SESの開発遅延で支払いを拒否されたら?準委任の報酬請求の根拠と反論メール例文3つ

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

開発遅延を理由にした支払い拒否は認められるのか

履行割合型の準委任なら、開発遅延だけを理由にした支払い拒否は原則として認められません。 準委任の受け手には、システムを完成させる義務がないからです。

準委任契約とは、作業の完成ではなく、決められた作業をすること自体を約束する契約のことです。SESの契約の多くは準委任です。民法では、受任者(作業を受けた側)は善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負います(民法644条、656条)。

履行割合型とは、作業をした時間や期間に対して報酬を払う準委任のことです。SESの「月額60万円、精算幅140〜180時間」のような契約が、典型的な履行割合型です。

民法648条2項は、期間で報酬を決めたときは、その期間が過ぎた後に請求できると定めています。つまり、月単位の契約なら、その月の稼働が終われば報酬を請求できます。 開発がスケジュールどおり進んだかどうかは、請求の条件に入っていません。

途中で契約が終わっても、やった分は請求できる

民法648条3項は、委任が途中で終わったときも、すでにした履行の割合に応じて報酬を請求できると定めています。遅延をきっかけに顧客が契約を打ち切っても、それまでの稼働分は請求の対象です。

途中解除のときの精算の考え方は、SESの途中解除でも支払い義務はある?稼働分の報酬と日割り計算例で詳しく解説しています。

まず契約書で「何に対して払うか」を確認する

報酬を請求できるかは、契約が履行割合型・成果完成型・請負のどれかで決まります。 顧客に反論する前に、基本契約書と個別契約書(注文書)を必ず読み直しましょう。

契約の型報酬の対象完成しないときの報酬
履行割合型(準委任)作業した時間・期間稼働した分を請求できる(648条)
成果完成型(準委任)作業で得られた成果顧客が利益を受けた割合で請求(648条の2)
請負完成した仕事顧客が利益を受けた割合で請求(634条)

成果完成型とは、作業で得られる成果に対して報酬を払うと約束した準委任のことです(民法648条の2)。請負契約とは、仕事を完成させることを約束し、完成した結果に報酬を払う契約のことです。

成果完成型や請負なら、成果物ができていないことを理由に、全額の支払いを待たされる可能性があります。ただしその場合も、途中までの成果で顧客が利益を受けていれば、その割合に応じて請求できます。

契約書で見るべき5つの箇所

  1. 契約の種類:「準委任」「請負」のどちらと書かれているか

  2. 報酬の決め方:月額・時間単価か、成果物ごとの金額か

  3. 検収の条項:「成果物の検収後に支払う」などの条件がないか

  4. 精算幅:稼働時間の上限・下限と、超えたとき・足りないときの計算

  5. 損害賠償の条項:責任の上限や、相殺についての決まりがあるか

契約書のタイトルが「準委任」でも、中身が「成果物の検収後に支払う」になっていることがあります。タイトルではなく、報酬と検収の条項で判断しましょう。

顧客がよく言う支払い拒否の理由と反論

支払い拒否の理由は、ほぼ4つのパターンに分かれます。 それぞれに使える反論の軸を先に決めておくと、やりとりがぶれません。

顧客の言い分反論の軸用意する材料
「完成していないから払えない」履行割合型なので完成は条件でない個別契約書の報酬条項
「遅れたのはエンジニアのせいだ」遅れの原因を具体的に確認する仕様変更・指示の記録、進捗報告
「善管注意義務違反だから払わない」違反の中身と損害を具体的に示してもらう稼働報告書、作業の記録
「損害が出たので相殺する」損害賠償の請求が成り立つかは別の話損害賠償の条項、損害の根拠の資料

どの場合も、その月に稼働した事実が一番の土台です。稼働報告書に顧客の承認印やメールでの確認があるなら、それを添えて請求します。書き方は稼働報告書のテンプレート|SES・業務委託の書き方と精算前チェックが参考になります。

善管注意義務違反を主張されたときの反論材料

善管注意義務違反と言われても、報酬の請求権はすぐにはなくなりません。 違反があるなら、顧客が損害賠償を請求できるかという、別の話になるからです。

善管注意義務とは、その仕事のプロとして当然求められる注意を払って作業する義務のことです。「結果を出す義務」ではなく、「ていねいに作業する義務」です。民法415条は、債務の本旨に従った履行をしないときに損害賠償を請求できると定めています。債務不履行とは、このように契約で約束したことを果たさないことです。

善管注意義務違反で損害賠償を求めるなら、顧客側がおおむね次の点を示す必要があります。

  • どの作業で、どんな注意が足りなかったのか

  • それによって、どんな損害がいくら出たのか

  • 注意不足と損害の間に、つながり(因果関係)があるのか

「遅れた」という結果だけでは、エンジニアに注意不足があったことにはなりません。反論のために、次の材料を集めましょう。

集めたい反論材料7つ

  1. 稼働報告書・作業日報:毎日・毎月、何の作業をしたか

  2. 進捗報告のメールや議事録:遅れの見込みを早めに伝えていたか(民法645条の報告)

  3. 仕様変更・追加作業の記録:顧客側の変更で作業が増えていないか

  4. 指示の記録:顧客側の指示どおりに作業していたか

  5. 顧客側の遅れ:資料・環境・回答の提供が遅れていないか

  6. 体制の記録:当初の計画より少ない人数で進めることになっていないか

  7. 評価の記録:過去に作業ぶりを評価するメールや発言がないか

特に5(顧客側の遅れ)は強い材料です。仕様が決まらない、テスト環境が用意されないといった原因なら、遅れの責任はエンジニアにありません。善管注意義務の範囲は、SESの善管注意義務はどこまで?準委任の責任範囲と具体例10で具体例とともに解説しています。

「相殺する」と言われたら

相殺とは、お互いに払うお金があるとき、その金額を差し引きして消すことです(民法505条)。顧客が「損害賠償と相殺する」と言ってきても、相殺できるのは、損害賠償の請求が実際に成り立つ場合です。

損害の中身と金額の根拠を書面で出してもらい、それまでは報酬の全額を請求すると伝えましょう。契約書に責任の上限(たとえば「直近1か月分の報酬額まで」)があれば、その上限も確認します。

支払いを拒否されたときの対応6ステップ

支払い拒否への対応は、「確認→記録→請求→交渉→回収」の順に進めます。 次の6ステップで、感情的な押し問答を避けます。

  1. 拒否の内容を書面でもらう:拒否する金額・月・理由を、メールで送ってもらう

  2. 契約書を確認する:契約の型、報酬、検収、損害賠償の条項を読む

  3. エンジニアから事情を聞く:遅れの原因、受けた指示、報告の履歴を確認する

  4. 反論材料をそろえる:稼働報告書、進捗報告、仕様変更の記録を集める

  5. 支払いを求めるメールを送る:契約の根拠と金額、支払期日を書く

  6. 払われなければ回収の手続きに進む:内容証明郵便、支払督促、少額訴訟などを検討する

ステップ6の回収の手順は、SESの報酬未払いを回収する方法|内容証明から少額訴訟まで5段階で詳しく解説しています。

取適法の対象取引なら、支払期日と減額のルールもある

自社が受ける取引が取適法の対象なら、発注側は受領日から60日以内に支払う必要があります。取適法とは、2026年1月1日に下請法が改正されてできた、中小の受託事業者を守る法律のことです。

対象取引で、受託側に責任がないのに代金を減らすことも禁止されています。対象になるかは資本金や従業員数で決まるので、取適法でSESの準委任は対象?適用条件と営業の変更点7つで確認してください。

支払いを求めるメール例文3つ

メールでは、契約の型・対象の月・金額・支払期日の4つをはっきり書きます。 遅れについての謝罪と、報酬の請求は分けて書くのがコツです。

例文1:開発遅延を理由に支払いを保留されたとき

例文・テンプレート
件名:9月分のご請求についてのご確認(株式会社△△)

株式会社〇〇
開発部 □□様

いつもお世話になっております。株式会社△△の◇◇です。
10月2日(金)にいただいた、9月分のお支払い保留のご連絡について確認させてください。

開発スケジュールに遅れが出ていることは、弊社としても重く受け止めております。
遅れの原因と今後の進め方は、別途10月9日(金)までにご報告いたします。

一方で、本件は2026年9月1日付の個別契約のとおり、
月額単価による準委任契約(履行割合型)です。
9月分は、稼働報告書のとおり162時間の稼働があり、精算幅(140〜180時間)の範囲内です。
報酬は、開発の完成を条件とするものではございません。

つきましては、9月分の報酬660,000円(税込)を、
契約どおり10月30日(金)までにお支払いいただけますようお願いいたします。

ご不明な点があれば、お打ち合わせの場を設けさせてください。
よろしくお願いいたします。

例文2:善管注意義務違反を理由に減額を求められたとき

例文・テンプレート
件名:Re:9月分のご請求について(株式会社△△)

株式会社〇〇
開発部 □□様

ご連絡ありがとうございます。株式会社△△の◇◇です。
「作業の進め方に問題があったため、9月分を減額したい」とのご意向を拝見しました。

弊社で確認したところ、〇〇は9月中、次のとおり作業を行っておりました。
・毎日の作業日報と、毎週金曜日の進捗報告を□□様あてに送付
・9月15日(火)の仕様変更のご指示を受け、画面3本の作り直しを実施
・9月25日(金)の報告で、遅れの見込みと原因をお伝え済み

作業に不足があったとお考えの場合は、
どの作業について、どのような点が不足していたかを具体的にお示しいただけますでしょうか。
内容を確認し、弊社として必要な対応を検討いたします。

なお、9月分の報酬は個別契約のとおり稼働に対するものですので、
現時点では、全額のお支払いをお願いしたく存じます。
よろしくお願いいたします。

例文3:何度求めても払われないとき(最終の請求)

例文・テンプレート
件名:【再度のお願い】9月分報酬のお支払いについて(株式会社△△)

株式会社〇〇
経理部 ご担当者様(開発部 □□様にも同送しております)

株式会社△△の◇◇です。
2026年9月分の報酬660,000円(税込)について、
お支払い期日の10月30日(金)を過ぎても、ご入金を確認できておりません。

10月2日(金)・10月13日(火)にご連絡したとおり、本件は準委任契約(履行割合型)で、
稼働に対する報酬のお支払いをお願いしております。

11月13日(金)までにお支払いいただけない場合は、
誠に不本意ながら、法的な手続きも含めて検討せざるを得ません。
行き違いでご入金済みの場合は、ご容赦ください。
よろしくお願いいたします。

例文3を送る前に、社内の責任者と相談し、必要なら弁護士に内容を見てもらいましょう。関係を続けたい顧客なら、例文1・2の段階で打ち合わせを入れ、話し合いでの解決を優先します。

BPのエンジニアが入っているときの注意点

客先から支払いを拒否されても、BPやフリーランスへの支払いは期日どおり行うのが原則です。 自社とBPの契約は、客先との契約とは別の契約だからです。

客先の入金がないからとBPへの支払いを止めると、自社が取適法やフリーランス法の違反を問われかねません。フリーランス法でも、発注した報酬の支払期日は、給付を受けた日から60日以内に決める必要があります。

一方で、遅れの原因を調べるには、BPの協力が欠かせません。BPには次のように伝えます。

  • 客先から支払いを保留されている事実と、自社は契約どおり支払うこと

  • 遅れの原因を確認するため、作業日報や指示の記録を共有してほしいこと

  • 今後の体制(継続・交代・終了)を一緒に考えたいこと

案件全体が燃えている場合は、SES案件が炎上したときの営業の対応|増員・交代・契約見直しの手順もあわせて確認してください。

客先が遅れの原因をエンジニア個人の力量に求めている場合は、本人との面談も必要です。評価の伝え方と改善計画は、客先評価が低いエンジニアへの伝え方|SES営業の面談の進め方と例文を参考にしてください。

支払い拒否を防ぐために契約前・稼働中にやること

支払い拒否の多くは、「何に払う契約か」と「遅れの報告」があいまいなときに起きます。 次の4つを習慣にすると、トラブルを大きく減らせます。

タイミングやること防げること
契約前履行割合型か成果完成型かを契約書で確認する「完成していないから払わない」
契約前損害賠償の上限と相殺の決まりを確認する一方的な相殺
稼働中稼働報告書に毎月、顧客の確認をもらう「稼働していない」という主張
稼働中遅れの見込みと原因を、その週のうちに報告する「聞いていない」という主張

契約書の損害賠償の条項は、SESの損害賠償の上限条項|準委任の責任限定の書き方と有効性で条項例を紹介しています。

チョータツで案件の条件と次の現場探しをまとめて進める

自分でやるなら、案件ごとに「契約の型・単価・精算幅・支払いサイト・賠償の上限」をExcelにまとめます。トラブルが起きたときに、契約書を探し回る時間を減らせます。

チョータツは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールです。3,000社以上が利用していて、無料で始められます。

場面自分でやる場合チョータツを使う場合
案件の条件を残すExcelに手で転記する案件情報を登録して管理できる(AIが入力を手伝う)
チームで状況を共有する担当者に聞いて回る登録した情報をチームで共有できる
契約終了後の次の現場を探すBPからのメールを1通ずつ読む他社と連携すると、他社の営業中案件をデータベース化できる
代わりのエンジニアを探す知り合いのBPに1社ずつ連絡する連携した他社の営業中人材から探せる

支払いトラブルの末に契約が終わると、エンジニアがすぐ待機になります。反論や回収の対応と並行して、連携した会社の営業中案件から次の現場を探しておくと、売上の穴を小さくできます。

よくある質問

Q. SESで開発が遅れたら、報酬を払ってもらえないのですか?
履行割合型の準委任なら、開発が遅れても稼働した分の報酬は請求できるのが原則です。民法648条で、期間で決めた報酬はその期間が過ぎた後に請求できるとされているからです。
Q. 準委任に完成義務はありますか?
ありません。準委任の受け手が負うのは、プロとして注意を払って作業する善管注意義務です。成果完成型の準委任でも、完成義務を負うわけではありません。
Q. 成果物が未完成だと、支払いを断られても仕方ないですか?
契約の型によります。成果完成型や請負なら、成果物の引き渡しが支払いの条件になることがあります。その場合も、顧客が途中までの成果で利益を受けていれば、その割合で請求できます。
Q. 善管注意義務違反だと言われたら、報酬はなくなりますか?
すぐにはなくなりません。違反があれば顧客が損害賠償を請求できるかという別の話になります。どの作業のどんな不足で、いくらの損害が出たのかを、具体的に示してもらいましょう。
Q. 客先が払わないので、BPへの支払いも止めてよいですか?
止めてはいけません。BPとの契約は客先との契約とは別です。支払いを止めると、自社が取適法やフリーランス法の違反を問われるおそれがあります。
Q. 支払い拒否のメールでは、何を書けばよいですか?
契約の型(履行割合型の準委任であること)、対象の月、稼働時間、請求金額、支払期日の5つを書きます。遅れへの謝罪と報酬の請求は、段落を分けて書きましょう。

まとめ

  • 履行割合型の準委任では、開発が遅れても稼働した分の報酬を請求できるのが原則(民法648条)

  • 成果完成型・請負なら扱いが変わる。まず契約書の報酬と検収の条項を確認する

  • 善管注意義務違反の主張には、違反の中身と損害を具体的に示してもらい、稼働報告書・進捗報告・仕様変更の記録で反論する

  • 支払いを求めるメールは、契約の根拠・金額・期日を書き、謝罪と請求を分ける

  • 客先が払わなくても、BPやフリーランスへの支払いは期日どおり行う

  • チョータツで案件の条件を管理し、連携した他社の営業中案件から次の現場を早く探す

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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