SESの内示キャンセルで請求できる?段階別の判断基準とエンジニア・BPへの伝え方
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
SESの「内示」とは?契約との違い
内示とは、顧客が「この人に参画してもらう予定です」と、正式な発注の前に伝えることです。 SESでは、面談に通った後、注文書が出る前に「内示です」と連絡が来る流れがよくあります。
内示は、法律で決まった言葉ではありません。そのため、内示だけで契約が成立したとは言いにくいのが基本です。
民法では、契約は「申込み」と「承諾」がそろえば成立し、書面は必ずしも必要ありません(民法第522条)。ただしSESの実務では、基本契約書で「個別契約は注文書と注文請書で成立する」と決めていることが多いです。この場合、注文書・注文請書のやりとりの前は、契約はまだ成立していないと考えるのが自然です。
| 言葉 | 意味 | 契約は成立している? |
|---|---|---|
| 内示 | 正式発注の前の「発注予定」の連絡 | 原則として未成立 |
| 注文書 | 顧客からの正式な発注(申込み) | 注文書だけでは未成立のことが多い |
| 注文請書 | SES企業が注文を受けると返す書類(承諾) | 注文書とそろえば成立 |
注文書と注文請書の関係は「SESの注文書・注文請書は必要?違いと成立時点|条文例3つ」でくわしく解説しています。見積書だけで稼働が始まった場合の契約成立は「業務委託で契約書なしは有効?注文書前に稼働する時の対策」で整理しています。
内示の段階別:請求できる可能性の目安
請求できる見込みは、話の進み具合で大きく変わります。 下の表は、営業が自社の状況を当てはめるための目安です。実際の判断は、契約書の文言とやりとりの記録で変わります。
| 段階 | 状況の例 | 請求の見込み | 主な考え方 |
|---|---|---|---|
| ① 口頭の内示だけ | 電話で「たぶん決まりです」 | 低い | 約束があったことを示す証拠が弱い |
| ② メールで内示 | 「10月1日から参画でお願いします」とメール | やや低い〜中 | 契約締結上の過失を主張できる余地がある |
| ③ 開始準備まで進んだ | 入館申請・PC手配・顔合わせ日程まで決定 | 中 | 顧客が「発注する」と強く信じさせた事情になる |
| ④ 注文書・注文請書が済んだ | 書類のやりとり完了後の取り消し | 高い | 契約は成立済み。解除と損害賠償の問題になる |
表の①〜③は「契約前」、④は「契約後」の話です。④だけは考え方がまったく別なので、次の2つのセクションで分けて説明します。
契約締結上の過失とは?内示キャンセルとの関係
契約締結上の過失とは、相手に「契約できる」と信じさせたのに、正当な理由なく交渉を打ち切った側が負う賠償責任のことです。 民法の条文に直接の名前はありません。民法第1条2項の「信義誠実の原則(信義則)」をもとに、裁判例で認められてきた考え方です。
最高裁も、1984年(昭和59年)9月18日の判決でこの責任を認めています。契約の準備段階で相手に期待を持たせ、交渉を打ち切った側の賠償責任です。
信義則とは、「取引の相手をだますような、不誠実なふるまいをしてはいけない」という民法の基本ルールのことです。
内示キャンセルに当てはめると、次の3点がそろうほど、請求が認められやすくなります。
顧客が確実に発注すると信じさせた(「決定です」「開始日は10月1日です」など、はっきりした言葉がある)
その言葉を信じて、自社が準備や出費をした(ほかの案件を断った、入館手続きをした、など)
取り消しに、正当な理由がない(予算超過や社内事情など、顧客側だけの都合)
反対に、内示に「正式決定は注文書の発行をもって」「社内決裁前」などの言葉があれば、約束はしていないと見られやすくなります。
「予算超過」「プロジェクト中止」は正当な理由になる?
予算超過やプロジェクト中止は、顧客側の都合なので、それだけで「正当な理由」とされるとは限りません。 ただし、内示の段階で「予算が通れば」などの条件が示されていた場合は、話が変わります。条件付きの内示なら、条件が満たされなかったことは想定内と見られやすいからです。
請求できるお金の範囲
契約前の段階(①〜③)で請求できるのは、多くの場合「契約できると信じたために出た損害」です。
| 請求しやすいもの | 請求しにくいもの |
|---|---|
| 入館手続き・機材準備などで実際に払った費用 | 予定していた契約期間の売上全額 |
| ほかの案件を断ったことがはっきりわかる分の損失 | 「もっと良い案件があったかも」という推測 |
| BPへの支払いが発生した場合の実費 | 精神的な負担への慰謝料 |
「予定していた売上の全額」は、契約が成立していた場合の考え方です。契約前の段階では、認められにくいと考えておきましょう。
注文書・注文請書の後のキャンセルは「契約の解除」
注文書と注文請書のやりとりが済んだ後の取り消しは、成立した契約の解除です。 この場合は、基本契約書と個別契約書の「中途解約」「解約予告」の条項をまず確認します。
SESの多くは準委任契約です。民法第651条では、準委任契約はどちらからでもいつでも解除できます。ただし、相手に不利な時期に解除した場合などは、やむを得ない事情がない限り、損害を賠償しなければなりません(同条2項)。一方的な解除での請求の目安は「SES契約の一方的な解除で損害賠償は?民法651条と請求の目安」で詳しく解説しています。
契約書に「1か月前までに予告」とあるのに、開始直前に取り消された場合は、予告期間分の支払いを求める交渉の材料になります。日割りの計算例と請求メールは「業務委託の中途解約の違約金|何ヶ月前に通知か民法と条項例で解説」を参考にしてください。
内示キャンセルを受けたときの対応6ステップ
キャンセルの連絡を受けたら、感情的に反論せず、まず事実と証拠を集めます。 請求するかどうかは、そのあとで決めても遅くありません。
理由と時期を確認する:「いつ・誰が・なぜ」決めたのかを顧客に聞き、メールで返事をもらいます。
証拠を保存する:内示のメール、開始日を決めたやりとり、入館申請の記録などを1つのフォルダにまとめます。
契約書を確認する:基本契約書の「個別契約の成立」「中途解約」の条項を読みます。
損害を計算する:実際に払った費用と、断った案件の記録を一覧にします。
エンジニアとBPに連絡する:その日のうちに事実を伝えます(例文は次のセクション)。
請求か、次の取引での配慮かを決める:金額と今後の取引を比べて、営業責任者と方針を決めます。
顧客に理由と費用負担を確認するメール例文
件名:□□様の参画見送りについてのご確認(株式会社△△)
株式会社〇〇 〇〇様
いつもお世話になっております。株式会社△△の××です。
本日ご連絡いただいた、10月1日(木)開始予定の□□様の参画見送りの件で、確認させてください。
見送りのご判断の理由と、ご判断の日
9月15日のメールで「10月1日から参画でお願いします」とご連絡いただいた点との関係
入館申請・PC手配で弊社が負担した費用(〇〇円)の扱い
弊社としては、今後も貴社とのお取引を続けたいと考えております。
10月2日(金)までにメールでご回答いただけますと幸いです。
「損害賠償」という言葉は最初のメールでは使わず、事実の確認と費用の相談から入ると、話し合いが進みやすくなります。
請求する前に比べたいこと
請求は、取引が続く相手との関係を悪くすることがあります。 次の3つを比べてから決めましょう。
| 比べること | 請求を優先しやすい場合 | 関係を優先しやすい場合 |
|---|---|---|
| 損害の大きさ | BPへの支払いなど実費が大きい | 実費がほぼない |
| 顧客との取引量 | 今回かぎりの取引 | 毎月いくつも案件をもらう主要顧客 |
| 証拠の強さ | 「決定です」とメールで明言 | 口頭のみ、条件付きの内示 |
現場では、請求の代わりに交渉で落ち着くことも多いです。たとえば「次の案件で優先して提案させてほしい」「今回の準備費用だけ負担してほしい」と伝えます。金額が大きい場合や相手が応じない場合は、弁護士に相談しましょう。
エンジニア・BPへの連絡例文
連絡は、キャンセルがわかったその日に、理由と今後の動きをセットで伝えます。 「次の案件をすぐ探す」ことを先に伝えると、相手の不安が小さくなります。
自社エンジニアへの連絡例文
〇〇さん、お疲れさまです。営業の△△です。
10月1日(木)から参画予定だった□□社の案件の件です。
本日9月29日(火)、先方から「予算の見直しで参画を見送りたい」と連絡がありました。
ご準備いただいていたのに、申し訳ありません。
すでに次の案件探しを始めています。明日9月30日(水)の15時に、希望の条件を15分ほど確認させてください。
BP(パートナー企業)への連絡例文
株式会社〇〇 △△様
いつもお世話になっております。株式会社□□の××です。
ご提案いただいた□□様の件で、ご報告です。
10月1日(木)開始で内示をいただいていましたが、本日9月29日(火)、エンド側から参画見送りとの連絡がありました。理由は予算の見直しです。
弊社としても大変残念に思っております。経緯のメールは、必要であれば共有いたします。
□□様にふさわしい別案件を、弊社でも引き続きお探しします。10月2日(金)までに、候補があればご連絡します。
BPへの連絡で気をつけたいこと
顧客の社内事情を、必要以上に書かない(秘密保持の約束に反することがあります)
自社が請求するかどうかを、確定前に約束しない
BPから費用の請求があった場合に備え、自社とBPの契約書も確認する
反対に、エンジニア本人が参画決定後に辞退した場合は、自社が謝る側です。対応は「SESで参画決定後にエンジニアが辞退したら|客先への連絡と代替要員」で解説しています。
次の案件を早く探す方法
内示キャンセルの損害をいちばん小さくする方法は、空いた期間(待機)をできるだけ短くすることです。 待機中も自社エンジニアの給与は発生します。待機中の給与の扱いは「SESの待機期間の給与と対応|休業手当の計算例と早く案件に入る7手順」で解説しています。
自分でやる方法
スキルシートを更新する:直前の面談で評価された点を書き足します。
過去に断った案件に連絡する:内示を理由に断った案件が、まだ空いていないか確認します。
取引先へ一斉に紹介する:「即日稼働できます」と書いて、パートナーへメールします。
面談の感想を次に生かす:通過した面談の質問と回答を、次の提案で使います。
チョータツで楽にする方法
チョータツは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールです。 3,000社以上が利用していて、無料で始められます。
パートナー企業と連携すると、相手の営業中案件・営業中人材がデータベースになります。空いたエンジニアに合う案件を、メールを1通ずつ読まずに探せます。
メール配信機能で、空いた要員の情報をパートナーへまとめて届けられます。
AIが入力を手伝うので、スキルシートの内容を登録する手間も減らせます。
BPの要員が抜けた案件側を埋めるなら
反対に、自社の案件で「BPの内示が取り消された」ときは、代わりの人材が必要になります。フリーランスに直接声をかけたい場合は、xhoursが使えます。企業がITフリーランスに直接スカウトでき、数千名のフリーランスのデータベースから探せます。
内示キャンセルを防ぐための4つの予防策
予防の基本は、「内示」と「正式発注」の境目をはっきりさせることです。
内示の時に「注文書の発行日」を聞く:日付を決めてもらうと、発注の見込みが確かめられます。
内示の内容をメールで残す:口頭の内示は、「本日のお電話の内容の確認です」とメールで送ります。
ほかの案件を断る前に一呼吸おく:注文書が出るまで、並行で話を止めすぎないようにします。
基本契約書に取り消しのルールを入れる:「発注後の取り消しは実費を負担する」などの条項を交渉します。
基本契約書の条項は「SESの基本契約書とは|テンプレートと個別契約の優先・印紙7号」で確認できます。
よくある質問
- Q. SESで内示をもらった後にキャンセルされたら、必ず請求できますか?
- 必ずではありません。口頭の内示だけなら、請求はかなり難しいのが普通です。メールで「決定」と明言され、準備費用などの実損があるほど、請求しやすくなります。
- Q. 「予算超過」を理由にした参画の取り消しでも、請求できますか?
- 内示に「予算が通れば」などの条件がなければ、請求を検討する余地はあります。ただし請求できるのは、多くの場合、実際に出た損害までです。
- Q. 注文書は届いたが、注文請書はまだ返していません。契約は成立していますか?
- 基本契約書で「注文請書の交付で成立」と決めている場合は、まだ成立していないことが多いです。まず基本契約書の成立に関する条項を確認しましょう。
- Q. BPの要員の内示が取り消されたら、BPから請求されることはありますか?
- あります。自社がBPに「決定です」と伝え、BPが準備をしていれば、自社が請求される側になることもあります。BPには、確定前の段階であることをはっきり伝えましょう。
- Q. 内示キャンセルで空いた期間、エンジニアの給与はどうなりますか?
- 自社で雇っているエンジニアには、待機中も給与や休業手当の支払いが必要になることがあります。早く次の案件に入ることが、損を小さくする近道です。
まとめ
内示は原則として契約ではありません。請求できるかは、話の進み具合と証拠で決まります。
注文書・注文請書が済んでいれば、契約の解除として契約書の条項で考えます。
契約前でも、確実な発注を信じさせて取り消した場合は、契約締結上の過失で実損を請求できることがあります。
請求より先に、エンジニアとBPへの連絡と次の案件探しを同時に進めます。
再発防止には、注文書の発行日の確認と内示内容のメール記録が効きます。
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「民法」(第1条2項 信義誠実の原則、第415条 債務不履行による損害賠償、第522条 契約の成立と方式、第651条 委任の解除、第656条 準委任)