取適法で単価交渉の協議拒否は違反?一方的な代金決定のNG例と記録を残す交渉5ステップ

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

取適法の「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」とは?

「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」とは、価格協議の求めを無視して代金を決めることを禁じるルールのことです。説明をしないまま決めることも含みます。2026年1月1日から、取適法に新しく加わりました。

取適法とは、下請法を改正してできた法律の通称です。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。発注する側を委託事業者、受ける側を中小受託事業者と呼びます。

条文(第5条第2項第4号)の要点は、次の4つです。

要件条文の中身SESでの例
きっかけ費用の変動その他の事情が生じた人件費・採用費の上昇、業務範囲の拡大
受注側の行動代金の額について協議を求めた単価改定の申入れメールを送った
発注側の行動協議に応じない、または必要な説明・情報を出さない無視する、「予算がない」の一言で終える
結果一方的に代金の額を決めた前と同じ単価で注文書を出した

4つがそろうと、違反になるおそれがあります。ポイントは、結果の金額ではなく、話し合いの進め方(プロセス)を見るルールだということです。

「買いたたき」との違い

買いたたきとは、通常の対価より著しく低い代金を不当に決めることです(第5条第1項第5号)。買いたたきは「相場より著しく低いか」を比べる必要があり、証明の手間がかかりました。

新しいルールは、相場との比較がなくても、協議をしなかったこと自体を問題にできます。受注側にとっては、交渉の場を求めやすくなった変更です。

SESの単価交渉は取適法の対象になる?

SESの取引のうち、他社から受けた仕事の全部や一部を別の会社に出す取引は、取適法の対象になりえます。一方、エンド企業が自社で使うためだけに頼む取引は、対象外になる場合があります。

取適法の対象かどうかは、取引の種類と両社の規模の2つで決まります。SESでよく出てくる取引の種類は、次の2つです。

  • 役務提供委託とは、自社が仕事として提供するサービスの全部や一部を、他の会社に任せることです。

  • 情報成果物作成委託とは、自社が仕事として作るプログラムなどの作成を、他の会社に任せることです。

規模の基準(資本金・従業員数)

プログラム作成や情報処理の取引は、製造委託と同じ「3億円・300人」の基準を使います。それ以外の役務提供委託などは「5,000万円・100人」の基準です。

取引の中身発注側受注側
プログラム作成・情報処理資本金3億円超資本金3億円以下(個人を含む)
〃資本金1,000万円超3億円以下資本金1,000万円以下(個人を含む)
〃従業員300人超従業員300人以下
その他の役務・情報成果物資本金5,000万円超資本金5,000万円以下(個人を含む)
〃資本金1,000万円超5,000万円以下資本金1,000万円以下(個人を含む)
〃従業員100人超従業員100人以下

従業員数の基準は、2026年1月の改正で新しく加わりました。資本金が小さい発注側でも、従業員が多ければ対象になります。

自社が「発注側」になる場面もある

SES企業は、客先から見れば受注側ですが、BPから見れば発注側です。BPから単価改定の協議を求められたら、自社が協議に応じる義務を負う側になりえます。

取引ごとの判定の詳しい手順は、取適法でSESの準委任は対象?適用条件と営業の変更点7つで解説しています。対象になるかどうかの説明は、公正取引委員会のサイトや政府広報オンラインでも確認できます。

違反になりうるNG例5つ

違反になりうるのは、協議を求められた発注側が、無視や引き延ばしをしたまま代金を決める場合です。理由を言わずに決める場合も含みます。SESの単価改定で起きやすい5つの例を挙げます。

#発注側の対応問題になりうる理由
1単価改定の申入れメールに返事をせず、同じ単価で更新の注文書を出す協議に応じないまま代金を決めている
2「予算がないので無理」とだけ答え、それ以上の説明をしない必要な説明をしていない
3回答を先延ばしにし、更新日を過ぎてから同じ単価で確定させる実質的に協議に応じていない
4受注側が根拠を出したのに、一度も検討せず結論だけ伝える形だけで、協議に応じたとはいえない
5協議の途中で打ち切り、発注側が決めた単価で注文書を出す一方的に代金を決めている

どれも「最後の金額」ではなく、「決め方」に問題があります。実際に違反かどうかは、やりとり全体の事情で判断されます。個別の判断は、公正取引委員会の窓口や弁護士に確認してください。

取適法の対象外でも油断しない

取適法の対象外の取引でも、独占禁止法の優越的地位の濫用が問題になることがあります。優越的地位の濫用とは、取引上強い立場の会社が、その立場を使って相手に不当な不利益を与えることです。規模の基準に当てはまらないからといって、協議を断ってよいわけではありません。

違反にならない例4つ

協議にきちんと応じ、理由を説明したうえで決めた場合は、希望額より低い金額になっても違反にはなりません。公正取引委員会のよくある質問(Q134)でも、協議の結果として要求を受け入れないことは問題ないと説明されています。

#発注側の対応違反にならない理由
1協議の場を設け、根拠を聞いたうえで「5万円は無理だが2万円は上げる」と回答協議を行っている
2協議のうえ、予算の状況を数字で説明し、今回は据え置きと回答必要な説明をしている
3入札・せり上げなどの方式で代金を決めた個別の協議がなくても問題ないとされる(Q136)
4受注側から協議の求めがなく、前と同じ単価で更新した協議の求めがない

ただし4の場合でも、買いたたきや優越的地位の濫用が問題になることはあります。また、労務費の転嫁指針では、受注側から言われなくても発注側から協議の場を設けることが求められています。くわしくは労務費の価格転嫁指針をSESの単価交渉で使う方法|改定条項の例つきを読んでください。

受注側にとっての教訓は、「協議を求めた」という事実を自分から作ることです。求めていなければ、このルールは使えません。

記録を残す単価交渉の5ステップ

受注側が取適法を味方にするには、「協議を求めた」「相手がどう答えたか」を記録に残しながら進めることが大切です。公正取引委員会も、認識のずれを防ぐため、協議の求めや経過を記録に残すことを勧めています(よくある質問Q137)。

  1. 取引が対象かを確かめる:相手の資本金・従業員数と、取引の種類を確認します。相手の資本金は、登記情報や会社の公式サイトで確認できます。

  2. 根拠資料をそろえる:最低賃金の上昇率、自社の賃上げ額、市場の単価相場などを用意します。資料の選び方はSESの単価交渉のタイミング|更新の何か月前か・例文と資料5点にまとめています。

  3. メールで協議を申し入れる:希望額、理由、回答期限、協議の候補日を書きます。口頭で伝えた場合も、同じ内容をメールで送り直します。

  4. 協議の内容を議事メモに残す:日時、出席者、相手の回答と理由を書き、当日中に相手へメールで送って確認します。

  5. 結果を個別契約・注文書に反映する:合意した単価と開始月を注文書で受け取ります。据え置きの場合も、理由をメールで残します。更新日までに決まらないときの注文書の扱いは、単価未定のまま参画するときの仮単価|SESの取適法上の扱いで確認できます。

記録に残す項目チェックリスト

#残すこと残し方
1協議を求めた日と方法送信済みメールを保存
2希望額と理由・根拠資料添付ファイルごと保存
3相手の回答日と回答内容返信メールを保存
4協議の日時・出席者・発言議事メモを相手にも送る
5最終的な単価と決まり方注文書・注文請書を保存

記録は、担当者の机ではなく会社の共有フォルダに置きましょう。担当者が異動しても、次の交渉に使えます。

そのまま使える協議申入れのメール例文

協議の申入れメールには、「協議を求めていること」「希望額と理由」「回答期限」の3つをはっきり書きます。「ご検討ください」だけでは、協議を求めたと伝わりにくいためです。

例文1:単価改定の協議を申し入れる

例文・テンプレート
件名:【ご相談】2027年1月以降の単価改定に関する協議のお願い

株式会社〇〇
〇〇様

いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
弊社エンジニア(A氏)の2027年1月以降の契約について、
単価改定の協議をお願いしたく、ご連絡いたしました。

■ご相談内容
・現在の単価:月額600,000円
・ご相談したい単価:月額630,000円(2027年1月分から)

■理由
・令和8年度(2026年度)の改定で、東京都の最低賃金が1,226円から1,280円(4.4%)に上がります(2026年10月1日発効)
・弊社でも2026年度にエンジニアの賃上げを行い、労務費が上がっています
・A氏は2026年4月からリーダー業務を担当しており、業務範囲が広がっています

お手数ですが、10月16日(金)までにご回答をいただけますでしょうか。
あわせて、10月21日(水)ごろに30分ほど協議のお時間をいただけますと幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

例文2:返事がないときに再度お願いする

例文・テンプレート
件名:Re:【ご相談】2027年1月以降の単価改定に関する協議のお願い

〇〇様

株式会社△△の□□です。
10月5日(月)にお送りした単価改定の協議のお願いについて、
その後のご状況をうかがえますでしょうか。

契約更新の手続きの前に、一度お話しする場をいただきたく存じます。
10月23日(金)までに、ご都合のよい日時をお知らせください。

どうぞよろしくお願いいたします。

例文3:協議のあとに内容を確認する

例文・テンプレート
件名:本日の単価協議の内容確認(2026年10月21日)

〇〇様

本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
協議の内容を、次のとおり確認させてください。

・日時:2026年10月21日(水)14:00〜14:30
・出席:貴社 〇〇様、弊社 □□
・弊社のご相談:月額630,000円(2027年1月分から)
・貴社のご回答:予算の都合により、月額615,000円でご検討中
・次回:11月6日(金)までに最終のご回答をいただく

認識に違いがあれば、ご指摘ください。

例文の単価や日付は、自社の状況に合わせて変えてください。最低賃金の金額は、厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金全国一覧」の東京都の数字です(2026年9月30日確認)。東京都以外の会社は、同じ一覧で自社の都道府県の金額と発効日を確かめて書きかえてください。

協議を拒否されたときの対処法

協議を断られたり無視されたりしたときは、まず相手の窓口を変えて記録を残し、それでも進まなければ公的な窓口に相談します。いきなり申告するより、段階を踏んだほうが取引関係を保ちやすいです。

  1. 担当者の上長や購買部門に同じ内容を送る:現場担当者が判断できないだけのこともあります。

  2. 取適法の条文を添えて、協議の場を改めて求める:「法律の趣旨に沿って協議をお願いしたい」と丁寧に伝えます。

  3. 公的な窓口に相談する:記録をそろえて相談します。

  4. 申告する:違反の疑いが強い場合は、公正取引委員会に申告できます。

相談窓口と申告先

窓口できること連絡先
公正取引委員会の相談窓口(フリーダイヤル)取引先からの不当な扱いの相談。最寄りの担当窓口につながる0120-060-110(10:00〜17:00、土日祝日・年末年始を除く)
公正取引委員会の取適法相談窓口法律の解釈の相談、違反の申告各地方事務所(関東甲信越は03-3581-3375)
中小企業庁・事業を所管する省庁指導・助言、申告の受付各省庁の窓口
商工会議所・商工会身近な相談先地域の商工会議所・商工会

違反を国に知らせたことを理由に、取引を減らしたり止めたりすることも禁止されています(第5条第1項第7号)。知らせる先は、公正取引委員会・中小企業庁長官・事業を所管する大臣です。違反が認められると、公正取引委員会は代金の引上げなどを勧告します(第10条)。

窓口の最新の受付時間は、公正取引委員会のサイトで確認してください(2026年9月30日確認)。

自社がBPから単価改定を求められたときの注意点

BPから単価改定を求められたら、自社が発注側として協議に応じ、理由を説明する立場になります。「客先が上げてくれないから」と黙って据え置くのは避けましょう。

  • 返事の期限を決めて、必ず協議の場を持つ:受け入れられなくても、協議したことが大切です。

  • 据え置くなら、理由を具体的に伝える:「客先単価が変わらず、粗利が〇%を下回るため」など、数字で説明します。

  • 客先への改定交渉とセットで考える:BPの申入れは、客先に単価アップを求める根拠にもなります。

  • やりとりを記録する:受注側のときと同じく、メールと議事メモで残します。

BPへの伝え方の例は、SESの仕入れ単価のBP交渉|関係を壊さない伝え方と例文5つにまとめています。客先から逆に値下げを求められた場合は、SESの単価を下げたいと言われたら?減額交渉の対応6ステップを参考にしてください。

チョータツで「市場の単価」を交渉の根拠にする

単価交渉では、最低賃金などの公的データに加えて、「今、市場でいくらで動いているか」を示すと説得力が増します。自分で集めるなら、BPから届く案件メール・人材メールの単価を、Excelに書き写して比べる方法があります。

ただ、届くメールを1通ずつ読んで転記するのは、時間がかかります。チョータツを使うと、この作業を楽にできます。

場面自分でやる場合チョータツを使う場合
市場の単価を集める届いたメールをExcelに転記他社と連携すると、他社の営業中案件・営業中人材がデータベースになる
自社の案件・人材を整理するファイルがばらばら案件・人材の情報を管理・共有できる。AIが入力を手伝う
自社の情報を届けるBCCで一斉送信パートナーへのメール配信機能で届ける

チョータツは3,000社以上が利用している、SES営業のための案件・人材の管理・共有ツールです。無料で始められます。

こんな会社に向いています

  • 単価交渉の根拠を、毎回ゼロから集めている

  • BPから届く案件・人材の情報を、見比べる時間がない

  • 営業ごとに単価の感覚がばらばらで、会社として説明できない

よくある質問

Q. 取適法で、単価交渉の協議を断るのは違反ですか?
受注側が協議を求めたのに、協議に応じず一方的に代金を決めると、違反になるおそれがあります(第5条第2項第4号)。取引が取適法の対象であることが前提です。
Q. 協議したうえで単価アップを断られたら、違反ですか?
それだけでは違反になりません。協議に応じ、必要な説明をしたうえで要求を受け入れないことは許されています。問題になるのは、協議や説明をしないまま決めることです。
Q. SESの客先が大手企業なら、必ず取適法の対象になりますか?
必ずではありません。エンド企業が自社で使うためだけに頼む取引は、対象外になる場合があります。取引の種類と両社の資本金・従業員数で判断します。
Q. 取適法の違反はどこに相談・申告できますか?
公正取引委員会の窓口(0120-060-110)や取適法相談窓口に相談・申告できます。中小企業庁や事業を所管する省庁も窓口です。申告を理由に取引を減らすことも禁止されています。
Q. 相手が個人のフリーランスの場合も同じですか?
資本金の基準では個人も受注側に含まれるため、取適法の対象になる場合があります。あわせてフリーランス法も関わるので、両方の義務を確認してください。

まとめ

  • 取適法は、協議を求められたのに応じず、一方的に代金を決めることを禁止した(2026年1月1日施行)

  • 見られるのは金額ではなく「決め方」。協議して希望額を断るのは違反ではない

  • SESでは、受けた仕事を他社に出す取引が対象になりえる。プログラム作成は3億円・300人の基準

  • 受注側は、メールで協議を申し入れ、回答期限・根拠・議事メモを残す

  • 断られたら、窓口を変える→条文を添えて再依頼→公的窓口に相談、の順で進める

  • BPから求められたときは、自社が協議に応じる側になる

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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