フリーランス法の報酬の減額は違反?精算幅の控除・振込手数料・相殺をSESの事例11個で○×判定

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

フリーランス法の「報酬の減額」とは?

報酬の減額とは、フリーランスに責任がないのに、発注したときに決めた報酬を後から減らして支払うことです。フリーランス法の第5条第1項第2号で禁止されています。

フリーランス法とは、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」のことです。2024年11月1日に施行されました。公正取引委員会は、協賛金の徴収や原材料価格の下落など、名目や方法、金額にかかわらず減額は禁止されると説明しています。

この禁止がかかるのは、次の3つがそろう取引です。

条件内容SESでの例
発注する側従業員を使うか、役員が2人以上いる会社など(特定業務委託事業者)社員のいるSES企業
受ける側従業員を使わない個人・一人社長(特定受託事業者)個人事業主のエンジニア
期間1か月以上の業務委託(更新で1か月以上になるものも含む)3か月ごとに更新する準委任契約

特定受託事業者とは、従業員を使わずに1人で仕事を受ける個人や、代表者1人だけの法人のことです。以下では「フリーランス」と呼びます。期間の「1か月」は、フリーランス法の施行令第1条で決められています。

対象になるかの細かい判定は、フリーランス法の適用対象は法人も?一人社長・従業員の判定で解説しています。

SESの減額 ○×判定表【事例11個】

SESの現場で迷いやすい差し引きのうち、振込手数料・管理費・途中の値下げ・さかのぼりの値下げは減額に当たります。一方、最初に決めた計算どおりの精算幅の控除や、次の契約からの値下げは、減額には当たらないと考えられます。

#ケース判定理由・根拠
1発注書に書いた精算幅どおりに、稼働不足分を控除する○決めた計算方法どおりの報酬だから
2精算幅を書いていないのに「稼働が少ない」と差し引く×決めていない理由で報酬を減らしている
3合意のうえで、振込手数料を報酬から差し引く×合意の有無を問わず減額(Q&A 問30・問78)
4フリーランスの都合で振込先を変えたので、手数料の全額を差し引く×増えた分を超える差し引きは減額(Q&A 問78)
5エンドに値下げされたので、今月分から単価を下げる×自社の都合による減額(公取委パンフレットの例)
6新しい単価を、合意前の稼働分にさかのぼって使う×遡及適用は減額(公取委パンフレットの例)
7次の契約から、話し合って合意のうえ単価を下げる○決めた報酬を後から減らすものではない。買いたたきに注意
8計算の途中で端数を切り捨て、合計で1円を超えて減る×不合理な端数処理は減額(Q&A 問77)
9「協力金」「管理費」として一定の割合を差し引く×名目を問わず減額(公取委パンフレットの例)
10合意した立替金の返済分を、報酬と相殺する△報酬とは別の、額が確定したお金の精算
11貸与PCの紛失を理由に、自社で決めた賠償額を差し引く×責任や額に争いがあるまま減らすと、減額と見られるおそれ

○は「問題にならない」、×は「減額に当たる、または当たるおそれがある」、△は「条件しだい」という意味です。一つずつ、SESの営業が気をつける点を説明します。

精算幅による控除は減額になる?

精算幅による控除は、発注書で計算方法を示し、そのとおりに計算していれば減額には当たらないと考えられます。報酬の「決め方」そのものが、稼働時間に応じて増減する形だからです。

精算幅とは、月の稼働時間の下限と上限を決め、その範囲を外れたら報酬を増減させるルールのことです。たとえば「140〜180時間」なら、140時間を下回った分が控除、180時間を超えた分が超過として精算されます。控除とは、決めたルールに従って報酬から差し引くことです。

反対に、次の3つは減額と見られるおそれがあります。

  • 発注書に精算幅を書かず、月末に「少なかったので」と差し引く

  • 契約の途中で、下限を140時間から150時間に上げる

  • 月額固定と決めたのに、休んだ日の分を日割りで差し引く

月額固定なのに差し引く例は、エンジニアが休みを取った月に起きがちです。

控除の計算例

月額65万円、精算幅140〜180時間、控除単価は「月額÷下限時間」で決めていたとします。2026年10月の稼働が132時間だった場合の計算です。

  1. 控除単価:650,000円÷140時間=4,642円(1円未満切り捨て)

  2. 不足時間:140時間−132時間=8時間

  3. 控除額:4,642円×8時間=37,136円

  4. 支払額:650,000円−37,136円=612,864円

ここからさらに振込手数料を差し引くと、その分は減額です。計算方法の選び方はSESの精算幅を下回ったら?控除の計算方法と有給・固定の扱いで詳しく解説しています。

振込手数料の差し引きは減額になる?

振込手数料を報酬から差し引くことは、フリーランスと合意していても減額に当たります。公正取引委員会などのQ&Aの問30と問78で、「合意の有無に関わらず」問題になると示されています。

以前は、書面で合意し、実費の範囲なら差し引いても問題ないとされていました。2025年10月1日に解釈が改められ、2026年1月1日以降は合意の有無を問わず禁止です。古いひな形のまま「振込手数料は乙の負担とする」と書いている発注書は、見直しが必要です。

フリーランスの都合で振込先を変えた場合は、Q&A問78により、変更で増えた手数料の分だけは本人に負担してもらえます。もとの手数料まで差し引くと減額です。

振込手数料は、実際に勧告の対象になっています。2026年8月26日には、家電の運送・設置を委託していた事業者が勧告を受けました。フリーランス138名の報酬から、実際の振込手数料を超える額を差し引き、計481,031円を減額していたものです。この事業者は、勧告の前に全額を返金していました(公正取引委員会の発表)。

公表された勧告の傾向は、フリーランス法の違反と罰則|勧告・公表の事例と営業の注意点にまとめています。

相殺の扱い:報酬から差し引いてよいもの・いけないもの

相殺とは、お互いに払うお金があるとき、その金額を差し引きで帳消しにすることです(民法505条)。相殺そのものは民法で認められた方法です。ただしフリーランス法では、差し引いた結果が「報酬を減らしている」と見られないかが問題になります。

判断の分かれ目は、差し引くお金が、報酬とは別の、額が確定したお金かどうかだと考えられます。SESで出てきやすい例を整理します。

差し引くお金判定の目安営業がやること
フリーランスに前渡しした交通費などの返済分問題になりにくい前渡しの額と返済方法を書面で合意しておく
源泉徴収する所得税問題にならない報酬額と源泉徴収後の支払額を分けて示す
貸与PCや入館証の紛失の賠償金減額と見られるおそれ責任と額を話し合い、合意してから精算する
客先からのクレームによる「ペナルティ」減額と見られるおそれ報酬からは引かず、契約の条項に沿って別に協議する

源泉徴収とは、報酬を払う側が所得税を先に差し引き、本人の代わりに国に納める仕組みのことです。法律で決められた手続きなので、報酬を減らすものではありません。SESの開発・インフラの報酬は、原則として源泉徴収の対象外です(所得税法204条1項に列挙がない)。

賠償金を一方的に差し引くのが危ない理由は、フリーランスに本当に責任があるか、額が妥当かを自社だけで決めているからです。フリーランス法が減額を認めるのは、フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合に限られます。争いがあるまま差し引くと、この例外に当たらないと判断されるおそれがあります。

貸与PC紛失の初動と費用負担は、SESで客先の貸与PCを紛失したら|最初の1時間の報告と費用負担で解説しています。

減額が許される例外:「フリーランスの責めに帰すべき事由」とは

減額が許されるのは、フリーランスに責任がある理由で、決めた内容どおりの仕事が提供されなかった場合だけです。フリーランス法の条文は「特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに」減額することを禁止しています。

SESの準委任契約では、稼働時間に応じた精算で報酬が決まることがほとんどです。そのため、フリーランスが稼働しなかった分は、精算幅の計算の中で反映されます。精算とは別に「責任があるから」と上乗せで差し引く場面は、多くありません。

判断に迷うときは、次の3点を確認しましょう。

  1. フリーランスに責任があることを、記録で示せるか

  2. 差し引く額が、実際の損害や作業の不足に見合っているか

  3. 差し引く前に、フリーランスに説明して合意を得ているか

1つでも「いいえ」なら、報酬からは差し引かず、別に話し合うのが安全です。禁止行為の全体はフリーランス法の禁止行為7つ|SESの減額・返品・やり直し例にまとめています。

途中の値下げ・さかのぼりの値下げは減額になる

契約の途中で単価を下げることや、下げた単価を過去の稼働にさかのぼって使うことは、減額に当たります。エンドや上位の会社から値下げされたという理由でも、フリーランスへの報酬は変えられません。

たとえば、月額70万円で12月末まで契約しているフリーランスがいるとします。エンドから値下げされたので、11月分から65万円に下げると、11月と12月で計10万円の減額です。

単価を見直すなら、次の更新のときに、フリーランスと話し合って決めます。Q&Aの問75では、算定方法の変更で下げた額をすでに発注済みの仕事に使うと減額になるとしています。変更後に発注する仕事なら減額ではありません。ただし、下げ幅が大きすぎると買いたたきになるおそれがあります。買いたたきとは、通常の相場より著しく低い報酬を不当に決めることです。

自社が上位から値下げを求められたときの交渉は、SESの単価を下げたいと言われたら?減額交渉の対応6ステップを見てください。

単価が未定のまま参画させ、あとで決めた単価が想定より低かったという揉め方もあります。その場合の書き方は、単価未定のまま参画するときの仮単価|SESの取適法上の扱いで確認できます。

発注書(3条通知)に書くべき一文

減額トラブルを防ぐには、発注書に精算の計算方法と「それ以外では差し引かない」ことを書いておくのが一番です。フリーランス法では、発注するときに報酬の額などを書面やメールで示す義務があります。

3条通知とは、発注時に仕事の内容や報酬の額、支払期日などをフリーランスに示す書面やメールのことです。フリーランス法第3条で決められています。精算幅を使うなら、ここに計算方法まで書きます。

例文・テンプレート
【報酬の額】月額 650,000円(消費税別)
【精算方法】基準時間 140時間〜180時間
・140時間を下回った場合:650,000円÷140時間=4,642円(1円未満切り捨て)を
 1時間あたりの控除単価とし、不足時間×控除単価を差し引く
・180時間を超えた場合:650,000円÷180時間=3,611円(1円未満切り捨て)を
 1時間あたりの超過単価とし、超過時間×超過単価を加える
・稼働時間は、1か月の合計を15分単位で計算する
【支払期日】毎月末日締め、翌月末日払い
【振込手数料】当社が負担する
【差し引き】この精算と法律に基づく源泉徴収以外の理由で、報酬から差し引くことはない。
 立替金など報酬以外の精算は、別途、書面で合意したうえで行う。

端数の処理は、合計額で1回だけ行うようにしましょう。計算の途中で何度も切り捨てると、Q&Aの問77で問題とされる形になります。ひな形の全体はフリーランス法の3条通知ひな形|SESの発注書・メール記載例にあります。

減額してしまったときの対応5ステップ

減額に当たる差し引きをしていたと気づいたら、まず差し引いた額を洗い出して返金します。返金していても勧告が行われた例があるため、仕組みの見直しまでセットで行いましょう。

  1. 差し引いた額を洗い出す:いつから、何人に、いくら差し引いたかを一覧にします。振込手数料なら、2026年1月1日以降は全額、それより前は実費を超えた分を確認します。

  2. フリーランスに返金する:差し引いた額を、次の支払日を待たずに振り込みます。振込手数料は当社で負担します。

  3. 本人に説明する:何を差し引いていたか、いつ、いくら返金するかを、メールで伝えます。

  4. 発注書と支払いのルールを直す:3条通知のひな形に、振込手数料と差し引きの一文を加えます。経理にも共有します。

  5. 記録を残す:洗い出した一覧、返金の記録、直した発注書を保存します。

公取委の運用状況によると、令和7年度(2025年度)のフリーランス法の措置は、指導1,542件、勧告10件でした。勧告に従わないと命令、命令に違反すると50万円以下の罰金です。

チョータツで、案件ごとの精算条件を確認してから発注する

減額トラブルの多くは、上位との契約条件と、フリーランスへの発注書の食い違いから起きます。上位の精算幅が140〜180時間なのに、フリーランスには書いていない、といったケースです。

自分でやる場合は、案件ごとに上位の注文書を開き、フリーランス向けの3条通知と見比べます。案件が増えると、どの条件で受けたかをメールやExcelから探すだけで時間がかかります。

チョータツとは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールのことです。3,000社以上が使っていて、無料で始められます。

場面自分でやる場合チョータツを使う場合
案件の条件を残すメールやExcelに散らばる案件・人材の情報をまとめて管理・共有できる
提案前に条件を確かめる注文書を探して読み返す案件の情報を見て、提案前に条件を確認できる
情報を入力する1件ずつ手で入力するAIが入力を手伝う

案件ごとに単価や精算幅、支払い条件を残しておけば、フリーランスに発注するときに同じ条件で3条通知を作れます。チームで共有しておくと、担当者が替わっても条件の食い違いに気づきやすくなります。

よくある質問

Q. フリーランス法の報酬の減額は、合意があれば許されますか?
フリーランスに責任がないのに、決めた報酬を後から減らすことは、合意があっても減額に当たりえます。振込手数料は、合意の有無にかかわらず減額になるとQ&Aの問78で示されています。
Q. フリーランス法で、報酬と相殺することはできますか?
前渡しした交通費の返済など、額が確定した別のお金を合意のうえで相殺するなら、問題になりにくいと考えられます。自社で決めた賠償額を一方的に差し引くと、減額と見られるおそれがあります。
Q. 精算幅で稼働不足分を控除するのは、減額の違反ですか?
3条通知で精算幅と控除の計算方法を示し、そのとおりに計算していれば、減額には当たらないと考えられます。書いていない控除や、途中で計算方法を変えることは避けましょう。
Q. 振込手数料をフリーランスに負担してもらうことはできますか?
報酬から差し引く形ではできません。Q&Aの問30では、合意の有無にかかわらず、差し引きは減額として問題になるとされています。発注側の負担と3条通知に書いておきましょう。
Q. エンドから値下げされたら、フリーランスの報酬も下げていいですか?
契約期間の途中で下げると減額に当たります。見直すなら次の更新のときに、フリーランスと話し合って決めましょう。
Q. フリーランス法の減額に違反すると、どうなりますか?
公正取引委員会から、減らした額の支払いなどを求める勧告を受けます。勧告は社名とともに公表されています。勧告に従わないと命令、命令に違反すると50万円以下の罰金です。

まとめ

  • フリーランス法では、フリーランスに責任がないのに、決めた報酬を後から減らすことは禁止。名目や金額は問わない

  • 振込手数料の差し引き、「管理費」の差し引き、途中やさかのぼりの値下げは減額

  • 精算幅の控除は、3条通知に計算方法を書き、そのとおり計算すれば減額に当たらないと考えられる

  • 相殺は、額が確定した別のお金を合意のうえで精算するなら問題になりにくい。一方的な賠償金の差し引きは避ける

  • 発注書に「この精算と源泉徴収以外では差し引かない」「振込手数料は当社負担」と書いておく

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)