労働契約法とは?SES企業が社員エンジニアとの契約で守る5つのルール|待機・案件終了・交代要請で許されること
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
労働契約法とは?労働契約の意味と法律の目的
労働契約法とは、会社と社員の間の「労働契約」がどう始まり、どう変わり、どう終わるかの基本ルールを決めた法律です。法律番号は平成19年法律第128号で、2008年3月1日に施行されました。
労働契約とは、社員が会社に使われて働き、会社がその分の賃金を払うことを、両方が合意して結ぶ契約のことです(第6条)。書面がなくても、合意があれば成立します。
法律の目的は、労働条件を「合意」で決めるという原則を示し、会社と社員のもめごとを防ぐことです(第1条)。条文は全部で21条と短く、次の5つの章に分かれています。
| 章 | 中身 | 主な条文 |
|---|---|---|
| 第1章 総則 | 合意の原則・安全への配慮 | 第3条〜第5条 |
| 第2章 成立と変更 | 契約の成立・就業規則との関係 | 第6条〜第13条 |
| 第3章 継続と終了 | 出向・懲戒・解雇 | 第14条〜第16条 |
| 第4章 有期労働契約 | 期間中の解雇・無期転換・雇止め | 第17条〜第19条 |
| 第5章 雑則 | 船員の特例・適用除外(公務員など) | 第20条・第21条 |
労働基準法との違い
労働基準法は「最低ラインと罰則」、労働契約法は「契約の決まりごと」です。役割が違うので、SES企業は両方を守る必要があります。
| 比べる点 | 労働基準法 | 労働契約法 |
|---|---|---|
| 役割 | 労働条件の最低基準を決める | 契約の成立・変更・終了のルールを決める |
| 罰則 | あり(罰金など) | なし |
| 監督 | 労働基準監督署が監督する | 裁判や話し合いで争われる |
| 例 | 解雇予告・休業手当・労働時間 | 解雇の有効性・雇止め・無期転換 |
労働契約法に罰則はありません。ただし、違反した解雇や雇止めは無効になります。裁判で負けると、働けなかった期間の賃金をまとめて払うことになりかねません。
SES企業でこの法律が関わる相手
労働契約法が関わるのは、雇用している社員(プロパー)です。個人事業主のBPや、他社から来たエンジニアとの契約には直接は関わりません。
社員とBPの線引きは、雇用契約と業務委託契約の違い|社員とBPの使い分けと労働者性で詳しく解説しています。
SESで労働契約法が問題になる場面
SES企業で労働契約法が問題になるのは、「客先との契約」と「社員との契約」を混同したときです。客先との契約が終わっても、社員との労働契約は自動では終わりません。
SESには2つの契約があります。
客先との契約:準委任契約など。エンジニアの作業を客先に提供する契約
社員との労働契約:自社がエンジニアを雇う契約。労働契約法が関わる
営業の現場でよくある場面と、労働契約上の考え方を表にしました。
| 場面 | 客先との契約 | 社員との労働契約 |
|---|---|---|
| 案件が終了した | 終わる | 続く。解雇には第16条の制限がかかる |
| 客先から交代を求められた | 要員が替わる | 続く。交代は解雇の理由にならないことが多い |
| 次の案件が決まらず待機 | なし | 続く。会社都合なら休業手当が必要 |
| 契約社員の期間が満了 | 案件次第 | 第19条の雇止め法理がかかることがある |
| 客先で長時間労働が続く | 続く | 自社に安全配慮義務(第5条)がある |
営業が「案件が切れたので、社員にも辞めてもらう」と判断すると、法律上のトラブルに直結します。ここからは、SES企業が守る5つのルールを条文ごとに見ていきます。
ルール1:労働条件は合意で決め、書面で確認する(第3条・第4条・第8条)
労働条件は、会社と社員が対等な立場で合意して決め、変えるのが原則です(第3条第1項)。会社が一方的に給与や勤務地を不利に変えることはできません(第8条・第9条)。
さらに、会社は労働条件を社員にわかりやすく説明し、できる限り書面で確認するものとされています(第4条)。
SES営業が気をつけること
SESでは、案件ごとに勤務地や勤務時間が変わります。雇用契約書で変更の範囲を決めていないと、「そんな客先に行くとは聞いていない」と言われるおそれがあります。
2024年4月からは、労働基準法の労働条件明示のルールが変わりました。雇うときと有期契約を更新するときに、就業場所と業務の「変更の範囲」も書面で示す必要があります。
| 決めておくこと | 書き方の例 |
|---|---|
| 就業場所の変更の範囲 | 会社の定める場所(客先を含む) |
| 業務の変更の範囲 | 会社の定めるシステム開発・運用の業務 |
| 勤務時間 | 客先に合わせた勤務パターンから会社が指定 |
| 待機中の扱い | 自社での研修・待機。給与の扱いを明記 |
書き方の詳細は雇用契約書の書き方|SES企業がエンジニアを雇うときの記載事項を見てください。
就業規則で労働条件を変えるとき
就業規則とは、会社の働き方のルールをまとめた規則のことです。合理的な内容で社員に周知していれば、就業規則の条件が労働契約の中身になります(第7条)。
就業規則を社員に不利に変えるには、変更の必要性や不利益の程度などから合理的と言えることが条件です(第10条)。待機手当の減額などを検討するときは、社会保険労務士に相談しましょう。
ルール2:社員の安全に配慮する(第5条・安全配慮義務)
会社は、社員が命や体の安全を守りながら働けるよう、必要な配慮をしなければなりません(第5条)。安全配慮義務とは、この会社の責任のことです。
SESのエンジニアは客先で働きますが、雇っているのは自社です。客先にいるから自社には関係ない、とはなりません。
SESで安全配慮が問われやすい場面
| 場面 | 営業・会社がやること |
|---|---|
| 客先で残業が続いている | 稼働報告で残業時間を毎月確認する |
| 客先で強い叱責を受けている | 面談で話を聞き、客先の窓口に相談する |
| 体調を崩している | 休ませる判断を優先し、客先に交代を相談する |
| 精算幅の上限を超える稼働 | 上限超えが続く案件は条件を見直す |
月1回の面談で「残業時間」「体調」「困っていること」を聞くと、早めに気づけます。残業が続く客先との交渉のしかたはSESの客先で残業が続くときの営業の対応|安全配慮義務と交渉で解説しています。
36協定の上限は、原則として月45時間・年360時間です(労働基準法第36条)。精算幅の上限が180時間の案件で上限いっぱいまで働くと、所定労働時間によっては月45時間を超えることがあります。
ルール3:解雇は理由と相当性がなければ無効(第16条)
解雇は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合は、権利の濫用として無効になります(第16条)。これを解雇権濫用法理と呼びます。
わかりやすく言うと、次の2つがそろわない解雇は無効です。
理由がある:だれが見ても納得できる具体的な理由がある
やり過ぎでない:その理由に対して、解雇という重い手段が釣り合っている
SESの案件終了・交代要請と解雇
SESでは、案件が終わった、客先から交代を求められた、というだけでは解雇の理由として弱いと考えるべきです。案件の終了や客先との相性は会社の営業上の事情で、社員の落ち度と同じではないからです。
会社の経営上の理由で行う整理解雇は、裁判例で「人員削減の必要性・解雇回避の努力・人選の合理性・手続の妥当性」の4つの要件(要素)から判断されてきました。SES企業にとって「解雇回避の努力」は、次の案件を探す営業活動そのものです。提案の記録を残しておくことが、会社を守ることにもつながります。
有効な理由があっても、会社は少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を払う必要があります(労働基準法第20条)。
整理解雇の4要件の中身、交代要請や能力不足を理由にするときの考え方、解雇を検討する前の手順は、労働契約法の解雇ルール|SESで案件終了を理由に解雇できるか解説で詳しく解説しています。この記事では、労働契約法の全体像に絞って説明します。
ルール4:有期契約は期間中の解雇と雇止めに注意(第17条・第19条)
契約期間を決めた有期労働契約では、期間の途中の解雇は「やむを得ない事由」がなければできません(第17条第1項)。「やむを得ない事由」は、期間の定めがない社員の解雇より厳しい基準です。
期間満了での雇止め
雇止めとは、有期労働契約の期間が終わるときに、会社が更新しないことです。次のどちらかに当たると、雇止めにも解雇と同じような制限がかかります(第19条)。
何度も更新されていて、雇止めが実質的に解雇と同じと言える
社員が「更新される」と期待することに合理的な理由がある
この場合、雇止めに合理的な理由と相当性がなければ、会社は同じ条件で更新を承諾したとみなされます。
SESでありがちな危ない例
契約社員の期間を案件の契約期間に合わせて3か月ごとに更新し続けている
面談で「次も更新するから大丈夫」と伝えていた
案件が終わったタイミングで、急に更新しないと伝えた
会社は、必要以上に短い期間で有期契約をくり返し更新しないよう配慮しなければなりません(第17条第2項)。案件の期間と雇用の期間は、分けて考えるのが安全です。
2024年4月からは、有期契約を結ぶときと更新するときに、更新上限の有無と内容も書面で示します(労働基準法施行規則第5条)。更新上限とは、通算の契約期間や更新回数の上限のことです。
雇止めの判断手順と通知の例文は、有期労働契約の雇止めルール|SESの案件終了と派遣法の注意点で解説しています。
ルール5:通算5年を超えたら無期転換(第18条)
無期転換ルールとは、同じ会社との有期労働契約が通算5年を超えた社員が申し込むと、期間の定めのない契約(無期労働契約)に切り替わるルールのことです(第18条)。会社は申し込みを断れず、承諾したとみなされます。
切り替わった後の給与などの条件は、原則として元の有期契約と同じです(別の定めがある部分を除く)。「無期転換=正社員」ではない点に注意しましょう。
計算例:1年契約を更新している場合
2021年4月1日から、1年ごとの契約社員として雇っているエンジニアの例です。
| 契約 | 期間 | 通算期間 |
|---|---|---|
| 1本目〜5本目 | 2021年4月1日〜2026年3月31日 | 5年(まだ超えない) |
| 6本目 | 2026年4月1日〜2027年3月31日 | 6年(5年を超える) |
この社員は、6本目の契約が始まった2026年4月1日から2027年3月31日までの間に、無期転換を申し込めます。
契約と契約の間に6か月以上の空白がある場合などは、それ以前の期間が通算されないことがあります(第18条第2項)。判断に迷うときは専門家に確認しましょう。
2024年4月からは、無期転換を申し込める更新のときの明示も必要です。申し込めることと転換後の労働条件を書面で示します。
そのほか押さえたい条文(出向・懲戒)
出向と懲戒にも、解雇と同じ「権利の濫用」のルールがあります。SESでは出向の形で客先に行く場面もあるので、あわせて押さえておきましょう。
出向(第14条):出向とは、自社に籍を置いたまま別の会社で働くことです。必要性や人選の事情から見て濫用なら、出向命令は無効です。
懲戒(第15条):懲戒とは、規律違反へのペナルティのことです。行為の内容に比べて重すぎる懲戒は無効です。
出向の形で客先に行く場合も、実態が派遣と同じなら職業安定法や労働者派遣法の問題になりえます。
待機中の給与と休業手当
待機中も労働契約は続いています。会社の都合で仕事を与えられない期間は、平均賃金の100分の60以上の休業手当を払わなければなりません(労働基準法第26条)。
休業手当とは、会社の責任で休ませた期間に、社員の生活を守るために払う手当のことです。「案件がないから今月は無給」とすることはできません。
自社で研修や社内業務をしてもらう場合は、働いた時間として通常の給与を払うのが基本です。待機の社員が複数いるときに誰から提案するかは、SESの待機エンジニアが複数いるときの営業の優先順位|判断表つきで判断表を紹介しています。
案件終了・交代要請が出たときの対応5ステップ
案件終了や交代要請が出たら、「次の案件を探す」ことを最優先にします。解雇や雇止めは、最後の手段と考えましょう。
客先の話を記録する:終了や交代の理由、日付、話した相手をメモに残す
社員と面談する:事実を伝え、希望するスキルや勤務地を聞く
次の案件を探す:自社の案件、BPの案件、連携先の営業中案件から候補を集める
提案の記録を残す:いつ、どの案件に提案したかを一覧にしておく
待機になったら給与を決める:休業手当か社内業務かを、本人に書面で伝える
社員への連絡の例文
件名:現在の案件の終了予定と今後の進め方について 〇〇さん お疲れさまです。営業の△△です。 現在参画中の案件は、2026年11月30日(月)で終了となる予定です。 客先の開発フェーズが区切りを迎えたためで、〇〇さんの評価とは関係ありません。 12月からの次の案件は、会社として探し始めています。 希望する技術や勤務地を、2026年11月2日(月)の面談でお聞かせください。 万一、12月1日(火)までに次が決まらない場合の給与の扱いも、面談でご説明します。 よろしくお願いします。
「評価とは関係ない」と伝えると、社員の不安が和らぎ、離職も防ぎやすくなります。
営業責任者のチェックリスト
雇用契約書に、就業場所と業務の変更の範囲を書いている
待機中の給与の扱いを、雇用契約書か就業規則で決めている
契約社員の更新期間を、案件の期間に合わせて短くしていない
通算5年を超える契約社員を把握している
月1回の面談で、残業時間と体調を確認している
案件終了のたびに、提案の記録を残している
解雇・雇止めを考える前に、社会保険労務士か弁護士に相談する流れがある
チョータツで次の案件を早く見つけ、待機を減らす
労働契約法の面から見ると、SES企業にとって一番の守りは待機を出さないことです。次の案件がすぐ決まれば、解雇や雇止めを考える必要もなくなります。
自分でやる場合は、BPから届く案件メールを読み、Excelに転記して、社員のスキルと照らし合わせます。案件の数が多いほど、見落としが増えます。
| 作業 | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 案件を集める | 届いたメールを1通ずつ読む | 連携した他社の営業中案件をデータベースで見られる |
| 社員の情報を共有する | スキルシートを個別に送る | 人材情報を管理・共有できる |
| 空き予定を知らせる | BCCで一斉送信 | メール配信機能でパートナーに配信できる |
| 情報を入力する | 手で転記する | AIが入力を手伝う |
チョータツは3,000社以上が利用しているSES営業向けの案件・人材管理ツールで、無料で始められます。案件終了の1〜2か月前から次を探す習慣づくりに役立ちます。
よくある質問
- Q. 労働契約とは何ですか?
- 社員が会社に使われて働き、会社が賃金を払うことを、両方が合意して結ぶ契約です(労働契約法第6条)。書面がなくても合意で成立しますが、条件はできる限り書面で確認するものとされています。
- Q. 労働契約法に違反すると罰則はありますか?
- 労働契約法そのものに罰則はありません。ただし、ルールに反した解雇や雇止めは無効になります。解雇予告や休業手当など、労働基準法には罰則付きの決まりがあります。
- Q. SESで案件が終わったら、社員を解雇できますか?
- 案件終了だけを理由にした解雇は、無効になるおそれが高いです。次の案件を探す努力をしたかが問われます。まずは営業活動と待機中の給与の扱いを考えましょう。解雇の要件は、案件終了と解雇の関係を扱う専門記事で詳しく解説しています。
- Q. 客先から交代を求められた社員を、契約社員なら更新しなくてよいですか?
- 何度も更新している場合や、更新を期待させる言動があった場合は、雇止めが無効になることがあります(第19条)。交代要請だけで更新しないと決めるのは避けましょう。
- Q. 労働契約法と労働基準法はどちらが優先されますか?
- 役割が違うので、両方を守ります。労働基準法は最低基準と罰則、労働契約法は契約の成立・変更・終了のルールを定めています。
まとめ
労働契約法とは、会社と社員の労働契約の基本ルールを決めた法律(2008年3月1日施行)
SES企業が守る5つのルールは、合意と書面・安全配慮・解雇の制限・有期契約の更新・無期転換
客先との契約が終わっても、社員との労働契約は続く
案件終了や交代要請だけを理由にした解雇・雇止めは、無効になるおそれが高い
待機中は、会社都合なら平均賃金の6割以上の休業手当が必要
一番の対策は、案件終了の前から次の案件を探し、待機を出さないこと
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「労働契約法(平成19年法律第128号)」
e-Gov法令検索「労働基準法(昭和22年法律第49号)」(第20条・第26条・第36条)
厚生労働省「労働契約法|確かめよう労働条件」
静岡労働局「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」