SESの客先パワハラに営業はどう対応?申入れ・退場交渉の6手順とカスハラ条項の文例
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
客先パワハラは営業が対応するべき?
はい、営業(と会社)が対応します。SESの要員を雇っているのはSES企業なので、働く環境を守る責任もSES企業にあるからです。
客先パワハラとは、SESの要員が常駐先の客先社員から受ける、いじめや行き過ぎた叱責などのことです。SESでは客先とSES企業が別の会社なので、要員は相談先に迷いがちです。
SES企業には安全配慮義務がある
安全配慮義務とは、会社が社員の命や心身の健康を守るよう配慮する義務のことです(労働契約法5条)。社員が他社で働いていても、雇っている会社の義務は消えません。
相談を受けたのに放っておくと、要員が心身の不調で休職したり、退職したりするおそれがあります。会社の責任を問われる場面もありえます。
パワハラの3要素と6類型
パワーハラスメント(パワハラ)とは、厚生労働省の指針では次の3つをすべて満たす言動のことです。
優越的な関係を背景とした言動
業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
労働者の就業環境が害されるもの
指針は代表例として、6つの類型を挙げています。客先でよく起きる例と合わせて整理します。
| 類型 | 客先で起きやすい例 | 営業の見方 |
|---|---|---|
| 身体的攻撃 | 物を投げる・机をたたく | すぐに現場から離す |
| 精神的攻撃 | 人前での大声の叱責・人格否定 | 記録を集め、申入れ |
| 人間関係からの切り離し | 会議に呼ばない・無視する | 業務に影響があれば申入れ |
| 過大な要求 | 契約外の作業・無理な量や期限を押しつける | 契約範囲・稼働時間の確認とセットで申入れ |
| 過小な要求 | 仕事を与えない・能力に見合わない雑用だけ | 契約範囲の確認とセットで申入れ |
| 個の侵害 | 私生活やSNSをしつこく聞く・詮索する | 記録を集め、申入れ |
なお、業務上必要かつ相当な範囲の注意や指導は、パワハラにあたりません。性的な言動の場合は、SESの客先でセクハラが起きたら|営業の対応6手順と会社の義務の手順で対応します。
客先パワハラは「指揮命令の問題」でもある
客先社員が要員を直接叱っている状態は、ハラスメントであると同時に、契約の形が崩れているサインです。ここを押さえると、客先へ申入れる時の筋が通ります。
指揮命令とは、仕事のやり方や順番、時間などを細かく指示して従わせることです。SESの多くは準委任契約で、要員に指揮命令できるのは、雇っているSES企業だけです。
厚生労働省の37号告示の疑義応答集は、発注者が現場の作業者へ直接指示すると、偽装請負と判断されうるとしています。客先社員が要員を毎日叱責しているなら、指示も直接出している可能性が高いです。
そのため申入れでは、ハラスメントをやめてもらうだけでは足りません。「要員への指示や注意は、弊社の責任者を通してください」とあわせて求めます。客先にとっても、偽装請負のリスクを下げる話になります。
→ 詳しくは準委任契約の指揮命令はどこまで?SES現場のOK・NG具体例20
客先パワハラに営業がやる6手順
対応は次の6手順で進めます。手順1〜3は相談を受けた当日から3営業日以内に終えるのが目安です。
要員から聞き取る(当日)
事実を記録する(当日〜2営業日)
社内で方針を決める(3営業日以内)
客先の責任者へ申入れる(方針決定後すぐ)
改善を確認するか、退場を交渉する(申入れから2〜4週間)
契約を見直し、再発を防ぐ(決着後)
心身の不調が見えたり、暴力があったりする時は、手順を飛ばしてその日のうちに出社を止める判断もします。
手順1:要員から聞き取る
最初にやることは、要員の話を否定せずに最後まで聞くことです。「気にしすぎ」「我慢して」は言いません。
聞く項目は次の7つです。
だれから(名前・役職)
いつ・どこで(日時・場所・会議名)
何を言われたか・されたか(言葉のまま)
だれが見ていたか
何回くらい続いているか
体調・睡眠に変化はあるか
本人の希望(続けたい・配置を変えたい・離れたい)
聞き取りは、客先の外(オンラインや自社)で行います。客先の会議室では、本人が話しにくいからです。
相談を受けた直後に本人へ送るメッセージ(例文)
〇〇さん 話してくれてありがとうございます。まず、〇〇さんの体調と安全を最優先に考えます。 今日の19時に、オンラインで30分ほど詳しく聞かせてください。 それまでに、覚えている範囲で「日時・言われたこと・見ていた人」をメモしてもらえると助かります。 客先には、〇〇さんの了解なしに話を伝えることはしません。
最後の1文で、本人の同意なく客先に伝えないと約束すると、本人が安心して話せます。
手順2:事実を記録する
次に、聞いた内容を日付つきの記録にします。申入れや退場交渉では、記録があるかどうかで話の進み方が大きく変わります。
記録に残すものの例です。無理な量の作業で残業が続いている場合は、SESの客先で残業が続くときの営業の対応|安全配慮義務と交渉もあわせて確認します。
聞き取りメモ(日時・聞いた人・内容)
本人の日記やメモ(その日に書いたもの)
チャットやメールの画面(日時が見える形)
同じ現場のメンバーの話
通院した場合は、その事実
録音は、本人が自分の身を守るために行うことが多いです。扱いに迷う時は、弁護士に相談します。
手順3:社内で方針を決める
手順3では、営業だけで抱えず、営業責任者・人事(労務担当)と一緒に方針を決めます。決めるのは次の3点です。
| 決めること | 選択肢 | 判断のめやす |
|---|---|---|
| 本人の配置 | 続ける/在宅に切替/出社を止める | 体調・暴力の有無 |
| 申入れの強さ | 口頭の相談/書面での申入れ | 回数・内容の重さ |
| ゴール | 改善して継続/退場 | 本人の希望と客先の姿勢 |
本人の希望を最優先にしつつ、会社として無理な継続はさせないのが基本です。売上を理由に我慢を求めると、退職や休職につながりやすくなります。
手順4:客先の責任者へ申入れる
申入れは、行為者本人ではなく客先の責任者(契約窓口の上長や管理職)に行います。行為者に直接言うと、要員への風当たりが強くなるおそれがあるからです。
悪い話ほど、最初は面談か電話で伝えます。そのあと、同じ内容をメールで送り記録に残します。
件名:弊社要員の就業環境についてのご相談(株式会社△△ □□) 株式会社〇〇 ××部 ××様 いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。 本日お時間をいただき、ありがとうございました。 お電話でお伝えした内容を、あらためてお送りいたします。 弊社要員〇〇より、現場での言動について相談を受けております。 ・2026年9月14日(月)定例会議にて、大声での叱責があった ・9月下旬から、担当外の作業の指示が直接届いている 本人は体調面の不安も訴えており、弊社として重く受け止めております。 つきましては、次の2点をご検討いただけますと幸いです。 1. 事実関係のご確認 2. 業務の指示やご要望は、弊社の業務責任者□□を通していただくこと 10月2日(金)までに、ご確認の状況をお聞かせいただけますでしょうか。 引き続きよろしくお願いいたします。
ポイントは3つです。事実だけを書く、相手を決めつけない、回答の期限を入れる。感情的な言葉や「パワハラです」と断定する言い方は避けます。
カスハラ防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は、他社から協力を求められたら応じるよう努めると定めています。協力を求めたことを理由に、契約を解除するなど不利に扱わないことも求めています。客先が動かない時は、この指針を示して協力を頼むのも1つの手です。
手順5:改善を確認するか、退場を交渉する
申入れのあとは、2〜4週間を目安に様子を見ます。週1回、要員と短い面談をして、変化を確認します。
改善が見られない時や、客先が事実を認めない時は、退場(契約の終了や要員の交代)を交渉します。退場の伝え方の例です。
先日ご相談した弊社要員〇〇の件につきまして、 本人の心身の状態を考え、弊社として〇〇の参画を 2026年10月30日(金)までとさせていただきたく存じます。 後任として、別の要員のご提案も可能です。 スキルシートを添付いたしますので、ご検討いただけますと幸いです。
退場の日は、基本契約や個別契約の解約予告の期間に合わせるのが基本です。ただし暴力などで危険がある時は、予告の期間を待たず、本人の出社を先に止めます。その間の費用の扱いは、客先と話し合います。
後任を出すかどうかは、客先の姿勢で決めます。同じ行為者がいる現場へ、別の要員を出すのは慎重に考えます。
→ 退場の手続きはSESの契約途中の退場|営業がやる対応5ステップと連絡例文
→ 体調を崩して休む場合はSESで体調不良のエンジニアが退場・休職するとき|客先連絡の例文付き
手順6:契約を見直し、再発を防ぐ
最後に、同じことを繰り返さないために契約と社内の仕組みを見直します。
基本契約にハラスメント条項を入れる(次の章の文例)
要員との月1回の面談で「困っていること」を必ず聞く
社内の相談窓口を要員に周知する(営業以外の窓口も用意)
退場になった客先への次の提案は、改善を確認してからにする
2026年10月からのカスハラ対策義務化とSES
2026年10月1日から、すべての事業主にカスハラ防止のための措置が義務づけられます。2025年6月11日に公布された、労働施策総合推進法などの改正によるものです。
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引の相手方などの行き過ぎた言動で、働く人の就業環境が害されることです。厚生労働省のカスハラ防止指針は、「社会通念上許容される範囲を超えたもの」を対象としています。
指針が挙げる「顧客等」には、取引の相手方が入っています。SES企業から見ると、客先は取引の相手方です。そのため、客先社員からの行き過ぎた言動もこの枠組みで考えられます。
指針が事業主に求める措置は、主に次の5つです。
| 措置 | SES企業でやること |
|---|---|
| 方針を決めて知らせる | 「取引先からのハラスメントから社員を守る」と社内に示す |
| 相談体制を整える | 要員が営業以外にも相談できる窓口を作る |
| 起きた後の対応 | 事実確認と、配置換えなど本人への配慮 |
| 抑止のための措置 | 契約条項や対応ルールを整える |
| プライバシー保護 | 相談者の情報を守り、不利益に扱わない |
客先社員の言動がパワハラ・カスハラのどちらにあたるかは、個別の事情で変わります。判断に迷う時は、社会保険労務士や弁護士に確認してください。
BPのフリーランスが被害にあった時
自社がフリーランスと直接業務委託契約を結んでいる場合、SES企業は発注者の立場です。フリーランス法14条は、従業員を使う発注者などに、ハラスメントの相談体制づくりを義務づけています。契約の期間の長さは関係ありません。
BP企業がフリーランスや社員と契約している場合は、契約の当事者であるBP企業と連携して対応します。どちらの場合も、営業は情報を上位・下位の会社と早めに共有します。
→ 詳しくはフリーランス法のSES対応|発注者の義務7つと実務チェック表
基本契約に入れたいカスハラ条項の文例
客先パワハラの予防には、基本契約書にハラスメント条項を入れておくのが効果的です。契約にあれば、申入れや退場の話を「契約どおり」に進められます。
次は条項の文例です。自社の契約書にあわせて調整し、法務担当や弁護士の確認を受けてから使ってください。
第〇条(ハラスメントの防止) 1. 甲及び乙は、本契約に基づく業務の遂行にあたり、 相手方及び相手方の従業者に対し、パワーハラスメント、 セクシュアルハラスメント、カスタマーハラスメントその他の ハラスメントに当たる言動を行わず、自己の従業者にも 行わせないものとする。 2. 甲は、乙の従業者に対する業務上の要望、注意及び指示を、 乙が定める業務責任者を通じて行うものとする。 3. 甲又は乙は、前二項に反するおそれのある事実を知ったときは、 相手方に速やかに通知し、事実関係の確認及び再発防止に 誠実に協力するものとする。 4. 乙は、甲の従業者の言動により乙の従業者の就業環境が 著しく害され、甲に是正を求めても改善されないときは、 〇日前までに甲に通知することにより、 当該従業者の業務従事を終了させることができる。 この場合、乙は後任者の提案に努めるものとする。
※甲=発注者(客先)、乙=受注者(SES企業)
条項を入れる時の注意点です。
第2項は、偽装請負を防ぐ意味もあります。指揮命令の条項とそろえると筋が通ります。
第4項の予告日数は、通常の解約予告より短くしておくと、要員を早く守れます。
客先から削除を求められたら、第1項と第3項だけでも残す交渉をします。
→ 基本契約全体の見直しはSESの基本契約書とは|テンプレートと個別契約の優先・印紙7号
要員が相談できる外部の窓口
社内の窓口に加えて、公的な相談窓口も要員に伝えておきます。営業に言いにくいことも、外の窓口なら話せる場合があります。
| 窓口 | 運営 | 相談できること |
|---|---|---|
| 総合労働相談コーナー | 都道府県労働局・労働基準監督署 | パワハラ・いじめ・解雇など労働問題全般 |
| あかるい職場応援団 | 厚生労働省 | ハラスメントの基礎知識・相談先の案内 |
| 社内の相談窓口 | 自社(人事・労務) | 配置換え・休職・退場の相談 |
総合労働相談コーナーは、都道府県労働局などに置かれた公的な窓口です。会社として紹介しておくと、「会社は守ってくれる」という安心にもつながります。
退場後の次の現場と後任探しを楽にする方法
パワハラで要員を退場させたあと、営業の次の仕事は要員の次の現場探しと、必要なら客先への後任提案です。どちらも、まずは自分でできる方法から進めます。
自分でやる方法
取引のあるBPに、要員の条件にあう案件をメールで聞く
届いた案件メールから、スキル・単価・勤務地で候補を絞る
前の現場の反省を生かし、面談で現場の雰囲気や体制も確認する
ただ、この方法は案件メールを1通ずつ読むので時間がかかります。退場から次の参画までが空くと、要員の待機が長くなります。
チョータツで楽にする
チョータツは、SES営業の案件・人材の管理・共有ツールです。他社と連携すると、相手の営業中案件・営業中人材がデータベースになります。3,000社以上が利用し、無料で始められます。
要員の次の現場を、連携先の営業中案件から探せる
客先に後任を出す時は、連携先の営業中人材から探せる
パートナーへのメール配信機能で、要員の情報をまとめて届けられる
BPの中で後任が見つからない時は、xhoursも使えます。xhoursとは、企業がITフリーランスに直接スカウトできるサービスです。数千名のフリーランスのデータベースから探せます。
よくある質問
- Q. 客先社員のパワハラは、客先に対応してもらえばいいのでは?
- 客先にも協力は求めますが、要員を雇っているSES企業が主体で動きます。客先任せにすると、要員の安全配慮が遅れます。
- Q. 客先に申入れると、契約を切られませんか?
- 事実だけを伝え、窓口を営業に戻す提案にすれば、関係はこじれにくいです。それでも切られるなら、続けても要員が守れない現場と考えます。
- Q. SESのパワハラで、すぐに退場させてもいいですか?
- 暴力や心身の不調がある時は、まず出社を止めて安全を優先します。そのうえで、契約の解約予告にそって退場の日を客先と決めます。
- Q. SESのカスハラ条項は、客先が嫌がりませんか?
- 2026年10月からカスハラ対策は事業主の義務になるため、話はしやすくなっています。双方が守る形の条項にすると受け入れられやすいです。
- Q. 要員が「大ごとにしないで」と言う時はどうしますか?
- 本人の希望を尊重し、申入れは本人の同意を得てから行います。ただし記録は残し、週1回の面談で様子を確認し続けます。
まとめ
客先パワハラの対応は、聞き取り・記録・社内判断・申入れ・改善確認か退場交渉・契約見直しの6手順
要員を守る責任は雇っているSES企業にある(安全配慮義務)
客先社員の直接の叱責や指示は、指揮命令の問題でもある。申入れで窓口を営業に戻す
申入れは客先の責任者へ。事実だけを書き、回答の期限を入れる
2026年10月1日からカスハラ対策が事業主の義務に。基本契約にハラスメント条項を入れる
退場させても、次の現場と後任を早く用意すれば、要員も取引も守れる
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
厚生労働省「職場におけるハラスメント対策」(パワハラ防止措置の義務化、カスハラ対策の施行日 2026年10月1日)
厚生労働省「パワーハラスメント指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」(3要素・6類型)
厚生労働省「カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」(定義・「顧客等」に取引の相手方を含む・他の事業主からの協力の求め)
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)」(第14条 ハラスメント対策の体制整備)
厚生労働省「あかるい職場応援団」
e-Gov法令検索「労働契約法」(第5条)