下請法と民法はどちらが優先?SESで元請に損害賠償・無償やり直しを求められた時の早見表

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

下請法と民法はどちらが優先する?

答えは「両方かかる。そのうえで、取適法の禁止行為は契約で決めても許されない」です。民法が取引の基本ルールを決め、取適法が発注する側のやってはいけないことを上乗せする、という関係です。

民法とは、契約や損害賠償など、人や会社どうしの取引の基本ルールを決めた法律のことです。取適法とは、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」の略です。2026年1月1日に、下請法を改正して名前が変わりました。

取適法では、発注する側を委託事業者、受ける側を中小受託事業者と呼びます。以前の「親事業者」「下請事業者」にあたります。

一般法と特別法の関係

一般法とは、広くすべての取引にかかる法律のことです。特別法とは、決まった取引だけに、より細かいルールを足す法律のことです。法律の世界には「特別法は一般法に優先する」という考え方があります。

項目民法取適法(旧下請法)
かかる取引すべての契約規模と取引内容の条件を満たす委託取引だけ
決めていること契約の成り立ち、損害賠償、やり直しの請求など発注する側の義務4つと禁止行為11個
契約で変えられるか多くは変えられる禁止行為は、合意しても違反になる
破ったときどうなる裁判で損害賠償などを請求される公正取引委員会などの調査・勧告・公表

営業が押さえたいのは「契約で変えられるか」の行です。民法の多くのルールは、契約で書きかえられます。一方で取適法の禁止行為は、契約書に書いても、相手が了解しても違反になります。

取適法の対象でなければ、民法と契約書で決まる

取適法の対象外の取引では、契約書と民法だけで判断します。たとえば、発注側と受ける側の規模の条件に当てはまらない場合です。

SESの準委任でも、プログラム作成や運用を再委託する取引は対象になりえます。対象かどうかは、取適法でSESの準委任は対象?適用条件と営業の変更点7つの判定表で確かめてください。

契約書の「民法どおり」はどこまで通る?

契約書の条項は、取適法の禁止行為にぶつからない範囲でだけ通ります。ぶつかる部分は、契約書に書いてあっても元請は実行できません。

SESの基本契約書には、よく次のような条項があります。

  • 「受託者の責めに帰すべき事由により委託者に損害が生じた場合、民法の定めに従い賠償する」

  • 「成果物に契約の内容に適合しない点があるときは、受託者は無償で修補する」

  • 「委託者は、受託者に対する損害賠償請求権と委託料を相殺できる」

どれも、それだけで違法な条項ではありません。問題になるのは、自社に責任がないのにこの条項を使われたときや、金額が妥当でないときです。

公正取引委員会の考え方

公正取引委員会は、禁止行為について「受ける側の了解を得ていても違反になる」と説明しています。取適法のQ&Aでも、契約書で事前に差し引きに合意していても、受ける側に責任がなく代金を減らせば違反としています。

また、発注時に明示していない内容を満たすためのやり直しを、費用を払わずにさせることは問題とされています。「やり直し込みの価格にしてある」と言われても、明示していない内容なら同じです。

取適法違反の契約は無効になる?

取適法に違反しても、契約が自動的に無効になるとは限りません。取適法は、主に公正取引委員会の調査や勧告で守らせる法律だからです。

ただし、ひどい内容の場合は、民法90条(公序良俗)に反して無効と判断されることがあります。公序良俗とは、社会の常識や道徳のことです。無効かどうかの判断は個別の事情によるため、争いになりそうなら弁護士に相談しましょう。

営業の実務では、「無効か」よりも「元請が実行してはいけない行為か」で考えるほうが使いやすいです。禁止行為にあたれば、元請は勧告・公表のリスクを負います。

ケース別:元請の主張は通る?通らない?

自社に責任がなく、代金の差し引きや無償の作業を求められたら、取適法で返せる可能性が高いです。自社に責任がある場合は、民法どおりの対応が基本です。

元請の主張民法・契約書だけで見ると取適法の対象なら返すときの根拠
客先の仕様変更で作り直した設計書を、無償で直して契約の範囲外なら追加費用を求められる自社に責任がなければ、不当なやり直しのおそれ取適法の不当なやり直しの禁止
納品物の不具合を無償で直して(自社のミス)契約不適合として修補の義務あり自社に責任があれば、応じてよい民法・契約書どおり対応
客先の都合で稼働が減ったので、今月は10万円引く契約どおりの稼働なら全額請求できる自社に責任がなければ減額にあたる取適法の減額の禁止
エンジニアの遅刻で損害が出たので、請求額から差し引く損害と因果関係が証明されれば賠償の対象差し引けるのは客観的に妥当な額まで民法の損害賠償+取適法の減額の考え方
契約外の資料作成を、今回はサービスでやって契約外なので断れる不当な経済上の利益の提供要請のおそれ取適法の禁止行為
損害賠償の上限条項はないので、全額払って上限がなければ、通常生じる損害が対象過大な請求は禁止行為のおそれ民法416条の範囲+取適法

「自社に責任があるか」が分かれ目

中小受託事業者の責めに帰すべき理由とは、受ける側に落ち度があることを指します。たとえば、明示された仕様どおりに作っていない、約束した作業をしていない、といった場合です。

取適法は、受ける側に責任がある場合の減額ややり直しまでは禁止していません。公正取引委員会の運用基準でも、責任がある分だけ、客観的に妥当な範囲で減額できるとしています。

準委任と請負で「やり直し」の意味が違う

準委任契約とは、仕事の完成ではなく、作業をすること自体を約束する契約のことです。SESの多くはこの形です。準委任では、成果物の出来ではなく、善管注意義務(プロとして注意して作業する義務)を果たしたかで責任を判断します。

請負契約とは、仕事を完成させることを約束する契約のことです。請負では、成果物が契約内容に合わないと契約不適合責任を負います。契約不適合責任とは、渡した物が約束と違うとき、直す・代金を減らす・損害を払うなどの責任を負うことです。

準委任なのに「成果物が気に入らないから無償でやり直して」と言われたら、まず契約の形を確かめましょう。違いは、SESに瑕疵担保責任はある?契約不適合責任との違いを表で解説で詳しく説明しています。

損害賠償を求められたときの民法のルール

民法では、自社に責任があり、損害とのつながりが証明できる範囲だけ、損害賠償の義務を負います。「民法どおり」は、元請が何でも請求できるという意味ではありません。

債務不履行とは、契約で約束したことを守らないことです。民法415条では、債務不履行で損害が出たとき、損害賠償を請求できるとしています。ただし、自社に責任がない理由で守れなかった場合は、賠償の義務を負いません。

請求できる損害の範囲

民法416条では、賠償の範囲を通常生じる損害に限っています。特別な事情で生じた損害は、その事情を予見すべきだった場合だけ対象です。

元請が求める損害対象になりやすいか営業が確認すること
自社エンジニアのミスで発生した修正作業の費用なりやすい作業時間の記録と単価の根拠
客先から元請への違約金ケースによる違約金の存在を事前に知らされていたか
元請が失ったと主張する将来の利益なりにくい金額の計算根拠が示されているか
元請の社員が対応した時間の人件費ケースによる通常の業務と区別できる記録があるか

請求の根拠と金額の計算を、書面で出してもらうのが第一歩です。損害賠償の上限を契約で決める方法は、SESの損害賠償の上限条項|準委任の責任限定の書き方と有効性を参考にしてください。

「相殺」で代金から引かれるとき

相殺とは、お互いに払うお金がある場合に、差し引いて帳消しにすることです。元請が「損害賠償と相殺する」として、請求額より少なく振り込んでくることがあります。

取適法の対象取引では、自社に責任がないのに差し引けば減額の禁止にあたるおそれがあります。自社に責任があっても、損害額が確定していない段階で大きく差し引くのは、妥当な範囲を超える可能性があります。差し引かれた後の具体的な対応は、下請法の相殺・減額は違反?SESで支払いから差し引かれた時の対応で解説しています。

元請への返し方:判断の4手順

「対象か」「責任があるか」「範囲は妥当か」を順に確かめ、根拠を書いて返します。感情的に断るより、確認の質問として返すほうが関係を壊しにくいです。

  1. 取適法の対象か確かめる:自社と元請の資本金・従業員数、取引の内容を確認します。対象外なら、契約書と民法で判断します。

  2. 自社に責任があるかを整理する:発注書・注文書に書かれた作業内容と、実際の作業記録を並べます。指示の変更がメールで残っていないかも確かめます。

  3. 請求の範囲と金額を確認する:元請に、損害の内容・金額・計算根拠を書面で出してもらいます。差し引きの場合は、差し引く額の内訳を求めます。

  4. 根拠を書いて返答する:自社に責任がなければ、該当する禁止行為を示します。そのうえで費用負担や全額の支払いを求めます。責任がある部分は、その範囲で対応を申し出ます。

返答メールの例文

例文・テンプレート
件名:10月分の請求額の差し引きについてのご確認

〇〇株式会社
〇〇様

いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
2026年11月10日(火)にご連絡いただいた、10月分の委託料から10万円を差し引く件について、確認させてください。

弊社の理解では、今回の稼働減は貴社のご都合によるもので、契約の精算幅の中に収まっております。
弊社に責任のない理由での代金の差し引きは、取適法の「減額の禁止」にあたるおそれがあると考えております。

つきましては、差し引きの理由と金額の計算根拠を、書面でお示しいただけますでしょうか。
弊社に責任がある点が確認できれば、その範囲で誠実に対応いたします。

何卒よろしくお願いいたします。

返答するときの注意点

  • 「違反です」と決めつけない:「おそれがあると考えています」と書き、確認を求める形にします。

  • やり取りは必ず書面に残す:電話で話した内容も、当日中にメールでまとめて送ります。

  • 違反を知らせたことを理由に不利に扱うことは禁止:取適法は、違反を行政に知らせたことを理由にした仕返しを禁止しています(第5条第1項第7号)。知らせる先は、公正取引委員会・中小企業庁・事業を所管する大臣です。取引を減らす・止めるなどが仕返しにあたります。窓口の選び方は下請法の相談窓口はどこ?SESが取引先の違反を申告する手順にまとめています。

自社がBPに発注するときも同じルールがかかる

SES企業は、元請に対しては受ける側、BPに対しては発注する側です。自社がBPに「民法どおり」を押しつけると、今度は自社が取適法違反を問われるおそれがあります。

たとえば、客先から無償のやり直しを求められたとき、そのままBPに無償でやらせると問題になりえます。自社が元請から費用をもらえなくても、BPとの取引では自社が委託事業者だからです。

BPへの発注で気をつけたい禁止行為は、SESの例に置き換えて説明しています。下請法の禁止事項11個|SESの減額・買いたたき・発注取消の例を確認してください。

揉める前にやっておく確認リスト

揉めてから調べるより、発注・受注の時点で条件を残しておくほうが確実です。次の8項目を、案件ごとに確かめておきましょう。

  1. 取引が取適法の対象か(自社と相手の資本金・従業員数)

  2. 契約が準委任か請負か

  3. 作業の範囲(何をすれば契約どおりか)

  4. 精算幅と、幅を外れたときの計算方法

  5. 損害賠償の上限があるか

  6. 相殺ができる条項があるか、その条件

  7. 支払期日が受け取った日から60日以内か

  8. 仕様変更や追加作業の費用を、誰がどう払うか

単価が決まらないまま参画する場合は、代金の決め方そのものが争いのもとになります。SESで単価未定のまま参画するときの仮単価|取適法上の扱いの手順で、仮単価と正式な単価の決め方を残しておきましょう。

チョータツで案件ごとの条件を残しておく

揉めたときに一番困るのは、「そもそも何を約束していたか」がすぐ出てこないことです。まずは自分でできる方法から始めましょう。

自分でやる方法

  • 案件ごとにフォルダを作り、注文書・契約書・条件のメールを1か所にまとめる

  • 確認リストの8項目を、案件管理の表に列として足す

  • 作業範囲の変更があったら、日付と内容を表に書き足す

もっと楽にするなら

チョータツは、SES営業のための案件・人材の管理・共有ツールです。案件と人材の情報を1か所で管理し、社内で共有できます。

案件ごとに契約形態や条件を残しておけば、「無償で対応して」と言われてもすぐ確かめられます。担当者が変わっていても同じです。AIが入力を手伝うので、記録の手間も減らせます。無料で始められます。

よくある質問

Q. 下請法と民法が食い違ったら、どちらが優先しますか?
取引が取適法(旧下請法)の対象なら、取適法の禁止行為が優先します。契約書や民法で認められる請求でも、禁止行為にあたれば元請は実行できません。
Q. 下請法違反の契約条項は無効になりますか?
自動的に無効になるとは限りません。内容がひどい場合は、民法90条(公序良俗)で無効とされることがあります。個別の判断は弁護士に相談してください。
Q. 下請法の対象取引でも、損害賠償は請求されますか?
自社に責任があれば請求されます。取適法は、受ける側に責任がある場合の損害賠償や減額までは禁止していません。ただし、額は客観的に妥当な範囲までです。
Q. 契約書に「無償で修補する」とあれば、何でも無償ですか?
いいえ。自社に責任がない理由のやり直しや、発注時に明示していない内容のためのやり直しは、費用を求められます。取適法の対象なら、無償でさせると不当なやり直しのおそれがあります。
Q. 元請がSES企業で、自社も小さい会社です。取適法は使えますか?
両社の資本金・従業員数と取引内容で決まります。SESの開発・運用は、多くの場合「資本金3億円/1,000万円」または「従業員300人」の区分で判定します。条件に当てはまれば使えます。
Q. フリーランスのBPとの取引は、どの法律で考えますか?
フリーランス法もかかります。禁止行為は取適法と似ています。詳しくはフリーランス法の禁止行為7つ|SESの減額・買いたたきOK・NG例をご覧ください。

まとめ

  • 下請法(取適法)と民法は、対象取引なら同時にかかる。取適法の禁止行為は、契約書に書いても、了解しても違反

  • 「民法どおり損害賠償」は、自社に責任があり、通常生じる損害の範囲だけが対象

  • 自社に責任がない差し引きは減額、無償のやり直しは不当なやり直しのおそれ

  • 返すときは「対象か → 責任はあるか → 範囲は妥当か」の順で確かめ、書面で根拠を示す

  • 自社がBPに発注するときは、同じルールを守る側になる

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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