SESの既存顧客営業のやり方|増員・横展開・単価改定を引き出す6ステップと例文
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
既存顧客営業とは?新規開拓との違い
既存顧客営業とは、すでに取引がある会社に対して、追加の注文や条件の改善をお願いする営業のことです。深耕営業(しんこうえいぎょう)や得意先営業とも呼ばれます。得意先とは、継続して取引をしている大事なお客さまのことです。
SESでは、エンジニアが常駐・稼働している現場が「既存顧客」の中心になります。新規開拓とくらべると、次のような違いがあります。
| 比べる点 | 新規開拓 | 既存顧客営業 |
|---|---|---|
| 相手の信頼 | ゼロから作る | 稼働中のエンジニアの評価がある |
| 口座開設・契約 | 基本契約から結ぶ | 基本契約があり、個別契約だけで済む |
| 現場の情報 | 外からは見えにくい | エンジニア経由で入ってくる |
| 決まるまでの時間 | 長くなりやすい | 短くなりやすい |
一番の強みは、現場の中に自社のエンジニアがいることです。人が足りない、次の工程が始まる、といった情報を、発注が出る前に知ることができます。
SESで既存顧客から売上を伸ばす3つの方法
既存顧客から売上を伸ばす方法は、増員・横展開・単価改定の3つです。それぞれ、ねらう相手と準備が違います。
| 方法 | 中身 | 話す相手 | 決まりやすさ |
|---|---|---|---|
| ①増員 | 同じチームに人を追加する | 現場のリーダー・PM | 高い |
| ②横展開 | 同じ会社の別部署・別プロジェクトに入る | 窓口担当者・別部署の責任者 | 中くらい |
| ③単価改定 | 更新時に単価を上げてもらう | 窓口担当者・購買部門 | 実績しだい |
①増員:同じチームに人を追加する
増員とは、今のチームにエンジニアを追加で入れてもらうことです。現場の状況をよく知っているので、一番決まりやすい方法です。
きっかけは「次の工程に入る」「メンバーが抜ける」「追加の機能開発が決まった」などです。稼働中のエンジニアが評価されていれば、「同じ会社の人なら安心」と考えてもらえます。
②横展開:同じ会社の別部署に入る
横展開とは、今の取引先の別部署や別プロジェクトに、自社のエンジニアを提案することです。同じ会社なので、基本契約や口座をそのまま使えることが多いです。
ただし、担当者が違うため、今の窓口から紹介してもらうのが近道です。「別部署の人を紹介してください」とだけ頼んでも動いてもらえません。相手の部署で何が役に立てるかを、先に具体的に伝えます。
③単価改定:更新時に単価を見直してもらう
単価改定とは、契約更新のときに、エンジニアの単価(1か月の料金)を見直してもらうことです。稼働中のエンジニアのスキルが上がった、担当範囲が広がった、などが根拠になります。
取適法(中小受託取引適正化法)は、2026年1月1日に施行されました。受託側が価格の協議を求めたのに、発注側が応じずに一方的に代金を決めることを禁止しています(第5条第2項第4号)。適用されるかどうかは資本金や従業員数の基準で決まるため、取引ごとに確認が必要です。詳しくは取適法で単価交渉の協議拒否は違反?一方的な代金決定のNG例と対処法をご覧ください。
既存顧客営業の6ステップ
既存顧客営業は、取引先の棚卸し → 情報収集 → 提案 → 更新時の交渉の順に進めます。思いつきで連絡するのではなく、毎月同じ手順で回すことが大切です。
取引先を棚卸しする:稼働中の取引先と、各現場の人数・単価・契約の終わる日を一覧にする
伸びしろを見て優先順位をつける:増員・横展開・単価改定のどれが見込めるかを判定する
現場のエンジニアから情報を集める:月1回の面談で、チームの状況を聞く
窓口担当者と定期フォローをする:月1回、10〜15分の近況確認の場をもらう
更新の1〜2か月前に提案する:人材と条件をそろえて、先回りで出す
結果を記録し、次の月に回す:断られた理由と次の予定を残す
ステップ1:取引先を棚卸しする
まず、今稼働している取引先を一覧にします。取引先ごとに「何人」「いくら」「いつ更新か」がわかれば十分です。
| 取引先 | 稼働人数 | 平均単価 | 次の更新日 |
|---|---|---|---|
| A社(元請けSIer) | 3名 | 65万円 | 2026年12月31日 |
| B社(エンド) | 1名 | 80万円 | 2026年11月30日 |
| C社(BP経由) | 2名 | 55万円 | 2027年3月31日 |
※金額は説明用の例です。
ステップ2:伸びしろを見て優先順位をつける
次に、取引先ごとに「どの方法が見込めるか」を判定します。次の5つの質問に「はい」が多い取引先から手をつけます。「はい」の数で判断するときは、ステップ2の後にある判定表を使います。
稼働中のエンジニアの評価は高いか(リーダーから褒められているか)
プロジェクトの次の工程や、新しい開発の予定があるか
同じ会社の中に、ほかにもIT部門やプロジェクトがあるか
1年以上、単価が変わっていないか
窓口担当者と、月1回は話す関係があるか
評価が低い現場で増員を頼むのは逆効果です。まず今のエンジニアのフォローを優先しましょう。
| 「はい」の数 | 優先度 | 今月やること |
|---|---|---|
| 4〜5個 | 高 | 増員か横展開の提案を今月中に出す |
| 2〜3個 | 中 | 定期フォローで次の工程と予算の時期を聞く |
| 0〜1個 | 低 | 稼働中のエンジニアのフォローに集中する |
ステップ3:現場のエンジニアから情報を集める
増員の情報を一番早く知っているのは、現場で働く自社のエンジニアです。月1回の面談で、次のことを聞きます。
チームの人数は足りているか。残業が増えていないか
次の工程やリリースの予定はいつか
最近、チームを抜けた人・入った人はいるか
近くの別チームで、人を探している話は出ていないか
ただし、エンジニアに「営業の手伝い」を強く求めるのはやめましょう。聞くのは本人が見聞きした範囲だけにします。お客さまの社外秘の情報は、無理に聞き出してはいけません。
ステップ4:窓口担当者と定期フォローをする
営業フォローとは、取引が始まった後も、お客さまと定期的に連絡を取り、困りごとや次の予定を確認することです。SESでは、月1回の近況確認が基本です。
定期フォローで確認する項目は、あらかじめ決めておきます。
| 確認する項目 | 聞き方の例 |
|---|---|
| 稼働中のエンジニアの評価 | 「〇〇の働きぶりで、気になる点はありますか」 |
| 今後の体制 | 「来期、チームの人数は変わりそうですか」 |
| 別部署の動き | 「ほかの部署で人を探している話はありますか」 |
| 予算・更新の時期 | 「来期の体制は、いつごろ決まりますか」 |
聞く項目を増やしたいときは、SESの営業ヒアリング項目30|初回商談のヒアリングシート付きのシートが使えます。
ステップ5:更新の1〜2か月前に提案する
提案は、契約更新の1〜2か月前に出すのが基本です。来期の人数や予算は、更新の前に決まることが多いからです。更新の通知時期は取引先ごとに違うので、SESの契約更新はいつ決まる?通知時期と更新しない時の4手順で確認しておきましょう。
提案するときは、口頭の「人がいます」だけでなく、次の3点をそろえて出します。
提案できるエンジニアのスキルシート(匿名化したもの)
単価と開始できる日
今のエンジニアとの組み合わせ(「〇〇と同じ技術なので引き継ぎが早い」など)
2名以上をまとめて増員するときは、リーダー役を含めた体制で出すと通りやすくなります。組み方はSESのチーム提案のやり方|複数名の体制の組み方と単価の出し方で解説しています。
ステップ6:結果を記録し、次の月に回す
提案が通らなくても、理由と次の予定を必ず記録します。「今は予算がない」なら、予算が決まる月をメモしておきます。
記録が営業担当の頭の中だけにあると、担当が変わったときに関係が途切れます。取引先ごとの記録は、チーム全員が見られる場所に残しましょう。
そのまま使える提案メール例文3つ
提案メールは、「なぜ今あなたの会社に提案するのか」を1行目で伝えるのが基本です。例文の日付は2026年の暦に合わせています。
例文1:同じチームへの増員提案
件名:【増員のご提案】〇〇プロジェクト 次工程の体制について
株式会社〇〇 〇〇様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
弊社の〇〇が参画しております〇〇プロジェクトについて、ご連絡いたしました。11月から結合テストに入ると伺いました。
体制の追加をご検討でしたら、次のエンジニアをご提案できます。・経験:Java 5年、テスト工程のリーダー経験あり
・開始可能日:2026年11月2日(月)
・単価:〇〇万円(精算幅140〜180時間)〇〇と前職で同じ技術を使っており、立ち上がりも早いと考えています。
スキルシートを添付いたします。ご検討いただけますと幸いです。
例文2:別部署への紹介のお願い(横展開)
件名:別部署でのお手伝いについてのご相談
〇〇様
いつも〇〇がお世話になっております。株式会社△△の□□です。
おかげさまで〇〇も参画から1年がたち、ありがとうございます。御社の〇〇部門でも、クラウド移行を進めていると伺いました。
弊社にはAWSの構築経験があるエンジニアが複数おります。もしお困りごとがあれば、ご担当の方をご紹介いただけないでしょうか。
15分ほど、弊社の体制をご説明する時間をいただけますと幸いです。
例文3:契約更新前の単価改定のご相談
件名:2027年1月以降のご契約条件についてのご相談
〇〇様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
2026年12月31日でご契約が満了する〇〇について、ご相談があります。〇〇は今期、設計からテストまで担当範囲が広がっております。
あわせて、人件費の上昇も続いております。
つきましては、2027年1月以降の単価を〇〇万円に見直すご相談をさせてください。11月中に、30分ほどお時間をいただけますでしょうか。
単価改定の根拠の作り方は、労務費の価格転嫁指針をSESの単価交渉で使う方法|改定条項の例つきで詳しく解説しています。
単価改定を相談するときの根拠のそろえ方
単価改定は、「上げてほしい」ではなく「上げる理由」を資料で見せると話が進みます。感覚ではなく、事実を並べましょう。
「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」は、内閣官房と公正取引委員会が2023年11月29日に公表しました。取適法に合わせた改正が2025年12月26日に公表され、2026年1月1日から適用されています。この指針では、受注者側と双方が取るべき行動として、次のことが挙げられています。
最低賃金の上昇率や春季労使交渉(春闘)の妥結額など、公表されている資料を根拠として使う
1年に1回や半年に1回など、定期的な価格交渉の機会を使って交渉する
発注者からの提示を待たず、自分から希望価格を出す
価格交渉の記録を作り、発注者と受注者の両方で保管する
SESの現場で使える根拠は、次のようなものです。
| 根拠 | 具体例 |
|---|---|
| 担当範囲の広がり | 「実装だけ」→「設計・レビューも担当」 |
| 実績 | 障害対応の件数、リリースを期日どおりに終えた回数 |
| 資格・スキル | 参画後に取った資格、新しく使えるようになった技術 |
| 人件費の上昇 | 最低賃金の改定など、公表されている資料 |
既存顧客営業でやってはいけないこと4つ
既存顧客営業は、関係を壊すと元に戻すのに時間がかかります。次の4つは避けましょう。
稼働中のエンジニアのフォローを後回しにする:今の現場の評価が、次の注文のすべての土台です
現場のリーダーを飛ばして、上の人に直接売り込む:窓口担当者の面目をつぶすと、協力してもらえなくなります
商流の上の会社を飛ばして、エンドに直接提案する:BPや元請け経由で入っている現場では、契約違反や信頼の問題になります
更新の直前に単価改定を切り出す:相手の予算が決まった後では、検討してもらえません
商流を飛ばしたと受け取られると、上位の会社から取引を止められることもあります。提案先は、必ず契約の相手に限ります。
顧客を増やす方法として、既存顧客営業はどう位置づける?
営業で顧客を増やす方法は、大きく新規開拓・紹介・休眠顧客の掘り起こし・既存顧客の深耕の4つです。本記事の既存顧客営業は、そのうち「今動いている現場を広げる」方法です。
| 方法 | 対象 | 詳しい記事 |
|---|---|---|
| 新規開拓 | まだ取引のない会社 | エンド・元請けへの新規営業 |
| 紹介 | 既存顧客の知り合いの会社 | SESで既存顧客から紹介をもらう方法|頼み方の例文とタイミング |
| 休眠顧客の掘り起こし | 過去に取引があり、今は止まっている会社 | SESの休眠顧客の掘り起こし方|再開につながる連絡例文と手順5つ |
| 既存顧客の深耕 | 今エンジニアが稼働中の会社 | 本記事 |
おすすめの順番は、既存顧客の深耕 → 紹介 → 休眠顧客 → 新規開拓です。信頼がある相手ほど、少ない手間で決まるからです。
既存顧客営業をチョータツで楽にする方法
ここまでの手順は、Excelとメールでも回せます。ただ、取引先が10社を超えると、「誰がどこで何人・いつ更新か」を追うだけで手間がかかります。チョータツを使うと、次の作業が楽になります。
チョータツとは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールです。3,000社以上が利用しており、無料で始められます。
| 困りごと | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 増員を頼まれて、出せる人を探す | 自社の名簿と、BPからのメールを1通ずつ探す | 他社と連携すると、他社の営業中人材もデータベースとして探せる |
| 取引先ごとの案件・人材の情報 | 担当者ごとのExcelに散らばる | 案件・人材の情報をチームで管理・共有できる |
| 提案をパートナーに流す | 宛先を1件ずつ入れて送る | パートナーへのメール配信機能で送れる |
| 情報の入力 | すべて手入力 | AIが入力を手伝う |
既存顧客営業で一番もったいないのは、「増員したい」と言われたのに、すぐ人を出せず他社に取られることです。パートナー企業と連携して、他社の営業中人材もデータベースとして探せるようにしておくと、候補を早く返せます。
よくある質問
- Q. 既存顧客営業と新規開拓、どちらに時間を使うべきですか?
- まず既存顧客への定期フォローを毎月の予定に入れ、残りの時間で新規開拓をしましょう。既存顧客は契約の手続きが少なく、決まるまでが短いからです。
- Q. 得意先営業で、どのくらいの頻度で連絡すればいいですか?
- 窓口担当者とは月1回、稼働中のエンジニアとも月1回の面談が目安です。更新の1〜2か月前は、連絡の回数を増やしましょう。
- Q. 営業フォローとは、具体的に何をすることですか?
- 取引が始まった後も、お客さまの困りごとや次の予定を定期的に聞くことです。SESでは、エンジニアの評価・来期の体制・別部署の動きを確認します。
- Q. 増員を頼まれたのに、自社に空いている人がいません。どうすればいいですか?
- パートナー企業の人材を提案しましょう。人材を集める依頼メールはSESの人材提案依頼の方法|BPから要員を早く集める依頼メール例文で紹介しています。フリーランスに直接声をかけるなら、DrivenXのxhoursでITフリーランスに直接スカウトを送れます。
- Q. 単価改定を断られたら、どうすればいいですか?
- 断られた理由と、次に相談できる時期を聞いて記録しましょう。次の更新に向けて、担当範囲の広がりなどの実績をためておきます。
- Q. BP経由で入っている現場でも、既存顧客営業はできますか?
- できます。ただし、提案先は契約の相手であるBPや元請けです。エンドに直接売り込むと、商流を飛ばすことになるので避けましょう。
まとめ
既存顧客営業とは、稼働中の取引先から追加の注文や条件の改善をもらう営業のこと
伸ばし方は、増員・横展開・単価改定の3つ。増員から取り組むと決まりやすい
手順は「棚卸し → 優先順位 → エンジニアから情報収集 → 定期フォロー → 更新1〜2か月前の提案 → 記録」の6ステップ
単価改定は、担当範囲・実績・公表資料などの根拠をそろえて、自分から希望価格を出す
現場のリーダーや商流の上の会社を飛ばさない
「もう1人ほしい」にすぐ答えるため、チョータツでパートナー企業と連携し、他社の営業中人材も探せるようにしておく
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2023年11月29日公表)
公正取引委員会「労務費転嫁指針の改正について(2025年12月26日公表)」
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)」(第5条第2項第4号 協議に応じない一方的な代金決定の禁止)
政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」