SESの引き抜きとは?客先・BPに人材を取られたときの対処法と、3つの型別の早見表・営業の5手順【Q&A】

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

SESの引き抜きとは?

SESの引き抜きとは、自社が客先に出しているエンジニアを、客先やBPが自社を通さずに雇う・直接契約することです。営業から見ると、売上と人材を同時に失うトラブルです。

BP(ビジネスパートナー)とは、案件や人材を紹介し合う取引先の会社のことです。SESでは、エンドから元請け、一次請け、二次請けと、いくつもの会社を通して仕事が流れます。この流れを商流といいます。

引き抜きは、この商流の「上の会社」でも「横のBP」でも起こります。まずは、どの型の引き抜きなのかを見分けることが大切です。

引き抜きと商流飛ばしの違い

商流飛ばしとは、間に入っている会社を通さずに、上の会社と下の会社が直接取引することです。引き抜きは「人」を取られる話で、商流飛ばしは「取引」を取られる話です。

実際には2つが同時に起こることがよくあります。たとえばBPのフリーランスが、客先と直接契約に切り替えるケースです。商流飛ばしの防ぎ方はSESの商流飛ばしは違法?営業が知るべきリスクと防ぎ方5つで詳しく解説しています。

SESの引き抜きは3つの型に分けて考える

引き抜きは「誰が」「どんな形で」人を取るかで、3つの型に分けられます。型によって、使える手も、話す相手も変わります。

型誰が取るかよくある場面主な相手
①客先の直接雇用エンドや元請けなどの客先常駐先から「うちの正社員にならないか」と声がかかる客先の担当者・人事
②直接契約客先、または上位のBPBP経由のフリーランスや他社社員が、客先と直接契約に切り替える客先、BP、本人
③退職後の移籍別のSES会社・客先自社社員が退職し、別の会社経由で同じ現場に戻る移籍先の会社、客先

①客先の直接雇用

客先の直接雇用とは、常駐先の会社が、自社のエンジニアを自分の社員として雇うことです。現場での評価が高い人ほど、声がかかりやすくなります。

自社の社員が転職するので、本人は自社を退職します。自社は、その人の売上と、育ててきたコストを同時に失います。

②客先やBPとの直接契約

直接契約とは、自社を通していた取引を、客先と本人(または本人の所属会社)が直接結び直すことです。BPから預かったフリーランスで特に起こりやすい型です。

自社から見ると、人も取引も一度になくなります。フリーランスとの取り決めについては、フリーランスの直接契約禁止は有効?SESでの条項の書き方と違約金も参考にしてください。

③退職後の移籍

退職後の移籍とは、自社を辞めたエンジニアが、別のSES会社やフリーランスとして、同じ現場に入り直すことです。表向きは「普通の退職」に見えるため、発覚が遅れがちです。

客先が裏で声をかけていた場合は、①や②と同じ問題になります。本人の意思だけで動いた場合は、会社どうしの取り決めでは止めにくい型です。本人との誓約書で書ける範囲はSESの競業避止義務と退職エンジニア|客先への転籍を防ぐ契約の範囲で解説しています。

引き抜きは違法?まず押さえる3つのルール

引き抜きそのものは、ただちに違法とはいえません。ただし、契約で禁じていれば契約違反になり、やり方がひどければ不法行為になることがあります。

営業が最初に押さえておきたいルールは、次の3つです。

  1. 本人には仕事を選ぶ自由がある:日本国憲法第22条は、誰でも職業を自由に選べると定めています。期間の定めのない雇用なら、社員は退職を申し出てから2週間で辞められます(民法第627条)。

  2. 会社どうしの約束は守る義務がある:基本契約書で引き抜きを禁じていれば、破った会社は契約違反になります。相手は損害の賠償を求められます(民法第415条)。

  3. 派遣では禁止条項に制限がある:労働者派遣では、派遣先による直接雇用を禁じる契約は結べません。正当な理由がある場合を除き、派遣元にはこの制限がかかります(労働者派遣法第33条)。

引き抜き禁止条項とは、取引先が自社の要員を直接雇ったり、直接契約したりしないことを約束する契約の条文のことです。条項がどこまで有効か、期間は何年が妥当かは、引き抜き禁止条項の有効性と期間|SES契約で守られる書き方と例文で解説しています。派遣で出している人の場合は派遣社員の引き抜きに紹介料は取れる?派遣法33条と派遣元の対応を読んでください。

型別の早見表:話し合い・紹介料・損害賠償

営業が取れる手は、軽い順に「話し合い」「紹介料」「損害賠償」の3つです。どの型でも、まずは話し合いから始めます。

紹介料とは、引き抜きを認める代わりに、相手の会社から受け取るお金のことです。損害賠償とは、契約違反や違法な行為で生じた損を、相手にお金で埋めてもらうことです。

型話し合い紹介料損害賠償
①客先の直接雇用◎ 退職日と引き継ぎを決める○ 条項があれば求めやすい△ 条項違反や悪質な場合に限る
②直接契約◎ 客先・BPと三者で整理○ 条項があれば違約金として求める○ 条項違反なら検討できる
③退職後の移籍○ 移籍先・客先に事実確認△ 会社間の条項が及ぶ範囲だけ△ 本人への請求はかなり難しい

◎はまず取り組む手、○は条件がそろえば使える手、△は難しい手を表しています。表はあくまで目安です。実際には契約書の書き方と、証拠の有無で大きく変わります。

話し合いで決めること

話し合いでは、「いつ抜けるか」「誰が引き継ぐか」「お金をどうするか」の3点を決めます。感情的にならず、今後も取引を続ける前提で進めるのがコツです。

客先との関係が続けば、代わりの要員を出せる可能性があります。引き抜かれた1人より、その後の取引のほうが大きい場合も多いものです。

紹介料を求めるとき

紹介料は、基本契約書に「直接雇用する場合は〇か月分の単価を支払う」などの定めがあると求めやすくなります。定めがないときは、交渉でお願いする形になります。

相場の決め方や計算例、交渉メールの例文は、SESの引き抜きに紹介料は取れる?相場と契約条項の書き方・例文付きにまとめています。

なお、お金を受け取って職業紹介を事業として行うには、厚生労働大臣の許可が必要です(職業安定法第30条)。「いかなる名義でも」手数料の制限がかかるため(同法第32条の3)、受け取り方は専門家に確認しましょう。

損害賠償を考えるとき

損害賠償は、最後の手段です。条項違反を証明できるか、損害の額を示せるかが大きな壁になります。

条項がなくても、悪質な引き抜きは不法行為(民法第709条)とされることがあります。たとえば、社員を一度に大勢連れ出すなど、社会的に許される範囲を大きく超える場合です。

請求できる条件と証拠の集め方は、SESの引き抜きで損害賠償は取れる?請求できる条件と証拠の集め方で解説しています。

引き抜きが発覚したら営業がやる5つの手順

発覚した日にやることは、「事実を確かめる」「契約を読む」「穴を埋める段取りをする」の3つです。次の5つの手順で進めると、抜け漏れを防げます。

  1. 本人から事実を聞く:誰から、いつ、どんな条件で声がかかったかを聞きます。責めずに聞くと、正直に話してもらいやすくなります。

  2. 契約書を確認する:基本契約書と個別契約書(注文書)で、引き抜き禁止条項・違約金・期間を確かめます。BPの人材なら、BPとの契約も見ます。

  3. 記録を残す:声がかかったメールやチャット、面談の日時をメモします。あとで紹介料や損害賠償を求めるときの証拠になります。

  4. 相手の会社に連絡する:いきなり責めず、事実確認として連絡します。条項がある場合は、条項の番号を示して話し合いを申し入れます。

  5. 代わりの要員を探す:契約の終了日から逆算して、後任の候補を集めます。客先に「代わりを出せます」と伝えられると、話し合いで優位に立てます。

客先への連絡の例文

事実確認と話し合いの申し入れを、1通にまとめた例文です。日付と条項番号は、自社の状況に合わせて書き換えてください。

件名:〇〇(要員名)の契約に関するご相談

株式会社△△ 〇〇様

いつもお世話になっております。株式会社□□の××です。
弊社から参画している〇〇について、貴社で直接雇用をご検討中と本人から伺いました。
基本契約書第〇条では、要員の直接雇用について事前の協議をお願いしております。
つきましては、今後の進め方と引き継ぎについて、ご相談の時間をいただけますでしょうか。
10月2日(金)から10月9日(金)のあいだで、ご都合のよい日時をお知らせください。

なお、後任の候補者のご提案も可能です。引き続きよろしくお願いいたします。

やってはいけないこと

引き抜きが発覚したときに、やってしまいがちなNG行動もあります。関係をこじらせるだけでなく、自社が不利になることがあるので注意しましょう。

  • 本人に「辞めたら損害賠償を請求する」とおどす

  • 退職の申し出を受け取らない、給与や退職の手続きを止める

  • 客先に、本人の悪口や根拠のない話を伝える

  • 条項を確認しないまま、高額な違約金を請求する

抜けた穴を埋める:代わりの要員の探し方

引き抜きで一番こわいのは、客先の現場に穴があき、自社の信用が落ちることです。話し合いと同時に、代わりの要員探しをすぐ始めましょう。

自分で探す方法

まずは、今ある手持ちの情報から探します。おすすめの順番は次のとおりです。

  1. 自社の待機中・契約終了間近の社員を確認する

  2. 普段やりとりしているBPに、スキルと開始日を書いた要員募集メールを送る

  3. 過去に面談した候補者の中から、スキルが近い人に声をかける

  4. 客先に、開始日を少し後ろにできないか相談する

要員募集メールには、スキル・単価・開始日・勤務地・商流の制限を必ず書きます。情報が足りないと、BPから的外れな人材が届き、時間を失います。

BPへの後任募集メールの例文

件名:【急募・11月2日開始】Java開発(後任)要員のご提案のお願い

パートナー各位

いつもお世話になっております。株式会社□□の××です。
現在稼働中の案件で、後任の要員を急ぎ探しております。

・内容:Javaによる業務システムの追加開発(詳細設計〜テスト)
・開始:2026年11月2日(月)以降、早めの参画を希望
・単価:スキル見合い(〇〇万円前後)
・場所:東京都港区(週2日リモート可)
・商流:貴社社員または貴社の一社先まで

10月16日(金)までにスキルシートをお送りいただけますと幸いです。

チョータツで楽にする方法

チョータツは、SES営業の案件・人材を管理・共有できるツールです。他社と連携すると、相手の営業中人材をデータベースとして見られます。

引き抜きで急に後任が必要になったとき、1社ずつメールで聞いて回る必要がありません。連携先の営業中人材から候補を探し、BPへの案件メールもチョータツのメール配信機能で送れます。3,000社以上が使っており、無料で始められます。

BPで見つからないときはxhours

BPの人材で見つからないときは、フリーランスに直接声をかける方法もあります。DrivenXのxhours(エックスアワーズ)を使うと、数千名のITフリーランスから探して、直接スカウトできます。

引き抜きを防ぐために今日からできること

引き抜きは、起きてからでは取れる手が限られます。「契約で備える」「情報を持っておく」「本人との関係を保つ」の3つで、起こりにくくできます。

対策やること効くのはどの型か
契約で備える基本契約書に引き抜き禁止条項と、紹介料の定めを入れる①②
BPと取り決めるBPとの契約にも、直接契約の禁止を入れる②
商流を確認する案件の商流と、客先の担当者を把握しておく②③
本人との関係定期面談で不満や評価を聞き、単価や待遇を見直す①③

条項は、提案の前に取引先と合意しておくのが理想です。基本契約書の条項チェックはSESの基本契約書とは|テンプレートと個別契約の優先・印紙7号を参考にしてください。

社員の定着の取り組みも役立ちます。引き抜きの多くは、「今の会社に不満がある」ときに起こるからです。

よくある質問

Q. SESの引き抜きは違法ですか?
引き抜きそのものは、ただちに違法とはいえません。本人には仕事を選ぶ自由があるからです。ただし、契約で禁じていれば契約違反に、やり方が悪質なら不法行為になることがあります。
Q. 客先から「〇〇さんを正社員で採りたい」と言われたら断れますか?
本人が望む場合、止めることは難しいです。退職日や引き継ぎ、紹介料の有無を話し合いで決めましょう。後任の提案も同時に出すと、取引を続けやすくなります。
Q. 引き抜き禁止条項がない場合、何もできませんか?
紹介料は交渉でお願いする形になり、違約金は原則求められません。ただし、大勢を一度に連れ出すなど悪質な場合は、不法行為として損害賠償が認められることがあります。
Q. 派遣契約でも引き抜き禁止条項を入れられますか?
労働者派遣法第33条により、派遣先が派遣労働者を雇うことを正当な理由なく禁じる契約は結べません。派遣で直接雇用の話が出たら、有料職業紹介の許可がある場合に限り、職業紹介として手数料を受け取る形を検討しましょう。
Q. 引き抜いた会社ではなく、エンジニア本人に損害賠償を請求できますか?
かなり難しいのが実情です。退職の自由があり、損害の額を示すのも簡単ではありません。まずは会社どうしの取り決めで対応するのが基本です。
Q. 引き抜きが分かったら、最初に何をすればいいですか?
本人から事実を聞き、契約書の条項を確認します。そのうえで客先に話し合いを申し入れ、同時に代わりの要員を探し始めましょう。

まとめ

  • SESの引き抜きは「客先の直接雇用」「直接契約」「退職後の移籍」の3つの型に分けて考える

  • 本人には仕事を選ぶ自由があるので、対応の中心は相手の会社との取り決め

  • 営業が取れる手は、話し合い→紹介料→損害賠償の順に重くなる

  • 紹介料や違約金の土台は、基本契約書の引き抜き禁止条項。派遣では禁止条項に制限がある

  • 発覚したら5つの手順で進め、代わりの要員探しを同時に始める

  • 後任探しは、手持ちの人材とBPから。チョータツの連携やxhoursを使うと早く集められる

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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