下請法違反のSES事例|勧告から学ぶ買いたたき・減額・支払遅延と価格協議の議事メモの型
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
下請法と取適法とは?SES営業に関係する理由
下請法とは、発注する会社が、立場の弱い受注側の会社に不利な取引を押しつけないよう定めた法律のことです。2026年1月1日に改正され、取適法(中小受託取引適正化法)に名前が変わりました。発注する側は「委託事業者」、受ける側は「中小受託事業者」と呼ばれます。
SES営業に関係するのは、SES企業が受ける側にも、出す側にもなるからです。エンドや元請けから仕事を受け、その一部をBP(ビジネスパートナー、取引先の会社)に再委託します。BPに出す取引では、自社が義務を負う「委託事業者」になることがあります。
取適法の対象になる条件(資本金・従業員数の基準)は、取適法でSESの準委任は対象?適用条件と営業の変更点7つで判定表にしています。ここでは、違反の事例と、記録の残し方に絞って解説します。違反したときの罰則や手続きの流れは、下請法違反の罰則は?勧告・公表の流れとSES企業の再発防止策で扱っています。
公取委の勧告・指導の件数とIT業界の位置
取適法(下請法)違反への対応は、重い順に勧告と指導の2つがあります。勧告とは、公取委が違反した会社に直すよう求め、社名と内容を公表する処分のことです。指導は、社名を公表せずに改善を求めるものです。
公取委が2026年6月10日に公表した2025年度の運用状況は、次のとおりです。
| 項目 | 2025年度の件数・金額 |
|---|---|
| 勧告 | 39件 |
| 指導 | 8,261件 |
| 受注側に返金などをさせた額 | 25億5,698万円相当 |
| 返金などを受けた受注側の数 | 5,165名 |
勧告39件の中身は、「不当な経済上の利益の提供要請」が31件で最も多く、減額と返品が6件ずつでした。
役務委託等では情報サービス業が約2割
役務委託等とは、プログラムなどの情報成果物の作成や、サービスの提供を任せる取引のことです。公取委の同じ資料では、役務委託等で勧告・指導を受けた2,926件のうち、情報サービス業は662件(22.6%)でした。業種別では、情報サービス業を含む情報通信業が907件(31.0%)で最も多くなっています。SESの開発や運用の再委託は、この「情報サービス業」に含まれる取引です。
2020年度から2026年度の勧告一覧には、ソフトウェア開発そのものの勧告はほとんどありません(2026年9月30日に当研究所が確認)。つまりIT取引の違反は、公表されない指導の段階で数多く直されていると読めます。社名が出ないから違反がない、とは考えないようにしましょう。
ソフトウェア業の実態調査でも同じ問題が指摘されている
公取委は2022年6月29日に、ソフトウェア業の取引の実態調査を公表しました。資本金3億円以下の約2万1,000社が対象です。報告書では、多重下請構造の中で買いたたきや、仕様変更への無償対応が起きていることへの懸念が示されました。
「違反行為に該当すると考えられる経験」を聞いた設問では、買いたたきが15.7%、減額が13.5%でした。商流が深くなりがちなSESは、この問題の中心にいると考えておくべきです。商流の問題はSESの多重下請け構造とは?図解と問題点、何次請けが平均かでくわしく解説しています。
情報成果物・役務の委託で勧告された3つの事例
SESに近い「情報成果物の作成」や「役務の提供」の委託でも、勧告は出ています。ここでは、SES取引に置きかえやすい3件を紹介します。社名は公取委の公表どおりに記載します。
| 公表日 | 取引の内容 | 違反の種類 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 2024年11月12日 | 雑誌の記事作成・写真撮影の委託 | 買いたたき | 十分な協議なく単価を約6.3〜39.4%引き下げ |
| 2024年10月25日 | 動画用イラスト・2D/3Dモデル作成の委託 | 不当なやり直し | 受け取った後に無償のやり直しを243回 |
| 2021年6月23日 | 携帯電話サービスの説明・勧誘の委託 | 減額 | 評価が基準未満だと遡って値引き、約5,661万円 |
事例1:十分な協議なく単価を一律に下げた(買いたたき)
株式会社KADOKAWAは、2023年1月に「原稿料改定のお知らせ」を出しました。そして受注側と十分な協議を行うことなく、発注単価を約6.3%〜約39.4%引き下げると一方的に決めました。対象は26名の受注側です。
公取委は、単価を通常支払われる対価より著しく低くない額まで引き上げ、さかのぼって適用するよう勧告しました。
SESに置きかえると、「来期から全BPの単価を一律5%下げます」と通知だけで決めるケースです。「お知らせ」を送っただけでは、協議をしたことになりません。
事例2:受け取った後に無償でやり直させた(不当なやり直し)
カバー株式会社は、VTuber動画に使うイラストや2D・3Dモデルの作成を委託していました。受け取った後に、発注書の仕様からは必要とわからないやり直しを、23名に243回、無償でさせていました。支払いの遅れもあり、29名に遅延利息115万2,642円の支払いも生じています。
SESでは、準委任でも成果物を納める案件で起きやすい問題です。「検収後にお客さんから追加の修正が来たので、無償で対応して」とBPに頼む場面が当てはまります。
事例3:評価が低いと遡って代金を差し引いた(減額)
株式会社ティーガイアは、携帯電話サービスの説明や申込みの勧誘を8名の受注側に委託していました。3か月ごとの業務評価が基準に届かないと、その期間の代金から遡って値引きしていました。減額の合計は5,660万9,388円です。
SESに置きかえると、「稼働の評価が低かったので、先月分から協力金として差し引く」というケースです。発注の後に、契約にない理由で代金を減らすことは、名目にかかわらず減額に当たります。
SES取引で起きやすい違反①:買いたたき
買いたたきとは、通常の対価より著しく低い代金を、発注する側が不当に決めることです。公取委は、対価の決め方(十分に協議したか)、同じような仕事の相場との差、人件費などコストの動きを総合して判断します。
SESの現場で起きやすい例は、次の4つです。
エンドから単価を10万円下げられたので、BPの単価も相談なしに10万円下げる
BPから人件費上昇を理由に値上げを求められたのに、理由を示さず据え置く
見積もりより作業範囲が大きく広がったのに、最初の単価のまま発注する
「この単価でなければ他社に切り替える」と、指値(発注側が決めた値段)を押しつける
2026年1月からは、協議に応じない一方的な代金の決定も禁止されました(取適法第5条第2項第4号)。買いたたきのように「相場より著しく低い」ことを示さなくても、協議をしなかったこと自体が問題になります。くわしくは取適法で単価交渉の協議拒否は違反?一方的な代金決定のNG例と対処法で解説しています。
一方で、協議をして理由を説明したうえで、希望額どおりに上げないことは違反ではありません。大事なのは結論よりも、協議をした過程を残すことです。
SES取引で起きやすい違反②:減額
減額とは、発注した後に、受注側の責任ではない理由で代金を減らすことです。受注側が了解していても、違反になります。名目が「協力金」「歩引き」「手数料」でも同じです。
| SESでよくある場面 | 違反になりうるか | 理由 |
|---|---|---|
| エンドの値下げを、同じ月のBP代金にさかのぼって反映 | なりうる | 発注済みの代金を後から減らしている |
| 「今期の協力金」として支払額から一律で差し引く | なりうる | 名目が違っても減額に当たる |
| 振込手数料をBPの代金から差し引く | なる | 合意の有無にかかわらず減額(運用基準) |
| 注文書で決めた精算幅を下回った分を控除 | なりにくい | 決めた計算方法どおりの支払い |
精算幅とは、月の稼働時間の上限と下限のことです。注文書で決めた計算方法による控除は、減額に当たらないと考えられます。ただし、契約にない端数の切り捨てや、下限を後から変える扱いは問題になりえます。場面ごとの判定は下請法の禁止事項11個|SESの減額・買いたたき・発注取消の例で表にしています。
受ける側として減額を求められたときの対応は、SESの単価を下げたいと言われたら?減額交渉の対応6ステップにまとめています。
SES取引で起きやすい違反③:支払遅延
支払遅延とは、決めた支払期日までに代金を全額払わないことです。取適法では、支払期日は役務の提供を受けた日から60日以内で、できるだけ短く決める必要があります。
毎月続く準委任では、運用基準の条件を満たせば、月の締め日を役務の提供を受けた日として数えられます。10月分なら、締め日の10月31日(土)を1日目として、60日目は12月29日(火)です。
| 10月分の支払条件 | 支払日 | 判定 |
|---|---|---|
| 月末締め翌月末払い | 11月30日(月) | 60日以内 |
| 月末締め翌々月末払い | 12月31日(木) | 60日を超える |
支払いが遅れると、年14.6%の遅延利息を払う義務があります。2026年1月からは手形での支払いも禁止されました。支払サイトの計算は取適法の支払期日60日とSESの支払サイト|計算例と手形禁止でくわしく解説しています。
価格協議の記録はなぜ必要か
価格協議の記録は、発注側にとっても受注側にとっても、協議をした事実を示す唯一の証拠になるからです。取適法で「協議に応じない一方的な決定」が禁止され、協議の有無が問われるようになりました。
公取委のよくある質問(Q&A)も、協議の求めや経過について両者の認識がずれないようにする大切さを示しています。そのためには、記録に残る方法でやりとりすることが欠かせません。口頭の電話だけで終わらせると、後で「言った・言わない」になります。
立場ごとに、記録が役立つ場面は次のとおりです。
| 立場 | 記録が役立つ場面 |
|---|---|
| BPに発注する側 | 「協議に応じ、理由を説明した」ことを示せる |
| エンド・元請けから受ける側 | 「協議を求めたのに応じてもらえなかった」ことを示せる |
また取適法では、発注した側に取引の記録を作って2年間保存する義務があります。注文書・稼働報告・支払いの記録に、協議の議事メモもあわせて保存しておくと安心です。
価格協議の議事メモの型とメール例文
議事メモとは、話し合いの日時・参加者・内容・結論を短くまとめた記録のことです。価格協議の議事メモは、次の6項目で作ります。
| # | 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|---|
| 1 | 日時・方法 | 2026年10月14日(水)15:00〜15:30、オンライン |
| 2 | 出席者 | 自社:営業部長、担当営業/相手:営業責任者 |
| 3 | 申入れの内容 | 11月契約分から月額単価を65万円→70万円に |
| 4 | 根拠 | 人件費の上昇、スキルの向上、同じ職種の相場 |
| 5 | 回答と理由 | 68万円で合意。70万円はエンド単価の上限のため不可 |
| 6 | 次の予定 | 11月契約の注文書を10月20日(火)までに送付 |
議事メモのひな形
そのまま使える議事メモのひな形です。
【価格協議 議事メモ】 案件名:〇〇システム運用保守(担当エンジニア:△△) 日時:2026年10月14日(水)15:00〜15:30(オンライン) 出席者: 株式会社□□(発注側)営業部長 ◇◇、営業 ◆◆ 株式会社〇〇(受注側)営業責任者 ▽▽ 申入れ:受注側より、11月契約分から月額単価を65万円→70万円に改定したい 根拠:①エンジニアの給与改定(10月より)②担当範囲に監視設計が追加 発注側の回答:68万円で合意。70万円はエンドとの契約単価の上限を超えるため 対応できない。次回更新(2027年2月契約分)で再度協議する 決定事項:11月契約分から月額68万円(精算幅140〜180時間は変更なし) 次の予定:10月20日(火)までに発注側が11月契約の注文書を送付 記録者:◆◆(10月14日作成)
議事メモを送るメール例文
議事メモは、協議した当日中に相手へメールで送り、内容の確認をお願いします。相手が返信で了承すれば、両者が同じ内容を認めた記録になります。
件名:【議事メモ】10月14日 単価改定のご協議(〇〇システム運用保守) 株式会社〇〇 ▽▽様 本日はお時間をいただき、ありがとうございました。 株式会社□□の◆◆です。 本日のご協議の内容を、下記のとおりまとめました。 認識の違いがございましたら、10月16日(金)までに ご返信いただけますと幸いです。 ・改定後の単価:11月契約分から月額68万円 ・70万円に届かない理由:エンドとの契約単価の上限のため ・次回の協議:2027年2月契約分の更新時 ・注文書:10月20日(火)までにお送りします 引き続きよろしくお願いいたします。
議事メモでやってはいけないこと
結論だけを書く:「据え置き」だけでは協議した証拠になりません。理由を必ず書きます。
自社のファイルに置いたまま相手に送らない:一方だけの記録は、認識のずれを防げません。
担当者の個人フォルダに保存する:担当が替わると探せません。会社の共有の場所に置きます。
SES営業が違反を防ぐ5つの手順
違反を防ぐには、発注前・協議・支払いの3つの場面にルールを作るのが近道です。営業責任者が進めるなら、次の5つの手順で整えます。
BPとの取引を洗い出す:直近6か月に発注したBPと、単価・支払条件を一覧にします。
取適法の対象かを判定する:自社とBPの資本金・従業員数を確認し、対象の取引に印をつけます。
支払条件を60日以内にそろえる:翌々月末払いや手形払い、振込手数料の差し引きをやめます。
単価の変更は「次の契約期間から」に決める:発注済みの月にさかのぼって下げないルールにします。
価格協議は必ず議事メモを残す:6項目の型を社内で共有し、当日中に相手へ送ります。
値上げの根拠づくりは、労務費の価格転嫁指針をSESの単価交渉で使う方法|改定条項の例つきが参考になります。
チョータツで案件の条件をそろえて管理する
違反の多くは、案件ごとの単価や条件を、担当者しか把握していないことから起きます。条件がExcelやメールに散らばると、「いつから、いくらで、どんな根拠で決めたか」がすぐにわかりません。
| 場面 | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 案件の条件を確認する | メールやExcelを探して確認 | 案件情報を1か所で管理し、提案前に確認 |
| チームで共有する | 担当者ごとにファイルがばらばら | 案件・人材の情報をチームで共有 |
| 情報を入力する | 1件ずつ手で転記 | AIが入力を手伝う |
| BPに情報を届ける | BCCでメールを一斉送信 | メール配信機能でパートナーに配信 |
チョータツは、3,000社以上が使うSES営業向けの案件・人材の管理・共有ツールです。無料で始められます。他社と連携すると、他社の営業中案件・営業中人材をデータベースにできます。
ただし、取適法の判定や議事メモの作成、注文書の発行は、自社で行う必要があります。チョータツは、その前提になる案件と条件の情報をチームでそろえておくために使いましょう。
よくある質問
- Q. SESの取引で下請法(取適法)違反になった事例はありますか?
- ソフトウェア開発そのものの勧告は、2020年度以降の公表一覧ではほとんどありません。ただし2025年度は、役務委託等で勧告・指導を受けた2,926件のうち、情報サービス業が662件ありました。公表されない指導の段階で、多くの違反が直されています。
- Q. エンドから値下げされた分を、BPの報酬から減額してもいいですか?
- 発注済みの月の代金を後から減らすと、減額に当たるおそれがあります。単価を変えるなら、BPと協議したうえで、次の契約期間から適用するのが基本です。
- Q. 買いたたきと「協議に応じない一方的な代金決定」の違いは何ですか?
- 買いたたきは、相場より著しく低い代金を不当に決めることです。協議に応じない一方的な代金決定は、協議の求めに応じないまま代金を決めることです。後者は、相場より低いかを示さなくても問題になります。
- Q. 取適法の価格協議の記録は、どう残せばいいですか?
- 日時・出席者・申入れ内容・根拠・回答と理由・次の予定の6項目で議事メモを作ります。協議した当日中に相手へメールで送り、内容を確認してもらいます。
- Q. 協議したうえで値上げを断るのは違反ですか?
- 協議に応じ、理由を説明したうえで希望額を受け入れないことは、それだけでは違反になりません。断った理由を議事メモに残しておきましょう。
- Q. 下請法違反で勧告されるとどうなりますか?
- 公取委が社名と違反内容を公表し、返金や再発防止を求めます。発注内容を伝えない場合や、記録を作らない場合は、50万円以下の罰金の対象にもなります。
まとめ
2025年度の取適法(下請法)の勧告は39件、指導は8,261件だった
役務委託等で勧告・指導を受けた2,926件のうち、情報サービス業は662件(22.6%)
IT取引の違反は公表されない指導の段階で多く直されている。社名が出ないから安全ではない
SESで起きやすいのは、買いたたき・減額・支払遅延の3つ
2026年1月から、協議に応じない一方的な代金決定も禁止された
価格協議は6項目の議事メモにまとめ、当日中に相手へメールで送る
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)」(第5条 委託事業者の遵守事項、第6条 遅延利息、第7条 書類の保存)
公正取引委員会「令和7年度における取適法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組」(2026年6月10日、本文PDF:役務委託等の業種別件数)
公正取引委員会「取適法の運用基準」(振込手数料の差し引き、継続的な役務の受領日)
公正取引委員会「取適法(下請法)勧告一覧」
公正取引委員会「株式会社KADOKAWA及び株式会社KADOKAWA LifeDesignに対する勧告について」(2024年11月12日)
公正取引委員会「カバー株式会社に対する勧告について」(2024年10月25日)
公正取引委員会「株式会社ティーガイアに対する勧告について」(2021年6月23日)
公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書について」(2022年6月29日、概要PDF)
公正取引委員会「委託事業者の禁止行為」
公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」
政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」