SESの稼働時間を一方的に短縮されたら?減額の可否の判断基準と交渉6ステップ・例文
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
契約期間中の稼働短縮は、合意がなければ認めなくてよい
契約期間の途中で「来月から週3にしたい」と言われても、合意しなければ契約の条件は変わりません。個別契約で決めた単価や精算幅は、双方の約束だからです。
稼働短縮とは、客先がエンジニアの稼働日数や稼働時間を、契約より減らしたいと求めることです。週5日を週3日にする、1日8時間を6時間にする、などの形があります。
個別契約とは、基本契約のもとで、期間・単価・作業内容などを1件ずつ決める契約のことです。契約は申込みと承諾がそろったときに成立します(民法第522条)。成立した条件は、合意がなければ変えられないのが原則です。
ただし準委任は「いつでも解除できる」点に注意
準委任とは、作業の完成ではなく、決められた業務を行うこと自体を約束する契約のことです。民法では、委任(準委任)は各当事者がいつでも解除できるとされています(民法第651条第1項、第656条)。
つまり、短縮を断ると、客先が契約そのものを終わらせる選択をとる可能性もあります。相手に不利な時期に解除した側は、やむを得ない事由がなければ損害を賠償するのが原則です(民法第651条第2項)。
多くの基本契約書には、「1か月前に通知すれば解除できる」といった条項があります。短縮を断る前に、解除の予告期間を必ず確かめてください。
精算幅つきの契約で、稼働だけ減らされた場合
精算幅つきの契約で、客先の指示で稼働だけが減ると、下限を割って控除が発生します。控除とは、稼働が精算幅の下限に届かなかったときに、足りない時間分を請求額から引くことです。
たとえば月額70万円・精算幅140〜180時間の契約で、稼働が96時間になった例です。
控除単価を出す(上下割):700,000円÷140時間=5,000円
足りない時間:140時間−96時間=44時間
控除額:5,000円×44時間=220,000円
請求額(税抜):700,000円−220,000円=480,000円
作業を減らしたのが客先の都合なら、この控除は実質的な一方的減額です。「作業が減ったのは貴社のご都合なので、今の契約期間は下限の時間分をお支払いください」と交渉する余地があります。控除の計算は、SESの精算幅を下回ったら?控除の計算方法と有給・固定の扱いで詳しく解説しています。
月途中で受け入れるか、更新時に変えるかの判断基準
判断の基本は、通知が1か月以上前で条件が見合えば更新時から変更、それ以外は今の契約どおりです。月の途中から変える話は、原則として受け入れません。
| 選択肢 | 向いている状況 | 営業の動き |
|---|---|---|
| 今の契約どおり続ける | 通知が遅い/契約期間が残っている | 契約期間中は元の条件で、と伝える |
| 次の更新から条件を変える | 通知が1か月以上前/短縮後も粗利が残る | 新しい単価・精算幅・期間を交渉する |
| 月途中から受け入れる | 自社にも得がある(副案件が決まっている等) | 見返りの条件を付け、書面で残す |
| 契約を終えて別案件へ | 短縮後の粗利がほぼない | 解除の予告期間を確認し、次の案件を探す |
判断で確かめる5つの項目
受け入れるかどうかは、次の5つで決めます。営業担当者1人で決めず、上司や経営者と一緒に判断してください。
通知の時期:変更したい日の何日前に言われたか
契約書の条項:変更の条項、解除の予告期間、精算幅
短縮後の粗利:単価と支払いの差がいくら残るか
エンジニアの意向:週3で続けたいか、別の現場に移りたいか
空いた日数の使い道:週2日の副案件が見つかりそうか
更新時期の考え方は、SESの契約更新はいつ決まる?通知時期と更新しない時の4手順で解説しています。
週5→週3に変えるときの単価の計算例
週5日・月額70万円を週3日にする場合、日数で割ると月額は42万円です(70万円×3日÷5日)。精算幅も同じ割合で、140〜180時間を84〜108時間にします。
ただし、日数で割っただけの単価で受けると損をすることがあります。週3日でも、定例会議や引き継ぎなどの負担は減らないことが多いからです。短縮後の単価は、次のように考えます。
日数比例の42万円を最低ラインにする
週3日でも担当範囲が大きく変わらないなら、45万円前後など上乗せを求める
精算幅は、週3日の所定時間に合わせて必ず作り直す
精算幅の按分や稼働曜日の書き方は、SESの週3・週4案件の単価の計算|精算幅と契約書の書き方にまとめています。
単価そのものを下げたいと言われた場合の交渉は、SESの単価を下げたいと言われたら?減額交渉の対応6ステップを参考にしてください。
取適法・フリーランス法での違反リスク
取引の相手や中身によっては、法律で一方的な減額が禁止されています。客先から短縮を言われたとき、自社がBPに短縮を回すとき、どちらの場面でも関係します。
| 法律 | 禁止されている主なこと | 稼働短縮での注意点 |
|---|---|---|
| 取適法(旧・下請法) | 発注後の減額(同意があっても違反)、不当な給付内容の変更、協議に応じない一方的な代金決定 | 契約期間中に作業を減らし、代金も減らすと問題になるおそれ |
| フリーランス法 | 報酬の減額、不当な給付内容の変更・やり直し(1か月以上の業務委託) | フリーランスの稼働を一方的に減らして報酬を下げない |
| フリーランス法(予告) | 6か月以上の継続的な業務委託の解除・不更新は30日前までに予告 | 短縮で契約を終える場合は予告期間を守る |
取適法とは、2026年1月1日に下請法が改正されてできた法律で、通称は「中小受託取引適正化法」です。発注後に代金を減らすことは、受託側に責任がなければ、受託側の同意があっても違反になります。
2026年から新しく禁止されたのが、協議に応じない一方的な代金決定です。受託側が価格の協議を求めたのに、発注側が応じず代金を決めることを指します。更新時の条件変更でも、話し合いなしで「来月から週3・42万円で」と決められるなら、問題になる可能性があります。詳しくは取適法で単価交渉の協議拒否は違反?一方的な代金決定のNG例と対処法で解説しています。
フリーランス法とは、2024年11月1日に施行された、フリーランスとの取引のルールを定めた法律です。報酬の減額が許される例外は、フリーランス法の報酬の減額は違反?SESで許される例外と相殺の扱いで確認できます。
自社の取引がどの法律の対象かは、取引の中身と両社の資本金・従業員数で決まります。判断に迷うときは、公正取引委員会の資料を確認し、弁護士に相談してください。
稼働短縮への対応6ステップ
短縮を言われたら、次の6ステップで対応します。ポイントは、その場で了承せず、契約と数字を確かめてから回答することです。
その場では答えず、理由・開始日・新しい条件を聞く
個別契約と基本契約書を確認する(期間、精算幅、変更・解除の条項)
短縮後の粗利と、エンジニア・BPへの影響を計算する
エンジニア本人の意向を聞く(週3で続けるか、別の現場に移るか)
方針を決めて回答する(今の契約どおり/更新から変更/条件付きで受け入れ)
合意内容を新しい個別契約書や注文書に残す
ステップ1で使える返答の例文
最初の連絡を受けたときの返答例です。
ご連絡ありがとうございます。社内で確認のうえ、〇月〇日までにお返事いたします。
確認のため、短縮をお考えの理由と、開始したい日、週の稼働日数と時間を教えていただけますか。
ステップ5で使える回答の例文(更新から変更を提案)
2026年10月20日(火)に「11月から週3に」と言われ、契約期間が12月31日(木)までの場合の例です。
〇〇様
稼働日数の変更について、社内で確認いたしました。
現在の個別契約の期間(2026年12月31日まで)は、契約どおり週5日での継続をお願いできればと存じます。
2027年1月からの更新時に、週3日・月額〇〇万円・精算幅84〜108時間の条件でご相談させてください。
口頭だけの合意は、後で「言った・言わない」になりがちです。メールで要点を送り、必ず書面に反映してください。
BP・エンジニアへの説明と、短縮の回し方
客先の短縮を受け入れても、BPやフリーランスへの支払いを同じ日から一方的に下げないでください。自社が発注側になり、取適法やフリーランス法の問題を起こすおそれがあるからです。
BPへの条件変更は、BPとの契約の更新時に、話し合ったうえで行います。そのため、客先との更新時期とBPとの更新時期がずれていると、差額を自社がかぶる期間が出ます。
BPへの説明の例文
〇〇株式会社 〇〇様
〇〇さんの参画先について、客先から2027年1月以降の稼働を週3日にしたいとの相談がありました。
12月末までの現契約は、これまでどおりの条件です。
1月以降の条件について、週3日での継続をご希望か、別案件をご希望か、〇月〇日までにご意向を伺えますでしょうか。
週3日で継続の場合は、月額と精算幅の案を別途お送りします。
自社の社員の場合は、休業手当に注意
自社で雇っている社員の稼働を、客先の都合で週5日から週3日に減らす場合は注意が必要です。休業手当とは、会社側の事情で社員を休ませたときに、平均賃金の60%以上を払う手当のことです(労働基準法第26条)。
客先の都合で仕事が減った日も、社員から見れば会社の事情による休みにあたる場合があります。給与をどう払うかは、就業規則を確かめたうえで、社会保険労務士に相談してください。待機の考え方は、SESの待機期間の給与と対応|休業手当の計算例と早く案件に入る7手順で解説しています。
空いた稼働は、週2〜3日の副案件で埋める
短縮を受け入れるなら、空いた日数で別の案件を入れて売上を戻すのが営業の仕事です。週5→週3なら、残りの週2日分で案件を探します。
副案件を探す前に、次の3点を確かめます。
今の客先との契約に、専任や兼業の制限がないか
秘密保持の範囲(同業他社の案件でも問題ないか)
稼働する曜日と時間(週3の曜日を固定できるか)
自分で探すなら、BPから届く案件メールの中から「週2〜3日可」「リモート可」の案件を拾います。あわせて、BPに「〇〇さん、週2日で稼働可能です」と人材情報を送ります。
BPに送る人材情報の例文(週2日の空き)
件名:【週2日稼働可】Javaエンジニア(〇〇さん)のご案内
・稼働可能日:毎週月・火(2027年1月〜)
・場所:リモート中心、月1回の出社は可
・スキル:Java・Spring Boot 5年、詳細設計〜テスト
・備考:水〜金は別案件で常駐中のため、曜日の変更はできません
曜日を固定できない副案件を入れると、本案件との両立が崩れます。稼働曜日と兼業の事実を最初に書くのが、後のトラブルを防ぐコツです。
チョータツで、空いた稼働に合う案件を探す
週2〜3日の案件は数が少なく、案件メールを1通ずつ読んで探すのは大変です。この手間を減らせるのが、SES営業向けの案件・人材管理ツールチョータツです。
チョータツとは、SES営業が案件と人材の情報を管理・共有できるツールのことです。3,000社以上が利用しており、無料で始められます。稼働短縮の場面では、次のように使えます。
| 使う場面 | チョータツでできること | 稼働短縮での使い方 |
|---|---|---|
| 副案件を探す | 他社と連携すると、他社の営業中案件をデータベース化できる | 週2〜3日で入れる案件を探す材料にする |
| 空きを知らせる | パートナーへのメール配信機能がある | 「週2日稼働可能」の人材情報をパートナーに届ける |
| 条件を残す | 案件・人材の情報を管理・共有できる | 短縮後の単価・精算幅・更新日をチームで共有する |
短縮を断る場合も、次の案件の候補があれば落ち着いて交渉できます。交渉の強さは、話し方よりも「ほかの選択肢があるかどうか」で決まります。
よくある質問
- Q. SESで稼働時間を一方的に短縮されたら、応じる必要はありますか?
- 契約期間中なら、合意しなければ条件は変わらないのが原則です。ただし準委任は解除ができるため、基本契約書の解除の予告期間を確かめてから対応を決めます。
- Q. 週5から週3に変えるとき、単価はどう決めればよいですか?
- 日数で割った金額(週5で70万円なら42万円)を最低ラインにします。週3でも担当範囲が変わらないなら上乗せを求め、精算幅も週3の時間に合わせて作り直します。
- Q. 稼働を減らされて精算幅の下限を割ったら、控除されても仕方ないですか?
- 作業を減らしたのが客先の都合なら、控除は実質的な一方的減額になります。今の契約期間は下限の時間分を払ってもらうよう交渉する余地があります。
- Q. 取適法の「一方的な代金決定」とは何ですか?
- 受託側が価格の協議を求めたのに、発注側が協議に応じず代金を決めることです。2026年1月1日から施行された取適法で、新しく禁止されました。
- Q. 客先に短縮されたら、BPへの支払いもすぐ減らしてよいですか?
- すぐに一方的に減らすのは避けてください。自社が発注側になり、取適法やフリーランス法の問題になるおそれがあります。BPとの契約の更新時に、話し合って変えるのが安全です。
- Q. 短縮で空いた日数に、別の案件を入れてもよいですか?
- 今の客先との契約に専任や兼業の制限がなければ、入れられる場合があります。秘密保持の範囲と、稼働する曜日を固定できるかも確認してください。
まとめ
契約期間中の稼働短縮と減額は、合意がなければ変わらないのが原則。ただし準委任の解除条項は確認する
基本は「今の契約期間は契約どおり、条件の変更は次の更新から」。月途中の短縮は見返りがなければ受けない
週5→週3の単価は日数比例を最低ラインにし、精算幅も作り直す
取適法では発注後の減額は同意があっても違反。協議に応じない一方的な代金決定も禁止
BPやフリーランスへの短縮は、更新時に話し合って行う。社員の場合は休業手当に注意する
空いた日数は週2〜3日の副案件で埋める。営業中の案件を探すのにチョータツを使える
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「民法」(第522条 契約の成立、第651条 委任の解除、第656条 準委任)
e-Gov法令検索「労働基準法」(第26条 休業手当)
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)」(第5条第1項第3号 減額、第2項第3号 不当な給付内容の変更、第2項第4号 協議に応じない一方的な代金決定)
公正取引委員会「委託事業者の禁止行為」(取適法の11項目)
政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」
公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法パンフレット」
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)」(第5条 禁止行為、第16条 解除等の予告)