SESの客先でセクハラが起きたら|相談を受けた営業の対応6手順と、雇用主(SES企業)が負う措置義務・客先への申入れ例文
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
客先でのセクハラに、SES企業は責任を負う?
負います。男女雇用機会均等法第11条第1項は、事業主に、雇用する労働者を職場のセクハラから守る措置を義務づけています。相談体制の整備などです。行為者が客先の社員でも、この義務はなくなりません。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、職場での性的な言動で、働く人の労働条件や働く環境が害されることです。厚生労働省の指針(平成18年厚生労働省告示第615号)は、次の2点をはっきり書いています。
「職場」には取引先の事務所も含まれる:常駐先の客先オフィスは、SESのエンジニアにとって「職場」です。
行為者は取引先の社員もなりうる:上司・同僚だけでなく、取引先などの他の事業主やその社員、顧客も行為者になりえます。
あわせて、労働契約法第5条は、使用者に、社員が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を定めています。
派遣とSES(準委任)で、客先の義務が違う
派遣と準委任(SES)では、客先が負う義務の重さが違います。営業はこの違いを知ったうえで、客先に話をします。
| 項目 | 派遣 | SES(準委任) |
|---|---|---|
| 雇用主の措置義務 | 派遣元にある | SES企業にある |
| 客先の措置義務 | 派遣先も事業主とみなされ、義務がある(派遣法第47条の2) | 客先は雇用主とみなされない |
| 客先に求められること | 自社の社員と同じように相談・対応 | 他社からの協力依頼に応じる努力義務(均等法第11条第3項)と、自社社員(行為者)への対応 |
| 中心になって動く会社 | 派遣元と派遣先 | SES企業(営業が窓口) |
SESでは客先に派遣先ほどの義務がないため、自社が主体になって動かないと、誰も動かない状態になりがちです。準委任で客先ができる指示の範囲は、準委任契約の指揮命令はどこまで?SES現場のOK・NG具体例20で確認できます。
相談を受けたら:営業の対応6手順
相談を受けたら、次の6手順で進めます。手順1と2は当日中に行います。
本人の安全を確保する(当日)
社内の責任者・相談窓口につなぐ(当日)
本人の希望と同意を確認し、話を聞き取る(1〜3営業日以内)
客先の責任者に事実確認への協力を申し入れる(本人の同意後)
配置換え・在宅切替え・退場を決める
再発防止と、本人のフォローを続ける
手順1:本人の安全を確保する
最初にやるのは、本人が行為者と顔を合わせずにすむ状態を作ることです。事実確認より先に行います。
体調不良などを理由に、翌日以降の出社を控えてもらう(客先には理由の詳細を伝えなくてよい)
在宅で働ける案件なら、在宅への切替えを客先に相談する
身体への接触などがあり、本人が望むなら、警察への相談も選択肢として伝える
相談を受けた直後の返信の例文
〇〇さん、話してくれてありがとうございます。まずは〇〇さんの安全が一番です。明日は無理に出社しなくて大丈夫なので、客先には私から「体調不良でお休み」と伝えます。
この件は、会社の相談担当の△△さんと私の2人だけで扱います。〇〇さんの了解なく、客先や他の人に話すことはありません。明日、30分ほどオンラインで話を聞かせてもらえますか。
手順2:社内の責任者・相談窓口につなぐ
営業は、当日中に上長と社内の相談窓口(人事・総務など)に報告します。営業1人で抱えると、判断が遅れたり、話が必要以上に広がったりします。
指針は、相談窓口をあらかじめ決めて社員に知らせることを求めています。相談者・行為者のプライバシーを守ることも、事業主の措置です。話を知る人は、必要な最少人数にします。
手順3:本人の希望と同意を確認し、話を聞き取る
聞き取りでは、本人が何を望んでいるかを先に確認します。「客先に伝えてほしい」「伝えずに現場を離れたい」など、希望は人によって違います。
聞き取りシートの項目は次のとおりです。
| 項目 | 聞き方の例 |
|---|---|
| いつ・どこで | 「最初はいつ頃でしたか。場所はどこでしたか」 |
| 誰が | 「相手の方の部署やお名前はわかりますか」 |
| 何があったか | 「言われたこと・されたことを、覚えている範囲で教えてください」 |
| 回数・続いているか | 「何回くらいありましたか。今も続いていますか」 |
| 見ていた人・記録 | 「近くにいた人や、メッセージの記録はありますか」 |
| 心身の状態 | 「眠れない、行くのがつらいなどはありますか」 |
| 本人の希望 | 「会社にどうしてほしいですか。客先に伝えてもよいですか」 |
聞き取りのときは、次の3点を守ります。
「気にしすぎでは」「あなたにも隙が」などと言わない(本人を責める言葉は、相談をやめさせてしまいます)
本人が話したくないことは無理に聞かない
記録は本人に読み上げて確認し、社内の限られた場所に保管する
手順4:客先の責任者に事実確認への協力を申し入れる
客先への申入れは、本人の同意を得てから、客先の担当者ではなく責任者(部長など)や人事に行います。行為者が現場の担当者本人である場合があるからです。
行為者が他社の社員なら、その会社に事実確認への協力を求めることも、指針が定める事実確認の措置に含まれます。客先には、均等法第11条第3項で、協力に応じる努力義務があります。
客先への申入れの例文(メール)
株式会社△△ 人事部 □□様
いつもお世話になっております。株式会社〇〇の××です。
貴社にて業務を行っている弊社社員から、貴社の方の言動について、性的な言動に関する相談を受けました。弊社は雇用主として、男女雇用機会均等法にもとづき対応を進めております。つきましては、次の3点についてご協力をお願いいたします。
事実関係の確認へのご協力(弊社からの情報は、ご担当者様限りでのお取扱いをお願いします)
確認の結果に応じた、再発防止のためのご対応
確認が終わるまでの間、弊社社員が当該の方と接しない業務の配置
詳細は、〇月〇日までにお打ち合わせの場でご説明させてください。
申入れでは、相談者が誰かを客先に伝える範囲も、本人と事前に決めておきます。
手順5:配置換え・在宅切替え・退場を決める
本人の配置は、本人の希望を最優先に決めます。事実確認に時間がかかっても、本人をつらい現場に置き続けてはいけません。
| 状況 | 選択肢 | 判断のめやす |
|---|---|---|
| 客先が迅速に対応し、行為者と離れられる | 現場を続ける | 本人が続けたいと言い、行為者と接しない配置ができる |
| 客先の対応待ち | 在宅に切替え/出社を控える | 事実確認が終わるまでの一時的な対応 |
| 客先の対応が不十分・本人が離れたい | 退場し、別の案件へ | 本人の希望があれば迷わず選ぶ |
| 心身の不調がある | 休職・療養 | 医師の意見を聞く |
退場する場合、客先との契約の途中解約の条件(予告期間など)を確認します。ハラスメントを理由とする退場では、本人が不利にならないよう、会社が交渉を引き受けます。退場の進め方はSESの契約途中の退場|営業がやる対応5ステップと連絡例文で確認できます。
体調不良時の客先への連絡は、SESで体調不良のエンジニアが退場・休職するとき|客先連絡の例文付きが参考になります。
手順6:再発防止と、本人のフォローを続ける
対応が終わっても、本人との面談を2〜3か月は続けます。新しい現場になじめているか、体調はどうかを確かめます。
社内では、次の3点を見直します。
相談窓口を社員に知らせているか(常駐エンジニアは本社の掲示を見ないため、メールや入場時の案内で伝える)
客先との基本契約に、ハラスメントが起きたときの協力の条項があるか
定期面談で、困りごとを話しやすい質問をしているか
定期面談の進め方はSESの定期面談(FB面談)のやり方|質問10とシート例にまとめています。
相談したことを理由に不利に扱ってはいけない
均等法第11条第2項は、相談したことを理由に解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁止しています。事実確認に協力して事実を話したことを理由にする場合も同じです。
SESでは、次のような対応が「不利益な取扱い」と受け取られるおそれがあります。
相談した本人を退場させ、次の案件を紹介せずに待機のままにする
「客先ともめたから」と評価や給与を下げる
退場後の待機期間の給与を、本人の責任として減らす
本人が現場を離れたあとは、次の案件を優先して探すことが、会社として一番の配慮になります。待機中の給与の考え方はSESの待機期間の給与と対応|休業手当の計算例と早く案件に入る7手順を確認してください。
BPのエンジニア・フリーランスが被害にあったとき
BPの社員やフリーランスから相談を受けたときは、誰が雇用主かで動き方が変わります。
| 本人の立場 | 措置義務を負う会社 | 営業がやること |
|---|---|---|
| 自社の社員 | 自社 | この記事の6手順で進める |
| BPの社員 | BP(雇用主) | 本人の同意を得てBPに伝え、客先との調整に協力する |
| 個人のフリーランス | 自社(発注者として) | フリーランス法第14条の体制で対応する |
フリーランス法第14条は、従業員を使う発注者(特定業務委託事業者)に措置を義務づけています。委託先のフリーランスへのセクハラなどについて、相談に応じ、適切に対応する体制を整える義務です。相談したことを理由に契約を解除するなどの不利益な扱いも禁止されています(同条第2項)。
客先社員からのパワハラ(大声の叱責や人格否定など)の場合は、SESの客先パワハラに営業はどう対応?相談から契約見直しまで6手順の手順も合わせて使えます。
行政の対応と、本人が使える外部の窓口
措置義務を守らない会社は、厚生労働大臣(都道府県労働局)から助言・指導・勧告を受けることがあります。勧告に従わなければ、企業名が公表されることもあります。根拠は均等法第29条・第30条です(2026年10月1日の改正法施行後は第35条・第36条)。
本人が外部に相談したいときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が窓口になります。会社として外部窓口の存在を本人に伝えることも、誠実な対応の1つです。
本人の次の案件を、チョータツで早く探す
セクハラの相談を受けたとき、本人を守る一番確実な方法は「現場を離れても大丈夫」と言える状態を作ることです。次の案件の目途があれば、本人は我慢して現場に残る必要がなくなります。
自分でやる場合は、次の順で進めます。
本人のスキル・希望(在宅の可否、エリア)を整理する
自社に届いている案件メールから、条件に合う案件を探す
付き合いのあるBPに、本人のスキルを伝えて案件を問い合わせる
もっと楽にするなら、チョータツを使う方法があります。チョータツとは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有するツールのことです。3,000社以上が利用し、無料で始められます。
| やること | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 次の案件を探す | 届いたメールを1通ずつ読む | 連携した会社の営業中案件をデータベースで探せる |
| 本人の情報を社内で共有する | 担当者ごとのExcel | 1か所で管理し、必要な人だけで共有できる |
| BPに人材を案内する | メールソフトで一斉送信 | メール配信機能で送れる |
相談の内容そのものは、案件・人材の管理ツールに書かないでください。相談記録は、社内の相談窓口が限られた場所で保管します。
よくある質問
- Q. SESの客先でセクハラが起きたら、誰が対応する義務がありますか?
- 雇用主のSES企業です。男女雇用機会均等法第11条第1項で、相談に応じて適切に対応する措置が義務づけられています。客先には、協力を求められたら応じる努力義務があります。
- Q. 客先でのセクハラは「職場」のセクハラにあたりますか?
- あたります。厚生労働省の指針は、取引先の事務所でも、社員が業務を行う場所なら「職場」に含まれるとしています。
- Q. 本人が「客先には言わないでほしい」と言ったらどうしますか?
- 本人の意思を尊重し、同意なく客先に伝えません。そのうえで、在宅への切替えや退場など、本人が行為者と接しない方法を会社として用意します。
- Q. セクハラを理由に、SES契約を途中で解除できますか?
- 契約の解約条項しだいです。本人を守るために退場が必要なら、予告期間などを確認し、会社が客先と交渉します。本人を不利に扱ってはいけません。
- Q. BPのエンジニアから相談されたらどうしますか?
- 本人の同意を得て、雇用主のBPに伝えます。客先との調整は、自社が商流の間に入って協力します。フリーランスの場合は、発注者の自社がフリーランス法第14条の体制で対応します。
まとめ
客先の社員からのセクハラでも、雇用主のSES企業に措置義務がある(均等法第11条第1項)
取引先の事務所も「職場」、取引先の社員も行為者になりうる(厚生労働省の指針)
相談を受けたら当日中に本人の安全を確保し、責任者・相談窓口につなぐ
客先には本人の同意を得て、責任者へ書面で協力を申し入れる。客先には協力の努力義務がある
配置は本人の希望を最優先。相談したことを理由に不利に扱わない
BPの社員は雇用主のBPに、フリーランスは発注者の自社がフリーランス法第14条で対応する
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)」(第11条第1項〜第3項 措置義務・不利益取扱いの禁止・他の事業主への協力、第29条・第30条 勧告・公表。2026年10月1日施行版では第35条・第36条)
厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)」(職場・行為者の範囲、派遣労働者の扱い、事実確認と再発防止での他の事業主への協力依頼、プライバシー保護)
厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(第47条の2)
e-Gov法令検索「労働契約法」(第5条 労働者の安全への配慮)
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)」(第14条 業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等)