SES契約を一方的に解除されたら損害賠償は請求できる?民法651条の判定表と対応
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
SES契約の「一方的な解除」とは?まず契約の種類を確かめる
SES契約の一方的な解除とは、契約期間の途中で、相手の同意なしに契約を終わらせることです。営業の現場では「急な契約終了」「中途解約」「切られた」とも呼ばれます。
解除のルールは、契約の種類で変わります。SES契約の多くは準委任契約です。準委任契約とは、「作業そのもの」を任せる契約で、成果物の完成までは約束しない契約のことです。民法656条により、委任契約のルール(民法643条〜655条)がそのまま使われます。
| 契約の種類 | 一方的な解除のルール | 根拠 |
|---|---|---|
| 準委任契約(SESの多く) | どちらからでもいつでも解除できる。不利な時期なら賠償 | 民法651条 |
| 請負契約 | 注文者は完成前ならいつでも解除できる。ただし損害は賠償 | 民法641条 |
| 労働者派遣契約 | 派遣先の都合で解除するときは、新しい仕事の確保などの措置が必要 | 労働者派遣法29条の2 |
この記事では、SESで一番多い準委任契約を前提に説明します。請負の開発案件を途中で打ち切られた場合は「システム開発契約の解除|請負で途中解約されたら費用は請求できる?」、派遣契約なら「派遣契約の解除|派遣先が講ずべき措置と派遣元の交渉6手順」で解説しています。
民法より契約書が先
民法651条は、契約で別の決まりを作れば、そちらが優先される規定だと考えられています。そのため、実務で最初に見るのは契約書です。
確認する条項は次の3つです。
個別契約書(注文書)の契約期間:いつまでの契約か。自動更新か
解約予告の条項:「解約する場合は1か月前までに通知する」などの日数
中途解約・損害賠償の条項:途中で解除したときの報酬の扱いや賠償の上限
契約書に「1か月前までに書面で通知すれば中途解約できる」とあるとします。上位企業がその期間を守っている限り、損害賠償を求めるのは難しくなります。反対に、この予告期間を守らない解除なら、交渉の材料になります。予告期間の数え方と違約金条項は「業務委託の中途解約の違約金|何ヶ月前に通知か民法と条項例で解説」にまとめています。
民法651条のルール:解除は自由、ただし賠償が必要な場合がある
民法651条は、準委任契約は「いつでも解除できる」としつつ、2つの場合に解除した側が損害を賠償すると定めています。2020年4月の民法改正で、この形に整理されました。
| 条文 | 内容 | SESでの意味 |
|---|---|---|
| 651条1項 | 各当事者は、いつでも解除できる | 上位企業も自社も、途中で契約を終わらせられる |
| 651条2項1号 | 相手方に不利な時期に解除したら賠償 | 急すぎる解除は、賠償の対象になりうる |
| 651条2項2号 | 受任者の利益(報酬だけを除く)も目的とする委任を解除したら賠償 | 「報酬がもらえる」だけではこれにあたらない |
| 651条2項ただし書き | やむを得ない事由があれば賠償不要 | 要員の重大な契約違反などが理由なら賠償しなくてよい |
ポイントは2つあります。1つ目は、「残りの契約期間の報酬が全部もらえなくなった」ことが、そのまま損害になるわけではない点です。賠償の対象は、一般に「その時期に解除されたこと」で生じた損害と考えられています。
2つ目は、解除は将来に向かってだけ効く点です(民法652条・620条)。解除の日までに働いた分の報酬は、民法648条3項により、履行した割合に応じて請求できます。途中解除と報酬の考え方は「SESの途中解除でも支払い義務はある?稼働分の報酬と日割り計算例」でも解説しています。
「相手に不利な時期」の判定表:営業現場の例で考える
「相手に不利な時期」とは、解除された側が、自分で代わりの手を打つ時間がない時期のことです。SES営業に当てはめると、次の案件や代わりの要員を探す時間があったかが基準になります。
法律に「何日前なら大丈夫」という日数は書かれていません。そこで、営業の現場でよくある場面を、当研究所の目安として表にしました。最終的な判断は、契約内容や業界の慣行、個別の事情で変わります。
| 場面(上位企業からの通告) | 通告から終了まで | 不利な時期の目安 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 11月30日(月)に「今日で終了」 | 0日 | あたりやすい | 次の案件を探す時間がまったくない |
| 11月30日(月)に「11月末で終了、12月から来なくてよい」 | 実質1日 | あたりやすい | 翌月1日の前日で、12月の稼働先を探せない |
| 11月16日(月)に「11月末で終了」 | 約2週間 | 条件しだい | 契約書の予告期間より短ければ交渉材料になる |
| 10月30日(金)に「11月末で終了」 | 約1か月 | あたりにくい | SESで多い「1か月前予告」の慣行を満たす |
| 契約書の予告期間(例:2か月前)どおりの通告 | 約2か月 | あたりにくい | 契約で決めたルールを守っている |
| 要員の重大な契約違反が理由の即日解除 | 0日 | 賠償不要になりうる | 「やむを得ない事由」にあたる可能性がある |
表を使うときの注意点は、「月途中の終了」も不利になりやすいことです。SESの案件は、多くが月初から始まります。10月15日(木)に終わると、10月後半は次の現場に入りにくく、待機が生まれやすくなります。
「不利な時期」を主張するときに集める証拠
不利な時期だったと伝えるには、事実を記録しておくことが大切です。次の4つを残しましょう。
通告された日時と方法(メール・電話・口頭。電話や口頭ならメモと、あとで送る確認メール)
契約書の予告期間(個別契約書・基本契約書のコピー)
解除の理由として言われた内容(「予算削減」「プロジェクト中止」など)
その後の待機期間と、次の案件を探した記録(提案した案件、面談の日程)
請求できる損害の目安と計算例
請求を検討できるのは、急な解除によって実際に生じた損害です。よく候補になるのは、次の案件が決まるまでの待機で失った売上や、要員に払う休業手当などです。
計算例で考えてみます。
月額単価80万円、要員は自社の正社員
11月30日(月)に「11月末で終了」と通告された
契約書の解約予告は「1か月前まで」
次の案件は12月21日(月)から決まった
| 項目 | 金額の考え方 | 例 |
|---|---|---|
| 11月分の報酬 | 働いた分なので全額請求できる | 80万円 |
| 予告期間不足分 | 1か月前予告なら12月末まで契約が続いたはず | 最大で12月分80万円が交渉の上限の目安 |
| 実際の待機損失 | 12月1日〜20日の空白 | 約3週間分 |
| 要員の休業手当 | 平均賃金の60%以上の支払いが自社に発生 | 実額を集計 |
交渉では、いきなり満額を求めるより、「予告期間の不足分」または「実際の待機分」を根拠に話すほうが通りやすいです。相手も「契約書どおりでなかった」と認めやすいからです。
なお、自社の正社員が待機になった場合は、休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いが必要です(労働基準法26条)。待機中の給与の考え方は「SESの待機期間の給与と対応|休業手当の計算例と早く案件に入る7手順」で解説しています。
上位企業から一方的に解除されたときの対応6ステップ
急な契約終了を告げられたら、感情的に反論する前に、次の順番で動きます。
通告内容を書面で確認する:「終了日」「理由」「11月分の精算」をメールで送り返し、記録に残します。
契約書を確認する:予告期間と中途解約条項を読みます。予告期間を守っているかがわかります。
要員とBPに連絡する:終了日と今後の流れを、同じ日のうちに伝えます。
次の案件探しを始める:通告の当日から動きます。月初スタートの案件に間に合わせるためです。
補償・予告期間の延長を相談する:「終了日を延ばせないか」「待機分を補ってもらえないか」を交渉します。
合意内容を書面に残す:終了日・精算額・補償の有無を、合意書またはメールで確定させます。
営業としてまず目指すのは、終了日を後ろにずらしてもらうことです。損害賠償の請求より、関係を保ったまま待機を減らせるからです。
交渉メールの例文
件名:【ご確認】〇〇案件の契約終了日について
株式会社〇〇
〇〇様いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
11月30日にお電話でいただいた、〇〇案件の11月末での契約終了について確認させてください。個別契約書第〇条では、解約は1か月前までのご通知となっております。
弊社としては、12月1日以降の稼働先を探す期間がない状況です。つきましては、契約終了日を12月末としていただくか、12月分の待機期間についてご相談させていただけないでしょうか。
ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
BPへの補償はどうする?下流への説明と注意点
上位企業から切られたとき、自社の下にいるBPとの契約も、自社から途中で終わらせることになります。このとき自社が「解除する側」になるので、民法651条の賠償の話は、今度は自社に向きます。
基本の考え方は、上から受けた扱いを、下にもそのまま伝えることです。上位から予告期間どおりの通告を受けたなら、BPにもすぐ同じ期間で伝えます。
| 立場 | 上位から切られた時の扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| BPが法人 | 契約書の予告期間を守って通知する | 上からの通告を受けたら、当日中に伝える |
| BPが個人フリーランス(6か月以上の継続契約) | 原則30日前までの予告が必要 | フリーランス法16条。更新しない場合も対象。上位契約の解除で再委託の仕事の大部分が不要になった場合などは例外(厚労省の施行規則4条2号) |
| 自社の正社員 | 待機中は休業手当が必要 | 労働基準法26条。解雇の話とは別 |
なお、フリーランス法の30日前予告には例外があります。上位との契約が解除され、再委託していた仕事の大部分が不要になった場合などです。すぐに解除する必要があると認められれば、予告は不要とされています(厚生労働省関係のフリーランス法施行規則4条2号)。ただし、例外にあたるかは個別に判断されるため、上からの通告を受けたらできるだけ早くBPに伝えましょう。
上位から切られた当日にBPへ送る連絡の例文
件名:【ご連絡】〇〇案件の終了について(株式会社△△)
株式会社〇〇 〇〇様
本日11月16日(月)、エンド様の予算見直しにより、〇〇案件が11月30日(月)で終了となると上位から連絡がありました。
貴社〇〇様との個別契約の予告期間(1か月前)に足りないため、扱いをご相談させてください。
弊社でも上位に終了日の延長を求めており、結果は11月18日(水)までにお伝えします。
〇〇様の12月以降の案件も、あわせて探し始めております。
上位との交渉が終わる前でも、事実と今後の予定だけは当日中にBPへ伝えます。
上位企業から補償を受けられた場合は、その金額をもとにBPへどこまで補償するかを決めます。上から何ももらえず、下にだけ補償する形になると、自社の赤字になります。基本契約書で「上位契約が終了した場合の取り扱い」を決めておくと、この板ばさみを防げます。
フリーランスへの予告の例外や通知例文は「フリーランス法の中途解約は30日前予告|例外と通知例文を解説」で解説しています。
契約書で予防する:次の契約で入れておきたい4つの条項
一方的な解除のトラブルは、契約を結ぶときの条項でかなり防げます。次の契約更新のタイミングで、次の4点を確認しましょう。
解約予告期間:「1か月前まで」などの日数を、上位・BPの両方で同じにそろえる
予告期間不足の扱い:「予告期間に満たない場合は、不足日数分の委託料を支払う」と決める
月途中終了の精算:日割りか、時間精算か、月額のままかを決める
上位契約終了時の連動条項:BP契約に「上位契約が終了した場合の予告と補償」を書く
次の案件を早く探す:自分でやる方法とチョータツで楽にする方法
一方的な解除で一番の損害は、待機が長引くことです。賠償の交渉と同時に、次の案件探しを通告当日から始めましょう。
自分でやるなら、次の順番がおすすめです。
取引のある上位企業・BPに、要員のスキルシートと稼働開始日をメールで一斉に送る
届いている案件メールを見直し、条件の合う案件に提案する
過去に面談まで進んだ案件の担当者に、空きが出ていないか連絡する
ただ、案件メールは1日に何百通も届くことがあり、急いで探すほど見落としが出ます。
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よくある質問
- Q. SES契約を一方的に解除されたら、残りの契約期間分の報酬を全部請求できますか?
- 通常は難しいです。民法651条の賠償は「不利な時期に解除されたこと」による損害が対象です。予告期間の不足分や、実際の待機分を根拠に交渉するのが現実的です。
- Q. 準委任契約の中途解約で、損害賠償が必要になるのはどんな時ですか?
- 相手に不利な時期に解除した時と、受任者の利益(報酬だけを除く)も目的とする契約を解除した時です(民法651条2項)。やむを得ない事由があれば賠償は不要です。
- Q. 業務委託の中途解約は、民法では何日前に通知すればよいですか?
- 民法に日数の決まりはありません。まず契約書の予告期間に従います。相手が個人のフリーランスで6か月以上の継続契約なら、フリーランス法で原則30日前までの予告が必要です。
- Q. 客先から急に契約終了と言われたら、まず何をすればいいですか?
- 通告内容をメールで確認して記録に残し、契約書の予告期間を確かめます。そのうえで要員・BPに連絡し、次の案件探しを当日から始めます。
- Q. 上位から切られたとき、BPにも補償しないといけませんか?
- 自社がBPとの契約を途中で解除する立場になるため、不利な時期なら賠償が問題になりえます。上からの通告をすぐBPに伝え、予告期間をできるだけ確保することが大切です。
- Q. 月途中で契約終了になった場合、その月の報酬はどうなりますか?
- 働いた分は請求できます(民法648条3項)。日割りか時間精算かは、個別契約書の精算条項で決まります。
まとめ
SESの準委任契約は、民法651条でいつでも解除できます。ただし不利な時期の解除は賠償が必要になりえます。
判断は、まず契約書の予告期間と中途解約条項から。民法はその次です。
月末前日の通告や即日終了は、不利な時期にあたりやすいです。通告日・契約書・待機の記録を残しましょう。
交渉では、満額請求より終了日の延長や予告期間不足分を求めるほうが現実的です。
上位から切られたら、BPへの通知と補償も同時に考えます。フリーランスには30日前予告のルールがあります。
一番の損害は待機です。通告当日から次の案件探しを始めましょう。
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「民法」(第620条・第641条・第648条・第651条・第652条・第656条)
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)」(第13条・第16条)
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令」(第3条:継続的業務委託の期間は6か月)
e-Gov法令検索「厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」(第4条:解除予告の例外)
e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(第29条の2)
e-Gov法令検索「労働基準法」(第26条)