秘密保持義務とは?SESで客先・BP・エンジニアが負う範囲と残存期間、開始前の12項目

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

秘密保持義務とは?

秘密保持義務とは、仕事で知った秘密を、許可なく第三者に漏らしたり、決められた目的以外に使ったりしない義務のことです。「守秘義務」とも呼ばれ、意味はほぼ同じです。

SESの現場では、エンジニアが客先のシステム、顧客データ、社内資料に日常的にふれます。そのため、秘密保持義務はほぼすべての案件で問題になります。

秘密保持義務が生まれる3つの根拠

秘密保持義務は、次の3つのどれかから生まれます。どれに当たるかで、守る期間や違反したときの結果が変わります。

根拠具体例誰と誰の間か期間の決まり方
契約秘密保持契約(NDA)、基本契約の秘密保持条項契約した会社どうし契約書に書いた期間
就業規則・誓約書入社時・案件参加時の誓約書会社と社員規則や誓約書に書いた期間
法律不正競争防止法、個人情報保護法誰にでも関係する法律の条件を満たす限り

秘密保持契約(NDA)とは、相手から受け取る秘密情報の扱い方を決める契約のことです。「機密保持契約」も同じものを指します。

契約書がなくても、会社と社員の間では、労働契約にともなう義務として秘密を守る義務があると考えられています。労働契約法第3条第4項は、労働者と使用者が「信義に従い誠実に」義務を果たすよう定めています。ただし、退職後まで守らせるには、就業規則や誓約書ではっきり決めておくのが基本です。

法律で守られる「営業秘密」とは

営業秘密とは、不正競争防止法で守られる、会社の技術や営業上の情報のことです。次の3つの条件をすべて満たす必要があります。

  1. 秘密管理性:秘密として管理されている(アクセス制限や「社外秘」の表示など)

  2. 有用性:事業に役立つ情報である

  3. 非公知性:世の中に知られていない

営業秘密を不正な目的で持ち出したり使ったりすると、刑事罰の対象になります。自社の案件・人材リストを営業秘密として守る方法は、営業秘密管理規程のひな形|SESの案件・人材リストを守る管理方法で解説しています。

SESで誰がどの秘密保持義務を負うか

結論として、秘密保持義務は「契約を結んだ相手」に対して負います。客先と契約しているのが自社なら、客先に責任を負うのは自社です。エンジニア本人やBPは、自社との約束を通じて義務を負います。

SESでは、客先・自社・BP・エンジニアの間に、いくつもの契約が重なります。誰に対して何を約束しているのかを、表で整理します。

関係主な取り決め義務を負う側営業の確認ポイント
客先 ⇔ 自社基本契約の秘密保持条項、NDA自社(会社として)秘密の範囲・残存期間・再委託先への義務づけ
自社 ⇔ BPBPとの基本契約、NDABP(会社として)客先との条件と同じかそれ以上か
自社 ⇔ 自社社員就業規則、入社時・案件参加時の誓約書社員本人退職後の期間と、案件ごとの誓約の有無
BP ⇔ BPの要員BPの就業規則・誓約書、業務委託契約BPの要員BPが要員に誓約を取っているか

「つないでいく」のが営業の仕事

客先との契約には、よく「再委託先にも同じ義務を負わせること」という条項があります。つまり、自社はBPに同じ義務を課し、BPも自社の要員に義務を課す必要があります。

この「つなぎ」がどこかで切れると、漏えいが起きたときに誰も責任を取れません。最後に客先へ責任を負うのは、客先と契約している自社です。

客先がエンジニア個人に誓約書を求めるとき

客先が、入館時などにエンジニア本人へ誓約書の提出を求めることがあります。この場合、内容を営業が事前に確認し、会社どうしの契約と食い違いがないか見ることが大切です。

たとえば、誓約書に「個人で無制限に損害を賠償する」と書かれていれば、本人に重すぎる負担がかかります。誓約書の確認ポイントは、SESの誓約書を客先に出すときの注意点|守秘義務の範囲と文例にまとめています。

秘密保持義務はいつまで続く?有効期間と残存条項

秘密保持義務は、契約が終わった後も一定期間続くのが一般的です。その期間は法律では決まっておらず、契約書の「有効期間」と「残存条項」で決まります。

有効期間と残存条項の違い

有効期間とは、契約そのものが効力を持つ期間のことです。残存条項とは、契約が終わった後も、特定の条項だけ効力を残すと決めた条項のことです。

秘密保持条項は、残存条項の対象になるのが一般的です。たとえば「本契約終了後も3年間、第〇条(秘密保持)は効力を有する」のように書かれます。

書き方のパターン意味営業が気をつけること
契約終了後〇年間は存続終了日から決まった年数だけ続く下請け側の契約と年数をそろえる
秘密情報が公知になるまで年数を決めず、秘密である限り続く期間の終わりが見えにくい
期間の定めなし書かれていないいつまでか争いになりやすい
個人情報・営業秘密は無期限特に重い情報だけ長く続く対象の情報を具体的に確認する

何年にするかは、情報の重さや業界の慣行で変わります。大事なのは年数そのものより、上位の契約と下請けの契約で年数がそろっていることです。

退場・退職の後も義務は残る

エンジニアが案件から退場しても、客先との契約がまだ続いていれば、秘密保持義務も続きます。契約が終わっても、残存条項の期間内は義務が残ります。

社員が退職した後は、就業規則や誓約書で決めた範囲で義務が続きます。一方、不正競争防止法の営業秘密は、期間に関係なく、情報が営業秘密の条件を満たす限り守られます。

期間がずれると起きる「穴」

期間のずれは、次のような形で問題になります。

  • 客先との契約:終了後3年間は秘密保持義務が続く

  • BPとの契約:終了後1年間だけ続く

この場合、終了から1年を過ぎると、BPは自社に対して契約上の秘密保持義務を負いません。それでも、自社は客先に対してあと2年間責任を負い続けます。

案件開始前に営業が確認する12項目

秘密保持のトラブルの多くは、案件が始まる前の確認で防げます。客先・BP・エンジニアの3方向について、次の12項目を確認しましょう。

客先との契約で確認すること

  1. 秘密保持条項が、基本契約と個別契約のどちらに書かれているか

  2. 「秘密情報」の範囲(口頭で聞いたことも含むか)

  3. 残存期間(契約終了後に何年続くか)

  4. 再委託先にも同じ義務を負わせる条項があるか

  5. 個人情報を扱うか、扱う場合の追加の取り決め

  6. 違反したときの報告期限と連絡先

BPとの契約で確認すること

  1. BPとのNDA・基本契約の秘密保持条項が、客先との条件と同じかそれ以上か

  2. 残存期間が、客先との契約と同じかそれより長いか

  3. BPが要員本人から誓約書を取っているか

エンジニア本人について確認すること

  1. 自社社員なら、入社時の誓約書に退職後の期間が書かれているか

  2. 客先が本人に誓約書を求めるか、その内容を営業が見たか

  3. 客先で禁止されている行為(持ち込み・持ち出し・撮影など)を本人に伝えたか

BPと結ぶNDAの条項例は、SESの秘密保持契約(NDA)ひな形|BPと結ぶ条項と注意点8つを参考にしてください。

エンジニアに伝えておきたい禁止行為

違反の多くは、悪気のない「うっかり」から起きます。案件参加の前に、営業から具体的な行動で伝えておくと防ぎやすくなります。

よくある行為何が問題か伝え方の例
SNSに現場の話や写真を投稿する客先名・システム名がわかる「現場の話は、名前を伏せてもSNSに書かないでください」
資料を私用のメールやPCに送る管理の外に情報が出る「客先の資料は、客先の端末から外に出さないでください」
客先の情報を生成AIに貼り付ける外部サービスに送ることになる「客先で許可されたツール以外に、情報を入れないでください」
次の現場に前の資料を持ち込む前の客先の秘密を使うことになる「退場時に、手元の資料はすべて返すか消してください」
スキルシートに客先の内部情報を書く提案先に秘密が伝わる「業界と業務内容までにして、社名や内部の名前は書かないでください」

参画前にエンジニアへ送る案内文(例文)

例文・テンプレート
〇〇さん

10月13日(月)からの〇〇案件について、情報の扱いで守ってほしいことを送ります。
・客先の資料やデータは、客先の端末から外に出さない
・現場の話は、社名を伏せてもSNSに書かない
・生成AIなどの外部サービスには、客先の許可がない情報を入れない
・退場するときは、手元の資料をすべて返却または削除し、私に報告する
困ったときや判断に迷ったときは、客先ではなく先に私へ相談してください。

スキルシートと提案メールも要注意

営業自身も、秘密保持義務を破る側になりえます。スキルシートや提案メールに、客先の社名やシステムの内部の名前を書くと、提案先に秘密が伝わります。

スキルシートでは「大手金融機関向け 勘定系システムの保守」のように、業界と業務内容までに抑えるのが安全です。客先の社名を出してよいかは、客先との契約と本人の意向を確認してから決めましょう。

営業がスキルシートを別の会社に送ってしまったときは、スキルシートを誤送信したら|削除依頼の例文と個人情報の報告要否の手順で対応します。BPが自社の案件情報を無断で転送したときは、SESの案件情報を無断で転送・再配信されたら|対応と防ぐルールが参考になります。

違反が起きたときに営業が最初にやる連絡順

違反の疑いが出たら、まず事実を確かめ、社内の責任者に上げてから、商流の一つ上の会社に第一報を入れます。順番を間違えると、情報が食い違ったり、商流の信頼を失ったりします。

  1. エンジニア本人から事実を聞く:いつ・何を・どこへ・何件か、を聞き取り、メモに残します。責めるより、正確に聞くことを優先します。

  2. 社内の責任者に報告する:営業責任者、情報管理の担当者、必要なら経営者へ、その日のうちに伝えます。

  3. 広がりを止める:送ったメールの削除依頼、投稿の削除、端末の利用停止など、できることをすぐ行います。

  4. 商流の一つ上の会社へ第一報を入れる:自社が二次請けなら、一次請けへ連絡します。客先へ直接連絡するのは、上位の会社の了解を得てからにします。

  5. BPの要員なら、BPの責任者にも同時に連絡する:BPにも事実確認と協力を求めます。

  6. 個人情報が含まれるか確認する:個人情報保護法では、一定の漏えいは個人情報保護委員会への報告が必要です。誰が報告するかを、上位の会社と決めます。

  7. 経過を記録し、再発防止策を伝える:日時・連絡先・対応内容を時系列で残し、確報と再発防止策を上位の会社へ伝えます。

個人情報の漏えいは報告期限がある

個人情報を含む一定の漏えいは、個人情報保護委員会への報告が必要です。本人の数が1,000人を超える場合や、不正の目的による持ち出しなどが対象です。

期限の目安は、速報がおおむね3〜5日以内、確報が30日以内(不正の目的なら60日以内)です。誰が報告するかは、連絡順の4番目の段階で上位の会社と決めます。

第一報のメール例文

上位の会社へ送る第一報の例文です。わかっている事実と、まだわからないことを分けて書くのがポイントです。

件名:【至急】〇〇案件における情報の取り扱いに関するご報告(第一報)

株式会社〇〇 〇〇様

いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
〇〇案件に参画中の弊社要員について、情報の取り扱いに問題がある可能性がわかりましたので、第一報としてご報告いたします。

・発覚日時:2026年10月5日(月)14時ごろ
・内容:業務資料1点を、私用のメールアドレスへ送信していた
・現時点の対応:送信先からの削除を本人立ち会いで確認済み
・確認中の事項:資料に個人情報が含まれるかどうか

本日18時までに、確認中の事項についてあらためてご連絡いたします。
客先様へのご報告の進め方について、ご指示をいただけますと幸いです。

報告の条件、損害賠償の範囲、商流ごとの責任分担は、SESの情報漏洩の責任は誰に?損害賠償の範囲と事故報告の流れで詳しく解説しています。

秘密保持義務に違反するとどうなるか

違反の結果は、義務の根拠ごとに変わります。契約違反なら損害賠償や契約解除、社内規則の違反なら懲戒、法律違反なら刑事罰の対象になりえます。

違反した義務起こりうること誰に起きるか
客先との契約の秘密保持条項損害賠償の請求、契約解除、要員の退場自社(会社)
BPとの契約の秘密保持条項自社からBPへの損害賠償の請求、取引停止BP(会社)
就業規則・誓約書懲戒処分、会社からの損害賠償の請求社員本人
不正競争防止法(営業秘密)差止め・損害賠償、刑事罰行為者本人と会社

不正競争防止法では、不正な利益を得る目的などで営業秘密を不正に取得・使用・開示すると、刑事罰の対象です。10年以下の拘禁刑か2,000万円以下の罰金、またはその両方です(第21条第1項・第2項)。

従業員などが会社の業務に関して第21条第1項の罪を犯すと、会社にも5億円以下の罰金が科されることがあります(第22条第1項第2号)。

退職したエンジニアが顧客リストを持ち出したときの対応は、不正競争防止法の営業秘密とは|SESで顧客リストを持ち出されたらを参考にしてください。

自分でできる管理と、チョータツで楽にする方法

自分でやるなら、案件ごとに「秘密保持の条件表」を作るのが基本です。Excelで1案件1行にし、次の列を作っておきます。

  • 客先との秘密保持の残存期間

  • BPとの秘密保持の残存期間

  • 誓約書の提出先と提出日

  • 客先で禁止されている行為

ただ、案件と要員が増えると、どの案件の条件が最新かわからなくなりがちです。担当者が変わったときに、引き継ぎがもれることもあります。

チョータツは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールです。3,000社以上が利用していて、無料で始められます。

  • 案件と人材の情報をチームで管理・共有できる:案件の情報が1か所にまとまります。担当者が変わっても、同じ情報を見ながら確認できます。

  • AIが入力を手伝う:案件情報の登録にかかる手間を減らせます。

  • パートナーへのメール配信機能がある:人材や案件を紹介するときも、送る内容をそろえやすくなります。

秘密保持義務のトラブルは、条件の確認もれから起きます。案件ごとの条件を1か所にまとめておくことが、いちばんの予防策です。

よくある質問

Q. 社員とも秘密保持契約を結ぶべきですか?
結ぶことをおすすめします。在職中は労働契約にともなう義務があります。退職後まで守らせるには、就業規則や誓約書で範囲と期間を決めておく必要があります。
Q. 秘密保持契約書に有効期限が書かれていないとどうなりますか?
いつまで守る義務があるのか、争いになりやすくなります。契約を結ぶ前に、有効期間と残存期間をはっきり書くよう相手と調整しましょう。
Q. 秘密保持契約の残存条項は何年にするのが一般的ですか?
法律で決まった年数はなく、情報の重さや取引の内容で変わります。SESでは、BPとの契約の残存期間を、客先との契約と同じかそれより長くしておくのが安全です。
Q. エンジニアが退場した後も、秘密保持義務は続きますか?
続くことが多いです。客先との契約が続いている間と、契約終了後の残存期間の間は、自社もエンジニアも義務を負います。

まとめ

  • 秘密保持義務とは、仕事で知った秘密を漏らしたり目的外に使ったりしない義務のことです。

  • SESでは、契約・就業規則や誓約書・法律の3つから義務が生まれ、契約を結んだ相手ごとに義務を負います。

  • 義務は退場・退職の後も残存条項の期間だけ続きます。客先とBPの契約で期間をそろえることが大切です。

  • 案件開始前の12項目の確認と、エンジニアへの具体的な禁止行為の共有で、多くの違反は防げます。

  • 違反が起きたら、事実確認→社内の責任者→商流の一つ上の会社の順に連絡します。

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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