下請法(取適法)の相殺・減額は違反?SESの差し引き事例12個の判定表と確認メール例文

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

下請法の相殺・減額は違反になるのか

対象の取引で、自社に責任がないのに支払額を差し引けば、相殺の形でも減額として違反です。「相殺だから別の話」とはなりません。

減額とは、発注のときに決めた代金を、受ける側に責任がないのに後から減らすことです。公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、減らす名目・方法・金額の大小を問わないと説明しています。

相殺とは、お互いに払うお金があるとき、差し引きで帳消しにすることです(民法505条)。相殺そのものは民法で認められた方法です。ただ、差し引く相手の債権が「一方的に決めた賠償金」などだと、結果として減額になります。

2026年1月から下請法は取適法へ

取適法とは、下請法を改正して2026年1月1日に施行された法律のことです。正式名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。

比べる点下請法(2025年まで)取適法(2026年1月から)
発注する側の呼び名親事業者委託事業者
受ける側の呼び名下請事業者中小受託事業者
対象の決め方資本金だけ資本金か従業員数
減額の禁止ありあり(そのまま)

振込手数料の扱い、手形払いの禁止、協議に応じない一方的な代金決定の禁止などが新しく加わりました。改正点は下請法改正のポイント|2026年施行の取適法でSES営業が変える6点で解説しています。

SESの取引は取適法の対象になるか

SESの仕事は、プログラム作成か情報処理(運用)なら、資本金3億円・1,000万円、従業員300人の区分で判定します。資本金の基準に当たらない場合に、従業員数の基準で判定します。

発注する側(委託事業者)受ける側(中小受託事業者)
資本金3億円超資本金3億円以下
資本金1,000万円超3億円以下資本金1,000万円以下
従業員300人超(資本金で当たらない場合)従業員300人以下

たとえば、発注する元請が資本金5,000万円、自社が資本金1,000万円なら対象です。自社の判定は下請法の対象かどうか判定|資本金と従業員数の基準をSES向けにで確かめられます。

SESの差し引き・値引き12事例の判定表

SESで多い差し引き・値引きのうち、違反のおそれが高いのは「発注後に」「自社の責任でない理由で」減らしているものです。取適法の対象取引を前提に、公正取引委員会の資料をもとに判定しました。

#よくある場面判定理由
1請求額から「協力金3%」を毎月差し引かれた×名目が違っても減額
2契約書に「歩引き5%」と書いてあり、差し引かれた×契約にあっても減額(Q&A問96)
3了解のうえで振込手数料を差し引かれた×了解があっても減額(Q&A問99)
4エンドに値下げされ、今月分のBP代金も遡って下げられた×発注済み分への遡った値下げ
5請求後に「予算がない」と端数を切り捨てられた×発注後の一方的な切り捨て
6元請が見積もった損害額を、支払いと相殺された×責任と金額が確定していない
7前払いされた交通費の返済分を、合意のうえ相殺した△報酬とは別の確定したお金の精算
8契約した精算幅を下回り、決めた計算で控除された○契約どおりの計算で減額ではない
9発注前の見積もり段階で値引きを求められた○減額ではない。買いたたきには注意
10事前に書面で決めた「3名以上で1名1万円引き」を適用○合意済みのボリュームディスカウント
113名の予定が1名になったのに、割引はそのまま×割引の前提が崩れている
12稼働後に「期待した成果がない」と減らされた×準委任は作業に対する報酬

判定は「○=減額に当たらない」「△=条件しだい」「×=減額のおそれが高い」です。個別の事情で変わるため、最終判断は専門家に確認してください。

違反のおそれが高い差し引き

「協力金」「歩引き」「事務手数料」など、名目をつけた差し引きは減額です。取適法のQ&A(問94・問96)は、業界の慣行でも、契約書に書いてあっても、受ける側に責任がなければ違反としています。

SESで多いのは、元請がエンドに値下げされ、その分を当月のBP代金に回すケースです。元請とエンドの契約と、元請と自社の契約は別です。エンドの事情は、自社の代金を減らす理由になりません。

振込手数料の差し引きは取適法で扱いが変わった

振込手数料を代金から差し引くことは、取適法では相手の了解があっても減額になります。下請法の時代は、事前に書面で合意していれば差し引いてよいとされていました。取適法のQ&A(問99)で、この扱いが変わっています。

たとえば、単価70万円の請求に振込手数料660円を差し引かれ、699,340円が入金されたとします。取適法の対象取引なら、差額の660円は減額に当たるおそれがあります。1回は小さな額でも、全BP・全月分では大きな金額になります。

相殺が減額になる場合・ならない場合

相殺が問題になりにくいのは、報酬とは別の、額が確定したお金を合意のうえで精算する場合です。反対に、発注する側が決めた損害額を一方的に差し引くと、減額と見られるおそれがあります。

相殺の相手になるお金判定考え方
前払いした交通費など立替金の返済△〜○額が確定し、合意があれば精算として扱いやすい
客先の貸与品を紛失した弁償代△自社の責任と金額を双方で確認できているか
遅刻・勤怠不良による「損害」×準委任では精算幅や契約で扱う。一方的な算定は危険
元請の赤字や値下げの穴埋め×自社に責任がない

損害賠償と相殺されたときの考え方

自社に本当に責任があっても、金額を元請が一方的に決めて差し引くのは避けるべきです。賠償額は、責任の有無と金額を話し合って確定させてから精算するのが安全です。

準委任契約(SESの多くの契約形態)は、成果物ではなく作業そのものに報酬を払う契約です。「成果が出なかった」だけで報酬を減らす理由にはなりにくいと考えられます。賠償の考え方は下請法と民法はどちらが優先?SES取引の損害賠償とやり直しも参考にしてください。貸与PCをなくしたときの費用の分け方は、SESで客先の貸与PCを紛失したら|最初の1時間の報告と費用負担で扱っています。

有償で支給したものの代金を先に相殺するのも注意

取適法は、減額とは別に、有償で支給した原材料などの代金を早く相殺させることも禁止しています。SESで起きる場面は多くありません。有償で渡した機器などの代金を、使い終わる前に報酬と相殺させる形が当たりえます。

見積書の値引きとボリュームディスカウントの考え方

発注する前の値引き交渉は減額ではありません。減額は「決めた代金を後から減らす」ことだからです。ただし、相場より著しく低い単価を押し付けると買いたたきになりえます。

買いたたきとは、ふつうの相場より著しく低い代金を一方的に決めることです。取適法では、受ける側から価格の協議を求められたのに応じず、一方的に代金を決めることも禁止されました。協議の進め方は取適法で単価交渉の協議拒否は違反?一方的な代金決定のNG例と対処法で解説しています。

見積書の値引きで気をつけること

見積書の値引きが問題になるかは、発注の前か後かで分かれます。

タイミング例考え方
発注前見積もり61万2,000円を協議して60万円で発注減額ではない
発注後60万円で発注済みなのに、請求時に58万円にされた減額のおそれが高い

発注前でも、話し合いをせずに一方的に決めた額なら買いたたきが問題になります。協議の日時と内容をメールで残しておきましょう。

ボリュームディスカウントが認められる条件

ボリュームディスカウントとは、まとめて多く発注する代わりに単価を下げる取り決めのことです。SESでは「3名以上の同時参画で1名あたり1万円引き」などが当てはまります。

公正取引委員会の資料では、次の条件がそろえば減額に当たらないとされています。

  1. 発注の前に、割引の条件と率を双方で合意している

  2. 合意の内容を書面に残している

  3. 一定人数・一定金額以上など、客観的な条件で決まっている

  4. 実際にその条件を満たす発注がされている

条件を満たさないまま割引だけ続けたり、後から「まとめ割」を求めたりするのは減額です。事例11のように人数が減ったら、元の単価に戻すのが筋です。

支払いから差し引かれたときの対応6ステップ

差し引きに気づいたら、感情的に抗議する前に「対象の確認」と「内訳の書面化」を進めます。証拠がそろっていれば、話し合いも相談もしやすくなります。

  1. 入金額と請求額を照らし合わせる:差額と、差し引かれた月・名目をメモします。

  2. 注文書と契約書を確認する:単価、精算幅、支払条件、振込手数料の負担者を見ます。

  3. 取適法の対象かを確認する:元請と自社の資本金・従業員数を当てはめます。

  4. 内訳を書面で聞く:差し引いた理由と根拠を、メールで確認します。

  5. 是正を求める:自社に責任がない差し引きなら、差額の支払いを依頼します。

  6. 解決しなければ相談する:公正取引委員会や中小企業庁の窓口に相談できます。

申告したことを理由に取引を減らしたり止めたりすることは、報復措置として禁止されています。相談の流れは下請法の相談窓口はどこ?SESが取引先の違反を申告する手順にまとめています。

元請に送る確認メール例文

関係を壊さないよう、最初は「確認のお願い」の形で送ります。

例文・テンプレート
件名:8月分ご入金額の確認のお願い(〇〇案件)

株式会社〇〇
〇〇様

いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。

2026年9月30日に、〇〇案件8月分のご入金を確認いたしました。
ありがとうございます。

ご請求額700,000円(税抜)に対し、ご入金額が
差額〇〇円少ない状態でした。

注文書では、精算幅140〜180時間・稼働165時間で
控除の対象ではないと認識しております。
差し引きの理由と内訳を、お教えいただけますでしょうか。

当方の認識違いでしたら、ご指摘いただけますと幸いです。
お手数ですが、よろしくお願いいたします。

回答が「協力金」「手数料」など自社に責任のない理由なら、次のように差額の支払いをお願いします。

例文・テンプレート
ご回答ありがとうございます。
恐れ入りますが、ご発注時の代金から差し引かれた分につきましては、
取引条件に含まれていないと認識しております。
差額〇〇円を、次回のお支払いと合わせてお支払いいただけますでしょうか。
今後の条件の見直しにつきましては、別途協議させていただければ幸いです。

差し引かれた減額分には、取適法の対象なら年14.6%の遅延利息もかかります。計算は下請法の遅延利息14.6%とは|計算方法と請求・支払いの手順で確認できます。

BPへ発注する側が確認したい5項目

自社が元請・上位としてBPに発注するときも、同じルールが自社にかかります。差し引いた覚えがなくても、支払いの仕組みに減額が含まれていることがあります。

  1. 振込手数料をBPの代金から差し引いていないか

  2. 「事務手数料」「協力金」など、注文書にない控除をしていないか

  3. エンドの値下げを、発注済みの月のBP代金に回していないか

  4. まとめ発注の割引を、書面で事前に決めているか

  5. 賠償金や弁償代を、金額の合意なしに相殺していないか

相手が個人のフリーランスなら別の法律も確認

相手が従業員のいない個人事業主や一人社長の会社なら、フリーランス法の「報酬の減額」も確認します。ここでは法人どうしの取引を中心にしています。個人への再委託はフリーランス法の報酬の減額は違反?SESで許される例外と相殺の扱いで事例別に解説しています。

チョータツで差し引きに気づける体制をつくる

差し引きに早く気づくには、案件ごとの単価や条件を、営業チームで同じ場所に残しておくことが一番です。Excelや個人のメールに散らばっていると、入金額を見ても正しいかすぐ判断できません。

チョータツは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールです。3,000社以上が利用しており、無料で始められます。

自分でやる方法チョータツを使うと
注文書のPDFを探して単価を確かめる案件の情報をまとめて管理・共有できる
担当者に聞かないと条件がわからないチームで同じ情報を見られる
条件が合わない取引先の代わりを探すのに時間がかかる他社と連携すると、営業中の案件・人材をデータベース化できる

減額を繰り返す取引先とは、取引を続けるかも考えどころです。代わりの案件を探す手段を持っておくと、交渉でも無理な条件をのまずにすみます。

よくある質問

Q. 下請法で相殺は禁止されていますか?
相殺そのものは禁止されていません。ただ、取適法の対象取引で、受ける側に責任がないのに相殺で代金を減らすと減額に当たります。
Q. 業務委託料の減額は、合意があれば違反になりませんか?
取適法の対象取引では、受ける側に責任がなければ、合意があっても減額は違反です。契約書に「歩引き5%」と書いていても違反とされています。
Q. 下請法で見積書からの値引きは違反ですか?
発注前の値引き交渉は減額ではありません。ただし、相場より著しく低い額を一方的に決めると買いたたきになりえます。発注後に値引きさせるのは減額です。
Q. 下請法でボリュームディスカウントは認められますか?
発注前に書面で条件を合意し、客観的な条件を満たす発注が実際にある場合は、減額に当たらないとされています。後から求める割引は減額です。
Q. 振込手数料を差し引かれるのは違反ですか?
取適法の対象取引なら、了解があっても減額に当たるとされています(公正取引委員会Q&A問99)。下請法時代とは扱いが変わった点に注意しましょう。
Q. 精算幅を下回って控除されたのも減額ですか?
契約で決めた精算幅と計算方法どおりの控除なら、減額ではありません。

まとめ

  • 下請法は2026年1月1日から取適法に変わり、減額の禁止は引き続きある

  • 取適法の対象取引では、受ける側に責任がない差し引きは、相殺でも名目があっても減額

  • 振込手数料の差し引きは、取適法では了解があっても減額になる扱い

  • 発注前の値引き、事前に書面で決めたボリュームディスカウント、契約どおりの精算幅の控除は減額ではない

  • 差し引かれたら、対象の確認→内訳を書面で聞く→是正の依頼→相談の順に進める

  • 発注する側としても、振込手数料・協力金・遡った値下げがないか確認する

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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