SES業界の問題点と解決策|「中抜き」批判に営業が答えるための7つの視点と説明例文
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
SES業界の問題点はなぜ言われるのか
SES業界が批判される一番の理由は、お金と責任の流れが外から見えにくいことです。エンジニアからは「客先が払う額と給料の差」が見えません。客先からは「何社を経由しているか」が見えません。
SES(システムエンジニアリングサービス)とは、エンジニアの技術や労働力を提供する契約形態のことです。作業時間に対して報酬を受け取ります。多くは準委任契約で結びます。準委任契約とは、仕事の完成ではなく、決まった作業を行うこと自体を約束する契約のことです。
SESの仕組みそのものは違法ではありません。問題は、運用のしかたによって違法やトラブルに近づくことです。
SES業界の問題点7つと営業の解決策(一覧)
7つの問題は、営業が毎日の仕事で減らせるものがほとんどです。先に全体を表で見てから、1つずつ解説します。
| 問題点 | 何が起きるか | 営業の解決策 |
|---|---|---|
| 1. 多重下請け | 間の会社が増え、単価が下がる | 商流を確認し、浅い案件を優先する |
| 2. 中抜き批判 | マージンが見えず不信感が生まれる | マージンの中身を分けて説明する |
| 3. 偽装請負 | 客先がエンジニアに直接指示を出す | 契約前に指揮命令の線を決める |
| 4. 二重派遣 | 派遣の形で人を再度貸し出す | 契約形態と商流をセットで確かめる |
| 5. 待機 | 案件がなく売上ゼロでも給与が出る | 契約終了の2か月前から次を探す |
| 6. キャリアの偏り | 同じ作業ばかりで成長しない | 次の案件でつけたい経験を聞いて提案する |
| 7. 不利な取引条件 | 買いたたき・支払い遅れ | 条件を書面とメールで残す |
視点1:多重下請けは「商流の確認」で減らせる
多重下請けの問題は、浅い案件を選び、深い案件に人を出さないことで減らせます。営業が最初にできるのは、案件の商流を必ず聞くことです。
多重下請けとは、発注元から仕事が何社も経由して下へ流れていく構造のことです。商流とは、その仕事の流れの経路のことです。間に入る会社が増えるほど、それぞれが利益を取るため、エンジニアに届くお金は減ります。
公正取引委員会の2022年の調査では、「中抜き」事業者の存在を感じた企業の割合が、取引の位置で変わりました。
| 取引の位置 | 「中抜き」事業者の存在を感じた割合 |
|---|---|
| 全体 | 25.9% |
| 元請 | 18.5% |
| 中間下請 | 29.2% |
| 最終下請 | 33.5% |
出典:公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(2022年6月、概要)
階層が下になるほど、中抜きを感じる割合が高くなります。深い商流の問題は、SESの多重下請け構造とは?図解と問題点、何次請けが平均かで数字とあわせて詳しく解説しています。
営業がやること
案件メールを受けたら、エンドから何社目かを必ず聞く
「商流制限」(何次請けまで可か)の表記を確認する
自社が3社目以降になる案件は、単価と条件を慎重に見る
元請けやエンドに近い会社との取引を、少しずつ増やす
商流の聞き方はSESの商流の確認方法|何次請けかの見分け方と質問例文にあります。
視点2:「中抜き」批判にはマージンの中身で答える
「中抜き」批判には、マージンの中身を費目に分けて見せるのが一番の答えです。何もせずに取っているお金ではないことを、数字で示します。
中抜きとは、商流に形だけ入り、実際の業務をせずに利益を得ることを指す言葉です。マージンとは、客先から受け取る単価と、エンジニアに払う給与や外注費との差のことです。
マージンの中身(自社社員の場合の例)
自社で雇うエンジニアの場合、マージンにはおもに次の費用が入ります。金額は会社ごとに違うため、自社の数字に置きかえて使ってください。
| 費目 | 中身 | 説明のポイント |
|---|---|---|
| 会社負担の社会保険料 | 健康保険・厚生年金などの会社負担分 | 給与明細に出ない会社の支払い |
| 待機の備え | 案件がない期間の給与 | 売上ゼロでも給与は払う |
| 営業・管理の費用 | 営業・契約・請求・勤怠の事務 | 案件探しと契約の手間 |
| 採用・教育・利益 | 研修・資格支援・会社の利益 | 次の案件と会社の継続のため |
計算例
月額単価60万円の案件に、月給36万円のエンジニアが入る場合の例です。
マージン額:60万円 − 36万円 = 24万円
マージン率:24万円 ÷ 60万円 = 40%
この24万円から、会社負担の社会保険料・交通費の支給・待機の備え・事務費を払います。残りが会社の利益です。数字の出し方と相場はSESのマージン率の平均と相場|計算式・適正ライン・説明例文付きで解説しています。
派遣とSESで公開ルールが違う
労働者派遣では、派遣会社は事業所ごとのマージン率などを公開する義務があります(労働者派遣法第23条第5項)。一方、準委任のSESには、同じ公開義務は定められていません。
公開義務がなくても、説明できる会社ほど信頼されます。開示の考え方はSESの単価に開示義務はある?派遣との違いとエンジニアへの説明例にまとめています。
エンジニアに説明する例文
〇〇さんの今回の単価は月60万円で、給与は月36万円です。差の24万円から、会社負担の社会保険料、交通費、待機になったときの給与の備え、営業と事務の費用を払っています。残りが会社の利益で、研修や資格の補助にも使っています。気になる点があれば、費目ごとにお見せします。
客先に説明する例文
自社が客先と直接契約している場合の例です。間に他社が入る場合は、その事実も正直に伝えます。
弊社は御社と直接契約しており、間に他社は入っていません。ご提示の単価には、エンジニアの給与のほか、社会保険料、勤怠と請求の管理、交代要員の手配にかかる費用が含まれています。商流が浅い分、ご要望がエンジニアに正確に届く体制です。
視点3:偽装請負は「指揮命令の線引き」で防ぐ
偽装請負は、契約前に客先と「誰が指示を出すか」を決め、現場で守ることで防げます。営業は契約を結ぶ立場なので、ここで一番力を出せます。
偽装請負とは、契約書は準委任や請負なのに、実態は客先がエンジニアに直接指示を出す派遣の形になっていることです。厚生労働省の「37号告示」が、派遣と請負を分ける基準を示しています。
営業がやること
契約前に、作業の指示を自社の責任者経由で出すことを客先と確認する
勤怠や残業の指示を、客先が直接出さない形にする
入場後1か月以内に、現場で直接指示が出ていないかエンジニアに聞く
NG行為の具体例は偽装請負の判断基準|SES営業が避けたいNG行為10選で確認できます。
視点4:二重派遣は「契約形態と商流のセット確認」で防ぐ
二重派遣は、契約形態と商流を必ずセットで確かめることで防げます。派遣で受けた人を、さらに別の会社へ派遣として出すと二重派遣になります。
二重派遣とは、派遣先が受け入れた派遣労働者を、さらに別の会社へ派遣して指示を受けさせることです。職業安定法第44条が禁じる「労働者供給」にあたるおそれがあります。
営業が案件を受けるときは、「上位の会社との契約は準委任か派遣か」を聞きます。自社が派遣の許可を持っていない場合、派遣の形で人を出すことはできません。
視点5:待機は「早めの次案件探し」と「休業手当の理解」で備える
待機の問題は、契約終了の2か月前から次の案件を探すことで小さくできます。待機とは、自社のエンジニアが案件に入れず、売上が立たない期間のことです。
会社の都合で待機させた場合、会社は休業手当を払う必要があります。労働基準法第26条は、使用者の責任による休業では、平均賃金の100分の60以上を払うと定めています。
営業がやること
契約の更新確認を、終了の2か月前に客先へ入れる
更新が怪しいときは、その時点で次の提案を始める
待機中のエンジニアのスキルシートを、最新の状態にしておく
待機中の給与の計算例はSESの待機期間の給与と対応|休業手当の計算例と早く案件に入る7手順にあります。複数の待機者の順番は、SESの待機エンジニアが複数いるときの営業の優先順位|判断表つきで決められます。
視点6:キャリアの偏りは「次につけたい経験」を聞いて防ぐ
「SESはスキルがつかない」という批判には、次につけたい経験を聞き、合う案件を提案することで答えられます。営業が単価だけで案件を選ぶと、同じ作業が続きやすくなります。
営業ができるのは、面談のたびに次の3つを聞くことです。
今の現場で、新しく身についたこと
次の案件で、やってみたい工程や技術
3年後に担当したい役割(設計・リーダーなど)
聞いた内容は、スキルシートと一緒に記録します。次の案件を探すとき、単価と同じ重さで「経験がつくか」を見ます。
定期面談で使う聞き方の例
今の現場は来年3月で更新の確認が入ります。次の案件を探し始める前に、つけたい経験を教えてください。設計に入りたい、クラウドを触りたい、などざっくりで大丈夫です。単価と一緒に、その条件で案件を探します。
視点7:不利な取引条件は「書面とメールの記録」で防ぐ
買いたたきや支払い遅れは、条件を書面とメールで残すことで防ぎやすくなります。記録があれば、あとで「言った・言わない」になりません。
公正取引委員会の2022年の調査でも、多重下請構造の中の買いたたきや、仕様変更への無償対応が取り上げられています。2026年1月からは、下請法が改正された「取適法」(中小受託取引適正化法)が施行されています。
取適法とは、発注する側の会社が、立場の弱い受注側に不利な取引を押しつけることを防ぐ法律のことです。協議に応じない一方的な代金の決定なども禁止されています(取適法第5条第2項第4号)。詳しくは取適法でSESの準委任は対象?適用条件と営業の変更点7つで解説しています。
営業がやること
単価・精算幅・支払いサイトを、注文書で必ず受け取る
単価の引き下げを言われたら、理由をメールでもらう
自社がBPに発注する側のときも、同じルールを守る
自分でやる方法:自社の問題点チェックリスト
外からの批判に答える前に、自社の取引を点検するのが先です。次の10項目を、営業チームで月1回確認します。
取引中の案件の商流を、すべて把握している
自社が3社目以降になる案件の数を知っている
エンジニアごとのマージン率を計算できる
マージンの中身を費目で説明できる
客先から直接指示が出ていないか、月1回聞いている
上位の契約が派遣か準委任かを記録している
契約終了の2か月前に更新確認をしている
エンジニアの「次につけたい経験」を記録している
単価・精算・支払い条件を注文書で受け取っている
BPへの発注でも、同じ条件で書面を出している
「いいえ」が3つ以上あれば、まず商流と契約の記録から整えるのがおすすめです。
チョータツで商流の浅い案件を探し、情報をまとめる
ここまでの点検を続けるには、案件と人材の情報を1か所にまとめることが欠かせません。Excelやメールに情報が散らばると、商流や条件の確認が漏れます。
チョータツは、SES営業のための案件・人材の管理・共有ツールです。できることは次のとおりです。
案件・人材の情報を管理し、チームで共有できる
パートナーへのメール配信機能がある
他社と連携すると、他社の営業中案件・営業中人材をデータベース化できる
AIが入力を手伝う
営業中の案件が多く集まるほど、商流が浅く条件のよい案件を選びやすくなります。3,000社以上が利用しており、無料で始められます。
よくある質問
- Q. SESは中抜きだから違法ですか?
- SESの仕組みそのものは違法ではありません。ただし、偽装請負や二重派遣になる運用は法律違反になるおそれがあります。
- Q. SESの適正なマージン率はどれくらいですか?
- 法律で決まった上限はありません。大事なのは率の高さより、中身を費目で説明できるかどうかです。
- Q. SESもマージン率を公開する義務がありますか?
- 労働者派遣には公開義務がありますが、準委任のSESには同じ義務は定められていません。説明できる会社ほど信頼されます。
- Q. 多重下請けは何次請けまでなら問題ないですか?
- 法律で何次までと決まってはいません。深くなるほど単価が下がり、責任があいまいになるため、商流制限を確認します。
- Q. 待機中の給与は払わなくてよいですか?
- 会社の都合による休業では、平均賃金の60%以上の休業手当が必要です(労働基準法第26条)。
- Q. エンジニアから「中抜きでは」と言われたらどう返せばいいですか?
- 単価と給与の差を示し、社会保険料・待機の備え・事務費・利益に分けて説明します。例文は視点2に載せています。
まとめ
SES業界の問題点は、多重下請け・中抜き批判・偽装請負・二重派遣・待機・キャリアの偏り・不利な取引条件の7つ
公取委の2022年の調査では、中抜きを感じた企業が全体25.9%、最終下請け33.5%
多重下請けは、商流を必ず聞き、浅い案件を優先して減らす
中抜き批判には、マージンを費目に分けて数字で説明する
偽装請負と二重派遣は、契約前の指揮命令と契約形態の確認で防ぐ
待機は、契約終了の2か月前から次の案件を探して備える
取引条件は書面とメールで残し、自社が発注する側でも同じルールを守る
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書について」(2022年6月29日、概要PDF)
厚生労働省「請負を適正に行うために」(37号告示)
e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(第23条第5項 情報の提供)
e-Gov法令検索「職業安定法」(第44条 労働者供給事業の禁止)
e-Gov法令検索「労働基準法」(第26条 休業手当)
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)」(第5条 禁止行為)