開発委託契約とは?経産省・IPAのモデル契約で見る請負と準委任の分け方|SESが工程ごとに受ける契約の切り方
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
開発委託契約とは?
開発委託契約とは、システムやソフトウェアの開発を、外部の会社に任せる契約のことです。任せる側は、ユーザー企業や元請けです。「システム開発契約」「ソフトウェア開発委託契約」とも呼ばれます。
ただし、民法に「開発委託契約」という名前の契約はありません。中身によって、請負契約か準委任契約のどちらかに当てはめて考えます。
| 種類 | 何を約束するか | 報酬が発生するタイミング | 根拠(民法) |
|---|---|---|---|
| 請負契約 | 仕事を完成させること | 完成して引き渡したとき | 第632条 |
| 準委任契約(履行割合型) | 決めた作業を専門家として注意深く行うこと | 作業した分(時間・期間) | 第656条・第648条 |
| 準委任契約(成果完成型) | 作業の成果に対して払う | 成果を渡したとき | 第648条の2 |
請負契約とは、完成品を渡す約束をする契約のことです。完成しなければ、原則として報酬はもらえません。
準委任契約とは、法律行為ではない事務(開発作業など)を任せる契約のことです。完成の義務はなく、善管注意義務(プロとして当然の注意を払って作業する義務)を負います。SES契約の多くは、この準委任です。
準委任と請負の違いを契約書の条文で見分ける方法は、準委任契約と請負契約の違い|業務委託契約書を見分ける判定シートで詳しく解説しています。
経産省・IPAのモデル契約とは?
モデル契約とは、国が公開している、システム開発契約のお手本の契約書のことです。正式な名前は「情報システム・モデル取引・契約書」です。
| 公表 | 公表した機関 | 内容 |
|---|---|---|
| 2007年4月 | 経済産業省 | 第一版(受託開発・保守運用) |
| 2020年3月 | IPA | アジャイル開発版(準委任が前提) |
| 2020年12月 | IPA | 第二版(民法改正への対応、セキュリティ、プロジェクト管理の義務など) |
IPAとは、経済産業省が所管する独立行政法人「情報処理推進機構」のことです。いまはIPAのサイトで、第二版とアジャイル開発版が公開されています。
第二版は、力の差があまりない大企業のユーザーと、情報サービス企業の取引を想定しています。開発の進め方は、工程を順番に進めるウォーターフォール型が前提です。
モデル契約の一番大事な考え方は「多段階契約」
多段階契約とは、開発全体を1本の契約でまとめず、工程ごとに契約を分けて結ぶやり方のことです。
開発の最初の時点では、何を作るかがまだ固まっていません。その段階で全部を請負にすると、見積もりが大きく外れやすくなります。そこでモデル契約は、工程ごとに見積もり直せる形をすすめています。
工程ごとの請負と準委任の分け方
モデル契約の考え方は、「完成品がはっきり決められる工程は請負、決められない工程は準委任」です。IPAの資料では、工程と契約類型の組み合わせを次のように整理しています。
| 工程 | モデル契約での契約類型 | 理由 |
|---|---|---|
| 要件定義 | 準委任 | 何を作るかを発注者と一緒に決める段階で、完成品を決められない |
| 外部設計 | 準委任 または 請負 | 要件の固まり具合で選ぶ |
| 内部設計〜結合テスト | 請負 | 作るものが設計書で決まっている |
| システムテスト | 準委任 または 請負 | 外部設計と同じ類型にそろえるのが筋 |
| 受入・導入支援、運用テスト | 準委任 | 発注者が主体の作業を手伝う |
| 運用・保守 | 準委任 または 請負 | 別の契約書(保守運用契約)で結ぶ |
IPAの資料では、外部設計とシステムテストの契約類型をそろえるのが筋の通ったパターンとされています。外部設計で決めた内容を、システムテストで確かめるからです。
SES営業が知っておきたい読み方
この表から、SES企業にとって大事なことが2つわかります。
要件定義・受入支援・運用テストは、国のお手本でも準委任です。SES企業が準委任で受けても不自然ではありません。
内部設計〜結合テストは請負が基本です。このあたりを準委任で受けるなら、発注者と「なぜ準委任か」を合意しておく必要があります。
なお、モデル契約は強制ではありません。あくまでお手本なので、実際の契約は当事者の話し合いで決まります。
開発委託契約の流れ(基本契約と個別契約)
システム開発契約は、基本契約を1本結び、工程ごとに個別契約を結ぶ流れが基本です。
基本契約とは、取引全体に共通するルール(秘密保持・損害賠償・解除など)を決める契約のことです。個別契約とは、工程ごとの作業内容・期間・金額を決める契約のことです。
モデル契約の基本契約では、個別契約で次のような条件を決めるとしています。
具体的な作業内容(範囲・仕様など)
契約類型(請負・準委任)
作業期間または納期、スケジュール
役割分担、連絡協議会の運営
発注者が渡す資料・機器・作業環境
納入物の明細と納入場所
委託料と支払方法
検査または確認の方法
開発委託契約を結ぶまでの6ステップ
発注者から提案依頼(RFP)を受ける:何を作りたいか、どの工程を任せたいかを確かめる
受ける工程を決める:自社が担当する工程と、担当しない工程を線引きする
工程ごとに契約類型を決める:モデル契約の表を目安に、請負か準委任かを決める
基本契約を結ぶ:損害賠償の上限や解除のルールを先に合意する
工程ごとに個別契約(注文書・注文請書)を交わす:契約類型・金額・期間・検収を書く
工程が終わるたびに次の見積もりを出す:前の工程の結果をもとに、次の個別契約を結ぶ
例えば、2026年11月2日(月)から要件定義を準委任で始めるとします。2027年1月4日(月)から外部設計を始めるなら、要件定義の結果を見てから外部設計の個別契約を結びます。
基本契約書と個別契約書の関係は、SESの基本契約書とは|テンプレートと個別契約の優先・印紙7号にまとめています。
SES企業が要件定義や保守だけ準委任で受けるときの契約の切り方
SES企業が開発案件の一部だけを受けるなら、担当工程の個別契約を「準委任(履行割合型)」で結ぶのが基本です。
履行割合型とは、作業した時間や期間に応じて報酬をもらう準委任のことです。SESでふだん使う「月額単価+精算幅」の形は、この履行割合型にあたります。
パターン別の切り方
| 受けたい仕事 | おすすめの契約 | 個別契約で必ず書くこと |
|---|---|---|
| 要件定義の支援だけ | 準委任(履行割合型) | 「要件定義書の完成」は約束しないこと |
| 外部設計の支援だけ | 準委任(履行割合型) | 設計書の最終承認は発注者が行うこと |
| テスト工程の要員だけ | 準委任(履行割合型) | テスト結果の報告方法と頻度 |
| 保守・運用だけ | 準委任(履行割合型) | 対応する範囲・時間帯・報告の方法 |
準委任で受けるときに確かめる5点
契約類型:個別契約に「準委任」と書いてあるか。「業務委託」だけだと、請負か準委任かがはっきりしない
報酬の決め方:月額単価・精算幅など、作業量で払う形か。「成果物の納品後に支払う」なら成果完成型か請負の可能性がある
検収:「検収合格をもって支払う」とあれば要注意。準委任なら「作業報告書の確認」が一般的
解除:途中で終わったとき、作業した分の報酬をもらえるか
再委託:BPのエンジニアを入れるなら、再委託してよい条件が書いてあるか
個別契約(注文書)に書く一文の例
要件定義の支援を準委任で受けるときは、個別契約に次のように書いておくと、契約類型の食い違いを防げます。
本個別契約に基づく業務(要件定義支援)は、民法第656条に定める準委任契約(履行割合型)とする。受託者は要件定義書の完成を約束せず、善良な管理者の注意をもって業務を行う。委託料は月額○○円とし、稼働時間が月140時間〜180時間の範囲外となった場合は、別途定める単価で精算する。
文面はあくまで例です。実際の条文は、自社の基本契約書と照らし合わせて調整してください。
準委任でも、成果物に対して払う成果完成型という形があります。見分け方は、準委任契約の成果完成型とは|履行割合型との違いと検収の注意点をご覧ください。
発注者に工程の切り方を提案するメール例文
「全部まとめて請負で」と打診されたときは、工程を分ける案を返します。モデル契約の考え方を添えると、相手も社内で説明しやすくなります。
件名:Re: 〇〇システム開発のお見積もりについて 株式会社〇〇 ご担当者様 お見積もりのご依頼、ありがとうございます。 要件がこれから固まる段階のため、次の分け方をご提案します。 ・要件定義(11月〜12月):準委任(月額〇〇万円×2名) ・外部設計以降:要件定義の結果をもとに、改めてお見積もり IPAのモデル契約でも、工程ごとに契約を分ける形が示されています。 要件が固まる前に全体を一括でお約束すると、 お互いに見積もりの誤差が大きくなるためです。 ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
複数名の体制で提案する場合の単価の出し方は、SESのチーム提案のやり方|複数名の体制の組み方と単価の出し方で紹介しています。
準委任にするなら、指揮命令の線引きも忘れない
準委任で受けた工程で、発注者がエンジニアに直接細かく指示すると、偽装請負と見られるおそれがあります。偽装請負とは、契約は請負や準委任なのに、実態は派遣と同じ働き方になっている状態のことです。
窓口役(業務責任者)を自社に置き、指示は窓口役を通すようにします。判断のポイントは、偽装請負の判断基準|SES営業が避けたいNG行為10選と予防策で確かめてください。
やってはいけない切り方
全工程をまとめて1本の請負で受ける:要件が固まらないまま完成を約束すると、赤字と揉めごとの原因になる
中身は請負なのに「準委任」と書くだけ:完成品を約束し、完成しないと払わない実態なら、名前が準委任でも請負と判断されるおそれがある
個別契約を結ばずに次の工程に進む:どの工程が、どの契約類型なのかがあいまいになる
請負で開発を受けるときの注意点
内部設計〜結合テストのように請負で受ける工程では、完成させる責任と、完成後の責任を負います。
契約不適合責任とは、納めたものが契約の内容に合っていないときに、直したり代金を減らしたりする責任のことです。民法では、発注者が不適合を知ってから1年以内に通知すれば、責任を追及できるとされています(第637条)。
請負で受けるときは、次の3点を契約書で決めておきます。
完成の基準:何をもって「完成」とするか(検収の方法・期間)
契約不適合責任の期間:いつまで直す責任を負うか
損害賠償の上限:受け取った委託料の範囲までにするか
請負契約書に書く項目は、請負契約書とは?システム開発の記載事項10項目と雛形の選び方にまとめています。
システム開発契約を途中で解除されたら?
契約の途中解除のルールは、請負と準委任で違います。
| 契約類型 | 発注者が途中でやめるとき | 受注者がもらえるもの |
|---|---|---|
| 請負 | 完成前ならいつでも解除できる(第641条) | 発注者が受けた利益の割合に応じた報酬(第634条)、損害の賠償 |
| 準委任 | いつでも解除できる(第651条) | すでにした作業の割合に応じた報酬(第648条) |
どちらも、発注者は途中で契約を終わらせることができます。そのため、解除したときの報酬の計算方法を個別契約に書いておくことが大事です。
具体的な揉め方と対応は、システム開発契約の解除|請負で途中解約されたら費用は請求できる?で解説しています。
ラボ契約との違い
ラボ契約とは、決まった期間、決まった人数の開発チームを確保してもらう契約のことです。契約の性質は準委任に近く、工程ごとの請負とは違って完成の保証はありません。SESとの違い、デメリット、準委任で結ぶときの注意点はラボ契約とは?SESとの違いと準委任で結ぶときの注意点7つで解説しています。
チョータツで開発案件の契約条件を管理する
工程ごとに契約類型が変わる開発案件は、案件ごとの条件を1か所で管理すると、提案ミスを防げます。
自分で管理するなら、スプレッドシートに次の列を作るところから始めます。
案件名・工程(要件定義・外部設計・保守など)
契約類型(請負/準委任・履行割合型/準委任・成果完成型)
期間・単価・精算幅
再委託の可否、BP提案の可否
ただ、案件が増えると、担当者ごとにファイルが分かれて情報が古くなりがちです。
チョータツは、SES営業のための案件・人材の管理・共有ツールです。案件の情報を管理・共有できるので、提案の前に「この案件は準委任で受けられるか」をチームで確かめられます。AIが入力を手伝い、パートナーへのメール配信機能もあります。3,000社以上が利用していて、無料で始められます。
よくある質問
- Q. 開発委託契約と業務委託契約は同じですか?
- 開発委託契約は、業務委託契約のうち、システム開発を任せるものを指す呼び方です。どちらも法律上は請負か準委任に分かれます。
- Q. 経産省のモデル契約はそのまま使えますか?
- そのまま使うことはおすすめしません。第二版は大企業どうしの取引を想定しているため、自社の取引に合わせて直して使います。
- Q. システム開発の個別契約書には何を書けばよいですか?
- 作業内容・契約類型(請負か準委任か)・期間・納入物・委託料と支払方法・検査の方法を書きます。モデル契約の基本契約第4条が目安になります。
- Q. 請負開発をSES企業が受けてもよいですか?
- 受けられます。ただし完成の責任と契約不適合責任を負うため、要件が固まった工程だけを請負にするのが安全です。
- Q. アジャイル開発は請負と準委任のどちらですか?
- IPAのアジャイル開発版モデル契約は、準委任を前提にしています。仕様が途中で変わる開発では、完成を約束する請負がなじみにくいためです。
- Q. システム開発を外部委託するとき、SES企業が気をつけることは?
- 自社がさらにBPへ再委託するなら、元の契約で再委託が認められているかを確かめます。準委任では、原則として発注者の許諾が必要です(民法第644条の2)。
まとめ
開発委託契約とは、システム開発を外部に任せる契約で、法律上は請負か準委任になる
経産省・IPAのモデル契約は、工程ごとに契約を分ける「多段階契約」をすすめている
モデル契約の例では、要件定義は準委任、内部設計〜結合テストは請負、運用テストは準委任
外部設計・システムテスト・保守は、請負と準委任のどちらもありえる
SES企業が一部の工程だけ受けるなら、基本契約+工程ごとの個別契約で「準委任(履行割合型)」と書く
契約前に、契約類型・報酬・検収・解除・再委託の5点を確かめる
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
IPA「情報システム・モデル取引・契約書」
IPA「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」(2020年12月22日公開)
IPA「システム開発の健全化に向けて ~「情報システム・モデル取引・契約書」から読み解く~」(フェーズと契約類型のパターン、個別契約で定める事項、アジャイル開発版は準委任が前提)
e-Gov法令検索「民法」(第632条 請負、第634条 注文者が受ける利益の割合に応じた報酬、第637条 担保責任の期間の制限、第641条 注文者による契約の解除、第644条の2 復受任者の選任等、第648条 受任者の報酬、第648条の2 成果等に対する報酬、第651条 委任の解除、第656条 準委任)
厚生労働省「37号告示に関する疑義応答集(第3集)」(アジャイル型開発と偽装請負の考え方)