請負契約違反で損害賠償は請求できる?請求できる条件と営業が集める証拠をQ&Aで解説

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

請負契約違反(債務不履行)とは?

請負契約違反とは、請負契約で約束した仕事を、約束どおりに完成・引き渡ししないことです。法律では「債務不履行」と呼びます。

債務不履行とは、契約で約束した義務(債務)を、約束どおりに果たさないことです。大きく次の3つに分かれます。

種類意味SESでの例
履行遅滞期限までにやらない請負のシステムが納期に間に合わない
履行不能もうできなくなった担当会社が倒産し、仕事を続けられない
不完全履行やったが不十分納品したプログラムにバグが多い/作業報告が偽り

請負契約とは、仕事を完成させることを約束し、完成した結果に対して報酬を払う契約です(民法632条)。一方、SES契約の多くは準委任契約です。準委任と請負は「違反」になる場面が大きく違うため、次の見出しで比べます。

→ 基本を先に押さえたい方は準委任契約と請負契約の違い|業務委託契約書を見分ける判定シート

この記事は、BPや客先の違反で自社が請求する側の考え方をまとめます。自社が準委任で請求された側なら、準委任契約で損害賠償を請求されたら?責任の範囲と対応5手順を読んでください。

請負と準委任で「契約違反」になる場面はどう違う?

請負は「結果」、準委任は「作業のしかた」が約束の中身です。そのため、同じトラブルでも、請負なら違反、準委任なら違反ではない、ということが起きます。

準委任契約とは、法律行為ではない事務(システム開発の作業など)を任せる契約です(民法656条)。受けた側は、善管注意義務を負います。善管注意義務とは、その仕事のプロとして当然払うべき注意を払って作業する義務のことです(民法644条)。

トラブル請負契約準委任契約(SESの多く)
期限までに完成しない違反(履行遅滞)原則は違反ではない。作業を怠っていれば違反
成果物に不具合がある違反(契約不適合責任)原則は違反ではない。プロとして明らかな手抜きなら違反
作業時間を偽って報告報酬の決め方による違反(不完全履行)。精算の取り戻しも問題になる
途中で一方的にやめる請負人は原則やめられないいつでも解除できるが、不利な時期なら賠償(民法651条)

ポイントは、「契約書のタイトル」ではなく「中身」で判断されることです。タイトルが「業務委託契約書」でも、成果物の完成と検収が報酬の条件なら請負に近いと見られます。

また、準委任にも成果完成型という形があります。成果に対して報酬を払う準委任で、2020年4月1日施行の改正民法で明文化されました(民法648条の2)。成果完成型でも、完成させる義務までは負わない点が請負と違います。

損害賠償を請求できる4つの条件

損害賠償は、次の4つがすべてそろったときに請求できます。どれか1つでも欠けると、請求は通りにくくなります。

  1. 債務不履行がある:契約で約束したことを守っていない

  2. 損害が出ている:お金で表せる損が実際に出ている

  3. 因果関係がある:その違反のせいで、その損害が出た

  4. 相手に帰責事由がある:相手の落ち度で起きた

帰責事由とは、責任を問われるべき落ち度のことです。民法415条では、相手が「自分に落ち度はない」と示せば、賠償を免れます。たとえば大地震で客先ビルに入れなかった場合などです。

請求できる損害の範囲

損害賠償の範囲は、「ふつう生じる損害」と「相手が予想できた特別な損害」までです(民法416条)。

損害の種類例請求しやすさ
通常損害納期遅れで追加した要員の費用請求しやすい
特別損害エンドとの大型契約を失った相手が事情を予想できた場合だけ
弁護士費用交渉・訴訟の費用契約違反では原則として認められにくい

契約書の条項が優先されることが多い

SESの基本契約書には、損害賠償の上限や対象外の損害がよく書かれています。たとえば「直近1か月分の委託料まで」「逸失利益は除く」などです。こうした条項は原則として有効です。そのため、民法で計算した額より少ない額しか請求できないことがあります。

契約で賠償額をあらかじめ決めておくこともできます(民法420条、賠償額の予定)。違約金の条項がある場合は、まずその額を確認しましょう。

→ SESの損害賠償の上限条項|準委任の責任限定の書き方と有効性

請負ならではのルール:契約不適合責任と期限

請負の成果物に不具合があれば、注文した側は「直して」「減額して」「賠償して」「解除する」の4つを求められます。これを契約不適合責任と呼びます。

契約不適合責任とは、引き渡されたものが、種類・品質・数量で契約の内容に合っていないときに、渡した側が負う責任のことです。2020年4月1日に改正民法が施行される前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていました。売買のルール(民法562条〜564条)が、民法559条で請負にも使われます。

求められること中身注意点
追完請求不具合を直してもらうまず最初に求めることが多い
代金減額請求報酬を減らす原則、先に修正を求める必要がある
損害賠償請求損害分を払ってもらう民法415条の条件が必要
契約の解除契約をやめる民法541条・542条の条件が必要

1年以内の通知を忘れない

注文した側は、不具合を知った時から1年以内に、相手へ通知する必要があります(民法637条)。通知しないと、原則として責任を追及できません。ただし、相手が引き渡しの時点で不具合を知っていた、または重い過失で知らなかった場合は、この制限はかかりません。

また、注文者が渡した材料や、注文者の指図が原因の不具合は、原則として請負人の責任になりません(民法636条)。「仕様どおりに作ったのに不具合」と言われたら、指示のメールを確認しましょう。

→ SESに瑕疵担保責任はある?契約不適合責任との違いを表で解説

BP・客先の違反別:請求できるかの早見表

SES営業がよく出会う違反は、BP側の違反と、客先(発注元)側の違反に分かれます。どちらも、まず契約形態と契約書の条項を確認します。

違反の場面相手請求できるか(目安)先に確認すること
請負で受けたBPが納期遅れBP請求できる可能性が高い納期・検収の条件、遅れの原因
BPの要員が無断で来なくなったBP準委任でも請求できる場合あり代わりの要員を出す義務の条項
BPが稼働時間を水増し報告BP過払い分の返還と賠償を求められる作業報告と入館記録のずれ
客先が一方的に契約を解除客先準委任なら不利な時期の解除で賠償中途解約条項と予告期間
客先が報酬を払わない客先報酬の請求と遅延損害金請求書・検収・支払期日

未払いの場合は、損害賠償より先に報酬そのものの請求を考えます。報酬の支払いが遅れた分には、遅延損害金を求められます(民法404条・419条)。契約で利率を決めていなければ法定利率を使い、2026年4月1日から2029年3月31日までの法定利率は年3%です。

→ SES契約の一方的な解除で損害賠償は?民法651条と請求の目安

BPの違反は、損害賠償より先に「取引を続けるか」の判断が要る場面も多いです。BP要員の案件掛け持ちは、SESのBP要員の案件掛け持ちが発覚したら|契約違反の判断と対応を参考にしてください。取引をやめる判断は、BPとの取引停止の判断基準と伝え方|SESの連絡例文と注意点にまとめています。

請求の前に営業が集める証拠3つ

請求の前に、「何を約束したか」「何が起きたか」「いつ伝えたか」を示す証拠をそろえます。営業がふだんから持っている書類で、ほとんどそろえられます。

証拠何を示すかどこにあるか
注文書・注文請書・契約書約束の中身(作業範囲・納期・単価・契約形態)契約書フォルダ、電子契約サービス
作業報告書・稼働報告書実際に何をしたか、何時間働いたか月次の精算資料
メール・チャット指示・催促・相手の説明、時系列営業のメールボックス、Slackなど

証拠を集めるときのチェックリスト

  • 基本契約書と個別契約(注文書)の両方がそろっているか

  • 注文書に作業範囲・期間・納期・成果物が書かれているか

  • 損害賠償・中途解約・再委託の条項に印をつけたか

  • 作業報告書と入館記録・勤怠記録に食い違いがないか

  • 催促や注意を「メールで」送った記録があるか

  • 電話で話した内容を、日時つきでメモしたか

  • 追加で払った費用(代わりの要員、残業代)の請求書があるか

電話だけのやりとりは、あとで「言った・言わない」になります。大事な連絡は、電話のあとに必ずメールで要点を送る習慣をつけましょう。

損害賠償を請求する手順5ステップ

請求は「事実の整理→契約書の確認→相手への通知→話し合い→法的手続き」の順で進めます。いきなり裁判を考えるより、話し合いで解決する方が早く、取引関係も残せます。

  1. 事実を時系列にまとめる:いつ・誰が・何をしたかを、証拠とセットで1枚にまとめる

  2. 契約書を読み直す:契約形態、損害賠償の上限、解除の条件、通知の期限を確認する

  3. 社内で方針を決める:取引を続けたいか、関係を終えてもよいかを責任者と決める

  4. 相手に書面で通知する:違反の内容・求めること・回答期限を書いて、メールで送る

  5. 話し合いで決まらなければ専門家へ:内容証明郵便・調停・訴訟は弁護士と相談して進める

通知メールの例文

件名:【ご確認のお願い】〇〇案件の納期遅延について

株式会社〇〇 〇〇様

いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
2026年8月3日付の注文書(No.1234)で、納期を2026年9月30日とお約束いただいた〇〇機能の件です。
本日時点で成果物の納品がなく、お客様への納品にも影響が出ております。

つきましては、2026年10月7日(水)までに、以下の2点をご回答ください。

  1. 納品できる日付と、遅延の理由

  2. 遅延により当社で発生した追加費用(別紙)へのご対応

ご回答をもとに、今後の進め方をご相談させてください。

例文では「損害賠償を請求します」と強く書かず、事実と回答期限を先に示しています。相手に説明の機会を渡すと、話し合いがまとまりやすくなります。

BPへの支払いから勝手に差し引かない

BPに発注している取引が取適法の対象なら、自社は委託事業者です。BPに責任のない理由で代金を減らすことは、取適法5条1項3号の「減額」として禁止されています。BPに責任がある場合でも、差し引けるのは客観的に妥当な額までです。

そのため、損害額が決まる前に支払いから差し引くのは避けます。代金は期日どおり払い、損害賠償は別に話し合うのが安全です。考え方は下請法と民法はどちらが優先?SES取引の損害賠償とやり直しで整理しています。

追加費用の計算例(別紙に書く内容)

通知メールの「別紙」には、追加費用を項目ごとに書きます。BPの納期遅れで、自社が応援要員を入れた例です。

項目計算金額(税抜)
応援要員の費用単価70万円÷160時間×40時間175,000円
自社PMの追加対応単価80万円÷160時間×10時間50,000円
客先への遅延の値引き客先との合意書のとおり100,000円
合計―325,000円

客先への値引きのように相手が予想できたか争いになる項目は、分けて書きます。上限条項があれば、合計が上限を超えないかも確かめます。

期限に注意する

損害賠償の請求権は、請求できると知った時から5年、請求できる時から10年で時効になります(民法166条)。請負の不具合は、1年以内の通知も必要です。長く放置しないようにしましょう。

契約違反を防ぐために営業ができること

契約違反のトラブルの多くは、提案前と契約前の確認で防げます。請求は時間もお金もかかるため、起きる前に手を打つ方が得です。

  • 契約形態を提案の段階で確認する:請負か準委任かで、自社が負う責任がまったく違う

  • 注文書に作業範囲を具体的に書く:「〇〇システム開発支援」だけでは、何が違反か決められない

  • 損害賠償の上限を必ず入れる:上限がないと、客先から大きな額を求められるおそれがある

  • BPとの契約は客先との契約と条件をそろえる:客先への責任を、BPとの契約でも同じだけカバーする

  • 案件ごとの条件を一か所で管理する:担当者が替わっても、約束の中身がすぐわかるようにする

チョータツで案件の条件をチームで共有する

案件の条件をExcelや個人のメールで管理していると、「契約形態は何だったか」「精算幅はいくつか」がすぐにわかりません。担当の営業が休んだ日にトラブルが起きると、確認だけで時間がかかります。

チョータツなら、案件・人材の情報を管理し、チームで共有できます。提案前に契約形態や期間などの条件を見直す流れをつくりやすくなります。AIが入力を手伝うため、登録の手間も小さくなります。

さらに、他社と連携すると、相手の営業中案件・営業中人材をデータベース化できます。BPの契約違反で要員が抜けたときも、代わりの候補を探しやすくなります。チョータツは3,000社以上が利用しており、無料で始められます。

よくある質問

Q. 業務委託契約書に違反したら、必ず損害賠償を払うのですか?
必ずではありません。実際に損害が出ていて、違反との因果関係があり、違反した側に落ち度がある場合に限られます。額も、契約書の上限条項で制限されることが多いです。
Q. 委任(準委任)契約でも損害賠償を請求できますか?
できます。ただし、「完成しなかった」だけでは違反になりません。請求できるのは、善管注意義務に違反したときや、不利な時期に一方的に解除したときです(民法644条・651条)。
Q. 業務委託契約で、受けた側はどこまで責任を負いますか?
請負なら完成と品質まで、準委任なら作業をきちんと行うところまでが責任です。具体的な範囲は、注文書の作業範囲と、契約書の損害賠償条項で決まります。
Q. 請負で途中まで作った分の報酬は払ってもらえますか?
払ってもらえる場合があります。完成前に解除されたときなどで、できあがった部分から注文者が利益を受けていれば、その割合で報酬を請求できます(民法634条)。注文者は、完成前ならいつでも損害を賠償して解除できます(民法641条)。
Q. 契約書がなく、メールだけで発注した場合は?
契約はメールのやりとりだけでも成立します。ただし、約束の中身を証明しにくくなります。発注・受注のメールと作業報告を保存し、今後は注文書を必ず出しましょう。
Q. 弁護士に相談するタイミングはいつですか?
相手が話し合いに応じないとき、請求額が大きいとき、相手から逆に請求されたときです。事実の時系列と証拠をまとめてから相談すると、話が早く進みます。

まとめ

  • 損害賠償は「違反」「損害」「因果関係」「相手の落ち度」の4つがそろったときに請求できる

  • 請負は完成が約束なので、納期遅れや不具合がそのまま違反になる。準委任は完成しなかっただけでは違反にならない

  • 契約書の損害賠償の上限や違約金の条項が、民法より優先されることが多い

  • 請負の不具合は、知ってから1年以内に通知する。損害賠償の請求権は5年・10年で時効になる

  • 請求前に、注文書・作業報告書・メールをそろえて時系列にまとめる

  • 通知は事実と回答期限を書いたメールから始め、決まらなければ弁護士に相談する

  • ふだんからチョータツで案件の条件をチームで共有すると、違反のトラブルを防ぎやすくなる

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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