SESの契約書と著作権の帰属|準委任のプログラムは誰のもの?移転条項例と「権利のすき間」を防ぐ確認点5つ
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
SESの契約書の著作権条項とは?
著作権条項とは、仕事の中で作ったプログラムや資料の著作権を、誰のものにするかを決めた条文のことです。SESの基本契約書では「知的財産権の帰属」という見出しで入ることが多いです。
著作権とは、文章・プログラム・図などを作った人が、それを勝手にコピーや改変されないように守る権利のことです。知的財産権とは、著作権に加えて特許権や商標権なども含む、頭で生み出したものを守る権利の総称のことです。
著作権法は、プログラムも著作物として守っています(10条1項9号)。プログラムとは、コンピュータを動かすための指令を組み合わせて表現したもののことです(2条1項10号の2)。
SESの現場では、ソースコードのほかに設計書・テスト仕様書・手順書なども作ります。設計書などの資料も著作物になりうるので、「成果物」の範囲に資料も含めるかを条項で決めておきます。
→ 基本契約書の全体像はSESの基本契約書とは|テンプレートと個別契約の優先・印紙7号で確認できます。客先から届いた契約書のどこを見るかは契約書レビューのやり方|SES営業が基本契約を受け取ったら見る項目にまとめています。
著作権は原則として作った側に帰属する
著作権は、契約で何も決めなければ、プログラムを作った側に帰属します。お金を払った客先に、自動で移るわけではありません。
著作権は登録などの手続きなしに発生し(著作権法17条2項)、作った時点から守られます(51条1項)。そのため「誰が作ったか」で最初の持ち主が決まります。
社員が作ったプログラムは会社のもの(職務著作)
職務著作とは、会社の指示で社員が仕事として作った著作物について、会社を著作者とするしくみのことです。プログラムの場合は、著作権法15条2項に定めがあります。
プログラムの職務著作は、会社の名前で公表しなくても成り立ちます。次の3つを満たせば、契約や就業規則に別の定めがない限り、会社が著作者です。
会社の発意(指示)にもとづいている
会社の業務に従事する人が作った
職務上作った
SESの立場ごとの最初の持ち主
SESでは、客先で働くエンジニアの所属によって、最初の持ち主が変わります。
| 作った人 | 最初の著作権の持ち主 | 客先に渡すために必要なこと |
|---|---|---|
| 自社の社員 | 自社(職務著作) | 自社と客先の契約に移転条項を入れる |
| BPの社員 | BP(職務著作) | BPと自社、自社と客先の両方に移転条項を入れる |
| 個人のフリーランス | フリーランス本人となるのが一般的 | フリーランスと自社の契約にも移転条項を入れる |
フリーランスは会社に雇われていないため、職務著作にあたらないと考えるのが一般的です。商流の一番下にいる人から、上に向かって順番に権利を渡す必要があります。
準委任でも請負でも客先には自動で移らない
準委任契約でも請負契約でも、契約に移転条項がなければ、著作権は客先に移りません。契約の種類で著作権の持ち主が決まるわけではないからです。
準委任契約とは、仕事の完成ではなく、作業を行うこと自体を約束する契約のことです。SESの多くはこの形です。「作業に対して払うだけだから、成果物の権利は関係ない」と考えがちですが、それは誤りです。
準委任でも、エンジニアは日々コードや資料を作ります。移転条項がないまま契約が終わると、客先は自社システムのコードを自由に直せないおそれがあります。契約終了後に客先ともめる原因になります。
→ 契約の種類の違いは準委任契約と請負契約の違い|業務委託契約書を見分ける判定シートで解説しています。
著作権の移転条項で書く5つの要素
著作権の移転条項には、次の表の5つの要素を書きます。対象、移転の時期、27条・28条の特掲、人格権の不行使、既存プログラムの扱いです。どれか1つ抜けると、権利が思わぬところに残ります。
| 要素 | 書く内容 | 抜けると起きること |
|---|---|---|
| 対象 | ソースコード・設計書など成果物の範囲 | 資料の権利が残り、客先が改訂できない |
| 移転の時期 | 作った時点か、報酬を払った時点か | 未払いのまま権利が移ってしまう |
| 27条・28条の特掲 | 翻案権などを名指しで書く | 改変する権利が渡した側に残ると推定される |
| 人格権の不行使 | 著作者人格権を行使しない約束 | 改変に対して異議を出される余地が残る |
| 既存プログラム | 以前から持っていた部品や汎用部品を除く | 自社の部品まで客先のものになる |
27条・28条の権利を名指しで書く理由
著作権を渡す契約では、著作権法27条と28条の権利を「特掲」しないと、渡した側に残ると推定されます(61条2項)。特掲とは、契約書の中で特にその権利を名指しして書くことです。
27条は、著作物を翻案(改変)する権利です。プログラムでいえば、機能追加や改修で既存のコードを直すことにあたります。28条は、改変してできたもの(二次的著作物)の利用について、元の作者が持つ権利です。
「一切の著作権を譲渡する」とだけ書くと、改修する権利が渡した側に残ると推定されかねません。「著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む)」と書くのが定番です。
著作者人格権は渡せないので「行使しない」と約束する
著作者人格権とは、作った人の気持ちや名誉を守る権利で、人に渡すことができない権利のことです(著作権法59条)。公表するか決める権利、名前を出す権利、勝手に改変されない権利(同一性保持権)があります。
著作者人格権は譲渡できません。そのため契約書では、「著作者人格権を行使しない」と約束する条項を入れるのが一般的です。これを著作者人格権の不行使特約といいます。
既存プログラムと汎用部品は除く
自社が以前から持っていたライブラリや、ほかの案件でも使う汎用的な部品まで客先に渡すと、次の案件で使えなくなります。既存・汎用のものは移転の対象から外し、客先には利用を許す形にするのが一般的です。
IPA(情報処理推進機構)は「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」を公開しています。第45条(著作権の帰属)には、次の3つの案が用意されています。
A案:開発会社(ベンダー)にすべて残す
B案:汎用部品は開発会社に残し、それ以外を発注者に渡す
C案:汎用部品は開発会社に残し、それ以外を共有にする
自社の立場に合わせて選ぶ参考になります。
そのまま使える著作権の移転条項の例
移転条項は、「移転」「特掲」「人格権」「既存プログラム」「保証」の5つの項で書くと、抜けがありません。次の例は、SESの基本契約書に入れやすい形にまとめたものです。
第〇条(著作権等の帰属) 1 乙が本契約に基づく業務の遂行により作成したプログラム、 設計書その他の成果物(以下「本成果物」という。)の著作権 (著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)は、 当該業務に係る委託料の支払が完了した時に、乙から甲に移転する。 2 前項の移転の対価は、委託料に含まれるものとする。 3 乙は、甲及び甲の指定する第三者に対し、本成果物について 著作者人格権を行使しない。乙は、乙の従業員、再委託先 その他本成果物の作成に関与した者にも、これを行使させない。 4 第1項にかかわらず、乙又は第三者が本契約の前から保有していた プログラム及び汎用的に利用できるプログラムの著作権は、 乙又は当該第三者に留保される。甲は、本成果物を利用するために 必要な範囲で、これらを無償で利用することができる。 5 乙は、本成果物が第三者の知的財産権を侵害しないことを保証する。 乙が再委託先を使用した場合、乙は、再委託先から本条と同等の 権利の移転及び不行使の約束を得るものとする。
書き方のポイントは3つです。
第1項で移転の時期を「支払完了時」にする。受ける側(乙)にとっては、未払いのまま権利を失わずに済みます。
第3項で関係者全員の不行使を約束させる。実際に作ったBPの社員やフリーランスも含めます。
第5項で再委託先からの移転を義務にする。「権利のすき間」を防ぐための条文です。
甲は発注する側、乙は受ける側です。自社が乙になる上位契約と、自社が甲になる下位契約の両方に、同じ内容の条文を入れると、権利が商流を上までつながります。
上位と下位で生まれる「権利のすき間」とは
権利のすき間とは、上位で客先に著作権を渡すと約束したのに、下位の作り手から受け取っていない状態のことです。自社は、持っていない権利を渡すと約束したことになります。
上位契約とは、自社が仕事を受ける側の契約(客先・元請けとの契約)のことです。下位契約とは、自社が仕事を出す側の契約(BP・フリーランスとの契約)のことです。
【商流図】権利のすき間が生まれる例
客先(エンド)
▲ 上位契約:「成果物の著作権は客先に移転する」
│
自社(SES企業) ← 自社は著作権を持っていない
▲ 下位契約:著作権の条項なし
│
BP(パートナー企業)← 著作権はBPに残ったまま
│
エンジニア(BPの社員)がコードを書くこの状態では、コードの著作権はBPに残ったままです。客先がそのコードを改修したときに、BPから権利を主張される余地が残ります。
客先から見ると、約束どおり権利を渡さなかったのは自社です。責任を問われるのは、客先と契約している自社になります。とくに、下位のひな形を相手(BP)が用意した場合に起きやすいので注意が必要です。
権利のすき間を防ぐ確認点5つ
権利のすき間は、上位契約と下位契約の著作権条項を並べて、次の5点を比べれば防げます。1つでも下位の方が弱ければ、下位契約を直します。
| # | 確認点 | 上位と下位で見るところ |
|---|---|---|
| 1 | 移転の有無 | 上位で移転するなら、下位にも移転条項があるか |
| 2 | 移転の時期 | 下位の移転時期が、上位より遅くないか |
| 3 | 27条・28条の特掲 | 上位で特掲していれば、下位にも特掲があるか |
| 4 | 著作者人格権の不行使 | 下位に、実際に作った人まで含む不行使の約束があるか |
| 5 | 既存・汎用プログラム | 下位で留保される部品を、上位で渡すと約束していないか |
1. 移転の有無
上位契約に「客先に移転する」とあるのに、下位契約に著作権の条項がないのが、最も多いすき間です。BPから届いた契約書のひな形に、著作権の条項があるかを最初に見ます。
2. 移転の時期
上位で「作成した時に移転」、下位で「支払完了時に移転」だと、下位の支払いが済むまで自社は権利を持っていません。下位の移転時期は、上位と同じか早くします。支払いサイトの差がある場合は特に注意します。
3. 27条・28条の特掲
下位契約に特掲がないと、改修する権利がBPに残ると推定されます。上位で客先に改修する権利まで渡していると、そこにすき間ができます。
4. 著作者人格権の不行使
下位契約の不行使の約束が「BP」だけで、BPの社員や再委託先のフリーランスを含んでいないことがあります。「作成に関与した者にも行使させない」という書き方になっているかを見ます。
5. 既存・汎用プログラムの扱い
BPが下位契約で「自社の既存部品は留保する」と定めていることがあります。一方で自社が上位で「すべて移転する」と約束すると、その部品の分だけすき間ができます。下位で留保される部品は、上位でも留保する形にそろえます。
→ 再委託先への条項の入れ方はSESの再委託禁止条項の書き方|承諾条件と個人事業主の扱いで解説しています。
BPに条項の追加を頼むメール例文
下位契約にすき間が見つかったら、参画前にBPへ条項の追加を依頼します。契約書を作り直さなくても、覚書で足せます。
件名:【ご相談】基本契約の著作権条項について(〇〇案件) △△株式会社 〇〇様 いつもお世話になっております。□□株式会社の××です。 〇〇案件のご参画にあたり、1点ご相談です。 本案件では、エンド様との契約で成果物の著作権を エンド様へ移転する約束になっております。 つきましては、御社との基本契約にも次の3点を 覚書で追加させていただけないでしょうか。 1. 成果物の著作権(著作権法27条・28条の権利を含む)を 弊社へ移転すること(時期:弊社への納品時) 2. 御社・御社社員の著作者人格権を行使しないこと 3. 御社が以前からお持ちの部品は対象外とすること 覚書の案は弊社でご用意いたします。 〇月〇日の参画日までにご確認いただけますと幸いです。
BPが既存部品の留保を求めてきたら、上位契約でも同じ部品を留保できるか客先に確認します。覚書の書き方は契約書を変更するには?覚書の書き方とSESの単価変更の文例を参考にしてください。
フリーランスと契約するときの注意点
個人のフリーランスとの契約では、著作権の移転条項を必ず書面で入れます。フリーランスは職務著作にあたらないのが一般的なので、条項がなければ著作権は本人に残ります。
フリーランスとの取引には、フリーランス法も関係します。フリーランス法とは、2024年11月1日に施行された、個人で働く人との取引のルールを決めた法律のことです。発注するときは、業務の内容や報酬などの取引条件を明示する義務があります(3条)。
著作権をどう扱うかも、業務内容とあわせて契約書や発注書で明確にしておくと、あとで揉めにくくなります。
→ 記載事項はフリーランス法の契約書の記載事項|9項目の書き方と条項チェックで確認できます。
契約条件の確認をチョータツで仕組みにする
著作権の条項は、提案の前に案件ごとの条件を確認しておくと、契約の段階で慌てずに済みます。「この客先は成果物の著作権をすべて移す」「この案件は再委託不可」などを、案件と一緒に残しておくのがコツです。
自分でやる場合は、次の順で進めます。
客先ごとの基本契約書から、著作権条項と再委託条項を抜き出す
案件表(Excelなど)に「著作権の移転あり・時期」「再委託の可否」の列を足す
BPに提案を依頼するとき、その条件をメールに書いて伝える
BPとの契約書を結ぶ前に、確認点5つで上位と下位を比べる
手間がかかるのは2と3です。案件が増えると、条件がメールやExcelに散らばり、BPへの伝え漏れが起きやすくなります。
もっと楽にするなら、チョータツを使う方法があります。チョータツは、SES営業の案件・人材の管理・共有ツールです。
| 場面 | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 案件の条件を残す | Excelの列を増やして管理 | 案件の情報をまとめて管理し、提案前に条件を確認できる |
| BPに案件を伝える | BCCでメールを一斉送信 | メール配信機能で、パートナーにまとめて配信できる |
| 人材を探す | 届いたメールを1通ずつ読む | 他社と連携すると、他社の営業中人材がデータベースになる |
チョータツは3,000社以上が利用しており、無料で始められます。入力はAIが手伝います。
よくある質問
- Q. SESで作ったプログラムの著作権は誰のものですか?
- 契約で決めなければ、作った側のものです。準委任でも客先には自動で移りません。社員が仕事で作った場合は、原則としてその社員を雇う会社が著作者になります(著作権法15条2項)。
- Q. 「著作権を譲渡する」とだけ書けば十分ですか?
- 十分ではありません。27条・28条の権利を特掲しないと、改変する権利が渡した側に残ると推定されます。「第27条及び第28条に定める権利を含む」と書きましょう。
- Q. BPが作ったプログラムを、自社が客先に渡すにはどうすればいいですか?
- BPと自社の契約で、自社への移転条項と不行使の約束を入れます。そのうえで、自社と客先の契約で客先に移転します。
- Q. 自社の既存ライブラリまで客先のものになりますか?
- 条項の書き方しだいです。既存・汎用のプログラムを移転の対象から外し、客先には利用を許す形にするのが一般的です。
- Q. 納品物に不具合があった場合の責任はどうなりますか?
- 著作権とは別の論点です。SESに瑕疵担保責任はある?契約不適合責任との違いを表で解説を参考にしてください。
まとめ
SESで作ったプログラムの著作権は、契約で決めなければ作った側に残る
社員が仕事で作ったプログラムは、原則として雇っている会社が著作者になる
準委任でも請負でも、客先に渡すには移転条項が必要
移転条項には「対象」「時期」「27条・28条の特掲」「人格権の不行使」「既存プログラム」の5つを書く
上位で客先に渡すのに、下位のBPやフリーランスから受け取っていないと「権利のすき間」ができる
上位と下位の条項を並べ、確認点5つで下位が弱くないかを見る
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「著作権法」(第2条第1項第10号の2 プログラム、第10条 著作物の例示、第15条 職務上作成する著作物の著作者、第17条 著作者の権利、第27条 翻案権、第28条 二次的著作物の利用、第51条 保護期間の原則、第59条 著作者人格権の一身専属性、第61条 著作権の譲渡)
e-Gov法令検索「民法」(第656条 準委任)
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)」(第3条 取引条件の明示)
IPA(情報処理推進機構)「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」(第45条 著作権の帰属 A案・B案・C案)
文化庁「著作権を学ぶ(教材・講習会)」