SESで「経歴を盛って」と言われたら|上位・BPへの断り方の例文と、営業が負う法的リスク・盛らずに通す書き方

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

「経歴を盛る」とは?どこからが問題か

SESで経歴を盛るとは、エンジニアのスキルシートや面談での説明を、事実より良く見せるために変えることです。経験年数を足す、担当していない工程を書く、使っていない技術を足す、などがあります。

スキルシートとは、エンジニアの経歴・スキル・担当工程をまとめた、SESの提案で使う書類のことです。上位・BPなどの業界の言葉はSES用語一覧|営業が現場で使う用語60と意味・例文つきでまとめています。書き方の基本はSESスキルシートのフォーマットと書き方|15項目の記入例付きで解説しています。

問題になるのは、事実と違う内容を、事実として相手に伝えることです。同じ経験でも、伝え方を工夫すること自体は問題ありません。

「書き方の工夫」と「事実の改変」の線引き表

線を引く基準は、書いた内容を、本人が面談で具体的に説明できるかです。説明できる事実を、わかりやすく並べ替えたり言葉を選んだりするのは工夫です。事実そのものを変えるのは改変です。

項目書き方の工夫(OK)事実の改変(NG)
経験年数「Java 2年(うち設計0.5年)」と内訳を書く2年を「3年」と書く
担当工程「詳細設計(レビュー参加)」と関わり方を書く参加していない要件定義を「担当」と書く
使った技術「AWS(EC2・S3の運用。構築は未経験)」と範囲を書く触ったことのない技術を足す
役割「5名チームで新人2名の指導」と事実を書くメンバーだったのに「リーダー」と書く
案件の期間2つの短い案件を同じ技術でまとめて見出しにする期間を延ばす、空白期間を埋める
資格「受験予定(2026年11月)」と書く持っていない資格を書く
年齢・氏名イニシャルにする、年齢は書かない年齢を変える、別人の経歴を使う

迷ったら「面談で深掘りされても本人が答えられるか」で判断します。 答えられない内容は、改変に近いと考えてください。

「業界では当たり前」は理由にならない

上位やBPから「このくらいはみんなやっている」と言われることがあります。しかし、後で説明する裁判例では、社員に経歴詐称を指示した会社の主張は認められていません。慣習があることと、責任を問われないことは別です。

経歴の水増しが、詐欺・債務不履行・契約解除につながる筋道

事実を変えたスキルシートで契約すると、客先は「だまされて契約した」「約束の人ではない」と主張できる立場になります。自社と本人、指示した会社のそれぞれに、責任が及ぶ筋道があります。

誰が誰に求められるおそれのあること根拠
客先・上位 → 自社だまされて結んだ契約の取消し民法96条(詐欺による意思表示)
客先・上位 → 自社契約の解除民法541条・542条(債務不履行による解除)、651条・656条(準委任の解除)
客先・上位 → 自社損害賠償(交代の費用、遅れた分の損害など)民法415条・416条(債務不履行)
客先・上位 → 自社・指示した人損害賠償民法709条(不法行為)、715条(使用者責任)
社員 → 会社・経営者詐称を強いられたことへの賠償民法709条など(下の裁判例)

債務不履行とは、契約で約束したことを果たさないことです。SESで多い準委任契約では、受ける側は「善良な管理者の注意」をもって仕事をする義務を負います(民法644条・656条)。不法行為とは、わざと、または不注意で、他人に損害を与えることです。使用者責任とは、社員が仕事の中で他人に与えた損害を、会社も賠償する責任のことです。

刑事の責任が問題になる場合

悪質な場合は、刑法246条の詐欺罪が問題になることがあります。人をだまして財物を交付させたり、財産上の利益を得たりしたときの罪で、刑は10年以下の拘禁刑です。

指示した人や、事情を知って手伝った人も、共同正犯(刑法60条)や幇助(刑法62条)として問われる可能性があります。幇助とは、犯罪を手助けすることです。実際に刑事事件になるかは、個別の事情によります。

指示した会社が賠償を命じられた裁判例

社員に経歴詐称を指示したSES企業の経営者らに、約769万円の賠償を命じた判決があります。東京高裁の2025年2月6日の判決です。2026年2月6日に最高裁が上告を退け、この判決が確定したと報じられています。

報道と判例の解説によると、要点は次のとおりです。

  1. 会社は、未経験の社員に、年齢や経験を偽ったスキルシートを作らせ、取引先に提案していた

  2. 一審の東京地裁(2024年7月19日判決)は、会社の事業を「取引先に対する詐欺行為により利益を得ようとするもの」と判断した

  3. 社員は指示に従わざるをえない状況だったとして、会社側の責任が認められた

  4. 二審の東京高裁は、転職活動の期間の逸失利益も認め、賠償額を一審の550万円超から約769万円に増やした

この事件は、社員が会社を訴えたものです。つまり経歴を盛らせた側は、客先からだけでなく、盛らされた本人からも責任を問われることがわかります。

経歴詐称が客先に発覚したあとの対応は、SESの経歴詐称がバレたら?営業がやる対応6ステップと予防策で解説しています。

上位・BPへの断り方の例文

断るときは、「事実を変えることはできない」+「代わりにできること」をセットで伝えます。「できません」だけで返すと、次の案件を回してもらえなくなることがあります。

例文1:上位から「経験年数を3年にして」と言われた

ご相談ありがとうございます。Y.Kの経験年数は2年のため、3年と記載することはできません。面談で深掘りされた場合に説明できず、御社にもご迷惑がかかるためです。
代わりに、設計の経験0.5年を内訳として明記し、今回の案件に近い業務を先頭に並べたスキルシートをお送りします。あわせて、3年以上の条件に合う別の候補も明日までに探します。

例文2:上位から「リーダー経験ありにしておいて」と言われた

Y.Kはリーダーの経験がないため、リーダーと書くことはできません。5名のチームで新人2名の指導をしていたので、その内容を具体的に書くことはできます。リーダー経験が必須の条件でしたら、今回は見送らせてください。

例文3:BPから「うちの子の経歴、少し足して出して」と言われた

ご紹介ありがとうございます。弊社では、ご本人のスキルシートの事実の部分を変えて提案することはしていません。上位にも、変えずにお出しします。
案件の条件に届いていない部分があれば、弊社で見せ方を相談させてください。

例文4:社内の上長から指示された

〇〇案件の件、Y.Kの経験年数を変えることについて、一度相談させてください。経歴を変えて提案すると、後で客先から契約の取消しや賠償を求められるおそれがあり、会社が責任を問われた判決も確定しています。条件に合う別の候補を探すか、書き方の工夫で出す方法を考えたいです。

社内で指示された場合は、一人で抱えずに、メールで記録を残して別の上長やコンプライアンスの担当に相談します。

指示されたときに残しておく記録

経歴を盛るよう指示されたやりとりは、メールやチャットで文字として残します。電話や口頭で言われたときも、あとで内容をメールで確認します。

先ほどお電話でいただいた、Y.Kの経験年数を3年と記載してほしいというご依頼について、確認のためにお送りします。弊社としては、事実どおり2年として提案いたします。

残しておきたい記録は、次の4つです。

  • 誰が、いつ、どんな内容を求めたか(メール・チャットの保存)

  • 自社がどう返したか(断ったメールの保存)

  • 実際に送ったスキルシートの版(送信日時がわかる形)

  • 社内で誰に相談したか

記録は、後で「盛れと言われて盛った」と争いになったとき、自社が事実を変えていないことを示す材料になります。

盛らずに通すスキルシートの書き方

盛らなくても面談を通すコツは、案件に近い経験を先頭に置き、関わり方を具体的に書くことです。経験年数が足りない分は、具体的な作業の量や成果で補います。

  1. 案件の必須条件と近い経験を、先頭のプロジェクトにする:時系列ではなく、関連度の高い順に並べる

  2. 担当工程は「関わり方」まで書く:「詳細設計(画面設計書20本を作成、レビュー指摘の修正を担当)」

  3. 数字を入れる:チーム人数、画面数、テストケース数、対応したチケット数など

  4. 自己学習と予定を書く:「AWS SAA 2026年11月受験予定」「個人開発でReactを使用」

  5. 足りない条件は隠さず、営業のコメントで補う:「経験は2年ですが、設計レビューの指摘が少なく、客先から評価されています」

職種ごとの書き方と自己PRの例はエンジニアのスキルシート書き方例|職種別サンプルと自己PR文例で紹介しています。経験の浅いエンジニアを提案するコツはSESの若手アサインが難しい理由5つと対策|経験1〜2年の提案術も参考にしてください。

条件に合う候補を別に探す:自分でやる方法と、楽にする方法

経歴を盛る話が出るのは、多くの場合、案件の条件に合う候補が手元にいないときです。盛る前に、条件に合う別の候補を探す方が、自社にも客先にも安全です。

自分で探す場合は、次の順に当たります。

  1. 自社の待機中・近く契約が終わる社員で、条件に合う人を探す

  2. 取引のあるBPに、条件をまとめた依頼メールを送る

  3. 届いた人材メールの中から、条件に合う人を探す

チョータツで条件に合う人を探す

チョータツとは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有するツールのことです。3,000社以上が利用し、無料で始められます。

やること自分でやる場合チョータツを使う場合
条件に合う候補を探すBPに依頼して返事を待つ連携した会社の営業中人材がデータベースになる
BPにまとめて依頼する1社ずつメールを書くメール配信機能でまとめて送れる
自社の人材情報を整理する担当者ごとのExcel1か所で管理・共有でき、AIが入力を手伝う

よくある質問

Q. SESでスキルシートを盛るのは違法ですか?
事実と違う内容で契約すると、民法96条の取消しや415条の損害賠償を求められるおそれがあります。悪質な場合は、刑法246条の詐欺罪が問題になることもあります。
Q. 上位から経歴を盛るよう言われたら、断ってもよいですか?
断ってかまいません。事実を変えることはできないと伝え、書き方の工夫や別の候補の提案をあわせて出すと、関係を保ちやすくなります。
Q. 経歴詐称で、営業個人も責任を問われますか?
指示した人や、事情を知って手伝った人は、不法行為(民法709条)や、刑事では共同正犯・幇助として問われる可能性があります。会社も使用者責任(民法715条)を負うことがあります。
Q. 経験年数を「約3年」と丸めて書くのは盛りになりますか?
実際が2年なら盛りになります。実際が2年10か月のように近い場合も、「2年10か月」と正確に書く方が安全です。
Q. どこまでが「書き方の工夫」ですか?
本人が面談で具体的に説明できる事実を、並べ方や言葉で見せることは工夫です。経験年数・工程・技術・役割・資格そのものを変えるのは改変です。

まとめ

  • 経験年数・工程・技術・役割・資格そのものを変える「盛り」は断る

  • 基準は「面談で深掘りされても本人が説明できるか」

  • 水増しは、契約の取消し・解除・損害賠償、悪質なら詐欺罪につながる

  • 経歴詐称を指示した会社・経営者に賠償を命じた判決が、2026年2月に確定している

  • 断るときは「事実は変えられない」+「代わりにできること」をセットで返す

  • 指示されたやりとりは、メールで記録を残して社内に共有する

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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