売掛金の支払誓約書の書き方|SESで分割払いと債務承認を書いてもらう手順と記載例
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
売掛金の支払誓約書とは?SESで使う場面
売掛金の支払誓約書とは、代金を払っていない取引先が「この金額を、この期日までに払います」と約束する書面のことです。売掛金(うりかけきん)とは、請求したのにまだ入金されていない代金のことです。
SESでは、エンジニアが稼働した月の報酬を翌月末などに請求します。この入金が1〜2か月止まったときが、誓約書を取るタイミングです。
支払誓約書を取る場面は、主に次の3つです。
督促しても入金がないが、相手は払う気がある:資金繰りが苦しいと言われたとき
分割払いを相談された:一括では払えないので、数回に分けたいと言われたとき
相手の担当者が入れ替わる・連絡が遅い:口約束だけでは不安なとき
督促の連絡やメールの書き方は、SESの支払い遅延への対応|督促メール例文と入金までの6ステップで先に確認してください。支払誓約書は、その次の段階で使います。
支払誓約書と似た書面の違い
名前が似た書面がいくつかあります。中身で選べば十分で、名前にこだわる必要はありません。
| 書面 | 誰が出すか | 特徴 | SESでの使いどころ |
|---|---|---|---|
| 支払誓約書 | 取引先だけ(差し入れ) | 相手の署名押印だけで作れる | 早く約束を固めたいとき |
| 債務承認弁済契約書 | 両社が署名押印 | 両社の合意として残る | 分割の条件を細かく決めたいとき |
| 合意書 | 両社が署名押印 | 支払い以外の取り決めも入れやすい | 契約終了や要員の引き上げも決めるとき |
| 公正証書(執行証書) | 公証役場で作成 | 裁判なしで強制執行できる | 金額が大きく、不払いの心配が強いとき |
支払誓約書で時効が更新される仕組み
支払誓約書に「支払義務を認める」と書いてもらうと、時効が更新されます。時効の更新とは、それまで進んでいた時効の期間がリセットされ、ゼロから数え直しになることです。
報酬のような代金の請求権は、請求できると知った時から5年で時効になります(民法166条1項)。そして民法152条は、相手が権利を「承認」したとき、時効は「その時から新たにその進行を始める」と定めています。
債務承認(さいむしょうにん)とは、払う側が「自分には払う義務がある」と認めることです。支払誓約書は、この承認を書面で残す道具になります。
| 対応 | 時効への効果 | 根拠 |
|---|---|---|
| 電話やメールでの督促(催告) | 6か月だけ完成が止まる(1回きり) | 民法150条 |
| 相手が支払義務を認める(債務承認) | ゼロから数え直し(更新) | 民法152条 |
| 一部でも入金がある | 残りの債務を認めたと扱われやすい | 民法152条の承認にあたりうる |
督促だけでは、時効は一時的に止まるだけです。何年も分割が続きそうなときほど、承認の一文が入った書面が効いてきます。
支払誓約書に入れる8つの項目
支払誓約書には、次の8項目を入れます。抜けがあると「いくらの話か」「いつ遅れたことになるか」でもめます。
宛先と差入人:自社名(宛先)と、取引先の会社名・住所・代表者名
債務の金額と内訳:「2026年7月分・8月分のSES業務委託料」など、どの報酬かを特定する
債務承認の一文:「この金額の支払義務があることを認めます」
支払方法と期日:振込先の口座、各回の金額と期日、振込手数料をどちらが負担するか
分割の回数:分割にする場合、何回で払い終えるか
期限の利益の喪失:1回でも遅れたら、残りを一括で払う約束
遅延損害金:遅れた分にかかる損害金の利率
日付と署名押印:差し入れた日付、代表者の記名と会社の印
期限の利益(きげんのりえき)とは、支払期日が来るまでは払わなくてよいという、払う側の権利のことです。分割払いは、この期限の利益を相手に与えることになります。だから「遅れたら期限の利益を失う」と書いておくことで、残り全額をすぐ請求できるようにします。
遅延損害金とは、支払いが遅れたことへの損害金のことです。利率を決めていなければ法定利率を使います。法定利率は3年ごとに見直されます。2026年4月1日から2029年3月31日までは年3%です(民法404条・419条)。誓約書で利率を決めておくと、計算でもめません。
取適法(旧下請法)の対象取引なら、年14.6%の遅延利息を請求できる場合もあります。計算と請求の文例は下請法の遅延利息14.6%とは|計算方法と請求・支払いの手順にあります。この利息は、支払期日からではなく、仕事を受け取った日から60日を過ぎた日から数えます(取適法6条)。
支払誓約書の記載例(分割払いのケース)
次の条件で書いた例です。社名・金額・日付は、自社の状況に合わせて書き換えてください。
未入金:2026年7月分・8月分のSES業務委託料 各825,000円(税込)、合計1,650,000円
支払期日:7月分は2026年8月31日、8月分は2026年9月30日(どちらも未入金)
分割:3回(10月・11月・12月)
支払誓約書 株式会社〇〇〇〇(以下「甲」という)御中 株式会社△△△△(以下「乙」という)は、甲に対し、次のとおり誓約します。 第1条(債務の承認) 乙は、甲との間の2026年4月1日付SES基本契約及び個別契約に基づく 次の業務委託料について、合計金1,650,000円(消費税込)の 支払義務があることを認めます。 ・2026年7月分 金825,000円(支払期日 2026年8月31日) ・2026年8月分 金825,000円(支払期日 2026年9月30日) 第2条(支払方法) 乙は、前条の金額を次のとおり3回に分けて、甲の指定する口座へ振り込んで支払います。 振込手数料は乙の負担とします。 ・第1回 2026年10月30日限り 金550,000円 ・第2回 2026年11月30日限り 金550,000円 ・第3回 2026年12月28日限り 金550,000円 振込先:〇〇銀行 〇〇支店 普通 1234567 カ)〇〇〇〇 第3条(期限の利益の喪失) 乙が前条の支払いを1回でも期日までに行わなかったときは、 甲からの通知がなくても当然に期限の利益を失い、 その時点の残額を直ちに一括して支払います。 第4条(遅延損害金) 乙が支払いを遅れたときは、支払期日の翌日から支払済みまで、 遅れた金額に対し年〇%の割合による遅延損害金を支払います。 第5条(連帯保証)※相手が応じる場合のみ 連帯保証人は、本書に基づく乙の債務について、乙と連帯して保証します。 2026年10月5日 (乙)住所 東京都〇〇区〇〇 株式会社△△△△ 代表取締役 〇〇 〇〇 印 (連帯保証人)住所 〇〇 氏名 〇〇 〇〇 印
記載例を使うときの注意点
金額は請求書と1円まで合わせる:請求書と違うと、どの債務を認めたのかがあいまいになります
遅延損害金の利率は根拠のある数字にする:迷ったら法定利率の年3%、取適法の対象取引なら年14.6%を目安にします。根拠のない高い利率は、相手が署名を嫌がる原因になります
連帯保証は書面が必須:保証契約は書面でしないと効力がありません(民法446条2項)。電子契約など、電子データで結んだ場合は書面と同じ扱いです(同条3項)。代表者個人に頼むなら、無理に迫らず、本人の意思で署名してもらいます
個人の保証人には、取引先から財務状況を説明してもらう:事業の債務を個人が保証するときは、取引先に説明義務があります(民法465条の10)。説明する内容は、取引先の財産や収支の状況です。説明がなかったために保証人が誤解して署名し、そのことを自社が知ることができた場合、保証を取り消されるおそれがあります。署名の前に「御社の財務状況を保証人の方へ説明済みです」と一筆もらっておきます
押印は代表者印がのぞましい:誰が約束したのかを後から争われにくくなります
支払誓約書を書いてもらうまでの6手順
支払誓約書は、いきなり送りつけても書いてもらえません。相手の事情を聞き、実現できる支払計画を一緒に作る流れで進めます。
未入金の金額と証拠を整理する:注文書・注文請書、客先承認済みの稼働報告書、請求書、督促の記録を揃える
相手の担当者と面談の場を作る:電話かオンラインで、支払いが遅れている理由と今後の見通しを聞く
支払計画を相手に提案してもらう:「いつ・いくらなら払えるか」を相手から出してもらい、無理のない回数にする
自社で文面を作って送る:記載例をもとに、社名・金額・期日を埋めて、PDFとWordの両方で送る
原本を回収する:署名押印した原本を郵送で返してもらい、届くまでは電話で進み具合を確認する
入金を毎回確認する:各回の期日の翌営業日に入金を確認し、遅れたらその日のうちに連絡する
面談の場では、次のように切り出すと角が立ちにくくなります。
「7月分・8月分のご入金について、社内で支払計画を立てる必要があります。 御社のご事情も伺ったうえで、無理のない分け方を一緒に決めさせてください。 決めた内容は、確認のため書面でいただけますでしょうか。」
誓約書を取るときに営業がやってはいけないこと
「書かないとエンジニアを引き上げる」と脅す:強い圧力で書かせると、書面の効力を争われるおそれがあります
口約束だけで終わらせる:「来月払います」という電話の約束は、後で言った言わないになります
利率や違約金を過大にする:払えない条件は、結局守られません
支払誓約書を取った後の管理と、次の一手
支払誓約書は、取って終わりではありません。約束どおり入金されるかを毎月見て、遅れたらすぐ次の段階へ進みます。
| 状況 | やること | 次の判断 |
|---|---|---|
| 期日どおりに入金 | 入金日と金額を記録する | 最終回まで同じ確認を続ける |
| 数日の遅れ | その日のうちに電話とメールで連絡 | 理由と入金日を書面で確認する |
| 1回分が入らない | 期限の利益の喪失を通知し、残額を一括請求 | 内容証明・支払督促へ進む |
| 連絡が取れない | 倒産の兆候を確認する | 弁護士に相談、債権の届出に備える |
入金が止まったら、SESの報酬未払いを回収する方法|内容証明から少額訴訟まで5段階に進みます。誓約書があれば、金額と期日の証拠がはっきりしているので、支払督促や少額訴訟も進めやすくなります。
連絡が取れなくなったときは、SES企業の倒産の原因と前兆|取引先の危ないサイン10個と確認法で状況を確かめてください。取引を段階的に止めると決めたら、BPとの取引停止の判断基準と伝え方|SESの連絡例文と注意点の進め方が参考になります。
公正証書にするかどうかの判断
公正証書(こうせいしょうしょ)とは、公証役場で公証人が作る公的な文書のことです。お金の支払いについて「払わなければすぐ強制執行されてもよい」という文言を入れた公正証書を執行証書と呼びます。
執行証書は、判決と同じく債務名義になります(民事執行法22条5号)。債務名義とは、差押えなどの強制執行をするために必要な、国が認めた書類のことです。
公正証書にすると手間と費用がかかるため、次の目安で判断します。
公正証書を検討する:未入金が数百万円ある、分割が半年以上続く、相手の財務に不安がある
普通の誓約書で足りる:金額が小さい、分割が2〜3回で終わる、これまで取引が長く信頼がある
公正証書は、公証役場の公証人に頼んで作ります。手続きの進め方・費用・必要書類は、最寄りの公証役場に事前に問い合わせてください。
入金が止まった取引先に頼らない営業体制を作る
支払誓約書は、あくまで「今ある売掛金」を守るための手段です。同じ取引先に稼働を続けるほど、未入金は増えていきます。並行して、エンジニアの次の現場を探しておくことが大切です。
自分で進めるなら、次の3つを毎月やります。
取引先ごとの売上の割合を出し、1社に偏っていないか見る
入金が遅れた取引先を一覧にし、新しい案件を入れるか判断する
今の現場から離れても入れる、次の案件の候補を持っておく
チョータツで楽にするなら:チョータツは、SES営業のための案件・人材の管理・共有ツールです。他社と連携すると、他社の営業中案件・営業中人材をデータベースにできます。未入金の取引先から撤退を決めたとき、エンジニアの次の現場をこのデータベースから探せます。
新しい取引先は、取引の前にSESの取引先の与信チェック方法|反社チェックと確認手順5ステップで確かめます。入金が遅れる前提で資金を回すなら、SESの黒字倒産を防ぐ資金繰り|支払いサイトの差と対策6つも参考になります。
よくある質問
- Q. 支払誓約書は、取引先の署名だけで有効ですか?
- 有効です。支払誓約書は、払う側が一方的に差し入れる書面なので、相手の署名押印だけで成り立ちます。自社も署名する形にしたいときは、債務承認弁済契約書にします。
- Q. 支払誓約書をメールやPDFで受け取っても大丈夫ですか?
- 債務承認の証拠としては、PDFやメールでも役に立ちます。ただし、後で争われたときに備え、署名押印した原本の郵送も頼んでおくと安心です。
- Q. 取引先が支払誓約書を書いてくれないときは、どうすればいいですか?
- 支払計画をメールで出してもらい、「〇〇円の支払義務は認めます」と書いてもらうだけでも、債務承認の証拠になります。それも断られたら、内容証明での督促に進みます。
- Q. 支払誓約書に連帯保証人を入れてもらうことはできますか?
- 相手が同意すれば入れられます。保証は書面でないと効力がないため、保証人本人に署名押印してもらいます。代表者個人に頼むときは、無理強いせず本人の意思を確認します。
- Q. 誓約書を取ったあと、エンジニアの稼働は続けてよいですか?
- 分割が守られているか、最初の1〜2回の入金を見て判断します。遅れが出たら、契約書の解除条項と予告期間を確認したうえで、稼働の終了を検討します。
- Q. 時効が近い売掛金でも、誓約書で時効をリセットできますか?
- 時効が完成する前に債務を承認してもらえば、そこから数え直しになります。完成した後の扱いは複雑になるため、時効が近いときは早めに弁護士へ相談してください。
まとめ
支払誓約書は、入金が止まった取引先に、金額・期日・払い方を書面で約束してもらうもの
「支払義務があることを認めます」の一文が債務承認になり、時効がゼロから数え直しになる
入れる項目は8つ。分割なら期限の利益喪失条項を必ず入れる
相手から支払計画を出してもらい、無理のない回数で書面にする
1回でも遅れたら、残額の一括請求から内容証明・支払督促へ進む
金額が大きく不安が強いなら、公正証書(執行証書)にすると裁判なしで強制執行できる
並行して、チョータツで次の案件を探し、未入金の取引先への依存を減らす
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「民法」(第150条 催告による時効の完成猶予、第152条 承認による時効の更新、第166条 債権等の消滅時効、第404条 法定利率、第419条 金銭債務の特則、第446条 保証人の責任等、第465条の10 契約締結時の情報の提供義務)
e-Gov法令検索「民事執行法」(第22条 債務名義)
法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」(2026年4月1日〜2029年3月31日の法定利率は年3%)
法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」(消滅時効・法定利率の見直し)
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)」(第3条 支払期日は受領日から60日以内、第6条 遅延利息)
e-Gov法令検索「取適法第六条第一項及び第二項の率を定める規則」(令和7年公正取引委員会規則第9号、遅延利息年14.6%)