雇用契約書の書き方|SES企業がエンジニアを雇うときの記載事項と、客先常駐・待機・勤務時間の条文例

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

雇用契約書とは?労働契約書との違い

雇用契約書とは、会社と社員が働く条件に合意し、双方が署名・押印する書類のことです。労働契約書、社員契約書、就業契約書と呼ぶこともありますが、中身は同じと考えてかまいません。

雇用契約とは、社員が会社のために働き、会社がその対価として給与を払う約束のことです。民法では「雇用」、労働基準法や労働契約法では「労働契約」と呼びます。

雇用契約書は作らないと違法?

雇用契約書そのものを作る義務はありません。ただし、労働条件を書面で明示する義務があります(労働基準法第15条)。労働契約法第4条でも、契約の内容はできるだけ書面で確認するよう求めています。

口約束だけだと、給与や勤務地で揉めたときに証拠がありません。SES企業は配属先が変わるたびに条件が動くので、必ず書面で残すのがおすすめです。

雇用契約書と労働条件通知書の違い

2つの違いは、会社が一方的に渡すか、双方が合意して署名するかです。

項目労働条件通知書雇用契約書
作成の義務あり(明示が義務)なし
だれが出すか会社が社員に渡す会社と社員が取り交わす
署名・押印不要双方が行う
合意の証拠弱い強い

労働条件通知書とは、会社が社員に労働条件を知らせる書類のことです。これだけでは、社員が内容に同意したかどうかが残りません。

おすすめは、2つを1枚にまとめた「労働条件通知書兼雇用契約書」です。明示の義務を果たしつつ、署名で合意の証拠も残せます。

雇用契約書の記載事項|必ず書く項目と定めがあれば書く項目

記載事項は、必ず書く項目(絶対的明示事項)と、会社にルールがあれば書く項目(相対的明示事項)に分かれます。労働基準法施行規則第5条で決まっています。

絶対的明示事項とは、すべての社員に必ず書面で示さなければならない労働条件のことです。

区分項目SES企業での書き方のポイント
必ず書く契約期間正社員は「期間の定めなし」
必ず書く更新の基準(有期のみ)更新上限があれば回数・年数も書く
必ず書く就業場所・業務と変更の範囲客先常駐を含めて書く
必ず書く始業・終業、残業の有無、休憩、休日、休暇客先ごとの勤務パターンを示す
必ず書く賃金の決め方・計算・支払方法、締め日・支払日待機中の扱いも書く
必ず書く昇給書面でなく口頭でもよいが、書くのが確実
必ず書く退職(解雇の事由を含む)就業規則の条文番号を示してもよい
定めがあれば退職金、賞与、手当客先手当・資格手当など
定めがあれば自己負担(食費・作業用品など)PC・交通費の負担
定めがあれば安全衛生、研修、表彰・制裁、休職待機中の研修など

昇給を除く「必ず書く」項目は、書面での明示が必要です。社員が希望すれば、メールなどで渡すこともできます。

2024年4月から加わった4つの明示事項

2024年4月から、労働条件の明示のルールが変わりました。追加されたのは次の4つです。

  1. 就業場所・業務の変更の範囲:すべての社員が対象です。

  2. 更新上限の有無と内容:有期契約の社員が対象です。

  3. 無期転換を申し込めること:有期契約の社員で、申込権が生まれる更新のときに示します。

  4. 無期転換後の労働条件:3と同じタイミングで示します。

変更の範囲とは、将来の配置転換などで変わる可能性がある就業場所・業務の範囲のことです。配属先が次々に変わるSES企業は、ここを特に丁寧に書く必要があります。

無期転換とは、有期契約が通算5年を超えたとき、社員の申し込みで無期の契約に変わる仕組みのことです。労働契約法第18条で決まっています。

SES企業特有の書き方1|就業場所は「客先」まで含める

就業場所は、最初の配属先と、変更の範囲として客先を含めることの両方を書きます。自社の住所だけを書くと、客先への配属が契約の範囲外だと主張されるおそれがあります。

条文例は次のとおりです。

例文・テンプレート
(就業の場所)
第〇条
1. 雇入れ直後の就業場所は、次のとおりとする。
   株式会社〇〇 本社(東京都〇〇区〇〇)
2. 就業場所の変更の範囲は、会社の本社および事業所、
   ならびに会社が業務を受託した取引先の事業所
   (テレワークを行う場所を含む)とする。
3. 取引先の事業所で就業する場合、会社は就業場所・期間を
   事前に書面またはメールで通知する。

客先常駐とは、自社の社員が取引先のオフィスに通って仕事をする働き方のことです。雇入れ直後から客先に入る場合は、第1項に客先の住所を書いてもかまいません。

業務も同じ考え方です。「システム開発・運用・保守およびこれに付随する業務」のように、配属先が変わっても含まれる幅で書きます。変更の範囲には「会社の定める業務」とまとめて書く方法もあります。

客先常駐の仕組みは客先常駐とは?SESの仕組みと派遣との違い、営業が守るルール5つで解説しています。

SES企業特有の書き方2|勤務時間は客先に合わせたパターンで決める

勤務時間は、就業規則に複数の勤務パターンを決め、配属ごとにどれを使うかを書面で知らせる形にします。始業・終業の時刻は必ず明示する項目なので、「客先に準ずる」とだけ書くのは避けましょう。

客先によって、9時始業の会社も10時始業の会社もあります。そこで、次のようなパターンを用意します。

パターン始業・終業休憩所定労働時間
A9:00〜18:0012:00〜13:008時間
B9:30〜18:3012:00〜13:008時間
C10:00〜19:0012:00〜13:008時間

条文例は次のとおりです。

例文・テンプレート
(始業・終業の時刻および休憩時間)
第〇条
1. 始業・終業の時刻および休憩時間は、就業規則第〇条に定める
   勤務パターンA〜Cのうち、会社が指定するものとする。
2. 雇入れ時の勤務パターンはAとする。
3. 会社は、就業場所の変更などに伴い勤務パターンを変更する場合、
   変更日の〇日前までに書面またはメールで通知する。
4. 所定労働時間を超える労働:有(時間外労働・休日労働に関する協定の範囲内)

残業をさせる場合は、36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。上限は原則として月45時間・年360時間です(労働基準法第36条)。客先で残業が続くときの営業の動き方はSESの客先で残業が続くときの営業の対応|安全配慮義務と交渉で解説しています。

精算幅と勤務時間を混ぜない

客先との契約にある精算幅(月140〜180時間など)は、会社と客先の間の代金の決まりです。社員の給与や勤務時間の決まりではありません。

客先から控除されたからといって、社員の給与を同じように減らすことはできません。雇用契約書には、精算幅ではなく自社の所定労働時間と残業の扱いを書きます。

SES企業特有の書き方3|待機中の給与を決めておく

待機中の給与は、雇用契約書と就業規則に書いておくのが最も大事です。書いていないと、待機に入ったときに「給与はいくら払うのか」で揉めます。

待機とは、案件が決まらず客先に配属されていない期間のことです。SES企業は案件の終了と次の開始の間に、待機が生まれやすい事業です。

待機中の扱いは、大きく2つに分かれます。

待機中の過ごし方給与の考え方
自社で研修・社内業務・営業支援をする働いているので通常の賃金を払う
会社の指示で自宅待機(仕事をさせない)会社都合の休業として休業手当(平均賃金の60%以上)が必要

休業手当とは、会社の都合で社員を休ませたとき、平均賃金の60%以上を払う決まりのことです(労働基準法第26条)。案件がないことは、通常は会社側の事情と考えられます。

条文例は次のとおりです。

例文・テンプレート
(待機期間中の業務と賃金)
第〇条
1. 取引先での業務が終了し、次の業務が始まるまでの期間
   (以下「待機期間」という)は、会社の指示により、
   研修、社内業務その他会社が定める業務に従事する。
2. 前項の業務に従事した日の賃金は、通常の賃金とする。
3. 会社の指示により業務に従事させず休業させた日は、
   休業手当として平均賃金の〇%(60%以上)を支払う。

「待機中は無給」と書いても、会社の都合で休ませた日の休業手当の支払い義務はなくなりません。待機を減らす営業の打ち手は、SESの待機期間の給与と対応|休業手当の計算例と早く案件に入る7手順にまとめています。待機の社員が複数いるときの提案の順番はSESの待機エンジニアが複数いるときの営業の優先順位|判断表つきが参考になります。

偽装請負と見られないための注意点

雇用契約書では、社員に仕事の指示を出すのは自社だと読める書き方にします。準委任契約で客先に常駐する場合、客先が社員に直接指示すると偽装請負を疑われます。

偽装請負とは、契約上は請負や準委任なのに、実際は客先が社員に直接指示を出し、派遣と同じ状態になっていることです。準委任契約とは、仕事の完成ではなく、決められた作業をすることを約束する契約のことです。

雇用契約書で避けたい書き方と、直し方の例です。

避けたい書き方直した書き方
客先の指揮命令に従い業務を行う会社の指示に従い、会社が受託した業務を行う
勤怠は客先の担当者が承認する勤怠は会社の業務責任者が管理・承認する
残業は客先の指示による残業は会社が命じる
休暇は客先の了承を得て取得する休暇は会社に申請する

雇用契約書を直すだけでは足りません。現場で客先が指示を出していれば、偽装請負になりえます。配属前に次の点を確認しましょう。

  1. 自社の業務責任者を決める:社員への指示や勤怠の承認は、この人が行います。

  2. 客先と指示の窓口を決める:客先の要望は、自社の業務責任者が受けて社員に伝えます。

  3. 社員に説明する:客先から直接指示されたら、業務責任者に相談するよう伝えます。

派遣として客先に出す場合は、労働者派遣法の手続きが別に必要です。判断の基準は偽装請負の判断基準|SES営業が避けたいNG行為10選と予防策、現場の線引きは準委任契約の指揮命令はどこまで?SES現場のOK・NG具体例20で解説しています。

雇用契約書の例|SES企業のエンジニア向けひな形

SES企業のエンジニアを正社員で雇う場合の、労働条件通知書兼雇用契約書の例です。会社の就業規則に合わせて書き換えて使ってください。

例文・テンプレート
労働条件通知書兼雇用契約書

株式会社〇〇(以下「会社」)と〇〇〇〇(以下「社員」)は、
次の条件で雇用契約を結ぶ。

1. 契約期間:期間の定めなし(雇入れ日:2026年11月2日)
2. 試用期間:雇入れ日から3か月
3. 就業場所:雇入れ直後 本社(東京都〇〇区〇〇)
   変更の範囲 会社の事業所、および会社が業務を受託した
   取引先の事業所(テレワークを行う場所を含む)
4. 業務内容:雇入れ直後 システム開発業務
   変更の範囲 システム開発・運用・保守、社内業務
   およびこれらに付随する業務
5. 始業・終業:就業規則第〇条の勤務パターンA〜Cのうち
   会社が指定するもの(雇入れ時はA 9:00〜18:00)
   休憩 60分/所定外労働 有
6. 休日:土日、祝日、年末年始(12月29日〜1月3日)
7. 休暇:年次有給休暇 法定どおり
8. 賃金:基本給 月額〇〇円、〇〇手当 月額〇〇円
   締め日 毎月末日/支払日 翌月25日/銀行振込
   時間外労働の割増賃金 法定どおり
9. 待機期間:研修・社内業務に従事した日は通常の賃金
   会社の指示で休業させた日は平均賃金の〇%
10. 昇給:年1回(4月)、会社の業績と本人の評価による
11. 退職:自己都合退職は30日前までに届け出る
    解雇の事由は就業規則第〇条による
12. その他:本契約にない事項は就業規則による

2026年10月16日
会社 住所・名称・代表者 署名
社員 住所・氏名 署名

有期契約(契約社員)で雇う場合は、契約期間、更新の有無と基準、更新上限を加えます。案件の終了で契約社員の更新をしない場合のルールは有期労働契約の雇止めルール|SESの案件終了と派遣法の注意点で確認してください。

基本給を決めるときは、最低賃金も確かめます。2026年度の東京都の最低賃金は1,280円で、2026年10月1日から適用されます。発効日は都道府県ごとに違うので、雇入れ日時点の額を確認しましょう。

雇用契約書を作って交わす手順

雇用契約書は、内定を出したあと、雇入れ日より前に交わします。配属先が決まる前でも、変更の範囲まで書いておけば問題ありません。

  1. 就業規則を確認する:勤務パターン・待機・手当の条文があるかを見ます。なければ先に整えます。

  2. 条件を記入する:給与・雇入れ日・雇入れ直後の就業場所を埋めます。

  3. 変更の範囲を書く:客先常駐やテレワークを含めます。

  4. 本人に説明する:待機中の給与と、客先での指示の受け方を口頭でも説明します。

  5. 双方が署名する:紙なら2通作り1通ずつ保管します。電子契約でもかまいません。

  6. 配属ごとに通知する:客先・勤務パターンが決まったら、書面かメールで知らせます。

印紙は必要?

雇用契約書に収入印紙は不要です。印紙税がかかる文書の一覧に、雇用契約書は入っていないためです。

SES営業が雇用契約書で確認しておく4つのこと

営業担当は、提案する前に、社員の雇用契約書の範囲に案件の条件が収まるかを確認します。範囲の外の案件を決めてしまうと、配属の直前に社員の同意を取り直すことになり、参画日がずれます。

確認すること雇用契約書で見る項目案件側で見る条件
勤務地就業場所の変更の範囲常駐先の住所・リモートの可否
勤務時間勤務パターン(A〜Cなど)客先の始業・終業の時刻
残業所定外労働の有無・36協定精算幅の上限(180時間など)
業務業務の変更の範囲開発・運用・ヘルプデスクなどの作業内容
  1. 勤務地:変更の範囲に「取引先の事業所」が入っていれば、客先常駐の案件を提案できます。地方の常駐案件や転居が必要な案件は、本人の同意を先に取ります。

  2. 勤務時間:客先の始業が就業規則のどのパターンにも合わない場合は、提案前に総務・人事と相談します。

  3. 残業:精算幅の上限まで働く月は、36協定の上限時間を超えないかを確認します。精算幅は代金の決まりで、残業の上限にはなりません。

  4. 業務:変更の範囲が「システム開発」だけの社員を、ヘルプデスク案件に出すときは本人に説明し、合意を取ります。

この4点を案件の管理表に列として持っておくと、社員と案件の組み合わせを営業チーム全員が同じ基準で判断できます。

チョータツで案件情報を管理し、配属と待機を見える化する

雇用契約書を整えたら、次の課題は社員をできるだけ待機させないことです。待機が長いほど、休業手当や給与の負担が増えます。

自分でやる場合は、案件の終了予定日と社員の一覧をExcelで管理します。終了の1〜2か月前から次の案件を探し、勤務時間や就業場所の条件が合うかを確認します。

チョータツを使うと、この作業を楽にできます。案件・人材の情報をまとめて管理し、チームで共有できます。案件ごとに勤務時間や場所の条件を残しておけば、社員の勤務パターンと合うかを提案前に確認できます。

他社と連携すると、他社の営業中案件・営業中人材をデータベース化できます。AIが入力を手伝うので、案件の登録にかかる時間も減らせます。3,000社以上が利用しており、無料で始められます。

よくある質問

Q. 雇用契約書と労働契約書は違うものですか?
呼び方が違うだけで、中身は同じと考えてかまいません。社員契約書、就業契約書と呼ぶ会社もあります。
Q. 雇用契約書がないのは違法ですか?
雇用契約書そのものは義務ではありません。ただし、労働条件を書面などで明示しないと労働基準法違反になります。
Q. SESの雇用契約書に客先の社名を書く必要はありますか?
必要はありません。変更の範囲に「会社が業務を受託した取引先の事業所」と書き、配属先は通知書で知らせれば足ります。
Q. 待機中の給与を減らすと雇用契約書に書いてもよいですか?
会社の指示で休ませる日は、平均賃金の60%以上の休業手当が必要です。研修などで働かせる日は通常の賃金を払います。
Q. 客先の勤務時間に合わせるには、どう書けばよいですか?
就業規則に勤務パターンを複数決め、配属ごとに会社が指定する形にします。「客先に準ずる」だけでは、始業・終業の明示として不十分です。
Q. 雇用契約書はメールや電子契約で交わせますか?
交わせます。労働条件の明示も、社員が希望すればメールなどで行えます。印刷や保存ができる形で渡しましょう。
Q. 営業担当は社員の雇用契約書を見ておくべきですか?
見ておくべきです。勤務地・勤務時間・業務の変更の範囲を知らないまま提案すると、配属の直前に条件が合わないと分かり、参画日が遅れます。
Q. 業務委託のエンジニアにも雇用契約書を使えますか?
使いません。業務委託は別の契約書を使います。違いは雇用契約と業務委託契約の違い|社員とBPの使い分けと労働者性で解説します。

まとめ

  • 雇用契約書の作成は任意だが、労働条件の書面での明示は義務。兼用の1枚にまとめると確実

  • 必ず書くのは、契約期間・就業場所と業務・勤務時間と休日・賃金・退職。2024年4月から変更の範囲も必須

  • SES企業は、就業場所に客先を含め、勤務時間は勤務パターンで決め、待機中の給与も書く

  • 「客先の指示に従う」と書かず、指示と勤怠の承認は自社が行う形にする

  • 契約書を整えたら、待機を減らす営業の仕組みもあわせて作る

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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