損害普通に起きると考えられる損害作業のやり直しにかかった費用
特別損害特別な事情で起きた損害システム停止で失った客先の売上
逸失利益本来得られたはずの利益障害がなければ得られた取引の利益

通常損害とは、その種類の契約違反があれば普通に起きる損害のことです。一方、特別損害は、事情を予見すべきだったときに限って賠償の対象になります。金額の上限は、民法にはありません。

準委任のSESでも損害賠償を負うのはなぜ?

準委任契約でも、善管注意義務に違反すれば損害賠償を負います。準委任では完成の責任(請負の契約不適合責任)は負いませんが、仕事のやり方に落ち度があれば別です。

善管注意義務とは、その仕事をする専門家として、普通に求められる注意を払って仕事をする義務のことです。IPAと経済産業省のモデル契約書の解説も、同じ整理です。準委任で善管注意義務違反があれば、通常の債務不履行責任(損害賠償など)を負います。

SESで賠償が問題になりやすいのは、次のような場面です。

  • 情報漏えい:エンジニアが客先の顧客データを持ち出した、誤って送った

  • 本番障害:手順を守らずに本番環境を操作し、システムが止まった

  • 重大な作業ミス:データを消してしまい、復旧に費用がかかった

  • 貸与品の紛失:客先から借りたPCをなくした(初動はSESで客先の貸与PCを紛失したら|最初の1時間の報告と費用負担)

善管注意義務がどこまで求められるかは、SESの善管注意義務はどこまで?準委任の責任範囲と具体例10で具体例と一緒に解説しています。実際に客先から請求されたときの動き方は、準委任契約で損害賠償を請求されたら?責任の範囲と対応5手順にまとめました。

損害賠償の上限条項の例4つ

SESの上限条項は、上限の決め方で4つの型に分けられます。下の条項例は、型の違いをわかりやすくするための例です。そのまま使う前に、自社の契約全体と合わせて確認してください。

型1:直近◯か月分の委託料を上限にする

第○条(損害賠償)
甲及び乙は、本契約又は個別契約に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、
相手方に対し、直接かつ現実に生じた通常の損害に限り、賠償を請求することができる。
2 前項の損害賠償の累計総額は、請求原因の如何にかかわらず、損害の原因となった個別契約にもとづき、
損害発生の直前○か月間に甲が乙に支払った委託料の総額を上限とする。
3 前項の規定は、損害賠償義務者に故意又は重大な過失がある場合には適用しない。

SESの月額契約と相性がよく、最もよく使われる型です。「直前◯か月間に支払った」か「支払うべき」かで、入場直後の上限が変わる点に注意しましょう。

型2:個別契約の委託料の総額を上限にする

2 前項の損害賠償の累計総額は、損害の原因となった個別契約に定める委託料の総額を上限とする。

IPAのモデル契約書(第53条)も、「帰責事由の原因となった個別契約に定める○○○の金額を限度とする」という形です。個別契約が3か月ごとの更新なら、実質は3か月分になります。

型3:固定額を上限にする

2 前項の損害賠償の累計総額は、金○○○万円を上限とする。

金額がはっきりしているので、保険の支払限度額と合わせやすい型です。ただし単価が上がっても上限は変わらないので、更新のたびに見直す必要があります。

型4:保険で支払われる金額を上限にする

2 前項の損害賠償の額は、乙が加入する賠償責任保険により支払われる保険金の額を上限とする。ただし、保険金が支払われない場合は、損害の原因となった個別契約の委託料の○か月分を上限とする。

受ける側に有利な型です。保険が出なかったときに上限がゼロにならないよう、ただし書きで別の上限を置くのが一般的な書き方です。

条項の型ごとに上限はいくらになる?計算例

同じ案件でも、型の違いだけで上限が数倍変わります。月額単価80万円、個別契約6か月、入場から4か月目に事故が起きた例で比べます。

条項の型計算上限額受ける側から見た評価
直近1か月分80万円×180万円最も有利
直近3か月分80万円×3240万円一般的な水準
個別契約の総額80万円×6480万円契約期間が長いほど重い
上限なし―民法のルールどおり最も不利

型1で「直前3か月間に支払った委託料」と書いた契約で、入場1か月目に事故が起きたとします。この時点では、まだ1か月分しか支払われていないことがあります。この場合、上限は80万円以下になることもあります。

損害の範囲と請求期間も一緒に限定する

上限額とあわせて、「どんな損害が対象か」と「いつまで請求できるか」も決めておくと、責任の範囲がはっきりします。

損害の範囲を限定するには、「直接かつ現実に生じた通常の損害に限る」と書くのが一般的です。逸失利益や間接損害を除くと明記する書き方もあります。

IPAのモデル契約書(第53条第1項)は、請求できる期間を「○ヶ月間」とする形です。起算日は、検収完了日または業務の終了確認日です。SESなら、個別契約の終了日から6か月〜1年などと決める例が見られます。

上限条項は有効?故意・重過失で効かない裁判例

損害賠償の上限条項は、会社どうしの契約では原則として有効と考えられています。ただし、故意や重大な過失(重過失)で起きた損害には効かないというのが支配的な考え方です。

重過失とは、少し注意すれば簡単に結果を予見でき、簡単に避けられたのに、それを怠ったような大きな落ち度のことです。IPAのモデル契約書の解説は、故意なら判例上、責任制限の条項は無効と考えられるとしています。重過失も同じとする考え方が支配的だと説明しています。

裁判例1:重過失の考え方を示した事件(東京高判平成25年7月24日)

証券取引所の売買システムで、誤った注文を取り消せなかったことが争われた事件です。判決は重過失を、結果の予見が容易で、結果の回避も容易なのに、著しく注意を怠った場合と整理しました。

営業にとってのポイントは、「上限があるから安心」ではなく、基本的な注意を怠ると上限そのものが外れるということです。

裁判例2:SQLインジェクション対策を怠った事件(東京地判平成26年1月23日)

ベンダが作ったウェブサイトから、SQLインジェクション攻撃で個人情報が流出した事件です。SQLインジェクションとは、入力欄に不正な命令を入れて、データベースの情報を盗み出す攻撃のことです。

経済産業省とIPAは、以前から対策を呼びかけていました。判決はこの点などから、予見も回避も容易だったとして重過失を認めました。その結果、契約の責任制限は適用されないと判断されました。

裁判例から営業が学ぶこと

  • 上限条項には「故意・重過失の場合は除く」と書くのが一般的。書かなくても、同じ扱いになる可能性が高い

  • 公的機関が注意を呼びかけている基本的な対策を怠ると、重過失と判断されやすい

  • エンジニアに客先のセキュリティルールを守らせることが、上限を効かせるための一番の備えになる

情報漏えいが起きたときの対応の流れは、SESの情報漏洩の責任は誰に?損害賠償の範囲と事故報告の流れで解説しています。

上下の契約で上限をそろえないと、自社だけ負担が残る

SESでは、客先との契約の上限と、BP・フリーランスとの契約の上限をそろえることが大切です。そろっていないと、BPのエンジニアが起こした事故でも、差額を自社が負担することになります。

月額80万円(仕入れ70万円)でBPのエンジニアを出し、客先に600万円の損害が出た例で考えます。

契約の組み合わせ客先への賠償BPから回収できる額自社の負担
客先:上限なし/BP:直近1か月分600万円70万円530万円
客先:直近3か月分/BP:直近1か月分240万円70万円170万円
客先:直近3か月分/BP:直近3か月分240万円210万円30万円

※ 故意・重過失がなく、上限いっぱいまで賠償が認められたと仮定した計算です。

3行目のように月数をそろえても、単価の差(マージン)の分は自社に残ります。完全になくすことは難しいので、残る分は保険で備えるのが現実的です。

上下の契約をそろえる手順

  1. 客先との基本契約書を先に確認する:上限の型・月数・故意重過失の扱いを書き出す

  2. BP・フリーランスとの契約を同じ型にする:月数は客先と同じか、それ以上にする

  3. 合わない取引先を洗い出す:既存のBP契約で、上限が短いものを一覧にする

  4. 更新のときに見直しを相談する:契約更新のタイミングで条項の変更を依頼する

  5. 残る差額を保険で埋める:保険の支払限度額が、自社に残る最大額を上回るか確かめる

フリーランスと契約するときは、フリーランス法の禁止行為にも注意しましょう。一方的に重い責任を押しつけるような条件は、トラブルのもとになります。詳しくはフリーランス法の禁止行為7つ|SESの減額・買いたたきOK・NG例で確認できます。

IT賠償責任保険で備える

上限条項で守りきれない分は、IT事業者向けの賠償責任保険で備えます。多くの損害保険会社が、IT業務のミスや情報漏えいによる賠償を補償する保険を扱っています。

賠償責任保険とは、仕事で他人に損害を与えて賠償金を払うとき、その費用を保険会社が払う保険のことです。名前や補償の範囲は、保険会社ごとに違います。

加入や見直しのときは、次の4点を確認しましょう。

確認する点見るところSESでの注意
補償される事故情報漏えい・作業ミス・納期遅れなど客先常駐の作業が対象に入るか
支払限度額1事故・1年間の上限契約の上限額より少なくないか
対象となる人自社の社員だけかBP・フリーランスの作業も対象か
補償されない場合免責事由の一覧故意や契約で加重した責任の扱い

特にBP・フリーランスの作業が補償の対象になるかは、SES企業にとって大きな点です。対象外なら、BPにも保険への加入をお願いする方法があります。

上限条項を交渉するメール例文

客先から「上限なし」の契約書が届いたときは、型と月数を具体的に示して修正をお願いしましょう。「上限を入れてほしい」だけでは、相手も判断できません。損害賠償以外の条項もまとめて見るなら、契約書レビューのやり方|SES営業が基本契約を受け取ったら見る項目の手順で進めると、修正依頼を1回で出せます。

件名:基本契約書(案)第○条 損害賠償のご相談

株式会社△△
購買部 □□様

いつもお世話になっております。株式会社××の■■です。
基本契約書(案)をお送りいただき、ありがとうございます。

第○条(損害賠償)について、以下の一文を加えていただけないかご相談させてください。

「前項の損害賠償の累計総額は、損害の原因となった個別契約にもとづき、
損害発生の直前3か月間に支払われた委託料の総額を上限とする。
ただし、故意又は重大な過失による場合はこの限りでない。」

当社がパートナー企業と結ぶ契約とも条件をそろえ、万一の際にも確実にお支払いできる体制を保つためのご相談です。
2026年10月6日(火)の打ち合わせで、ご意見をうかがえますと幸いです。

株式会社×× 営業部 ■■

交渉では、故意・重過失を除くことを先に示すと、相手も受け入れやすくなります。相手が気にしているのは「ずさんな仕事でも守られてしまうこと」だからです。

チョータツで取引先ごとの条件を管理する

自分で管理する場合は、Excelの取引先一覧に列を足しましょう。「損害賠償の上限(型・月数)」「故意重過失の扱い」「保険の有無」の3つです。基本契約書を結ぶたびに書き写します。

ただ、条件は案件の情報と別のファイルに分かれがちです。提案のときに見返されず、上限が短いBPの人材を、上限なしの客先に出してしまうことが起きます。

チョータツとは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールのことです。3,000社以上が使っていて、無料で始められます。

場面自分でやる場合チョータツを使う場合
案件の条件を残すExcelやメールに散らばる案件の情報としてまとめて管理できる
提案前に条件を見るメールを探して読み返す案件情報を開いて確認できる
チームで共有するファイルを送り合う同じ情報をチームで共有できる
情報を入れる1件ずつ手で書き写すAIが入力を手伝う

他社と連携すると、他社の営業中案件・営業中人材もデータベースとして見られます。条件の合う組み合わせを、提案の前に選びやすくなります。

よくある質問

Q. SESの契約で損害賠償の上限がないと、どうなりますか?
民法第416条のルールで、通常の損害と、予見すべきだった特別な損害まで賠償の対象になります。金額の上限はありません。
Q. 準委任契約の損害賠償の上限は、何か月分が一般的ですか?
法律で決まった月数はなく、当事者の合意で決めます。実務では「直近1〜3か月分」や「個別契約の委託料の総額」がよく使われます。
Q. 責任限定条項は、システム開発の契約で有効ですか?
会社どうしの契約では原則有効と考えられています。ただし、故意や重過失による損害には効かないのが支配的な考え方で、重過失を認めて責任制限を適用しなかった裁判例もあります。
Q. 免責条項で「一切責任を負わない」と書けば、賠償しなくてよいですか?
全面的な免責は、故意・重過失の場合には効かないと考えられます。相手も受け入れにくいので、上限額を決める書き方のほうが現実的です。
Q. BPのエンジニアが事故を起こしたら、客先への賠償は誰がしますか?
客先と契約しているのは自社なので、まず自社が客先に賠償します。そのうえで、BPとの契約にもとづいてBPに請求します。上限が合っていないと、差額は自社の負担です。
Q. IT賠償責任保険に入っていれば、上限条項は要りませんか?
要ります。保険には支払限度額や補償されない場合があるからです。上限条項と保険の両方で備えるのが基本です。

まとめ

  • 上限を書かないと、民法第416条のルールで上限なしの賠償になる

  • 準委任でも、善管注意義務に違反すれば損害賠償を負う

  • 上限の型は、直近◯か月分・個別契約の総額・固定額・保険金の4つ。月額80万円で直近3か月分なら240万円

  • 上限条項は原則有効だが、故意・重過失の場合は効かないのが支配的な考え方

  • SQLインジェクション対策を怠った事件では、重過失が認められ責任制限が適用されなかった

  • 客先とBPで上限をそろえないと、差額は自社の負担になる

  • 残る負担は、BP・フリーランスの作業も対象になる賠償責任保険で備える

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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