不正競争防止法の営業秘密とは?3要件と、SESで顧客リスト・単価表を持ち出されたときの対応【Q&A】

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

Q1. 不正競争防止法の「営業秘密」とは何ですか?

営業秘密とは、秘密として管理されている、事業に役立つ技術や営業の情報で、世の中に知られていないもののことです。不正競争防止法 第2条第6項で、次のように定められています。

この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

不正競争防止法とは、会社どうしの公正な競争を守るための法律です。他社の商品のまねや、営業秘密の盗み出しなどを「不正競争」として禁止しています。

営業秘密になると、特許のように国に登録しなくても法律で守られます。そのかわり、会社が自分で「秘密として管理している」状態をつくることが条件です。

「営業機密」「ノウハウ」「知的財産」との違い

「営業機密」「社外秘」「ノウハウ」は、法律の言葉ではありません。これらの情報が法律で守られるのは、営業秘密の3要件を満たしたときだけです。

営業秘密は、知的財産の一種でもあります。知的財産基本法 第2条は、知的財産の例として「営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」を挙げています。

言葉意味法律で守られるか
営業秘密不正競争防止法の3要件を満たす情報守られる(差止め・損害賠償・刑事罰)
営業機密・社外秘社内で「外に出さない」としている情報3要件を満たせば営業秘密として守られる
ノウハウ仕事のコツや手順などの知識3要件を満たせば営業秘密として守られる
知的財産特許・著作物・商標・営業秘密などの総称それぞれの法律で守られる

Q2. 営業秘密の3要件とは?SESの情報に当てはめるとどうなりますか?

営業秘密の3要件は、秘密管理性・有用性・非公知性です。1つでも欠けると営業秘密にはなりません。SESの営業情報は、このうち秘密管理性でつまずきやすいのが特徴です。

要件意味SESの営業情報で認められやすいか
秘密管理性会社が秘密として管理し、社員もそれがわかるつまずきやすい。管理の仕方しだい
有用性事業に役立つ情報である認められやすい。BPリストや単価表は営業に直結
非公知性社外で一般に手に入らない認められやすい。ただし公開情報だけの一覧は弱い

秘密管理性とは

秘密管理性とは、会社がその情報を秘密として管理していて、社員が「これは秘密だ」とわかる状態にあることです。経済産業省の「営業秘密管理指針」は、次の点が必要だとしています。それは、会社の秘密管理の意思が、管理の措置で社員に示されていることです。

たとえば、次のような措置です。

  • ファイルやフォルダに「社外秘」「マル秘」と表示する

  • 見られる人を決め、IDとパスワードで入れる人を絞る

  • 就業規則や誓約書で、持ち出してはいけない情報を決めておく

有用性とは

有用性とは、その情報が事業に役立つことです。顧客名簿、仕入先リスト、販売マニュアル、価格の情報などは、有用性が認められやすい代表例です。失敗した提案の記録のような「うまくいかなかった情報」も、有用性が認められることがあります。

SESでいえば、次のような情報が当てはまります。

  • BP(取引先のパートナー企業)の一覧と担当者の連絡先

  • エンド企業・元請けの窓口と、取引の条件

  • 案件ごとの単価・精算幅・支払い条件の表

  • 要員(エンジニア)のスキル・稼働状況・希望単価

非公知性とは

非公知性とは、その情報が社外では一般に手に入らないことです。会社の公式サイトに出ている社名や代表電話だけを並べた一覧は、非公知性が弱くなります。一方で「どの担当者と、いくらの単価で、どんな案件をやりとりしたか」は、社外では手に入らない情報です。

Q3. 個人のExcelやメールで管理していると、なぜ営業秘密と認められにくいのですか?

個人のExcelやメールに情報が散らばっていると、会社として秘密に管理していた証拠を示しにくいからです。秘密管理性は、会社がどう管理していたかで判断されます。

SES営業でよくある、秘密管理性を弱めてしまう状態を並べます。

よくある状態秘密管理性の面での問題
BPリストを各営業が自分のExcelで持っている会社の情報か、個人のメモかがはっきりしない
単価表を誰でも見られる共有フォルダに置いている見られる人を絞っていない
案件・人材情報が個人のメールボックスにだけある会社として管理した記録がない
ファイルに「社外秘」の表示がない社員が秘密だとわかる手がかりがない
退職時にデータの返却・削除を確認していない持ち帰りを会社が止めていない

特に「営業が自分で集めた取引先だから、自分のもの」という意識があると、持ち出しが起きやすくなります。会社の情報として1か所に集め、表示と権限で守ることが、法律上も実務上も大切です。

Q4. 退職した営業がBPリストや単価表を持ち出して独立・転職したら、何ができますか?

営業秘密と認められれば、民事では使用の差止めと損害賠償を求められます。悪質な場合は刑事告訴もできます。どちらも、情報が営業秘密の3要件を満たしていることが前提です。

民事でできること

差止めとは、裁判所を通じて、相手に情報の使用や開示をやめさせることです。不正競争防止法 第3条で、使用の停止や、持ち出したデータの廃棄も求められます。

損害賠償は、同法 第4条で、故意または過失の不正競争による損害を請求できます。第5条には、損害額を計算しやすくするための「損害の額の推定」の規定もあります。

退職者の持ち出しでよく問題になるのは、同法 第2条第1項第7号の行為です。会社から示された営業秘密を、不正な利益や会社への損害を目的に使う・開示する行為です。

なお、使用の差止めには期限があります。知った時から3年、または使用開始から20年で請求できなくなります(同法 第15条)。気づいたら早めに動きましょう。

刑事罰(営業秘密侵害罪)

営業秘密侵害罪とは、営業秘密を不正な目的で取得・持ち出し・使用・開示したときに科される犯罪です。不正競争防止法 第21条で定められています。

対象刑罰(2026年9月時点)根拠
個人(基本)10年以下の拘禁刑または2,000万円以下の罰金(併科あり)第21条第1項・第2項
個人(海外で使う目的など)10年以下の拘禁刑または3,000万円以下の罰金(併科あり)第21条第4項・第5項
法人(両罰規定・基本)5億円以下の罰金第22条第1項第2号
法人(両罰規定・海外)10億円以下の罰金第22条第1項第1号

社員や元社員の場合、たとえば次のような行為が対象になりえます。

  • 在職中に、会社から示された顧客リストを、不正な利益を得る目的でコピーして持ち出す

  • 持ち出したリストを、同じ目的で転職先や独立後の会社で使う・他人に渡す

営業秘密侵害罪は、2015年の法改正で、告訴がなくても起訴できる非親告罪になりました。ただし、刑事で動くかは警察・検察の判断になります。実際には、弁護士と相談して証拠をそろえてから相談に行くのが一般的です。

持ち出した元社員を受け入れた会社は?

受け入れた会社も、不正競争になりえます(同法 第2条第1項第8号・第9号)。持ち出された情報だと知りながら、または重大な不注意で知らずに使った場合です。

SESの採用で他社の営業経験者を迎えるときは、前の会社の資料を持ち込ませないことを入社時に確認しましょう。面接で確かめる項目はSES営業の採用面接の質問|見極めたい5つの力と評価表も参考になります。

Q5. 持ち出しに気づいたら、営業責任者は何をすればいいですか?

持ち出しに気づいたら、証拠を残すことを最優先にします。慌てて本人を問い詰めたり、パソコンを初期化したりすると、あとで証明できなくなります。

  1. 証拠を保全する:退職者のPC・メール・クラウドのログをそのまま残す。消さない、初期化しない

  2. 何が持ち出されたかを特定する:BPリスト、単価表、要員リストなど、ファイル名と中身を洗い出す

  3. 管理の状況を確認する:社外秘の表示、閲覧できた人、誓約書や就業規則の条文を集める

  4. 影響を確認する:BPや顧客に、元社員から連絡が来ていないかを担当者経由で確かめる

  5. 弁護士に相談する:営業秘密に当たるか、差止め・損害賠償・刑事告訴のどれを選ぶかを決める

  6. 相手に通知する:弁護士と相談のうえ、使用の中止とデータの返却・削除を書面で求める

  7. 再発防止をする:情報の置き場所と見られる人を見直し、退職時の手続きを決め直す

相手への通知の例文(弁護士確認前の下書き)

例文・テンプレート
件名:当社情報の使用中止および返却のお願い

〇〇 〇〇 様

株式会社△△の□□です。
貴殿が当社在職中に取り扱っていた、当社の取引先一覧および
単価に関する資料(以下「当社資料」)について、ご連絡いたします。

当社資料は、社外秘として管理している当社の営業情報です。
つきましては、2026年10月16日(金)までに、次の対応をお願いいたします。

1. 当社資料の使用および第三者への開示を直ちに中止すること
2. 保有している当社資料(紙・電子データを含む)を返却または削除し、
   その旨を書面でご回答いただくこと

期日までにご回答がない場合は、法的な手続きを検討いたします。
よろしくお願いいたします。

実際に送る前に、必ず弁護士に内容を確認してもらってください。言い方しだいで、名誉毀損や脅迫と受け取られるおそれもあります。

Q6. 持ち出しを防ぐために、平時から何をしておけばいいですか?

平時の備えは、「集める」「絞る」「表示する」「約束する」「確認する」の5つです。秘密管理性を満たす管理は、そのまま持ち出しの予防にもなります。

営業秘密を守るチェックリスト(SES営業向け)

#チェック項目できている
1BPリスト・案件・人材の情報を、会社の決めた1か所に集めている□
2個人のExcelや個人メールだけにある営業情報をなくしている□
3単価表や取引条件のファイルに「社外秘」と表示している□
4情報を見られる人を役割ごとに決め、IDとパスワードで絞っている□
5誰がいつ見たか・書き出したかの記録(ログ)が残る□
6就業規則や社内規程に、秘密情報の範囲と持ち出し禁止を書いている□
7入社時と退職時に、秘密保持の誓約書をもらっている□
8退職時に、アカウント停止とデータ返却・削除を確認している□
9BPとは秘密保持契約(NDA)を結んでいる□
10年1回、ルールが守られているかを見直している□

営業秘密管理規程と、国の保護マニュアル

営業秘密管理規程とは、会社のどの情報を秘密とし、誰がどう扱うかを決めた社内ルールのことです。ゼロから作るより、国の資料を参考にすると早く進みます。

資料発行使いどころ
営業秘密管理指針(2025年3月31日最終改訂)経済産業省3要件の考え方と、最低限の管理の目安を確認する
秘密情報の保護ハンドブック経済産業省漏えいを防ぐ対策の選び方と、規程・誓約書の参考例を見る
企業における営業秘密管理に関する実態調査2024IPA(情報処理推進機構)漏えいがどこから起きているかを知る

SESの案件・人材リストに合わせた規程の条文例は、営業秘密管理規程のひな形|SESの案件・人材リストを守る管理方法で紹介しています。

IPAの2020年の調査(2021年3月18日公開)では、漏えいルートで最も多かったのは中途退職者(36.3%)でした。最新の2024年の調査(2025年8月29日公開)では、サイバー攻撃(36.6%)が最多になりました。一方で、現職の従業員などによるルールの不徹底(32.6%)など、社内の人が原因の漏えいも上位に残っています。

営業担当が退職するときの手続き(ひな形)

退職の申し出を受けた日から、次の順で進めます。退職のときの手続きを決めておくことは、持ち出し対策の基本です。

いつやること担当
申し出の当日担当BP・顧客・案件・要員の一覧を出してもらう営業責任者
最終出社の2週間前まで後任を決め、BP・顧客へ担当変更の連絡をする後任の営業
最終出社の1週間前まで共有フォルダ以外に保存した営業情報がないか、本人と一緒に確認する営業責任者
最終出社日秘密保持の誓約書に署名をもらい、PC・アカウントを返却・停止する管理部門
退職後1か月BP・顧客から、元担当者からの連絡がないかを聞く後任の営業

担当変更の連絡の文面は、営業担当者変更の挨拶メール例文|SESの取引先・BP・要員向けを使えます。

Q7. 自分でできる管理と、ツールを使う管理はどう違いますか?

少人数のうちは、共有フォルダとExcelでも管理はできます。ただし営業が増えると、ファイルのコピーが増えて「どれが会社の正しい情報か」がわからなくなるのが弱点です。

自分でやる方法(Excel・共有フォルダ)

  1. 共有フォルダに「営業情報(社外秘)」フォルダを1つ作る

  2. BPリスト・案件表・要員表を、そのフォルダにだけ置く

  3. フォルダの閲覧権限を、営業チームと管理者だけに絞る

  4. ファイル名と1行目に「社外秘」と書く

  5. 個人のPCやメールに保存しないルールを、チームで決める

Excelでの管理の型はSESの案件・人材管理をExcelで無料で行う方法|テンプレ付きで紹介しています。顧客情報の項目はSESの顧客リスト管理方法|必要な項目20と見込み客の育て方が参考になります。

もっと楽にするなら:チョータツで一元管理する

チョータツとは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有するツールです。3,000社以上が使っていて、無料で始められます。

営業秘密を守る面では、次の点が役に立ちます。

  • 情報を1か所に集められる:案件・人材の情報をチョータツで管理・共有するので、営業ごとのExcelに散らばりにくくなる

  • チームで同じ情報を見られる:担当者が辞めても、会社に情報が残る

  • パートナーへのメール配信もチョータツから:個人メールだけにやりとりが残る状態を減らせる

ツールを入れるだけで営業秘密になるわけではありません。社外秘の表示、見られる人の決め方、誓約書と組み合わせて使いましょう。

Q8. 競業避止義務や秘密保持契約とは、どう使い分けますか?

営業秘密は法律で守る仕組み、秘密保持契約と競業避止義務は契約で守る仕組みです。両方を組み合わせると、守れる範囲が広がります。

仕組み守るもの注意点
営業秘密(不正競争防止法)3要件を満たす情報秘密管理性がないと守られない
秘密保持契約・誓約書契約で決めた秘密情報対象の範囲をはっきり書く
競業避止義務退職後に同業で働く・起業すること期間・地域・代償がないと無効になりやすい
引き抜き禁止条項社員や取引先を連れて行くこと本人の転職の自由そのものは止められない

秘密保持契約(NDA)とは、相手に渡した秘密情報を外に出さないと約束する契約です。競業避止義務とは、競合する仕事をしない義務のことです。

退職後の競業避止義務は、職業選択の自由とぶつかるため、広すぎる内容は無効とされやすいです。詳しくはSESの競業避止義務と退職エンジニア|客先への転籍を防ぐ契約の範囲で解説しています。BPとの契約はSESの秘密保持契約(NDA)ひな形|BPと結ぶ条項と注意点8つを参考にしてください。

よくある質問

Q. 営業秘密とは、かんたんに言うと何ですか?
会社が秘密として管理している、事業に役立つ、世の中に知られていない情報のことです。この3つがそろうと、不正競争防止法で守られます。
Q. 営業秘密の3要件を1つだけ満たしていないとどうなりますか?
営業秘密にはなりません。その場合は、秘密保持契約や就業規則など、契約や社内ルールで守れる範囲で対応することになります。
Q. 顧客リストは営業秘密になりますか?
なりえます。顧客リストは有用性が認められやすい情報です。ただし、社外秘の表示や閲覧できる人の制限がないと、秘密管理性で否定されることがあります。
Q. 営業が頭で覚えている取引先の情報も営業秘密ですか?
記憶だけの情報は、会社が管理していたと示しにくく、争いになりやすいです。会社の情報として記録・管理し、秘密と表示しておくことが大切です。
Q. 営業秘密侵害罪の罰則はどのくらいですか?
個人は10年以下の拘禁刑または2,000万円以下の罰金で、両方科されることもあります。会社の業務として行われた場合、法人には5億円以下の罰金が科されることがあります(2026年9月時点)。
Q. 元社員が持ち出した情報で、BPに営業をかけられたら?
まず証拠を保全し、何が持ち出されたかを特定します。そのうえで弁護士に相談し、使用の中止や損害賠償を求めるかを決めます。引き抜きの損害賠償はSESの引き抜きで損害賠償は取れる?請求できる条件と証拠の集め方でも解説しています。

まとめ

  • 営業秘密は、秘密管理性・有用性・非公知性の3要件をすべて満たす情報(不正競争防止法 第2条第6項)

  • SESのBPリスト・単価表・要員情報は、有用性・非公知性は認められやすいが、秘密管理性で争いになりやすい

  • 個人Excelや個人メールに散らばった情報は、会社として管理していたと示しにくい

  • 認められれば差止め・損害賠償ができ、悪質なら10年以下の拘禁刑などの刑事罰の対象になる

  • 持ち出しに気づいたら「証拠保全 → 特定 → 管理状況の確認 → 弁護士相談 → 通知」の順に動く

  • 平時は「集める・絞る・表示する・約束する・確認する」の5つで守る

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(法令の内容は2026年9月30日時点で確認)