SESの稼働時間の上限・下限(精算幅)の決め方|140〜180時間の根拠と契約前に確認する12項目
公開日:2026年9月29日更新日:2026年9月29日
SESの稼働時間の上限・下限(精算幅)とは?
SESの稼働時間の上限・下限とは、月額単価のまま請求できる稼働時間の範囲のことです。この範囲を精算幅と呼びます。
精算幅とは、追加の請求も値引きもしない稼働時間の範囲のことです。「140〜180時間」のように、下限と上限で書きます。
| 稼働時間 | 呼び方 | 請求額 |
|---|---|---|
| 下限より少ない | 控除(下限割れ) | 月額単価から差し引く |
| 下限〜上限の間 | 精算なし | 月額単価のまま |
| 上限より多い | 超過(上限超え) | 月額単価に上乗せする |
精算幅は、SESでよく使う準委任契約の中で決めます。準委任契約とは、仕事の完成ではなく、決まった業務を行うことに報酬を払う契約のことです。民法第656条は、法律行為でない事務の委託に委任の規定を準用すると定めています。
精算幅の時間について、民法や労働基準法に「何時間にしなさい」という決まりはありません。契約書や注文書に書いた範囲がすべてです。だからこそ、営業が契約の前に数字を確かめる必要があります。
精算幅はなぜ140〜180時間が多いのか
140〜180時間が多いのは、「1日8時間×1か月の営業日」がほとんどの月でこの範囲に入るからです。営業日が月ごとに変わっても、請求額がぶれにくくなります。
1日8時間は、労働基準法第32条の「1日8時間・1週40時間」に合わせた、よくある所定労働時間です。所定労働時間とは、会社が決めた1日に働く時間のことです。
2026年の各月の営業日を、土日と国民の祝日を除いて数えました。年末年始などの会社の休みは入れていません。
| 月 | 営業日 | 8時間×営業日 | 140〜180時間との関係 |
|---|---|---|---|
| 1月 | 20日 | 160時間 | 範囲内 |
| 2月 | 18日 | 144時間 | 下限まで4時間 |
| 3月・4月 | 21日 | 168時間 | 範囲内 |
| 5月 | 18日 | 144時間 | 下限まで4時間 |
| 6月・7月 | 22日 | 176時間 | 上限まで4時間 |
| 8月 | 20日 | 160時間 | 範囲内 |
| 9月 | 19日 | 152時間 | 範囲内 |
| 10月 | 21日 | 168時間 | 範囲内 |
| 11月 | 19日 | 152時間 | 範囲内 |
| 12月 | 23日 | 184時間 | 年末の休みがないと上限超え |
※内閣府「国民の祝日について」の2026年の祝日で計算(2026年9月28日確認)。9月は21日〜23日の3連休を除いています。
表からわかる大切な点は2つです。
2月と5月は、有給を1日取るだけで136時間になり、下限の140時間を割ります。
6月・7月・12月は、少し残業するだけで上限の180時間に近づきます。
140〜180時間は、ふつうの月には合う幅です。しかし、営業日の少ない月と多い月では、余裕がほとんどありません。
精算幅の上限・下限を決める4つの手順
精算幅は、「所定労働時間」「営業日の最少と最多」「有給と残業の見込み」「自社の36協定」の4つを順に確かめて決めます。先に140〜180時間を当てはめるのではなく、エンジニアが実際に働ける時間から逆算します。
エンジニアの1日の所定労働時間を確認する
自社の就業規則で、1日8時間か7.5時間かを確認します。7.5時間の会社では、2026年2月の所定時間は135時間です。何もしなくても、下限の140時間に届きません。営業日が最も少ない月と多い月の時間を出す
「所定労働時間×営業日」を、営業日の少ない月と多い月で計算します。客先の休日カレンダー(夏季休暇・年末年始)も確認します。有給と残業の見込みを入れる
有給休暇は、年10日以上付与される人に年5日取らせることが会社の義務です(労働基準法第39条第7項)。残業が多い現場かどうかも、客先に確認します。自社の36協定の範囲に収まるか確かめる
36協定とは、法定労働時間を超えて働かせるために会社と労働者の代表が結ぶ協定のことです。時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。144時間の月に上限の180時間まで働くと、36時間の残業になります。
4つを確かめたら、140〜180時間のままにするか、別の形にするかを決めます。別の形とは、主に次の4つです。
| 見つかった問題 | 契約での対応 | 注意点 |
|---|---|---|
| 所定が7.5時間で下限に届かない | 下限を下げる(例:130時間) | 客先と上位の会社の合意が必要 |
| 営業日の少ない月に割れやすい | 月ごとの営業日で下限を変える | 計算と確認の手間が増える |
| 残業が多い現場 | 上限を上げるか、超過精算を明記する | 36協定の範囲を超えない |
| 時間の管理を簡単にしたい | 固定精算(時間で増減しない) | 稼働が少ない月も同じ請求額 |
有給を取った月の精算の扱いは、3つのパターンに分けて解説しています。
→ SESで有給を取ると稼働時間はどうなる?精算の扱い3パターン
有給休暇を見込んで下限を決める
下限は、エンジニアが年5日以上の有給を取る前提で決めます。有給を取ると下限を割る契約は、エンジニアが休みを言い出しにくくなり、あとで揉める原因になります。
営業日の少ない月に有給が重なると、下限割れはほぼ避けられません。そこで、契約の段階で次のどれかを決めておきます。
有給の日を稼働時間に含める(1日8時間として数える)
営業日の少ない月だけ、下限を下げる
下限割れしても、有給が理由なら控除しないと書く
エンジニア側では、半日や時間単位の有給で調整することもあります。時間単位の有給は、労使協定を結べば年5日分まで取れます(労働基準法第39条第4項)。ただし、これはエンジニアの権利であり、下限を埋めるために営業が求めるものではありません。
下限を下回ったときの控除額の計算は、別の記事でくわしく解説しています。
→ SESの精算幅を下回ったら?控除の計算方法と有給・固定の扱い
上下割と中間割、契約ではどちらを選ぶか
受ける側(SES企業)が選ぶなら、中間割のほうが有利になりやすいです。控除のときの時間単価が上下割より低く、超過のときの時間単価が高いからです。
上下割とは、控除は「月額÷下限時間」、超過は「月額÷上限時間」で時間単価を出す方法のことです。
中間割とは、控除も超過も「月額÷(下限と上限の真ん中の時間)」で時間単価を出す方法のことです。
月額60万円・精算幅140〜180時間・1円未満切り捨てで、時間単価を比べます。
| 項目 | 上下割 | 中間割 |
|---|---|---|
| 控除の時間単価 | 60万円÷140時間=4,285円 | 60万円÷160時間=3,750円 |
| 超過の時間単価 | 60万円÷180時間=3,333円 | 60万円÷160時間=3,750円 |
| 受ける側から見ると | 不利になりやすい | 有利になりやすい |
ただし、割り方は上位の会社の契約とそろえることが先です。自社が中間割でも上位が上下割なら、差額を自社が負担することになります。
あわせて、精算単位も契約で決めます。精算単位とは、稼働時間を何分きざみで数えるかの決まりのことです。15分・30分・1時間などがあり、同じ働き方でも控除額が変わります。
控除額・超過額の数字の例や精算単位による違いは、別の記事にまとめています。
→ SESの精算幅を下回ったときの控除の計算方法(上下割・中間割の計算例)
契約後:毎月15日に見込みを出し、決まった順番で連絡する
契約後は、毎月15日ごろに月末の見込み時間を出します。下限割れや上限超えが見えたら、エンジニア→自社の上長→客先の順に連絡します。客先に先に連絡すると、理由がわからないまま話が進み、エンジニアとの信頼を損ねるおそれがあります。
見込み時間の出し方
月の真ん中で、次の式で月末の見込み時間を出します。
見込み時間=15日までの稼働時間+(残りの営業日×1日の所定時間)
見込みが「下限+8時間」を下回るか、「上限−8時間」を上回ったら、連絡を始める合図にします。8時間は1日分の余裕です。
下限割れが見えたとき
エンジニアに事情を聞く:有給の予定や業務量の少なさなど、理由を確認します。
自社の上長に報告する:控除の見込み額と、客先に相談するかどうかを決めます。
客先の営業窓口に相談する:業務量が理由なら、作業を追加できるか営業どうしで相談します。
合意した内容をメールで残す:控除を受け入れるのか、条件を変えるのかを文章にします。
注意したいのは、下限を埋めるためだけに、エンジニアに残業をさせないことです。働いていない時間を稼働報告書に書くことも、してはいけません。
上限超えが見えたとき
エンジニアの残業時間と体調を確認する:36協定の上限を超えそうかを先に見ます。
自社の上長に報告する:超過精算の見込み額と、客先へ業務量の相談をするかを決めます。
客先の営業窓口に相談する:作業の優先順位の見直しや、人員の追加を相談します。
超過精算の扱いを確認する:超過分を請求するのか、上限で打ち切りなのかを契約で確かめます。
準委任契約では、客先がエンジニアに直接「残業して」と指示すると、偽装請負と見られるおそれがあります。残業や業務量の相談は、営業どうし・責任者どうしで行うのが基本です。
→ 準委任契約の指揮命令はどこまで?SES現場のOK・NG具体例20
客先への連絡の例文
件名:〇月の稼働見込みについてのご相談(△△様・□□プロジェクト) 株式会社〇〇 ご担当 〇〇様 いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。 弊社△△の〇月の稼働時間について、ご相談があります。 〇月15日時点の稼働は72時間で、月末の見込みは136時間です。 精算幅の下限140時間を、4時間ほど下回る見込みです。 理由は、〇日に有給休暇を1日いただいているためです。 契約の定めに沿って精算する予定ですが、 ほかにお考えがあれば、〇日までにお知らせいただけますと幸いです。 よろしくお願いいたします。
提案前に確認する精算条件12項目
精算のトラブルは、多くが「提案の前に条件を確認していなかった」ことから起きます。案件を提案する前に、次の12項目を確認しましょう。
| # | 確認すること | 見るポイント |
|---|---|---|
| 1 | 精算幅 | 下限と上限は何時間か |
| 2 | 割り方 | 上下割か、中間割か |
| 3 | 精算単位 | 15分・30分・1時間のどれか |
| 4 | 端数処理 | 1円未満や10円未満を切り捨てるか |
| 5 | 固定精算かどうか | 時間で請求額が増減しない契約か |
| 6 | 有給の扱い | 稼働時間に含めるか、含めないか |
| 7 | 祝日・長期休暇 | 客先の夏季休暇や年末年始はあるか |
| 8 | 月の途中の参画・退場 | 日割りか、精算幅を変えるか |
| 9 | 所定労働時間 | 客先の定時と、自社の所定時間が合うか |
| 10 | 残業の見込み | 繁忙期はいつか、どのくらいか |
| 11 | 稼働報告書の締め日 | いつまでに、誰の承認で出すか |
| 12 | 上位の会社の条件 | 商流の上の契約と精算幅がそろっているか |
特に12番の「上位の会社の条件」は見落としやすい項目です。自社と客先の間では140〜180時間でも、客先とその上の会社の間では別の幅になっていることがあります。精算幅が商流の途中で変わると、自社だけが控除を負担することになりかねません。
決めた条件は、基本契約書と個別契約(注文書)のどちらに書くかも確認します。
→ SES基本契約書のテンプレート|個別契約・注文書と条項チェック15
→ 稼働報告書のテンプレート|SES・業務委託の書き方と精算前チェック
自分で精算幅を管理する方法(Excel)
少ない人数なら、Excelの管理表で精算幅と稼働時間を管理できます。1行に1人・1か月を入れ、契約条件と実績を並べるのがコツです。
管理表には、次の列をつくります。
エンジニア名・案件名・客先名
月額単価・精算幅(下限・上限)・割り方・精算単位
15日時点の稼働時間と、月末の見込み時間
月末の確定時間と、控除額または超過額
連絡した日と、合意した内容
見込み時間が下限に近いとき、セルの色が変わるように条件付き書式を使うと見落としが減ります。時間の合計を出す式は、エクセルの工数計算の関数にまとめています。勤怠の締め方は、SESの勤怠管理の方法も参考にしてください。
ただし、エンジニアや案件が増えると、Excelでは「どの案件がどの条件か」を探す時間が増えます。案件の条件が、メールや注文書のあちこちに散らばるからです。
チョータツで案件ごとの精算条件をまとめて管理する
精算のすれ違いを減らすには、提案する前の段階から、案件の条件を1か所に残しておくことが大切です。DrivenXのSES営業向けツールを使うと、条件の確認と共有が楽になります。
チョータツとは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールのことです。3,000社以上が利用しており、無料で始められます。
| 場面 | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 案件の条件を残す | メールや注文書を探してExcelに転記 | チョータツに案件ごとに登録し、チームで共有 |
| 届く案件メールを整理する | 1通ずつ読んで仕分け | チョータツメールAIが案件メールと人材メールに切り分け |
| 提案前に条件を確認する | 担当者に聞いて回る | 案件の情報を見て、精算幅などを確認 |
| 他社の案件を探す | 配信メールを読み続ける | 連携した会社の営業中案件をデータベースで見る |
チョータツメールAIは、届いたメールをAIが処理し、案件メールと人材メールに切り分ける機能です。転送設定で取り込めて、案件・人材以外のメールはデータに残りません。精算幅が書かれた案件メールを、ほかのメールに埋もれさせずに済みます。
こんな会社に向いています
案件ごとの精算条件を、担当者しか知らない
案件メールが多すぎて、条件の書かれたメールを探すのに時間がかかる
提案した後に「精算幅が思っていたのと違った」ことがある
よくある質問
- Q. SESの稼働時間の上限・下限は法律で決まっていますか?
- 決まっていません。精算幅は契約で決める条件です。ただし、エンジニアの労働時間は、労働基準法と自社の36協定の範囲に収める必要があります。
- Q. 140〜180時間以外の精算幅もありますか?
- あります。所定労働時間が7.5時間の会社や、残業が多い現場では、幅を変えることがあります。営業日の少ない月でも下限に届くかを、提案前に計算しておきましょう。
- Q. SESで稼働時間の上限を超えそうなときはどうしますか?
- まずエンジニアの残業時間と体調を確認し、自社の上長に報告します。そのうえで、客先の営業窓口に業務量を相談します。超過分を請求できるかは、契約の超過精算の定めで決まります。
- Q. 上下割と中間割は、どちらを選べばいいですか?
- 受ける側(SES企業)にとっては、中間割が有利になりやすいです。ただし、上位の会社の条件と合わせることが先です。商流の途中で割り方が変わると、差額を自社が負担することになります。
- Q. 稼働時間が下限を下回ったら、エンジニアの給与も減りますか?
- 客先への控除と、エンジニアの給与は別の話です。給与は自社の就業規則と雇用契約で決まります。有給休暇を取った日は、所定の賃金などを払う必要があります。
- Q. 月の途中で参画したときの精算幅はどうなりますか?
- 契約によって、精算幅を日割りにする場合と、別の時間を決める場合があります。参画日が決まった時点で、客先と書面で確認しましょう。
まとめ
SESの稼働時間の上限・下限(精算幅)に法律の決まりはなく、契約で決める
140〜180時間は「8時間×営業日」がほぼ入る幅。2026年は2月・5月が下限ぎりぎり、6月・7月・12月が上限寄り
決め方は、所定労働時間→営業日の最少と最多→有給と残業の見込み→36協定の4手順
有給を見込んで下限を決め、有給の扱いを契約に書く
割り方は受ける側なら中間割が有利になりやすいが、上位の会社とそろえることが先
提案前に12項目を確認し、契約後は毎月15日ごろに見込みを出して連絡する
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツ(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月29日|更新日:2026年9月29日
参考資料(2026年9月28日確認)
e-Gov法令検索「民法」(第643条 委任、第648条 受任者の報酬、第656条 準委任)
e-Gov法令検索「労働基準法」(第32条 労働時間、第36条 時間外及び休日の労働、第39条 年次有給休暇)
厚生労働省「時間外労働の上限規制(働き方改革特設サイト)」
内閣府「国民の祝日について」(2026年の祝日)