業務委託で契約書なしは有効?SESで締結前に稼働する時の契約成立|揉める5つの例とメールで残す12項目
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
Q1. 業務委託で契約書なしでも、契約は有効ですか?
有効です。 契約は、申込みと承諾がそろえば、口頭でもメールでも成立します。契約書がないという理由だけで、契約がなかったことにはなりません。
業務委託契約とは、自社の仕事の一部を外部の会社や個人に任せる契約のことです。SESでよく使う準委任契約とは、「作業そのもの」を任せ、完成までは約束しない業務委託のことです。
民法第522条は、契約の成立を次のように定めています。
| 条文 | 内容(やさしく言いかえ) |
|---|---|
| 第522条第1項 | 契約は、申込みに対して相手が承諾したときに成立する |
| 第522条第2項 | 法令に特別な定めがなければ、書面を作らなくても契約は成立する |
たとえばBPとの電話で「来月から〇〇さんで」「承知しました」と話せば、その時点で契約になる可能性があります。問題は、何を約束したかを後から証明できないことです。
→ 用語をおさらいするなら 業務委託とは?意味と種類|SES営業が押さえる準委任と請負の違い
Q2. 注文書なしで稼働したら、契約は成立していますか?
注文書がなくても、次の3つの場面では契約が成立したと扱われる可能性があります。SES営業がよく出会う場面に当てはめて整理します。
申込みとは、契約の内容を示して「この内容で契約したい」と申し入れることです。承諾とは、その申込みに「その内容で引き受けます」と答えることです。見積書を送っただけでは、契約は成立しません。見積書そのものの効力や有効期限は、見積書とは?法的効力と有効期限、必要事項9つにまとめています。
| 場面 | 何が「承諾」になるか | 根拠の条文 |
|---|---|---|
| 1. メールやチャットで了承 | 「この見積でお願いします」の返信 | 民法第522条 |
| 2. 見積の条件で稼働が始まった | 稼働の受け入れなどの事実 | 民法第527条 |
| 3. いつもの取引先が返事をしない | 返事をしないこと | 商法第509条 |
1. メールやチャットで「お願いします」と返ってきた
相手の「この見積でお願いします」という返信は、承諾の証拠になります。見積書が申込みにあたる内容なら、その返信が届いた時点で契約が成立しえます。
チャットの「OKです」「それで進めてください」も同じです。ただし、何に対するOKなのかがわかるよう、見積番号や単価が同じ画面に残っていることが大切です。
2. 見積の条件のまま稼働が始まった
返事がなくても、見積の条件で稼働が始まれば、契約が成立したと見られる場合があります。民法第527条は、承諾の通知が要らない場合、承諾と認めるべき事実があった時に契約が成立すると決めています。
SESでは、客先が入場を受け入れ、入館証やアカウントを用意する事実がそれにあたりえます。稼働報告を受け取ることも同じです。ただし、どの条件で成立したかは、見積書と相手の行動を合わせて判断されます。単価で争いになると、証拠の少ない側が不利になります。
3. いつもの取引先が見積に返事をしない
商法第509条では、商人が平常取引をする相手から申込みを受けたら、遅滞なく諾否を返す必要があります。返さないと、申込みを承諾したものとみなされます。
株式会社どうしで何度も取引しているSESの客先・BPは、これにあてはまる可能性があります。ただし「平常取引」「営業の部類」にあたるかは個別に判断されます。この条文をあてにせず、承諾の返信をもらうほうが確実です。
契約の内容があいまいでも、報酬がゼロになるとは限らない
単価が決まらないまま働いた場合でも、報酬をまったく請求できないとは限りません。商法第512条は、商人が営業の範囲で他人のために行為をした時、相当な報酬を請求できると決めています。
ただし「相当な報酬」がいくらかは、あとから争うことになります。見積の単価どおりに払ってもらうには、やはり承諾の証拠が必要です。
Q3. では、契約書の法的効力とは何ですか?
契約書の法的効力とは、「こういう約束をした」と後から証明する力のことです。 契約そのものを生み出すのは合意で、契約書はその合意の証拠です。
契約書があると、次の3つが変わります。
言った・言わないがなくなる:単価、精算幅、支払日が文字で残る
民法の原則と違う約束ができる:損害賠償の上限や解約の予告期間など、決めておかないと民法の原則に戻る
揉めたときに裁判で使える:双方の署名・押印(電子契約を含む)がある書面は、証拠として強い
特に2つ目が大事です。契約書がないと、「決めていないこと」はすべて民法の原則で判断されます。民法の原則は、SESの商習慣と合わない場面が多くあります。具体例はQ5で紹介します。
Q4. 契約書なしが「違反」になるのはどんなときですか?
取適法またはフリーランス法の対象になる発注で、条件を書面やメールで明示しないと違反になります。 契約自体は有効でも、発注側に義務違反の責任が生じます。
取適法とは、2026年1月1日に下請法を改正して施行された法律のことです。フリーランス法とは、個人で働くフリーランスに発注する事業者のルールを定めた法律のことです。対象は、従業員のいない個人や、社長1人だけで他に役員も従業員もいない会社です。
| 法律 | どんな発注が対象か | 発注側の義務 | 口頭だけの発注 |
|---|---|---|---|
| 取適法 | 資本金や従業員数に差がある会社どうしの発注(SESの開発・運用は資本金3億円・1,000万円、従業員300人の区分) | 委託したら直ちに、内容・代金・支払期日などを明示(第4条) | 違反になりうる |
| フリーランス法 | 従業員のいない個人・社長1人だけで従業員のいない会社への発注 | 委託したら直ちに、内容・報酬・支払期日などを明示(第3条) | 違反になりうる |
| どちらにも当たらない | 同じくらいの規模の会社どうし | 法律上の明示義務はない | 違反ではないが揉めやすい |
2026年1月からの取適法では、相手の承諾がなくても電子メールで明示できるようになりました。「書面を作る時間がない」は理由になりません。メール1通で義務を果たせます。
取適法では、明示をしないと50万円以下の罰金の対象になることがあります(第14条)。取引の記録を作り、2年間保存する義務もあります(第7条と公正取引委員会の規則)。自社とBPが対象かどうかは 取適法でSESの準委任は対象?適用条件と営業の変更点7つ で確かめてください。個人のエンジニアへの発注は フリーランス法の3条通知ひな形|SESの発注書・メール記載例 が使えます。
フリーランス法の「直ちに明示」と「業務委託をした日」
取引条件の明示とは、仕事の内容・報酬・支払期日などを、発注する側が相手にはっきり伝えることです。フリーランス法(2024年11月1日施行)の第3条で定められています。
明示の方法は書面か電磁的方法(メール、チャット、SNSのメッセージなど)で、口頭だけは認められません(公正取引委員会の案内)。明示する主な項目は次の9つです。
給付の内容(作業内容)
報酬の額
支払期日
発注者とフリーランスの名称
業務委託をした日
役務の提供を受ける日(期間)
役務の提供を受ける場所
検査をする場合は、検査を完了する日
現金以外で支払う場合は、支払方法に必要な事項
公正取引委員会のQ&Aでは、業務委託をした日とは「業務を頼むことに合意した日」とされています。契約書を交わした日ではありません。つまり、面談後に「11月2日からお願いします」と合意した日が起点です。その日のうちに、少なくとも条件のメールを送るのが安全です。
正当な理由があって報酬の一部などが決められない場合は、決まっていない理由を書いたうえで、決まっている項目を先に伝えます。決まったら、直ちに追加で伝えます。
受注側と発注側で義務が違う
同じ「先に稼働」でも、自社の立場によって意味が変わります。
| 自社の立場 | 義務 | やること |
|---|---|---|
| 上位から仕事を受ける側 | 明示の義務はない | 条件確認メールを送り、返信をもらう |
| BP(法人)に出す側 | 取適法の対象なら直ちに明示 | 注文書かメールで条件を送る |
| 個人のエンジニアに出す側 | フリーランス法で直ちに明示 | 9項目をメールなどで送る |
なお、フリーランス法の対象は、従業員を使っていない個人事業主だけではありません。代表者1人だけで従業員がいない法人(いわゆる一人社長のBP)も対象です。法人だからと明示を省かないよう注意しましょう。
SESでは、上から受けて下に出す両方の立場を同時に持つことが多いです。「上位の注文書がまだだから、BPへの注文書も待って」は、法律上の理由になりません。上位の注文書を待っている間も、下への明示は先に済ませます。取適法での口頭発注の扱いは下請法で口頭発注は違反?SESで注文書が届かない時の対応5手順にまとめています。
Q5. SESで契約書・注文書なしのまま稼働すると、何で揉めますか?
揉めやすいのは、精算幅・単価と支払日・途中解約・損害賠償・再委託の5つです。 どれも「決めたつもり」になりやすく、証拠がないと相手の言い分を崩せません。
| 場面 | よくある揉め方 | 契約書がないとどうなるか |
|---|---|---|
| 1. 精算幅 | 稼働が180時間を超えたのに、上位は「固定と聞いた」と言う | 精算の約束を証明できず、超過分を請求しにくい |
| 2. 単価・支払日 | 請求したら「単価は5万円低いはず」「支払いは60日後」と言われる | 金額も支払日も、話し合いからやり直し |
| 3. 途中解約 | 月の途中で「明日から来なくていい」と言われる | 民法の原則で判断。予告期間の約束がない |
| 4. 損害賠償 | エンジニアのミスで、損害を全額払えと言われる | 上限の約束がないので、上限なしで争うことになる |
| 5. 再委託 | BPが勝手に別の会社の人を出していた | 禁止の約束がなく、止める根拠が弱い |
お金の面では、請求そのものが止まることもあります。注文書がない月は、相手の経理が支払い処理を進められず、請求書を「発注番号がない」と戻されるケースです。
例1:精算幅で揉める
精算幅とは、月の稼働時間が決めた範囲(例:140〜180時間)を外れたときに、単価を増減する取り決めのことです。口頭で「140〜180で」と話しただけだと、上位会社の担当が変わった途端に通じなくなります。
たとえば単価60万円・上限180時間・超過単価3,333円で、実績が192時間だったとします。超過分は12時間×3,333円=約4万円です。証拠がないと、この4万円を毎月取りこぼすおそれがあります。
例2:途中解約で揉める
準委任契約は、民法第651条により各当事者がいつでも解除できるのが原則です。契約書で「1か月前に予告する」と決めていなければ、急な打ち切りを止めにくくなります。
相手に不利な時期に解除した場合などは、損害賠償を求められることがあります。ただし、その「不利な時期」かどうかで揉めること自体が大きな負担です。予告期間の決め方は SESの中途解約条項の書き方|準委任の途中解約と報酬の扱い を参考にしてください。
例3:損害賠償で揉める
契約書に上限がないと、エンジニアの作業ミスで出た損害を上限なしで請求される争いになりえます。SESの契約書では「損害賠償は当月の委託料を上限とする」などと決めるのが一般的です。
Q6. 見積書や覚書だけで、契約書なしでも大丈夫ですか?
見積書だけでは足りません。覚書は、中身が十分なら契約書の代わりになりえます。 大事なのは書類の名前ではなく、双方の合意が書かれているかです。
| 書類 | 何を示すか | 契約書の代わりになるか |
|---|---|---|
| 見積書 | 受注側が「この条件ならできます」と出した提案 | ならない。相手が承諾した証拠がない |
| 注文書 | 発注側の「この条件で頼みます」という申込み | 単独ではならない。注文請書やメールの承諾とセットで使う |
| 注文書+注文請書 | 申込みと承諾がそろった状態 | なる(基本契約書とセットが一般的) |
| 覚書 | 双方が合意した内容を短く書いた書面 | 双方の記名・押印(または電子署名)と主要な条件があれば、なりうる |
覚書とは、正式な契約書より簡単な形で、双方の合意を書き残した書面のことです。「覚書のみ」で取引するなら、単価・期間・精算・支払日・解約の5点が入っているか必ず確認しましょう。
見積書は、相手に「承知しました」とメールで返してもらえば、合意の証拠として使いやすくなります。注文書と請書の関係は SESの注文書・注文請書は必要?違いと成立時点|条文例3つ で解説しています。
見積書と違う条件の注文書が来たら
見積書と違う条件の注文書は、「新しい申込み」になります。民法第528条は、申込みに条件を変えて承諾した場合、元の申込みを断り、新しく申し込んだものとみなすと決めています。
たとえば、見積書は月額65万円・精算幅140〜180時間だったとします。届いた注文書が月額63万円・150〜190時間なら、その注文書は新しい申込みです。自社が注文請書を返したり、黙って稼働を続けたりすると、注文書の条件で成立したと見られやすくなります。
違いに気づいたら、稼働を続ける前に次のどちらかを相手にメールで伝えます。
見積書の条件に直した注文書を、もう一度出してもらう
注文書の条件で受けるなら、その旨を社内で決めてから承諾を返す
見積書を注文書に書き換えて代わりにしてもいい?
見積書を注文書の代わりにすることはできますが、相手の承諾を書面かメールで残すことが条件です。SESでよくあるやり方は、次の3つです。
| やり方 | 中身 | 注意点 |
|---|---|---|
| 見積書兼注文書 | 見積書の下に注文欄を設け、相手が記名・押印して返す | 返送されるまで承諾の証拠にならない |
| 見積書への「発注します」返信 | 見積書PDFに対して、メールで発注の返事をもらう | 見積番号・単価を本文にも書いてもらう |
| 自社が注文書を代わりに作る | 見積の内容で注文書の形に書き換え、相手に署名してもらう | 相手の署名がなければ、ただの自社の書類 |
注文書とは、発注側が「この条件で発注します」と申し込む書類のことです。本来は発注側が作ります。自社が「注文書」という題名に書き換えて作っても、相手の署名や承諾がなければ注文書の効力はありません。
見積書で代わりにする時のリスクは4つです。
条件が足りない:見積書には、作業場所・支払期日・再委託の可否などが書かれていないことがあります。
発注側の明示義務:取適法(旧下請法)の対象なら、発注側は発注後直ちに条件を書面かメールで示す義務があります(第4条)。見積書への「お願いします」だけでは、必要な項目が足りない場合があります。
印紙:国税庁は、見積書に基づく申込みであることが書かれた注文書などを、契約書として扱う場合があるとしています。相手が別に請書を作ることが書かれている場合は除かれます。請負契約なら印紙が必要になりえます。
更新時の混乱:見積書で始めた案件は、更新のたびにどの書類が有効かわからなくなりがちです。
準委任契約のSESの注文書は、一般に印紙の対象外とされます。ただし請負の要素がある場合や、継続的な取引の基本条件を決める場合は別です。印紙の判定に迷ったら、税務署か税理士に確認します。
Q7. 契約書が間に合わないとき、最低限メールで何を残せばいいですか?
次の12項目をメールで送り、相手から「承知しました」の返信をもらってください。 返信があれば、申込みと承諾がそろった証拠になります。時間がなければ、揉める原因の大半を占める単価・精算幅・期間の3項目だけでも、稼働開始の前日までに送ります。
| # | 項目 | 記入例 |
|---|---|---|
| 1 | 契約形態 | 準委任契約(SES) |
| 2 | 作業者名 | 山田 太郎(弊社所属) |
| 3 | 作業内容 | 〇〇システムの詳細設計・製造 |
| 4 | 作業場所 | 貴社指定の東京都港区の拠点(週2回在宅) |
| 5 | 期間 | 2026年11月2日〜2027年1月31日 |
| 6 | 単価 | 月額60万円(税抜) |
| 7 | 精算幅 | 140〜180時間(超過3,333円/h、控除4,285円/h) |
| 8 | 精算単位 | 15分単位 |
| 9 | 支払条件 | 月末締め・翌月末払い |
| 10 | 交通費 | 単価に含む |
| 11 | 途中解約 | 1か月前までに書面またはメールで通知 |
| 12 | 契約書の扱い | 基本契約書・注文書は後日締結し、本メールの条件を反映する |
条件確認メールの例文
件名:【条件確認】山田太郎さん 〇〇案件(11/2開始)のご契約条件 〇〇株式会社 営業部 佐々木様 いつもお世話になっております。 株式会社△△の鈴木です。 2026年10月20日(火)のお電話でご合意いただいた条件を、 念のため文面でお送りいたします。 1. 契約形態:準委任契約 2. 作業者:山田 太郎(弊社所属) 3. 作業内容:〇〇システムの詳細設計・製造 4. 作業場所:貴社指定拠点(東京都港区)、週2回在宅 5. 期間:2026年11月2日(月)〜2027年1月31日(日) 6. 単価:月額60万円(税抜) 7. 精算幅:140〜180時間 超過 3,333円/h、控除 4,285円/h 8. 精算単位:15分 9. 支払条件:月末締め・翌月末払い 10. 交通費:単価に含む 11. 途中解約:1か月前までにご通知 12. 基本契約書・注文書:後日締結し、本条件を反映 相違がなければ、本メールへ「承知しました」と ご返信いただけますと幸いです。 相違がある場合は、稼働開始前にご指摘ください。 よろしくお願いいたします。
ポイントは4つです。
「承知しました」の返信を必ずもらう:送りっぱなしでは、相手が読んだ証拠になりにくい
数字は全部書く:「いつもの条件で」は証拠にならない
稼働開始前に送る:始まってからでは、条件の食い違いを直しにくい
見積書があるなら見積番号を書く:「見積番号〇〇の条件で承知しました」と書いてもらうよう頼む
注文書が遅れた時に証拠を残す5手順
注文書が稼働開始に間に合わない時は、条件をメールで確定させ、承諾の返信をもらったうえで、次の5手順で証拠を残します。
条件メールを送る:稼働開始の前日までに、見積番号・単価・精算幅・期間・作業場所をメール本文に書いて送ります。
承諾の返信をもらう:「承知しました」だけでなく、「見積番号〇〇の条件で承知しました」と書いてもらうよう頼みます。
注文書の期限を約束する:「〇月〇日までに注文書を発行いただけますか」と日付を入れて聞きます。
稼働の事実を記録する:入場日、入館証の受け取り、初日の稼働報告の送付を、日付つきで社内に残します。
届いた注文書と照合する:見積書・条件メールと、単価・精算幅・期間・支払期日を1項目ずつ比べます。違えば請書を返す前に指摘します。
返信がないまま稼働日が来たら
返信がないまま稼働する時は、稼働するかどうかを営業責任者が決め、判断の理由を残します。返信がない状態は、承諾の証拠がない状態です。
稼働すると決めた場合でも、初日の夕方に「本日より見積番号〇〇の条件で参画しております」と短いメールを送ります。相手から訂正がなければ、あとで条件を示す材料の1つになります。
チャットや電話で決まったときは
Slackや電話で条件が決まることもあります。その場合も、決まった内容をメールで送り直しておきます。チャットは相手の会社の設定で消えることがあり、電話は記録が残らないためです。
Q8. 契約書なしで稼働が始まってしまったら、どうすればいいですか?
今日中に条件確認メールを送り、そのあと注文書・注文請書を実際の開始日でそろえてください。 遅れるほど、条件の記憶が食い違っていきます。
合意した条件を書き出す:電話メモ、チャット、案件メールから12項目を集める
条件確認メールを送る:Q7の例文を使い、「承知しました」の返信を依頼する
食い違いがあればすぐ話し合う:特に単価・精算幅・支払日は、初回の請求前に決める
注文書・注文請書を発行する:日付は実際の稼働開始日に合わせ、発行日は正直に書く
基本契約書を締結する:初めての取引先なら、損害賠償や解約の条項もここで決める
社内の案件管理に記録する:どの案件の書類がそろっていないか、チームで見える状態にする
契約書を後付けで作るときの注意点
後から契約書を作るときは、締結日を実際の日にし、「稼働開始日にさかのぼって適用する」と書くのが基本です。 日付を過去にずらして書くのは避けましょう。
遡及適用とは、契約を結んだ日より前の期間にも、その契約の内容を当てはめることです。たとえば「本契約は2026年11月2日にさかのぼって適用する」という一文を入れます。
バックデートとは、契約書の日付を実際に署名した日より前の日付にすることです。実際と違う日付は、後で争いになったときに書類の信用を下げるおそれがあります。
稼働前に送った条件確認メールと、相手の返信を手元に集める
契約書(注文書)の条件が、メールの条件と一致しているか確認する
締結日の欄は、実際に署名・押印する日を書く
「〇年〇月〇日から適用する」という遡及の一文を入れる
食い違う条件があれば、署名前に相手と話して直す
途中で単価などが変わった場合は、覚書で直すのが一般的です。紙の契約書は、郵送と押印で1〜2週間かかることがあります。電子契約を使えば、その日のうちに締結できることもあります。
書類がないまま支払いが止まったら、メールやチャットの記録を集めます。回収の手順は SESの報酬未払いを回収する方法|内容証明から少額訴訟まで5段階 で解説しています。
Q9. 先に稼働させないための社内ルールは、どう作ればいいですか?
先に稼働するのは「例外」と決め、例外にするときの確認項目と担当者を社内で決めておきます。 担当者の判断任せにすると、同じトラブルが繰り返されます。
入場前チェックリスト
入場の3営業日前に、次の項目を確認します。
| # | 確認すること | 担当 |
|---|---|---|
| 1 | 基本契約書は締結済みか | 営業事務 |
| 2 | 注文書(個別契約)は届いたか | 営業事務 |
| 3 | 届いていない場合、条件確認メールに返信があるか | 営業 |
| 4 | 秘密保持契約(NDA)は結んであるか | 営業事務 |
| 5 | BP・個人への発注があれば、条件を明示したか | 営業 |
| 6 | 注文書の到着期限を相手に伝えたか | 営業 |
| 7 | 例外で稼働させることを責任者が承認したか | 営業責任者 |
秘密保持契約(NDA)とは、仕事で知った情報をほかに漏らさないと約束する契約です。客先の情報に触れる前に結んでおくのが基本です。
やってはいけないこと
条件を電話だけで決めて、何も残さない:食い違ったときに証明できません。
「いつも通りで」で済ませる:前の案件と精算幅や支払いサイトが違うことがあります。
上位の注文書が来るまで、BPへの発注を止める:発注側の明示義務は待ってくれません。
契約書や注文書の日付を過去にずらす:遡及の条項で対応します。
見積書と違う注文書に、確認せず請書を返す:注文書の条件で成立したと見られやすくなります。
自社が作った「注文書」を、相手の署名なしで契約書として扱う:相手の承諾の証拠になりません。
注文書の期限を決めずに放置する:翌月の請求まで気づかないことがあります。
BPに発注する側のときは、見積書だけで済ませない
自社がBPに発注する側なら、見積書への「お願いします」だけで済ませず、自社から注文書を出します。BPの見積書を受け取ったら、次の順で動きます。
BPの見積書と、上位から受けた条件(単価・精算幅・期間)を並べて確認する
自社の注文書に、見積番号と条件を書き写す
稼働開始日の前までに、注文書をメールか電子契約で送る
Q10. 契約書の漏れを防ぐには、どう管理すればいいですか?
案件ごとに「条件」と「書類の状態」を1か所で管理し、稼働前にチームで確認する仕組みをつくることです。 担当者の記憶やメールの受信箱に頼ると、必ず漏れが出ます。
自分でやる方法:Excelの管理表
Excelで案件管理表をつくり、次の列を足すだけでも効果があります。
| 列 | 入れる内容 |
|---|---|
| 条件確認メール | 送信日と、相手の返信日 |
| 基本契約書 | 締結済み/未締結 |
| 注文書・請書 | 受領日/未受領 |
| 稼働開始日 | 書類がそろう前に稼働するなら赤くする |
毎週1回、「稼働開始日が近いのに書類が未受領」の行を営業会議で確認します。
もっと楽にするなら:チョータツで案件情報をまとめる
チョータツとは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有するツールのことです。3,000社以上が使っており、無料で始められます。
案件・人材の情報を1か所で管理・共有できるので、単価や期間を担当者以外も確認できる
提案前に条件を確認する流れをチームでそろえやすい
パートナーへのメール配信機能があり、案件や人材の情報をまとめて届けられる
AIが入力を手伝うので、案件情報の登録にかかる手間を減らせる
他社と連携すると、他社の営業中案件・営業中人材をデータベース化できる
契約書そのものはExcelや電子契約で管理しつつ、案件の条件はチョータツに集める、という使い分けがおすすめです。
よくある質問
- Q. 業務委託の契約書がないと違法ですか?
- 契約書がないこと自体は違法ではありません。ただし取適法やフリーランス法の対象になる発注では、条件を書面かメールで明示しないと違反になりえます。
- Q. 口約束や注文書なしで働いた分の報酬は請求できますか?
- 請求できます。契約は口頭でも成立するからです。単価が決まっていない場合も、商法第512条で相当な報酬を請求できる可能性があります。金額を証明するため、メール・チャット・稼働報告書を残しておきましょう。
- Q. 注文書だけ届いて、注文請書を返していません。契約は成立していますか?
- 基本契約書に「一定期間内に異議がなければ承諾とみなす」などの定めがあれば、成立していることがあります。定めがなくても、いつも取引している会社からの注文に返事をしないと、承諾したとみなされることがあります(商法第509条)。黙ったままにせず、請書かメールで早めに返事をしましょう。
- Q. 契約書を後から作るとき、日付は稼働開始日にしてよいですか?
- 締結日は実際に署名した日にし、「稼働開始日にさかのぼって適用する」と書くのが基本です。日付をずらして書くのは避けましょう。
- Q. フリーランスのエンジニアに口頭で発注してもいいですか?
- フリーランス法の対象なら、口頭だけの発注は違反になりえます。業務内容・報酬・支払期日などを、合意したその日に書面かメールで明示してください。
まとめ
業務委託は契約書なしでも、口頭やメールで成立する(民法第522条)。メールでの了承や、見積の条件での稼働の受け入れでも成立しうる
契約書の役割は、合意の中身を証明することと、民法の原則と違う約束を残すこと
取適法・フリーランス法の対象なら、条件の明示は発注側の義務。フリーランス法では合意した日に直ちに明示する
SESで揉めやすいのは、精算幅・単価と支払日・途中解約・損害賠償・再委託の5つ
契約書が間に合わないなら、12項目をメールで送り「承知しました」の返信をもらう。見積書と違う注文書は請書を返す前に照合する
稼働後に気づいたら、今日中に条件メールを送り、契約書は実際の締結日+遡及の条項でそろえる
先に稼働するのは例外と決め、入場前チェックリストと承認者を社内で決める
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「民法」(第522条 契約の成立と方式、第523条 承諾の期間の定めのある申込み、第527条 承諾の通知を必要としない場合における契約の成立時期、第528条 申込みに変更を加えた承諾、第648条 受任者の報酬、第651条 委任の解除、第656条 準委任)
e-Gov法令検索「商法」(第509条 契約の申込みを受けた者の諾否通知義務、第512条 報酬請求権)
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)」(第2条 定義、第4条 中小受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等、第7条 書類等の作成及び保存、第14条 罰則)
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」(第2条 電子メールなどの電磁的方法)
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」(第3条 2年間の保存)
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」(プログラム・情報処理が資本金3億円の区分に入ること)
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)」(第2条 定義、第3条 特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」(明示の方法・明示事項・施行日)
公正取引委員会「フリーランス法 よくある質問(Q&A)」(業務委託をした日の意味、未定事項、電磁的方法での明示)
政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」