SESの交通費の請求ルール|契約前に決める4項目と請求書の記載例・粗利への影響
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
SESの交通費は誰が払う?請求できる?
SESの交通費を誰が負担するかは、客先とSES企業の契約で決まります。法律で負担する側が決まっているわけではないため、決めていないと「単価に含まれているはず」と言われやすくなります。
交通費とは、ここでは、エンジニアが常駐先や出張先へ行くための電車代・バス代・新幹線代などのことです。契約前の面談に行く交通費は別の話で、SESの面談交通費は誰が負担する?一般的な扱いと事前の取り決め方で解説しています。
交通費の決め方は、大きく2つです。
| 決め方 | 意味 | 客先への請求 |
|---|---|---|
| 単価込み | 交通費を月額単価に含める | 単価だけを請求する |
| 実費精算 | かかった交通費を単価と別に払ってもらう | 単価+交通費を請求する |
単価込みとは、交通費も含めて月額単価を決め、交通費を別に請求しない方法のことです。実費精算とは、実際にかかった交通費を、単価とは別に計算して払ってもらう方法のことです。
私たちの見るかぎり、通常の通勤の交通費は「単価込み」で決まる案件が多い印象です。ただし、業界全体の割合を示す公的な統計は、2026年9月時点で見当たりません。案件ごとに必ず確認するのが前提です。
契約前に決める交通費の4項目
交通費で揉めないためには、契約を結ぶ前に次の4項目を決めます。4つとも、見積書・注文書・個別契約書のどれかに文字で残します。
| # | 決めること | 決める中身の例 |
|---|---|---|
| 1 | 単価込みか実費精算か | 通勤は単価込み、出張は実費精算 |
| 2 | 実費の範囲と上限 | 最も安い経路の定期代、月2万円まで |
| 3 | 出張・臨時出社の扱い | 客先の依頼による出張は実費、事前承認が必要 |
| 4 | 請求と証拠書類 | 月末締めで請求書に別行で記載、領収書の写しを添付 |
1. 単価込みか実費精算か
最初に、通勤の交通費と、出張の交通費を分けて決めます。通勤は単価込み、出張は実費精算という組み合わせがよく使われます。
見積書の段階で「交通費:単価に含む」「交通費:実費精算(別途請求)」のどちらかを書きましょう。見積書の書き方は、SESの見積書の書き方|テンプレートと記載項目10・注意点で紹介しています。
2. 実費の範囲と上限
実費精算にするなら、どこまでを実費とするかを決めます。「最も安く合理的な経路」「定期券の額」「月◯円まで」のように書くと、客先も予算を立てやすくなります。
テレワークと出社が混ざる案件では、定期代にするか、出社した日の往復運賃にするかも決めます。出社が月数回なら、往復運賃の方が安くなることが多いです。
3. 出張・臨時出社の扱い
臨時出社とは、ふだんはテレワークの案件で、会議や作業のために客先へ出向くことです。臨時出社や出張は、回数が読めないので、単価込みにすると自社の持ち出しになりやすい項目です。
出張は次の点を決めておきます。
誰の依頼なら実費で請求できるか(客先の依頼による出張だけ、など)
事前に承認が要るか、誰が承認するか
新幹線・飛行機・宿泊費の上限、誰が手配するか
移動している時間を稼働時間に入れるか
移動時間を稼働に入れるかは、精算幅の計算にも影響します。精算の単位や端数の扱いは、SESの精算単位15分・30分の違い|稼働時間の切り捨ては違法?で解説しています。
なお、客先の担当者がエンジニアに直接「明日から大阪へ行って」と指示する形は避けましょう。準委任契約で客先が働き方を直接指示すると、偽装請負を疑われることがあります。出張の依頼は、SES企業の営業や責任者を通す流れにしておきます。
出張の依頼を受けたときの確認メール例文
客先から出張の相談が来たら、交通費の扱いと承認をメールで残します。請求書の注記に書く「承認を得た日」の証拠にもなります。
件名:【ご確認】10月15日の大阪出張の交通費について(山田)
株式会社〇〇 〇〇様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
10月15日(木)の大阪拠点での打合せについて、弊社山田が参加いたします。・交通費:個別契約書第〇条に基づき実費精算(新幹線往復 約29,000円)
・請求:10月分の請求書に別行で記載し、領収書の写しを添付します
・移動時間:稼働時間に含めない扱いとしますこの内容でよろしければ、本メールにご返信いただけますでしょうか。
4. 請求と証拠書類
最後に、いつ、何を付けて請求するかを決めます。証憑(しょうひょう)とは、領収書や利用明細など、お金を払ったことを示す書類のことです。
おすすめは、「月末締めで、翌月の請求書に業務委託料と別の行で書き、領収書や経路の画面の写しを付ける」という決め方です。精算の締め日を業務委託料とそろえると、請求が1回で済みます。
交通費の請求書の記載例
実費精算の交通費は、請求書で業務委託料と別の行に書きます。1行にまとめると、客先が単価を確認しにくくなり、問い合わせが増えます。
次は、2026年10月分(10月1日(木)〜10月31日(土))の請求書の例です。金額はすべて説明のための例です。
| 品目 | 内容 | 金額(税抜) |
|---|---|---|
| SES業務委託料 | 山田 太郎 2026年10月分(精算幅内) | 600,000円 |
| 交通費(実費) | 臨時出社 10月6日(火)・10月22日(木) 往復1,000円×2日 | 2,000円 |
| 出張交通費(実費) | 10月15日(木) 客先依頼による大阪拠点での打合せ 往復 | 29,000円 |
| 小計 | ― | 631,000円 |
請求書の下の注記欄には、次のように書くと親切です。
※交通費は、個別契約書第〇条に基づく実費精算分です。 ※臨時出社・出張の経路と金額は、別紙「交通費明細」および 領収書の写しをご確認ください。 ※出張は、2026年10月9日(金)に貴社〇〇様の承認を得たものです。
消費税の端数処理やインボイスの必須項目は、SESの請求書の書き方とテンプレート|精算の記載例と送付前チェック10で確認できます。交通費に消費税をかけるかは、報酬の一部として受け取るか、立替金として扱うかで変わることがあります。自社の扱いは、顧問税理士に確認しておきましょう。
単価込みにしたときの粗利への影響
客先は単価込みなのに、下流のBPへは交通費を実費で払う条件だと、交通費の分だけ粗利が減ります。この食い違いは、契約書を別々に作るときに起きやすいミスです。
粗利とは、売上から、エンジニアの給与やBPへの支払いなどの原価を引いた金額のことです。粗利率は「粗利÷売上×100」で出します。
次の条件で比べます。
客先の月額単価:60万円
BPへの月額支払い:50万円
通勤の交通費:月1.5万円
| パターン | 売上 | 原価 | 粗利(粗利率) |
|---|---|---|---|
| A:客先もBPも実費精算 | 61.5万円 | 51.5万円 | 10万円(約16.3%) |
| B:客先は単価込み、BPは実費 | 60万円 | 51.5万円 | 8.5万円(約14.2%) |
| C:客先もBPも単価込み | 60万円 | 50万円 | 10万円(約16.7%) |
| D:客先は実費、BPは単価込み | 61.5万円 | 50万円 | 11.5万円(約18.7%) |
パターンBは、毎月1.5万円を自社が負担している状態です。1年続くと18万円の差になります。
自社の社員を出す場合も同じです。社員の通勤手当は会社の原価です。客先が単価込みなら、その分を見込んで単価を決める必要があります。自社社員の原価の考え方は、SESの粗利率の平均は?利益率の計算式と計算例・上げる方法5つで解説しています。
臨時出社・出張は小さな額でも積み重なる
テレワーク中心の案件で、月4回、往復1,000円の臨時出社があるとします。1か月で4,000円、1年で48,000円です。
出張が年に数回あれば、1回で数万円かかることもあります。単価込みの契約で出張が増えると、案件の粗利がそのまま減ります。通勤は単価込みでも、出張と臨時出社だけは実費精算にしておくのがおすすめです。
リモート案件が途中から出社必須に変わった場合は、交通費の条件も見直しの対象です。進め方はSESのリモート案件が出社必須に変わったら|交渉と退場の判断で解説しています。
BP・フリーランスとの交通費の決め方
下流のBP・フリーランスとは、客先と同じ条件で交通費を決めるのが基本です。客先が単価込みなら下流も単価込み、客先が実費なら下流も実費にそろえます。
フリーランスには3条通知に書く
フリーランス法とは、2024年11月1日に施行された、フリーランスとの取引のルールを定めた法律のことです。発注する会社は、報酬の額や支払期日などを書面やメールで示す必要があります(第3条)。この通知を3条通知と呼びます。
交通費を報酬と別に払うなら、その扱いも3条通知に書いておきましょう。約束した交通費をあとから払わない、報酬から差し引くといった扱いは、報酬の減額と見られるおそれがあります。
源泉徴収の対象になる報酬なら交通費にも注意
源泉徴収とは、報酬を払う会社が、所得税をあらかじめ差し引いて国に納めるしくみのことです。プログラミングやシステム開発の報酬は、原則として源泉徴収が要りません。
一方、デザインや研修講師など源泉徴収が要る報酬では、交通費を報酬に含めて払うと、原則として交通費も対象に含めます。国税庁は、支払う会社が交通機関やホテルへ直接払った通常必要な範囲の交通費などは、報酬に含めなくてよいとしています。くわしくは、エンジニアへの業務委託と源泉徴収|不要な場合と消費税の計算例で解説しています。
交通費で揉めないための確認手順5つ
交通費で揉める原因のほとんどは、決めていなかったことです。案件を受ける前から請求するまで、次の順で確認しましょう。
案件メールの条件面を確認する:「交通費込み」「交通費別途」の記載を見る
見積書に交通費の扱いを書く:通勤と出張を分けて、単価込みか実費かを書く
注文書・個別契約書と照らし合わせる:見積書と同じ扱いになっているか確認する
下流の契約を同じ条件にする:BPの注文書・フリーランスの3条通知もそろえる
月末に証憑を集めて請求する:業務委託料と別の行で、区間・日付・金額を書く
案件メールで確認する条件面の項目は、SESの条件面の書き方|案件・人材メールに入れる14項目と記入例にまとめています。
チョータツで案件ごとの交通費の条件を管理する
自分で管理する場合は、Excelの案件一覧に「交通費(通勤)」「交通費(出張)」「上限」の列を足します。提案のたびにその列を見て、下流の条件と比べます。
ただ、交通費の条件は案件メールの最後に小さく書かれていることが多く、転記のときに抜けやすい項目です。抜けたまま契約すると、パターンBのような持ち出しが起きます。
チョータツとは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールのことです。3,000社以上が使っていて、無料で始められます。
| 場面 | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 交通費の条件を残す | Excelやメールに散らばる | 案件の情報としてまとめて管理できる |
| 提案前に確認する | 案件メールを探して読み返す | 案件情報を開いて確認できる |
| 社内で共有する | ファイルを送り合う | チームで同じ情報を共有できる |
| 情報を入れる | 1件ずつ手で書き写す | AIが入力を手伝う |
他社と連携すると、他社の営業中案件・営業中人材もデータベースとして見られます。交通費などの条件を比べてから提案できるので、契約後の「聞いていない」を減らせます。
よくある質問
- Q. SESの交通費は客先に請求できますか?
- 契約で実費精算と決めていれば請求できます。決めていなければ、単価に含まれていると扱われやすいです。見積書と注文書に、単価込みか実費精算かを書いておきましょう。
- Q. SESの交通費は単価込みが一般的ですか?
- 通常の通勤の交通費は、単価込みで決まる案件が多い印象です。ただし、割合を示す公的な統計はありません。出張や臨時出社は、実費精算にしておくのがおすすめです。
- Q. テレワーク中心の案件で、出社した日の交通費はどうしますか?
- 月数回なら、出社した日の往復運賃を実費精算にする方法が分かりやすいです。事前に「客先の依頼による出社のみ」「月◯円まで」と決めておきます。
- Q. 交通費を請求書に書くときの注意点は?
- 業務委託料と別の行に分け、日付・区間・金額を書きます。領収書や経路の画面の写しを付けると、客先の確認が早くなります。
- Q. BPから交通費を請求されたら払う必要がありますか?
- BPとの注文書や基本契約で実費精算と決めていれば、払う必要があります。単価込みと決めていれば、別に払う必要はないのが一般的です。まず契約書の記載を確認しましょう。
- Q. フリーランスの交通費は源泉徴収の対象ですか?
- システム開発などの報酬は、原則として源泉徴収が要りません。源泉徴収が要る報酬では、交通費を含めて払うと原則として対象に含めます。会社が交通機関へ直接払った通常必要な範囲の交通費は、含めなくてよいとされています。
まとめ
SESの交通費を誰が払うかは、法律ではなく契約で決まる
契約前に、単価込みか実費か・実費の範囲と上限・出張と臨時出社・請求と証憑の4項目を決める
実費精算の交通費は、請求書で業務委託料と別の行に書き、日付・区間・金額を入れる
客先は単価込み、BPは実費だと、月1.5万円で年18万円の持ち出しになる
通勤は単価込みでも、出張と臨時出社は実費精算にしておくと持ち出しを防げる
客先・BP・フリーランスの3つの契約で、交通費の条件をそろえる
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」(報酬に含まれる交通費・宿泊費の扱い)
国税庁「No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき」(旅費・宿泊費を直接支払った場合)
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)」(第3条 取引条件の明示、第5条 禁止行為)
厚生労働省「請負を適正に行うために」(37号告示)