準委任契約で損害賠償を請求されたら?SES営業が確認する責任の範囲と、反論までの対応5手順

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

準委任契約で損害賠償を請求されるのはどんな時?

準委任契約で損害賠償が認められるのは、受けた側が注意を怠り、その結果として相手に損害が出た時です。「思った成果が出なかった」という理由だけでは、責任は生じにくいです。

準委任契約とは、決まった作業(事務)を行うこと自体を引き受ける契約のことです。民法656条で、委任契約のルールがそのまま使われます。SESの多くはこの契約で結ばれています。

委任契約と請負契約では、損害賠償の考え方が大きく違います。

比べる点準委任契約(SESの多く)請負契約
約束すること作業を注意深く行うこと仕事を完成させること
責任が生じる主な場面善管注意義務違反完成しない・契約内容と違う
成果が出ない時それだけでは責任になりにくい責任を問われやすい
報酬の考え方作業した時間・期間で払う完成した成果に払う

違いは準委任契約と請負契約の違い|業務委託契約書を見分ける判定シートで詳しく解説しています。この記事は、自社が準委任で請求された側の対応に絞ります。自社がBPや客先に請求する側の考え方は、請負契約違反で損害賠償は請求できる?SESの債務不履行Q&Aにまとめています。

債務不履行とは

債務不履行とは、契約で約束したことを、約束どおりに行わないことです。民法415条は、債務不履行で生じた損害の賠償を請求できると定めています。

ただし同じ条文に、例外があります。債務者(引き受けた側)の責めに帰することができない事由なら、賠償しなくてよいとされています。つまり、自社側に落ち度がなければ責任は生じません。

善管注意義務とは

善管注意義務とは、その仕事のプロとして、ふつう求められるレベルの注意を払う義務のことです。民法644条で、受任者(仕事を引き受けた側)に課されています。

SESでいえば、「経験3年のJava開発者」として提案したなら、そのレベルの人が払う注意が求められます。善管注意義務の具体例はSESの善管注意義務はどこまで?準委任の責任範囲と具体例10にまとめています。

損害賠償の責任が生じる3つの条件

準委任で賠償責任が生じるには、「義務違反」「損害」「つながり(因果関係)」の3つがそろう必要があります。1つでも欠ければ、請求は通りにくくなります。

条件中身営業が確認すること
① 義務違反善管注意義務に反した手順どおりに作業したか
② 損害お金で測れる損害が出た金額と、その根拠の資料
③ 因果関係①が原因で②が起きたほかの原因がないか

たとえば本番環境のデータを消してしまった場合を考えます。手順書を無視して作業したなら、①はそろいやすいです。一方、客先の承認を得た手順どおりに作業していたなら、①は成り立ちにくくなります。

責任になりやすい例・なりにくい例

場面責任の見込み
手順書を無視して本番データを消したなりやすい
客先のルールに反してデータを持ち出したなりやすい
経歴を偽って提案し、作業ができなかったなりやすい
客先の指示どおりに作業して不具合が出たなりにくい
開発が遅れたが、原因は仕様の変更だったなりにくい
客先の期待ほど成果が出なかったなりにくい

情報の持ち出しや漏洩の場合は、SESの情報漏洩の責任は誰に?損害賠償の範囲と事故報告の流れで詳しく解説しています。

賠償しなければならない範囲はどこまで?

賠償の範囲は、その違反からふつう生じる損害(通常損害)が原則です。特別な事情による損害は、その事情を予見すべきだった時だけ含まれます(民法416条)。

通常損害とは、同じ違反があれば誰にでも起こりうる損害のことです。たとえば、消えたデータを元に戻す作業の費用がこれにあたります。

特別損害とは、その客先ならではの事情で大きくなった損害のことです。たとえば「システムが止まって、大口の取引を逃した」という損害です。自社がその事情を予見すべきだった場合にだけ、賠償の対象になります。

客先にも落ち度があれば減額される

過失相殺とは、損害を受けた側にも落ち度があった時、その分だけ賠償を減らすしくみのことです。民法418条で、裁判所が考慮すると定められています。

SESでよくある客先側の落ち度は、次のようなものです。

  • 本番環境の権限を、十分な確認なしに渡していた

  • バックアップを取っていなかった

  • 作業のレビューや承認をしていなかった

  • 経験の浅い人に、無理な作業を指示していた

契約書で決めた上限や金額が優先される

SESの基本契約書には、賠償額の上限を決める条項(責任制限条項)がよく入っています。たとえば「賠償額は当該個別契約の委託料の〇か月分を上限とする」という書き方です。会社どうしの契約では、このような合意は原則として有効と考えられています。

ただし、わざと(故意)やひどい不注意(重大な過失)の場合は、上限条項が使えないと判断されることがあります。条項の書き方と有効性はSESの損害賠償の上限条項|準委任の責任限定の書き方と有効性で解説しています。

請求の内訳を仕分ける表(社内検討用)

客先から内訳が届いたら、項目ごとに次の表で仕分けると、回答の方針が決めやすくなります。

請求項目の例通常損害か客先の落ち度回答の方針
データ復旧の作業費通常損害バックアップなしなら減額上限の範囲で払う方向
客先社員の残業代争いやすい承認の有無を確認根拠資料を求めて協議
取引機会の損失特別損害―予見できなければ対象外
代わりの要員の差額通常損害になりうる―交代の条項を確認

この表は社内で方針を決めるためのものです。客先に出す回答は、表をもとに書面でまとめます。

請求できる期間にも限りがある

債権は、請求できると知った時から5年、請求できる時から10年で時効により消えます(民法166条)。古い案件の請求を受けた時は、時期も確認しましょう。

請求を受けた時の対応5手順

損害賠償を請求されたら、「認める・払う」を先に決めず、事実と契約を確かめてから書面で返すのが基本です。次の5手順で進めます。

  1. 事実を確認する(当日〜3日)
    何が起きたか、いつ・誰が・どの作業で、を時系列でまとめます。要員本人の話と、作業ログ・チャット・メールの記録を集めます。

  2. 契約書を確認する(当日〜3日)
    基本契約書と個別契約書(注文書・注文請書)を出します。契約の種類、作業の範囲、損害賠償の条項、上限の条項を読みます。

  3. 責任の有無を整理する(〜1週間)
    「義務違反」「損害」「因果関係」の3つが、それぞれそろっているかを確認します。客先側の落ち度もあわせて書き出します。

  4. 金額と上限を確認する(〜1週間)
    請求額の内訳と根拠の資料を求めます。通常損害か特別損害か、上限条項でいくらまでになるかを計算します。

  5. 書面で回答する(〜2週間)
    認める部分と認めない部分を分けて、理由とともに書面で返します。金額が大きい時や争いになりそうな時は、この段階までに弁護士に相談します。

上位会社(元請けなど)を通じた取引なら、請求の窓口も上位会社です。エンドから直接言われた場合も、その日のうちに上位会社へ共有します。

IT業務向けの賠償責任保険に入っている会社は、手順1の段階で保険会社(代理店)にも連絡します。保険の多くは、保険会社に相談せずに支払いを約束すると補償が受けにくくなるためです。約款の条件は、自社の契約内容で確認してください。

原因がBP(パートナー企業)の要員だった場合

BPの要員が原因でも、客先への窓口と責任は、客先と契約している自社です。客先に「BPの責任なので、BPに請求してください」とは言えません。

自社が客先に払った分をBPに求めるかどうかは、自社とBPの基本契約書で決まります。次の3点を確認します。

  1. BPとの契約にも損害賠償の条項と上限があるか

  2. BPとの上限が、客先との上限より低くないか(低いと差額を自社がかぶる)

  3. BPへの連絡と記録の提出を、客先への回答期限より前に求めているか

BPとの契約で上限がそろっていない場合は、次の契約更新で見直します。

手順ごとのチェックリスト

  • 起きたことを時系列(日時・作業・担当者)で書き出した

  • 要員本人から、責めずに事情を聞いた

  • 作業ログ・チャット・承認の記録を保存した

  • 契約が準委任か請負かを確認した

  • 損害賠償の条項と上限の条項を確認した

  • 請求額の内訳と根拠の資料を求めた

  • 客先側の落ち度(権限・バックアップ・承認)を確認した

  • 回答の期限を客先と決めた

  • 社内の決裁者(責任者・経営者)に報告した

  • 賠償責任保険に入っている場合は、保険会社に連絡した

  • 原因がBPの要員なら、BPとの契約の賠償条項と上限を確認した

  • 必要に応じて弁護士に相談した

客先への回答メール例文

一次回答は、謝意と事実確認の約束だけを伝え、責任や金額には触れないのが安全です。結論を急ぐと、あとで訂正しにくくなります。

一次回答(請求を受けた当日)

件名:【ご連絡】10月5日付のご請求の件について

株式会社〇〇
〇〇様

いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
10月5日(月)にいただいたご連絡、確かに拝受いたしました。
ご迷惑をおかけしている点について、お詫び申し上げます。

現在、当日の作業内容と記録の確認を進めております。
事実を整理したうえで、10月19日(月)までに書面でご回答いたします。
あわせて、ご請求額の内訳と根拠となる資料をご共有いただけますと幸いです。

「ご迷惑をおかけしている点」へのお詫びと、責任を認めることは別です。「すべて弊社の責任です」「全額お支払いします」とは書きません。

正式回答(上限条項を示す場合)

事実確認の結果、10月2日の作業において、手順書の一部が守られていなかったことを確認いたしました。
この点について、深くお詫び申し上げます。

ご請求額のうち、データ復旧作業の費用につきましては、基本契約書第〇条に基づきお支払いいたします。
なお、同条では賠償額の上限を個別契約の委託料1か月分と定めております。
取引機会の損失分につきましては、同条の上限を超えるため、お支払いの対象外と考えております。

請求を受けた時にやってはいけないこと

やってはいけないのは、「その場で認める」「要員だけを責める」「給与から引く」の3つです。どれも、あとで自社に不利になります。

やってはいけないこと理由
電話でその場で全額払うと約束する反論の材料を自分で捨てることになる
要員に「お前の責任だ」と詰め寄る事実が隠れ、再発防止もできない
損害額を社員の給与から差し引く労働基準法24条の全額払いに反するおそれ
記録を消す・書き換える信頼を失い、争いで不利になる

要員が社員の場合、会社が社員に請求できる額は判例で大きく制限されています(茨石事件・最高裁昭和51年7月8日判決)。

次の請求を防ぐために営業ができること

請求を防ぐ一番の方法は、契約前に条件をそろえ、トラブルの時は代わりの要員をすぐ出すことです。営業の仕事の中でできることを3つ挙げます。

  1. 提案前に契約条件を確認する
    契約の種類、作業の範囲、損害賠償の上限を、提案の前に確認します。上限がない契約は、交渉で入れてもらいます。

  2. 経歴とスキルを正しく伝える
    経歴を盛った提案は、善管注意義務違反を問われる原因になります。スキルシートは事実だけで作ります。上位から盛るよう言われたときの断り方は、SESで経歴を盛る指示の断り方|例文と営業が負う法的リスクにまとめています。

  3. トラブルの時は代わりの要員を早く出す
    炎上や退場の場面で代わりをすぐ出せれば、損害が広がりにくくなります。対応はSES案件が炎上したときの営業の対応|増員・交代・契約見直しの手順で解説しています。

チョータツで契約条件と代わりの要員をすぐ確認する

自分でやるなら、案件ごとにフォルダを作り、契約書・注文書・条件のメモを1か所にまとめておきます。ただ、案件が増えるとExcelやメールに情報が散らばり、「どの条件だったか」がすぐわからなくなります。

チョータツは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールです。案件の情報を管理しておけば、提案前に条件を確認する流れを作れます。

もう1つ役立つのが、代わりの要員探しです。チョータツで他社と連携すると、相手の営業中案件・営業中人材をデータベースにできます。トラブルで交代が必要になった時も、連携先の営業中人材から候補を探せます。

チョータツは3,000社以上が使っていて、無料で始められます。

よくある質問

Q. 委任契約で損害賠償を請求されたら、必ず払わないといけませんか?
必ずではありません。善管注意義務の違反、損害、その因果関係の3つがそろった時に責任が生じます。自社に落ち度がなければ、民法415条の例外として賠償しなくてよいとされています。
Q. 業務委託契約の不履行で請求できる損害賠償の範囲は?
原則は、その違反からふつう生じる損害(通常損害)です。特別な事情による損害は、予見すべきだった時だけ含まれます(民法416条)。契約書に上限があれば、その上限も確認します。
Q. 契約書に損害賠償責任の上限がない場合はどうなりますか?
民法のルールで範囲が決まります。上限がないと、請求額が委託料を大きく超えることもあります。次の契約更新の時に、上限条項を入れる交渉をしましょう。
Q. 開発が遅れたことを理由に、報酬の支払いを拒否されました。
準委任契約は完成を約束しないため、作業した分の報酬は請求できるのが基本です(民法648条)。反論の仕方は、支払い拒否への対応をまとめた記事で解説しています。
Q. 準委任なのに「契約不適合責任」を持ち出されました。
契約不適合責任は、主に請負や売買で問題になる責任です。準委任との違いはSESに瑕疵担保責任はある?契約不適合責任との違いを表で解説で表にまとめています。

まとめ

  • 準委任契約は完成を約束しないため、成果が出ないだけでは責任になりにくい

  • 責任が生じるのは、善管注意義務違反・損害・因果関係の3つがそろった時

  • 賠償は通常損害が原則。客先の落ち度があれば過失相殺で減る

  • 契約書の上限条項が大事。ただし故意・重大な過失には使えないことがある

  • 請求を受けたら、事実・契約・責任・金額を確認し、書面で回答する5手順で進める

  • その場で認めない、要員だけを責めない、給与から引かない

  • ふだんから契約条件と代わりの要員をすぐ確認できる状態にしておく

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

  • e-Gov法令検索「民法」(第166条、第415条、第416条、第418条、第420条、第644条、第656条)

  • e-Gov法令検索「労働基準法」(第24条)

関連する記事