SESの稼働時間の虚偽報告|損害賠償の可否と発覚時の返金計算・謝罪・求償の手順
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
稼働時間の虚偽報告とは?SESで起きる3つの型
稼働時間の虚偽報告とは、実際に働いた時間と違う時間を稼働報告書に書くことです。SESでは、多くの場合「水増し」の形で起こります。
稼働報告書とは、エンジニアが1か月に働いた時間を記録し、客先とSES企業が請求の根拠にする書類のことです。SESの多くは準委任契約で、報酬は稼働時間をもとに精算します。そのため、時間がずれると請求額もずれます。
準委任契約とは、「仕事の完成」ではなく「作業をすること」に対してお金を払う契約のことです。
| 型 | よくある例 | 気づくきっかけ |
|---|---|---|
| 時間の水増し | 18時に帰ったのに20時まで働いたと書く | 入館記録・PCのログ |
| 休んだ日の出勤扱い | 欠勤や早退を稼働日に数える | 客先の出勤簿との差 |
| 業務時間中のサボり | 席にいるが別の仕事や私用をしている | 成果物の少なさ・チャットの無反応 |
3つ目の「サボり」は、時間そのものはうそではない場合があります。準委任契約では「注意して作業する義務」(善管注意義務)があり、ひどい場合は契約違反になりえます。ただし、どこからがサボりかの証明は難しく、時間の水増しより請求のハードルは高いです。
虚偽報告で損害賠償・返金は請求できる?法律上の根拠
多く払ったお金の返金は、原則として請求できます。わざと水増ししていれば、損害賠償の対象にもなります。
根拠になる法律は、次の4つです。
| 根拠 | 条文の中身(要約) | SESでの使いどころ |
|---|---|---|
| 民法415条 | 契約どおりに義務を果たさないと、損害を賠償する | 契約書の報告義務に反した |
| 民法703条・704条 | 理由なく得た利益は返す。知っていて受け取ったなら利息も付ける | 多く受け取った報酬の返金 |
| 民法709条 | 故意・過失で損害を与えたら賠償する | 契約関係がない相手への請求 |
| 刑法246条 | 人をだましてお金を得ると詐欺罪 | 悪質で金額が大きい場合 |
不当利得とは、法律上の理由がないのに得た利益のことです。水増しで多く受け取った報酬はこれにあたり、返す義務があります。
請求できる期間にも注意します。契約や不当利得にもとづく請求は、請求できると知った時から5年、または請求できる時から10年です(民法166条)。不法行為の損害賠償は、損害と相手を知った時から3年、または不法行為の時から20年です(民法724条)。
刑事告訴は、金額が大きく、何度も続けていた場合に限って検討します。まずは返金と契約上の対応で解決するのが一般的です。
発覚したときの対応手順5ステップ
発覚したときは、「客先に対して正しくする」ことを最優先にします。本人やBPへの請求は、その後です。
事実確認をする(1〜3日):稼働報告書と入館記録・日報・チャットの時刻を並べます。どの日に何時間ずれたかを表にします。本人やBPの営業にも説明を聞きます。
返金額を計算する:精算幅にあてはめて、正しい請求額と実際の請求額の差を出します。消費税も含めて計算します。
客先に報告・謝罪する:事実・金額・原因・再発防止策の4点をそろえて、営業責任者が伝えます。返金方法(振込か、翌月の請求から差し引くか)も相談します。
本人またはBPに請求する(求償):契約書の条項を確認し、返金分と対応にかかった費用を請求します。
再発防止と要員の判断をする:突き合わせのルールを決め、続けてもらうか交代するかを客先と相談します。
求償とは、代わりに払ったお金を、原因をつくった相手に請求することです。
手順1で作る「ずれの一覧表」は、次の形にすると客先・BPへの説明にそのまま使えます。
| 日付 | 報告の時間 | 記録の時間(入館・ログ) | ずれ |
|---|---|---|---|
| 8月4日(月) | 9:00〜20:00(10h) | 9:02〜18:05(8h) | +2h |
| 8月5日(火) | 9:00〜19:00(9h) | 9:01〜18:10(8h) | +1h |
| 8月合計 | 190h | 170h | +20h |
「記録の時間」には、何の記録か(入館記録・PCログなど)を必ず書き添えます。休憩1時間を引いた実働で比べます。
手順1で本人を問い詰めるだけにしないことが大切です。記録で数字を固めてから話を聞くと、言った言わないの争いを避けられます。
時間にうそがなく、遅刻や居眠りが問題の場合は別の対応です。SESの勤怠不良エンジニアへの対応|遅刻・欠勤を止める6ステップを参考にしてください。
返金額の計算方法|精算幅があると金額が変わる
返金額は、正しい稼働時間で請求をやり直した金額との差です。精算幅がある契約では、水増しした時間がそのまま返金額にはなりません。
精算幅とは、単価が変わらない稼働時間の範囲のことです。上限を超えた分は追加で請求し(超過精算)、下限を下回った分は差し引きます(控除)。
ここでは、次の条件で計算します。
客先との単価:月60万円、精算幅140〜180時間
超過単価:60万円÷180時間=3,333円/時間(1円未満切り捨て)
控除単価:60万円÷140時間=4,285円/時間(1円未満切り捨て)
| ケース | 報告した時間 | 実際の時間 | 返金額(税抜) |
|---|---|---|---|
| A:上限超えを水増し | 190時間 | 170時間 | 33,330円 |
| B:下限割れを隠した | 150時間 | 130時間 | 42,850円 |
| C:幅の中で水増し | 175時間 | 160時間 | 0円 |
ケースAの計算
報告どおりだと、10時間×3,333円=33,330円を超過精算しています。実際は170時間で幅の中なので、正しい請求は60万円です。差額の33,330円に消費税10%を足した36,663円を返します。
ケースBの計算
実際は130時間なので、10時間×4,285円=42,850円を控除するべきでした。正しい請求は557,150円です。差額の42,850円に消費税を足した47,135円を返します。
ケースCの考え方
報告も実際も幅の中なので、請求額は60万円のままです。お金の返金はありません。ただし、うその報告をした事実は残るので、客先への報告と再発防止は必要です。
計算方法は契約によって違います。上限・下限の時間で割る「上下割」のほかに、中間の時間で割る「中間割」の契約もあります。必ず契約書の精算条件で計算します。控除の計算の詳細はSESの精算幅を下回ったら?控除の計算方法と有給・固定の扱いにまとめています。
返金を翌月の請求から差し引く場合や、請求書を出し直す場合もあります。書き方は請求書の金額間違いに後から気づいたら|SESの訂正と再発行の例文が使えます。
客先への報告と謝罪|伝え方と例文
客先への報告は、自社が気づいた時点で、自社から先に伝えるのが基本です。客先から指摘される前に伝えると、信頼の傷が小さくなります。
伝える内容は次の4点です。
何が起きたか(対象の月・人・ずれた時間)
いくら返すか(計算の根拠つき)
なぜ起きたか(自社の確認が足りなかった点も含める)
次にどう防ぐか(突き合わせのルール)
報告メールの例文
件名:【ご報告とお詫び】2026年8月分 稼働報告の誤りについて
〇〇株式会社 〇〇様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
2026年8月分の弊社要員〇〇の稼働報告に、実際と異なる記載があったことが判明しました。
報告190時間に対し、入館記録との照合で実際は170時間でした。精算条件(140〜180時間)で計算し直しました。
超過精算分33,330円(税込36,663円)を、過大にご請求しておりました。
返金方法は、ご指定の口座への振込、または2026年10月分のご請求からの差し引きのいずれかでご相談させてください。弊社の確認が不十分だったことを深くお詫び申し上げます。
今後は毎月、稼働報告書と入館記録を照合してからご請求いたします。
詳しくは、近日中にお伺いのうえご説明いたします。
メールの後に、営業責任者が会って説明するのが望ましいです。「本人が悪い」とだけ伝えると、自社の管理の甘さを隠しているように見えます。自社の確認不足も認めましょう。
本人・BPへの請求(求償)|相手別の判断
求償できるかどうかは、相手が社員か、フリーランスか、BPかで変わります。
| 相手 | 返金・賠償の請求 | 注意点 |
|---|---|---|
| 自社の社員 | できるが、給料から勝手に差し引けない | 労基法24条・16条・91条 |
| フリーランス(直接契約) | 契約にもとづいて請求できる | 相殺の合意を書面で残す |
| BP(他社の要員) | BPの会社に請求できる | BPとの精算条件で計算する |
自社の社員の場合
社員に返してもらうことはできますが、給料から一方的に差し引くことはできません。労働基準法24条は、給料を全額払うことを求めています。
また、労働基準法16条により、「うそを書いたら罰金〇万円」と前もって決めることもできません。懲戒として減給する場合は、同法91条の上限があります。1回の額は平均賃金1日分の半分まで、合計は1回の給料総額の10分の1までです。
なお、水増しで残業代を多く払っていた場合は、その分を返してもらう話し合いができます。本人の同意を書面でとってから、分割などで返してもらいましょう。懲戒解雇などの重い処分は、労働契約法15条で無効になることもあるので、社会保険労務士に相談します。
フリーランスと直接契約している場合
フリーランスには、業務委託契約にもとづいて返金を請求できます。返金分を翌月の報酬と相殺(差し引き)することもできます(民法505条)。後のもめごとを防ぐため、相殺する金額と理由は書面で合意しておきます。
フリーランス法5条は、従業員を使う発注者などに、報酬の減額を禁止しています。対象は1か月以上続く業務委託です(同法施行令1条)。ただし禁止されるのは、フリーランスの責任がないのに減額することです。虚偽報告で正しい金額に直す場合は、根拠となる記録と計算を相手に示し、合意書を残しておきます。
BPの要員の場合
BPの要員なら、請求先はBPの会社です。自社とBPの契約の精算条件で、BPへの支払いを計算し直します。
たとえば、BPへの単価が52万円、精算幅140〜180時間だとします。ケースAのBP側の超過分は、10時間×2,888円(52万円÷180時間、1円未満切り捨て)=28,880円です。自社は客先に33,330円を返し、BPから28,880円を返してもらいます。差の4,450円は、もともと受け取るべきでなかった利益なので、BPへ請求する損害にはなりません。BPへ損害として請求を検討できるのは、調査・謝罪にかかった費用など、自社に実際に出た損害です。
BPの営業には、証拠の表を見せて事実を共有します。BPが本人に請求するかどうかは、BPと本人の間の話です。
客先から返金に加えて損害賠償まで求められた場合は、準委任契約で損害賠償を請求されたら?責任の範囲と対応5手順を確認してください。
予防のための稼働報告書チェック項目
虚偽報告を防ぐ一番の方法は、毎月、稼働報告書を別の記録と突き合わせることです。請求書を出す前に、営業か営業事務が確認します。
月次の突き合わせチェックリスト(10項目)
稼働報告書の合計時間と、日ごとの時間の合計が一致している
稼働日数が、客先の営業日カレンダーと合っている
祝日・客先の休業日に稼働が入っていない
入館記録(ある場合)の入退館時刻と、始業・終業時刻が大きくずれていない
日報・週報を出した時刻が、終業時刻より後になっていない
休暇・遅刻・早退の連絡をした日が、通常稼働になっていない
先月と比べて、残業時間が急に増えていない
精算幅の上限ぎりぎり・下限ぎりぎりの月が続いていない
客先の現場リーダーが、月の稼働時間を承認している
BPの要員なら、BPが客先の承認済みの報告書を出している
とくに8番は大事です。上限を少し超える月や、下限をちょうど上回る月が続くときは、時間を調整している可能性があります。
ただし、確認のために客先が要員の働き方を細かく指示すると、偽装請負と見られるおそれがあります。確認は「記録の照合」にとどめ、指示や管理は自社の責任者が行いましょう。フリーランスの稼働をどこまで確認してよいかは、業務委託の勤怠管理は違法?準委任で許される稼働管理の範囲で整理しています。
稼働報告書が遅れて突き合わせができない月もあります。回収の手順はSESの稼働報告書が遅れる・出ないときの対応|請求を間に合わせる手順にまとめています。
要員交代が決まったら|チョータツで次の要員をすぐ探す
虚偽報告が発覚すると、客先から要員の交代を求められることがよくあります。交代が遅れるほど、客先の不満と自社の売上の穴が大きくなります。
自分でやる方法
取引先のBPに一斉にメールを送り、条件に合う人材を募ります。過去に届いた人材メールを探して、空いている人に声をかけます。ただし、返事を待つ間に数日かかることが多いです。
もっと楽にするなら
チョータツは、SES営業の案件・人材を管理・共有できるツールです。3,000社以上が使っていて、無料で始められます。
他社と連携すると、相手の営業中人材がデータベースになり、交代要員をすぐ探し始められる
パートナーへのメール配信機能で、交代要員の募集を一度に送れる
案件の条件(精算幅・報告のルール)を案件情報として管理し、次の要員にも同じ条件を伝えやすい
よくある質問
- Q. 稼働報告書の水増しが発覚したら、すぐ契約解除できますか?
- 契約書に「重大な違反があれば解除できる」という条項があれば、解除できる場合があります。ただし多くは、返金と要員の交代で話がまとまります。解除する前に、契約書の解除条項を確認しましょう。
- Q. SESで業務時間中にサボっていた分も請求できますか?
- 時間のうそがなければ、請求は難しいのが実情です。準委任契約は「作業の完成」ではなく「作業をすること」が対象だからです。成果が極端に少ない場合は、注意義務の違反として客先と話し合います。
- Q. 過大請求の返金は、何年前までさかのぼりますか?
- 法律上の時効は、請求できると知った時から5年、または請求できる時から10年です(民法166条)。実務では、記録で確かめられる月までを返金の対象にするのが一般的です。対象の月は、客先と合意して決めます。
- Q. 業務委託のフリーランスが稼働時間をごまかしていたら?
- 業務委託契約にもとづいて、多く払った報酬の返金を請求できます。翌月の報酬から差し引く場合は、フリーランス法の減額禁止に触れないよう、根拠と合意を書面で残しましょう。
- Q. 客先から先に指摘されたときは、どう対応しますか?
- まず指摘へのお礼と、調査を始めることを当日中に伝えます。そのうえで、3営業日以内をめどに事実・金額・対策を報告します。言い訳より、記録にもとづく説明を優先しましょう。
まとめ
稼働時間の虚偽報告で多く請求したお金は、民法415条・703条などを根拠に返金が必要
返金額は精算幅で計算し直した差額。幅の中なら返金ゼロのこともある
対応は「事実確認 → 返金額の計算 → 客先へ報告・謝罪 → 本人・BPへ求償 → 再発防止」の順
社員の給料から勝手に差し引くのはNG。フリーランス・BPには契約にもとづいて請求できる
予防は、稼働報告書と入館記録・日報の月1回の突き合わせ。上限・下限ぎりぎりが続く月は要注意
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「民法」(第166条、第415条、第505条、第703条、第704条、第709条、第724条)
e-Gov法令検索「労働基準法」(第16条、第24条、第91条)
e-Gov法令検索「労働契約法」(第15条)
e-Gov法令検索「刑法」(第246条)
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)」(第5条)
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令」(第1条)