SESへの生成AIの影響|人月見積・案件の小型化・単価はどう変わる?営業が案件票で見るチェックリスト付き
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
生成AIはSESの「人月」をどう変える?
生成AIは、SESの「人月」を減らす方向に働きます。ただし人の需要がなくなるのではなく、求められる工程とスキルが入れかわる変化です。
人月(にんげつ)とは、1人が1か月働く作業量の単位のことです。 たとえば「3人月」は、1人なら3か月、3人なら1か月かかる作業量を表します。
人月モデルとは、「何人が何か月働くか」で見積もりや売上を決める仕組みのことです。 SIer(システム開発を請け負う会社)の多くは人月で見積もり、SES企業は人月単位でエンジニアを提供してきました。
生成AIとは、文章や画像、プログラムなどを自動で作るAIのことです。 ChatGPTのように、指示を出すと文章やコードの下書きを返してくれます。
企業のAI活用は急に広がっている
総務省の「令和8年版 情報通信白書」で、生成AIを活用する方針の日本企業は68.9%でした。「積極的に活用」と「領域を限定して活用」の合計です。前の年度の49.7%から、19.2ポイント増えています。
IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2026」では、AIの使い道の上位は次のとおりです。
| AIの使い道 | 割合 | SESの工程で近いもの |
|---|---|---|
| 文書・音声の要約・翻訳・校正 | 82.5% | 議事録・報告書づくり |
| 文書・レポート作成 | 80.5% | 設計書・手順書づくり |
| 情報検索・分析 | 77.0% | 調査・仕様の確認 |
同じ調査で、AIの効果は「業務効率化・迅速化」が91.6%でした。一方で「売上・利益向上」は3.9%です。今のAIは、作業を速くする道具として使われていることがわかります。
作業が速くなれば、同じ仕事に必要な人月は減ります。これが、SESにとっての一番大きな影響です。業界全体の今後は「SES業界の今後はどうなる?AI・法改正など5つの動向と営業の備え」で整理しています。
影響1:人月見積は「何人×何か月」が問い直される
1つ目の影響は、見積もりの考え方です。発注する側が「AIを使えば、もっと少ない人数でできるのでは」と考えるようになります。
これまでは、「この機能なら5人で3か月」という見積もりが通りやすい状況でした。これからは、AIで短くできる作業が見積もりに含まれていないかを、発注側が確かめるようになります。
SES営業の現場では、次のような変化として表れやすいです。
募集人数が「3名」から「1〜2名」に減る
「AIツールを使った開発経験がある方」という条件が加わる
見積もりの根拠として、工程ごとの作業内容を聞かれる
営業としては、人数ではなく「この人がいると何が進むか」で説明できるようにしておくことが大切です。
影響2:案件が小型化しやすい
2つ目の影響は、案件の小型化です。案件の小型化とは、1つの案件あたりの人数や期間が小さくなることです。
AIでコードやテストの下書きが作れると、大人数で長く取り組む作業が減ります。その結果、次のような案件が増えると考えられます。
| 変化 | これまで | これから増えやすい形 |
|---|---|---|
| 人数 | 5〜10名のチーム募集 | 1〜3名の少人数募集 |
| 期間 | 長期前提 | 3か月など短い期間から始める |
| 工程 | 製造・テストをまとめて依頼 | 設計やAI導入など一部の工程だけ依頼 |
| 求める人 | 手を動かす人を多く | 自走できる人を少なく |
小型化した案件は、1件あたりの売上が小さくなります。そのぶん、案件の数をたくさん見て、早く合わせる力が営業に求められます。
ユーザー企業が自社で開発する「内製化」の動きも、案件の小型化を後押しします。小さくなった案件を複数まとめて体制で取りにいく方法は「SESのチーム提案のやり方|複数名の体制の組み方と単価の出し方」で解説しています。
影響3:単価は工程とスキルで二極化する
3つ目の影響は単価です。単価は一律に下がるのではなく、工程とスキルによって上下に分かれると私たちは見ています。
単金(たんきん)とは、SESでエンジニア1人の1か月あたりの金額のことです。 単価とほぼ同じ意味で使われます。
| 工程・スキル | 人月の変化 | 単価の傾向 | 営業の打ち手 |
|---|---|---|---|
| 単純なプログラミング | 減りやすい | 下がりやすい | AIを使う力を足して提案 |
| テスト・手順書づくり | 減りやすい | 下がりやすい | 品質管理・自動化の経験を前に出す |
| 要件定義・業務の整理 | 増えやすい | 上がりやすい | 上流経験者を優先して提案 |
| AI導入・データ整備 | 増えやすい | 上がりやすい | 小さな支援案件から実績を作る |
| クラウド・セキュリティ | 増えやすい | 保ちやすい | 資格や構築経験を明記する |
AIで作業が速くなった分、発注側から単価の見直しを求められることもあります。そのときは、作業の速さだけでなく、確認・修正・責任を持つ部分の価値を説明しましょう。
AIが作ったコードにも、人の確認は欠かせません。「AIの出力を確かめて直せる人」であることは、単価を守る根拠になります。
SIerの人月モデルは終わる?「すぐには終わらない」が答え
「SIerの人月モデルは終わる」という声がありますが、すぐに終わるわけではありません。人月の数え方は残り、1人あたりに求める中身が変わると考えるのが現実的です。
理由は、SESの多くが今も準委任契約で結ばれているからです。準委任契約とは、仕事の完成ではなく、決められた業務を行うこと自体に報酬を払う契約のことです。 稼働時間に応じた精算が基本なので、人月の考え方と相性がよいです。
一方で、成果に対して報酬を払う形も広がっています。2020年4月施行の改正民法で、準委任に成果完成型(成果物の引き渡しに対して報酬を払う形)がはっきり書かれました。
| 報酬の決め方 | 中身 | AIの影響 |
|---|---|---|
| 履行割合型(人月) | 働いた時間・期間で払う | 人数・期間が減ると売上も減る |
| 成果完成型 | 成果物に対して払う | AIで速く作れれば利益が残りやすい |
IPAも、アジャイル開発(小さく作って直しながら進める開発)向けの契約書ひな型を公開しています。SES営業としては、成果完成型との違いを知っておくと、発注側からの相談に答えやすくなります。違いは「準委任契約の成果完成型とは|履行割合型との違いと検収の注意点」で確認できます。
SIer側の変化は「SIerの将来性|AI・内製化で変わる仕事とSES営業への影響」にまとめています。
案件票で見るべき10項目のチェックリスト
生成AIの影響は、届いた案件票(案件メール)から読み取れます。提案の前に、次の10項目を確認しましょう。
| # | 確認する項目 | 見るポイント | 読み取れること |
|---|---|---|---|
| 1 | 工程 | 製造・テストだけか、設計を含むか | AIで減りやすい案件か |
| 2 | 募集人数 | 前回より減っていないか | 小型化が進んでいるか |
| 3 | 期間 | 短期スタートか、長期前提か | 更新の見込み |
| 4 | 必須スキル | AIツールの利用経験があるか | 求める人の変化 |
| 5 | 尚可スキル | データ整備・AI導入の経験 | 伸びる工程への入口か |
| 6 | 使用ツール | コード生成AIの利用可否 | 現場でAIを使えるか |
| 7 | 作業内容 | 「AIの出力確認」などの記載 | 確認・修正役が求められているか |
| 8 | 単価 | 同じ工程の過去案件と比べる | 単価が下がっていないか |
| 9 | 商流 | 何次請けの案件か | 単価の上げ幅が残っているか |
| 10 | 自走の条件 | 「自走できる方」などの記載 | 少人数で任せる案件か |
1つの案件票だけでは、変化はわかりません。同じ顧客・同じ工程の案件を、前回と比べるのがコツです。比べるためにも、届いた案件情報を捨てずに残しておきましょう。
提案する人材を切り替える5つの手順
案件の変化に合わせて、提案する人材も切り替えます。次の順番で進めると、無理なく切り替えられます。
自社・BPの人材を工程で分ける:製造・テスト中心の人と、設計・上流も担える人に分けます。
AIツールの利用経験を聞き取る:エンジニアに、業務でAIを使ったことがあるかを確認します。
スキルシートに書き足す:AIを使って何を、どれくらい速くしたかを具体的に書きます。
製造中心の人には次の工程を用意する:テスト自動化・クラウドなど、隣の工程の案件を探します。
提案文で「AIを使える」を先に書く:人数ではなく、1人で進められる範囲を伝えます。
AIを前提に少人数で開発を進める「AI駆動SES」の提案ポイントは「AI駆動SESとは?従来型との違いと営業が提案で押さえる4点」で解説しています。
提案メールの例文
AIの利用経験を伝える提案メールは、次のように書けます。
件名:【ご提案】Javaエンジニア1名(生成AIでの開発経験あり)/2026年11月〜
〇〇株式会社 〇〇様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
ご案内いただいた案件に、弊社のエンジニア1名をご提案いたします。・経験:Java開発6年(設計〜テスト)
・直近の案件で、コード生成AIを使って単体テストの作成を効率化
・AIが作ったコードの確認・修正と、レビューの担当経験あり
・参画可能日:2026年11月2日(月)少人数での進行にも対応できる人材です。
面談日程は、10月7日(水)・8日(木)の午後で調整可能です。
ポイントは、「AIを使って何をしたか」と「AIの出力を確認できるか」の2つを書くことです。
営業の備え5つ
生成AIの時代にSES営業がやるべきことは、次の5つです。上から順に、すぐ始められるものを並べました。
| # | 備え | 具体的にやること |
|---|---|---|
| 1 | 案件票でAIの影響を読む | 10項目のチェックリストで、前回の案件と比べる |
| 2 | 提案する人材を切り替える | 製造中心の人に、隣の工程の案件を用意する |
| 3 | スキルシートにAI経験を書く | AIで何を速くしたかを具体的に書く |
| 4 | 単価の根拠を示す | 確認・修正・責任の範囲を説明できるようにする |
| 5 | 案件情報を多く集める | 小型化した案件を、たくさん見て早く合わせる |
単価の見直しを求められたときの考え方
「AIで効率が上がったから単価を下げてほしい」と言われることがあります。このとき、黙って受け入れる前に、話し合いの場を求めることが大切です。
2026年1月1日に、下請法が改正されて取適法(中小受託取引適正化法)になりました。取適法とは、発注する事業者と、中小の受託事業者との取引ルールを定めた法律のことです。 対象となる取引では、受託側が価格の協議を求めたのに、協議に応じず一方的に代金を決めることが禁止されています。
対象になるかは、会社の資本金や従業員数などで決まります。交渉の進め方は「取適法で単価交渉の協議拒否は違反?一方的な代金決定のNG例と対処法」で解説しています。
値下げを求められたときの返信は、次のように書けます。
件名:単価のご相談について(株式会社△△ □□)
〇〇様
単価についてご相談いただき、ありがとうございます。
AIの活用で作業が速くなった部分があることは、弊社も承知しております。
一方で、AIの出力の確認・修正と、品質への責任は引き続き担当者が負っております。
つきましては、作業範囲と単価を一緒に見直す打ち合わせの場をいただけますでしょうか。
10月14日(水)〜16日(金)で、30分ほどお時間をいただければ幸いです。
営業自身もAIで効率化できる
生成AIは、SES営業の仕事にも使えます。案件の要点をまとめる、提案文の下書きを作るといった作業は、AIが得意な分野です。
まずは自分でできる方法から始めましょう。
案件メールの要約:長い案件メールをAIに渡し、工程・人数・単価・期間を抜き出させる
提案文の下書き:スキルシートの要点を渡し、提案メールの下書きを作らせる
比較表づくり:同じ顧客の過去の案件を並べ、変化をまとめさせる
AIに渡す情報には、個人情報や取引先の秘密が含まれることがあります。社内のルールを決めてから使いましょう。使い方の例は「SES営業のChatGPT活用法|案件整理・提案文のプロンプト例10」にまとめています。
チョータツで案件の変化を見逃さない
案件が小型化すると、1件あたりの売上は小さくなります。だからこそ、多くの案件情報をすばやく集め、すぐに人材と合わせられる仕組みが大切です。
自分で管理するなら、案件票をExcelに貼りつけ、工程・人数・単価の列を作って比べる方法があります。ただ、案件が増えるほど、転記と整理に時間がかかります。
もっと楽にするなら、DrivenXのSES営業ツール「チョータツ」が使えます。
案件・人材の情報を管理・共有できる:チームで同じ情報を見られるので、前回の案件と比べやすくなります。
他社と連携すると、営業中案件・営業中人材をデータベース化できる:連携先の案件がたまるので、どんな工程・スキルの案件が増えているかを読み取れます。
パートナーへのメール配信機能がある:AI経験のある人材の提案を、まとめて届けられます。
AIが入力を手伝う:情報の登録にかかる手間を減らせます。
チョータツは3,000社以上が利用しており、無料で始められます。
よくある質問
- Q. 生成AIでSESの仕事はなくなりますか?
- なくなるとは考えにくいです。減りやすいのは単純なプログラミングやテストで、要件定義やAI導入などの需要は増えやすいです。提案する工程を移していくことが大切です。
- Q. AIで案件が小型化すると、SES企業の売上は減りますか?
- 1件あたりの人数や期間が減るので、同じやり方のままでは売上が減りやすいです。案件の数を多く見て早く決めることと、上流工程の人材を提案することで補えます。
- Q. SESの単価は生成AIで下がりますか?
- 一律には下がりません。決まった作業だけの人は下がりやすく、AIを使いこなす人や上流工程の人は上がりやすいです。スキルシートにAIの利用経験を具体的に書くことが、単価を守る近道です。
- Q. SIerの人月モデルは終わりますか?
- すぐには終わりません。SESの多くは準委任契約で、稼働に応じて報酬を受け取る形が続いています。ただし、成果に対して払う成果完成型の考え方も知っておくと、発注側の相談に答えやすくなります。
- Q. AIで効率化したからと単価の値下げを求められたら?
- まず協議を求め、確認・修正・責任の範囲を説明しましょう。取適法の対象となる取引では、協議に応じない一方的な代金の決定は禁止されています。
- Q. 営業はエンジニアのAIスキルをどう確認すればいいですか?
- 「業務でどのAIツールを使い、何の作業を、どれくらい速くしたか」を聞きましょう。あわせて、AIの出力を確認・修正した経験があるかも確認すると、提案文に書きやすくなります。
まとめ
生成AIは、SESの人月を減らす方向に働く。影響が大きいのは単純なプログラミング・テスト・資料作成
案件は、人数が少なく期間が短い形に小型化しやすい
単価は二極化する。AIを使いこなす人と上流工程の人は上がりやすい
人月モデルはすぐには終わらない。ただし1人あたりに求める中身が変わる
案件票は10項目で確認し、前回の案件と比べて変化を読む
備えは5つ。案件票を読む・人材を切り替える・AI経験を書く・単価の根拠を示す・案件情報を多く集める
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
IPA(情報処理推進機構)「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイント(DX動向2026)」(2026年7月16日)
IPA「情報システム・モデル取引・契約書」
e-Gov法令検索「民法(第648条の2 成果等に対する報酬)」
政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」