SESで残業が精算幅の上限を超えたら?超過精算が払われない時の対応6ステップと例文
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
上限を超えた稼働は、契約に超過の定めがあれば請求できる
精算幅とは、月額単価のまま追加の請求も値引きもしない、稼働時間の範囲のことです。たとえば「140〜180時間」のように決めます。
超過精算とは、稼働が精算幅の上限を超えたときに、超えた時間分の料金を追加で請求することです。契約書に「超過単価」や計算方法が書いてあれば、原則として請求できます。
超過単価とは、上限を1時間超えるごとに追加する金額のことです。月額単価を上限時間で割る上下割と、上限と下限の真ん中の時間で割る中間割がよく使われます。
計算の基本や控除との違いは、SESの精算幅を下回ったら?控除の計算方法と有給・固定の扱いで詳しく解説しています。
超過精算の計算例
月額単価70万円、精算幅140〜180時間、上下割の契約で、10月の稼働が192時間だった例です。
超過単価を出す:700,000円÷180時間=3,888円(1円未満切り捨て)
超えた時間を出す:192時間−180時間=12時間
超過額を出す:3,888円×12時間=46,656円
請求額(税抜):700,000円+46,656円=746,656円
端数の丸め方(1円・10円・100円単位)は、契約書の決め方に合わせます。
契約の書き方別に見る、超過精算を請求できるかどうか
請求できるかどうかは、契約書の精算条件の書き方で大きく変わります。まず自社の個別契約書や注文書を開き、次の4つのどれに当たるかを確かめてください。
| 契約の書き方 | 超過の請求 | 営業の動き |
|---|---|---|
| 精算幅と超過単価(上下割・中間割)の定めがある | 原則できる | 稼働報告書をそろえて、計算どおり請求する |
| 「上限超えは事前承認が必要」と書いてある | 承認があればできる | 承認のメールや記録を探す。なければ交渉になる |
| 固定精算(時間に関係なく毎月同額) | 原則できない | 今月は請求せず、次の更新で条件を見直す |
| 精算条件の記載がない・あいまい | 話し合いで決める | 過去の請求実績やメールを根拠に協議する |
固定精算とは、稼働時間が多くても少なくても、毎月同じ金額で精算する方法のことです。固定精算の契約で上限を超え続けているなら、次の更新で精算幅つきの契約に変える交渉をします。
「事前承認」の条項がある場合の注意点
「上限を超える作業は、事前に甲の承認を得る」という条項は、よく見かけます。この条項があると、承認なしの超過は「頼んでいない作業」と言われやすくなります。
ただし、承認は書面だけとは限りません。客先の担当者が「今週は残業してでも終わらせてほしい」とチャットで書いていれば、承認の証拠になる可能性があります。
請求の前に、次のような記録を集めてください。
客先の担当者が作業の追加や期限の前倒しを頼んだメール・チャット
客先が確認・承認した週報や稼働報告書
定例会議の議事録(作業量が増えたことが書かれているもの)
精算条件があいまいな場合の考え方
準委任とは、作業の完成ではなく、決められた業務を行うこと自体を約束する契約のことです。民法では、受任者(仕事を受けた側)は特約がなければ報酬を請求できません(第648条第1項、第656条)。
つまり、準委任で報酬を受け取るには、報酬の約束があることが前提です。精算条件があいまいな場合は、「月額単価に何時間分までが含まれるか」を話し合いで決めることになります。
過去に同じ客先で超過精算を請求し、払ってもらった実績があれば、有力な根拠になります。残業ではなく契約の範囲外の作業が増えた場合は、SESで追加作業の報酬は請求できる?範囲外業務の見分け方と例文もあわせて確認してください。
超過精算が支払われないときの対応6ステップ
客先が超過分を払わないときは、時間の確定、計算の提示、書面での請求の順に進めます。いきなり強く催促すると、関係が悪くなり、次の更新にも響きます。
契約書で精算条件を確認する:精算幅、超過単価、割り方、事前承認の条項を見ます。
稼働報告書で時間を確定する:客先の担当者に、超えた時間を確認・承認してもらいます。
超過額の計算を示して先に伝える:請求書の前に「今月は12時間超過で、46,656円です」と連絡します。
払わない理由を聞く:承認がない、予算がない、時間に疑問がある、のどれかを確かめます。
理由に合わせて交渉する:記録を示す、分割や翌月払いを提案する、など落としどころを探します。
合意内容を書面に残し、払われなければ回収に進む:メールで要点を残し、期日を過ぎたら督促に移ります。
ステップ4:払わない理由ごとの返し方
客先が払わない理由は、主に3つです。理由ごとに、返し方を変えます。
| 払わない理由 | 客先のよくある言い方 | 営業の返し方 |
|---|---|---|
| 承認していない | 「残業を頼んだ覚えはない」 | 作業を頼んだメールや議事録を示す |
| 予算がない | 「超過分の予算は取っていない」 | 契約上の支払いであることを伝え、支払時期を相談する |
| 時間に疑問がある | 「本当にそんなに働いたのか」 | 日ごとの稼働記録と作業内容を示す |
催促メールの例文
請求書を送っても超過分だけ払われなかったときの例文です。会社名・金額・日付は書き換えてください。
件名:10月分 超過精算のお支払いについてのご確認
株式会社〇〇 〇〇様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
10月分のご請求のうち、超過精算46,656円(税抜)のお支払いが確認できておりません。
個別契約書第〇条の精算条件(140〜180時間、上下割)に基づき、10月の稼働192時間のうち12時間分を計算しております。
稼働時間は、2026年11月2日(月)に〇〇様にご確認いただいた稼働報告書のとおりです。
お手数ですが、11月20日(金)までにお支払い予定日をお知らせいただけますでしょうか。
払われないときの督促の進め方は、SESの支払い遅延への対応|督促メール例文と入金までの6ステップにまとめています。
上位から払われないとき、BPへの超過精算は払うべきか
上位(客先)から超過分が払われなくても、BPとの契約に超過精算の定めがあれば、BPには契約どおり払うのが原則です。客先との契約と、BPとの契約は、別々の契約だからです。
BPとは、ビジネスパートナーの略で、自社がエンジニアを借りたり仕事を頼んだりする取引先の会社のことです。
取適法・フリーランス法の対象なら、払わないと違反のおそれ
自社がBPやフリーランスに発注している場合、自社は「発注する側」です。取引の中身や両社の規模によっては、次の法律の対象になります。
| 法律 | 関係する決まり | 超過精算での注意点 |
|---|---|---|
| 取適法(旧・下請法) | 受託側に責任がないのに、発注後に代金を減らすと違反。受託側の同意があっても違反 | 上位の未払いを理由に超過分を払わないと、減額や支払遅延になるおそれ |
| フリーランス法 | 業務委託時に決めた報酬を後から減らすことを禁止 | 1か月以上の業務委託なら、減額の禁止が当てはまる |
| 同上(支払期日) | 給付を受け取った日から60日以内に払う。再委託で条件を満たすと、元の支払期日から30日以内 | 上位の入金を待つ場合も、期日のルールを守る |
取適法とは、下請法を改正して2026年1月1日に施行された法律(略称「中小受託取引適正化法」)のことです。
減額の例外はフリーランス法の報酬の減額は違反?SESで許される例外と相殺の扱いで確認できます。
BPへの支払いの判断基準
BPへの支払いは、次の順で判断します。迷ったら「契約どおり払い、上位とは別に交渉する」が基本です。
BPとの契約に超過精算の定めがあるか:あれば払う前提で考えます。
BPの稼働時間が確定しているか:自社も稼働報告書で時間を確認します。
法律の対象か:取適法やフリーランス法の対象なら、減額や遅延は避けます。
上位との交渉は自社の仕事と割り切る:BPに上位の事情を理由に負担を求めません。
BPの単価が月60万円、精算幅140〜180時間、上下割だとします。12時間超過なら、超過額は3,333円×12時間=39,996円です。上位から46,656円が入らなければ、自社はこの差額ではなく39,996円をまるごと負担する形になります。
この負担をなくすには、次の契約から上位とBPの精算条件をそろえることが大切です。上位に事前承認の条項があるなら、BPにも同じ条項を入れ、承認の流れを共有します。
精算幅の上限と36協定の関係
精算幅の上限と36協定は、まったく別のルールです。精算幅は会社どうしの料金の決まり、36協定はエンジニアを雇う会社と従業員との労働時間の決まりです。
36協定とは、法定労働時間を超えて働かせるために、会社が労働組合などと結ぶ協定のことです。労働組合がなければ、従業員の過半数代表者と結びます。労働基準法第36条に定めがあるので、こう呼ばれます。
| 比べる点 | 精算幅の上限 | 36協定 |
|---|---|---|
| 誰と誰の決まりか | 客先とSES企業(会社どうし) | SES企業とその従業員 |
| 決めること | 料金の計算の範囲 | 残業させてよい時間の上限 |
| 超えるとどうなるか | 超過精算の対象になる | 法律違反のおそれがある |
| 根拠 | 契約書 | 労働基準法 |
時間外労働の上限は「月45時間・年360時間」が原則
時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情があって特別条項を結んでも、次の上限を守る必要があります。
時間外労働は年720時間以内
時間外労働と休日労働の合計は、月100時間未満、2〜6か月の平均で80時間以内
月45時間を超えられるのは、年6か月まで
違反すると、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象になります(労働基準法第119条)。
精算幅180時間の月は、所定労働時間が160時間(8時間×20日)なら、20時間ほどの残業です。月200時間を超える稼働が続くなら、精算の話より先に、36協定と健康の面で問題がないかを確かめてください。
客先への是正の申し入れ方と勤怠の確かめ方は、SESの客先で残業が続くときの営業の対応|安全配慮義務と交渉で解説しています。
残業代は、客先が払わなくても自社が払う
自社の社員が残業した分の賃金は、客先から超過精算が払われなくても、自社が払う義務があります。時間外労働の割増率は25%以上で、月60時間を超えた部分は50%以上です。中小企業も2023年4月1日から50%が適用されています。
つまり、上限を超える稼働を放っておくと、売上は増えないのに人件費だけが増えます。
客先が直接「残業して」と指示するのはNG
準委任のSESでは、客先がエンジニアに直接、残業や働く時間を指示すると、偽装請負を疑われるおそれがあります。偽装請負とは、契約は準委任や請負なのに、実際は派遣と同じように客先が指揮命令している状態のことです。
残業が必要かどうかは、エンジニアを雇っている会社が、36協定の範囲で判断します。BPのエンジニアなら、BPの会社が判断します。どこからがNGかは、偽装請負の判断基準|SES営業が避けたいNG行為10選と予防策で確認してください。
上限超えを防ぐ、月の途中の見える化
超過精算のトラブルを減らすいちばんの方法は、月の途中で稼働の見込みを客先と共有することです。月末に「超えました」と伝えるから揉めるのです。
営業が毎月やることは、次の3つです。
15日ごろに稼働の見込みを聞く:エンジニアに「今月は何時間になりそうか」を確認します。
上限を超えそうなら先に客先へ伝える:「今月は190時間ほどの見込みです。超過精算の対象になります」と連絡します。
作業を減らすか、超過を認めるかを決めてもらう:客先に選んでもらい、その返事をメールで残します。
連絡の例文です。
〇〇様
〇〇の10月の稼働見込みについてご連絡します。
現在の作業量のままですと、月末で190時間前後となり、精算幅の上限180時間を超える見込みです。
超える場合は、契約に基づき超過精算の対象となります。
作業の優先度の調整をご検討いただくか、超過の可否をお知らせいただけますと幸いです。
精算幅の決め方と契約前の確認項目は、SESの稼働時間の上限・下限の決め方|契約前の確認12項目つきにまとめています。
チョータツで、案件ごとの精算条件を管理する
超過精算のトラブルは、案件ごとの精算条件をすぐ確かめられないことから起きがちです。Excelや契約書のPDFを毎回開くのは手間がかかります。
チョータツとは、SES営業が案件と人材の情報を管理・共有できるツールのことです。3,000社以上が利用しており、無料で始められます。超過精算の場面では、次のように使えます。
| 使う場面 | チョータツでできること | 超過精算での使い方 |
|---|---|---|
| 条件を確かめる | 案件・人材の情報を管理・共有できる | 精算幅・超過単価・事前承認の有無を案件ごとに残し、チームで共有する |
| 次の提案を選ぶ | 他社と連携すると、他社の営業中案件をデータベース化できる | 精算条件がはっきりした案件を選んで提案する |
| パートナーに伝える | パートナーへのメール配信機能がある | 人材を探すとき、精算条件をそろえて伝える |
上位とBPの精算条件がずれていると、今回のように差額を自社がかぶることになります。案件の条件を一か所で管理し、提案の段階で確かめる習慣をつけましょう。
次の契約で揉めないための条項チェック
同じトラブルを繰り返さないために、次の更新や新しい契約では、次の5点を確認します。
精算幅と超過単価が数字で書いてあるか(例:140〜180時間、上下割)
端数の丸め方と精算単位が決まっているか(例:15分単位、1円未満切り捨て)
事前承認の方法が決まっているか(誰が、何で、いつまでに承認するか)
支払日が決まっているか(超過分も月額と同じ支払日か)
BPとの契約が同じ条件になっているか(精算幅・割り方・承認の流れ)
5点のうち1つでも欠けていたら、更新の打診と同時に条件の追記を依頼します。
よくある質問
- Q. SESで精算幅の上限を超えたら、超過分は必ず請求できますか?
- 契約書に超過単価や計算方法の定めがあれば、原則として請求できます。固定精算の契約や、事前承認が必要なのに承認を取っていない場合は、請求が難しくなります。
- Q. 準委任契約で、客先が超過精算を払ってくれません。どうすればよいですか?
- まず稼働報告書で時間を確定し、契約の計算方法を示して書面で請求します。払わない理由を聞き、記録を示して交渉します。期日を過ぎても払われなければ、督促や回収の手続きに進みます。
- Q. 上位から超過分が払われないとき、BPへの超過精算も払わなくてよいですか?
- BPとの契約に超過精算の定めがあれば、契約どおり払うのが原則です。取適法やフリーランス法の対象なら、上位の未払いを理由に減らしたり遅らせたりすると、違反になるおそれがあります。
- Q. 精算幅の上限180時間を超えると、36協定違反になりますか?
- 精算幅と36協定は別のルールなので、上限を超えただけでは違反になりません。36協定は、エンジニアを雇う会社が結ぶものです。時間外労働が原則の月45時間などを超えていないかは、別に確認します。
- Q. 客先が「上限を超えないように残業させるな」と言ってきたら?
- 作業量の調整は客先と話し合い、残業の指示はエンジニアを雇う会社が出します。客先が直接エンジニアに働く時間を指示すると、偽装請負を疑われるおそれがあるためです。
- Q. 超過精算の請求を忘れていた月の分は、あとから請求できますか?
- 契約で請求期限が決まっていなければ、あとから請求できる可能性があります。報酬の請求権は、原則として請求できると知った時から5年で時効になります(民法第166条)。ただし時間がたつほど確認が難しくなります。気づいた時点で、稼働報告書を添えて早めに相談してください。
まとめ
上限を超えた稼働は、契約書に超過単価や計算方法の定めがあれば、原則として請求できる
固定精算や、事前承認を取っていない超過は、請求が難しい。次の更新で条件を見直す
払われないときは、時間の確定→計算の提示→理由の確認→交渉→書面化・回収の順に進める
上位から払われなくても、BPには契約どおり払うのが原則。取適法・フリーランス法の対象なら特に注意する
精算幅の上限と36協定は別のルール。残業の管理と残業代の支払いは、雇っている会社の責任
月の途中で稼働見込みを共有し、上位とBPの精算条件をそろえると、超過のトラブルを防げる
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「民法」(第166条 債権等の消滅時効、第648条 受任者の報酬、第656条 準委任)
e-Gov法令検索「労働基準法」(第36条 時間外及び休日の労働、第37条 割増賃金、第119条 罰則)
厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
厚生労働省「請負を適正に行うために」
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)」(第3条 支払期日、第5条第1項第2号・第3号 支払遅延・減額)
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)」(第4条 支払期日、第5条 禁止行為)
公正取引委員会「委託事業者の禁止行為」(取適法の11項目)
政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」
公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法パンフレット」