SESの途中退職で損害賠償は請求できる?社員・フリーランス・顧客・BP別の判断基準と上限、契約条項チェックリスト

公開日:2026年9月29日更新日:2026年9月29日

SESの途中退職と損害賠償の関係を4つの向きで整理する

SESの途中退職で問題になる損害賠償は、「だれが、だれに請求するか」で4つに分かれます。向きごとに、根拠になる法律と契約が違います。

損害賠償とは、約束を守らなかったり、違法な行為をしたりして相手に損害を与えた時に、その損害をお金で埋めることです。

請求の向き根拠になるもの認められやすさ
自社 → 辞めた社員雇用契約、民法、労働基準法低い(判例で制限)
自社 → 抜けたフリーランス業務委託契約、民法651条契約と時期しだい
顧客 → 自社個別契約書、民法651条・415条契約と時期しだい
自社 → BP・引き抜いた会社基本契約書の条項条項があれば検討できる

営業がまず確認するのは、自社がどの向きの当事者かです。社員が辞めた話と、顧客との取引の話は、別々の契約として分けて考えます。

→ 退職と退場の違いはSESの契約途中の退場|営業がやるべき対応5ステップ

会社は途中退職した社員に損害賠償を請求できる?

会社が途中退職した社員に損害賠償を請求できる場面は、かなり限られます。退職そのものは社員の権利なので、「辞めたこと」だけでは請求の理由になりにくいからです。

期間の定めのない社員(正社員など)

期間の定めのない雇用は、民法627条で、いつでも解約を申し入れられます。申し入れから2週間たつと、雇用は終わります。

就業規則に「1か月前までに申し出る」とあっても、法律上は2週間で退職が成立すると一般に考えられています。現場の契約期間の途中であっても、この点は変わりません。

期間の定めのある社員(契約社員など)

期間の定めのある雇用は、原則として期間の途中では辞められません。ただし、民法628条で、やむを得ない事由があれば、すぐに解除できます。

その事由が一方の過失で生じた時は、相手に損害賠償の責任を負います。また、労働基準法137条の決まりもあります。1年を超える期間の契約(一部を除く)なら、1年を過ぎた後はいつでも退職を申し出られます。

違約金を先に決めておくことはできない

賠償予定の禁止とは、違約金や損害賠償の額を前もって決めてはいけないというルールのことです。労働契約の不履行について定めています(労働基準法16条)。

「現場を途中で抜けたら30万円」といった誓約書は、この条文に反します。実際に損害が出た時に請求すること自体は禁止されていませんが、金額を先に決めておくことはできません。

給与から差し引くことはできない

労働基準法24条は、賃金を全額支払うよう定めています。法令や労使協定で決めたもの以外は、給与から差し引けません。

「損害の分を最後の給与から引いておく」という処理は、この条文に反するおそれがあります。損害があると考える場合でも、給与は全額払い、請求は別に行います。

バックレ・退職代行の時はどうなる?

バックレ(無断欠勤からの音信不通)でも退職代行でも、損害賠償の基本的な考え方は変わりません。変わるのは、連絡の取り方と、損害の証明のしやすさです。

ケース法律上の見方営業が最初にやること
バックレ無断欠勤は雇用契約の義務違反になりうる安否確認と、顧客への当日連絡
退職代行退職の申し入れを代わりに伝えているだけ退職日と引き継ぎの範囲を確認
体調不良による退職やむを得ない事由にあたることがある本人の体調を優先し、代わりを探す

バックレの場合は、まず事故や急病の可能性を考えて安否を確認します。家族や緊急連絡先への連絡は、就業規則などで決めた手順にそって行います。

退職代行を使われた場合も、退職の申し入れとしては有効に扱われるのが一般的です。代行業者に怒っても状況は変わらないため、退職日と貸与品の返却、引き継ぎ資料の有無を確認します。

退職前の有給休暇の消化はどう扱う?

退職する社員が有給休暇の消化を求めたら、会社は原則として断れません。年次有給休暇は、労働基準法39条で認められた社員の権利だからです。

会社には、取る日をずらしてもらう「時季変更権」があります。ただし、退職日より後にはずらせないため、退職前の消化では使いにくいと一般に考えられています。

営業が考えるべきなのは、顧客への精算と引き継ぎの日程です。有給で現場に出ない日が続くと、稼働時間が精算幅の下限を割ることがあります。

  1. 残りの有給日数と、最終出社日を本人(または代行業者)に確認する

  2. 最終出社日までに終える引き継ぎの範囲を、顧客とすり合わせる

  3. 精算幅の下限を割りそうなら、顧客に早めに伝えて精算方法を決める

→ 有給と稼働時間の扱いはSESで有給を取ると稼働時間はどうなる?精算の扱い3パターン
→ 下限を割った時の計算はSESの精算幅を下回ったら?控除の計算方法と有給・固定の扱い

損害賠償の上限は?判例が示す判断基準

社員への損害賠償に、法律で決まった上限額はありません。ただし、判例は信義則によって請求できる額を制限しており、実際には損害の一部しか認められないことが多いと考えられます。

信義則とは、契約の当事者はお互いに誠実にふるまうべきだという、民法の基本的な考え方のことです。

茨石事件(最高裁昭和51年7月8日判決)

茨石事件は、社員がタンクローリーを運転中に起こした事故の損害を、会社が社員に請求した裁判です。最高裁は、会社が請求できるのは信義則上損害の4分の1が限度としました。

この判決は、次のような事情を合わせて考えるべきだとしています。

  1. 会社の事業の性格や規模

  2. 社員の業務の内容や労働条件

  3. 社員の勤務態度

  4. 加害行為の態様

  5. 事故を防ぐための会社の配慮の程度

事故の事案なので、途中退職にそのまま当てはまるわけではありません。ただ、会社が負うべきリスクを社員に全部押しつけることはできないという考え方は、途中退職の場面でも参考になります。

請求が認められるために必要な3つのこと

損害賠償を請求するには、会社の側が次の3つを示す必要があります(民法415条・416条)。

  1. 義務違反:社員が雇用契約の義務を守らなかったこと

  2. 損害:実際にいくらの損害が出たか

  3. 因果関係:義務違反によって、その損害が生じたこと

SESでは、代わりの要員を出せば売上が続くことも多く、損害の額を示しにくいのが実情です。採用や教育にかけた費用は、会社がもともと負担する費用と見られやすい点にも注意が必要です。

フリーランスの要員が途中で抜けた場合

フリーランス(個人事業主)の要員とは、雇用ではなく業務委託契約を結んでいます。そのため、労働基準法ではなく、民法と業務委託契約書で判断します。

準委任の業務委託契約は、民法651条により各当事者がいつでも解除できます。ただし、相手に不利な時期に解除した時などは、やむを得ない事由がない限り損害を賠償しなければなりません。

契約書に「解約は1か月前までに通知」などの条項があれば、その条項が基準になります。まずは契約書を読み、通知の期限を守っているかを確認しましょう。

顧客から損害賠償を請求されたら

顧客から損害賠償を求められた時は、個別契約書と基本契約書の条項を最初に確認します。準委任の契約でも、途中で抜けた時期や理由によっては、賠償が必要になることがあります。

契約書で確認すること

確認する条項見るポイント
解約予告何日前に、どの方法で伝える決まりか
中途解約途中で終わる時の精算、違約金の定め
損害賠償賠償の範囲、上限額(「委託料の〇か月分まで」など)
要員の交代交代で対応した時の扱い

損害賠償の条項に上限額が書かれていれば、その金額が請求の上限の目安になります。上限の定めがない場合は、民法416条の「通常生ずべき損害」の範囲で判断されます。

顧客への答え方

顧客から損害賠償の話が出たら、その場で金額を認めたり、断ったりしないことが大切です。

例文・テンプレート
件名:〇〇の退職に伴う今後の体制について(株式会社△△ □□)

株式会社〇〇
××様

いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
このたびは弊社〇〇の急な退職により、
ご迷惑をおかけしており、誠に申し訳ございません。

現在、代わりの要員を最優先で手配しております。
〇月〇日(〇)までに、候補者のスキルシートを
2名分お送りいたします。

いただいたご指摘については、契約書の内容を確認のうえ、
あらためて書面でご回答いたします。
引き続きよろしくお願いいたします。

謝罪と代わりの要員の提案を先に示し、お金の話は契約書を確認してから書面で答えます。金額の話になった時は、早めに弁護士へ相談しましょう。

BPの要員が辞めた・引き抜かれた場合

BPの要員が辞めたり、顧客や他社に引き抜かれたりした時は、基本契約書の条項しだいで請求を検討できます。条項がなければ、請求はかなり難しくなります。

ケース請求の根拠になるもの
BPの要員が途中で抜けたBPとの契約の解約予告・中途解約の条項
顧客が要員と直接契約した引き抜き禁止・直接取引禁止の条項
BPが自社を飛ばして顧客と取引した商流飛ばし(直接取引)禁止の条項

要員本人には、仕事を選ぶ自由があります。そのため、要員個人よりも、条項に違反した会社に対して検討するのが基本です。

→ 紹介料で解決する方法はSESの引き抜きに紹介料は取れる?相場と契約条項の書き方
→ 商流飛ばしのリスクはSESの商流飛ばしは違法?営業が知るべきリスクと防ぎ方5つ

請求より先にやるべき「代わりの要員の確保」5手順

途中退職が起きた時、営業が一番先にやるべきことは、損害賠償の検討ではなく代わりの要員の確保です。業務が止まらなければ、顧客の損害も自社の売上の減少も小さくできます。

  1. 当日中に顧客へ連絡する:退職の事実と、代わりを探していることを伝える

  2. 求めるスキルを聞き直す:前任の担当業務と、引き継ぎの状況を確認する

  3. 自社の空いている要員を確認する:待機中・まもなく契約が終わる人を洗い出す

  4. パートナーとフリーランスに同時に声をかける:1つずつ順番に探さない

  5. 2〜3名の候補を提案する:スキルシートをそろえ、面談の日程を早めに押さえる

手順3〜4は、同じ日に並行して進めます。1つの探し先で見つからないとわかってから次に移ると、解約予告の期間を使い切ってしまいます。

チョータツとxhoursで代わりの要員をすぐ探す

自分で探す場合、過去に届いた人材メールを読み返したり、BPに1社ずつ電話したりすることになります。DrivenXのツールを使うと、突然の退職に備えて、代わりの要員をすぐ探せる状態をつくれます。

場面自分でやる場合DrivenXのツールを使う場合
BPの人材を探す人材メールを1通ずつ読み返すチョータツで連携した会社の営業中人材をデータベースで探せる
自社の空きを把握するExcelの一覧を更新するチョータツで案件・人材の情報を管理・共有できる
BPに募集を知らせる1社ずつメールを送るチョータツのメール配信機能でまとめて配信できる
フリーランスに声をかけるエージェントの紹介を待つxhoursでITフリーランスに直接スカウトできる

チョータツとは、SES営業の案件・人材を管理・共有するツールのことです。3,000社以上が使っており、無料で始められます。他社と連携すると、相手の営業中人材が自社のデータベースになります。

xhours(エックスアワーズ)とは、企業がITフリーランスに直接スカウトを送れるサービスです。数千名のフリーランスのデータベースから探せます。BPの人材で見つからない時は、xhoursでITフリーランスに直接スカウトする方法もあります。

再発を防ぐ契約条項チェックリスト

途中退職のトラブルを減らすには、顧客・BP・要員との契約書を、トラブルが起きる前に見直すことが大切です。次の10項目を確認しましょう。

#契約の相手確認する条項見るポイント
1顧客解約予告期間(例:1か月前)と通知の方法
2顧客要員の交代交代で対応できる旨の定め
3顧客損害賠償の上限「委託料の〇か月分まで」などの上限
4顧客中途解約の精算日割りか、稼働時間での精算か
5BP解約予告顧客との契約より長いか、同じか
6BP引き抜き・直接取引の禁止禁止期間と、違反した時の扱い
7BP再委託の禁止無断で別の会社に出していないか
8フリーランス解約予告顧客との契約とそろっているか
9社員就業規則の退職の手続き申し出の時期と引き継ぎの定め
10社員違約金の定めがないか労働基準法16条に反する条項を置いていないか

特に大切なのは、1・5・8の解約予告をそろえることです。顧客への予告が1か月前なのに、フリーランスとの契約が2週間前だと、代わりを探す期間が足りなくなります。

→ 条項の全体像はSES基本契約書のテンプレート|個別契約・注文書と条項チェック15

よくある質問

Q. SESの社員がバックレたら、損害賠償を請求できますか?
法律上は無断欠勤が義務違反にあたりうるため、ゼロではありません。ただし、損害の額と因果関係を会社が示す必要があり、判例も請求できる範囲を制限しています。まずは安否確認と代わりの要員の確保を優先しましょう。
Q. 退職代行を使われた場合、損害賠償の扱いは変わりますか?
変わりません。退職代行は退職の申し入れを代わりに伝えているだけなので、判断の基準は通常の退職と同じです。
Q. 「途中で辞めたら違約金」という誓約書は有効ですか?
労働基準法16条は、労働契約の不履行について違約金や賠償額を前もって決めることを禁じています。社員との間でこうした誓約書を結ぶことはできません。
Q. 損害賠償の上限はいくらですか?
社員への請求に、法律で決まった上限額はありません。茨石事件の最高裁判決は、事情を考えて損害の4分の1を限度とした例です。顧客との契約では、契約書の損害賠償の上限条項が目安になります。
Q. 顧客から「要員が抜けた分の損害を払って」と言われたら?
その場で金額を認めず、契約書の解約予告・中途解約・損害賠償の条項を確認します。先に代わりの要員を提案し、お金の話は書面で答えましょう。
Q. 辞める社員に「有給を全部使ってから辞める」と言われたら断れますか?
原則として断れません。有給休暇は労働基準法39条で認められた権利で、退職日より後に日をずらすこともできないためです。最終出社日に合わせて引き継ぎと顧客への精算を調整しましょう。
Q. 引き抜かれた要員本人に損害賠償を請求できますか?
要員本人には仕事を選ぶ自由があるため、本人への請求は難しいのが一般的です。引き抜き禁止の条項に違反した会社への請求や、紹介料での解決を検討します。

まとめ

  • 途中退職の損害賠償は、「自社→社員」「自社→フリーランス」「顧客→自社」「自社→BP」の4つの向きで分けて考える

  • 社員への請求は、民法627条の2週間ルール、労働基準法16条・24条、判例の制限があり、認められるハードルは高い

  • 決まった上限額はなく、茨石事件では損害の4分の1が限度とされた

  • 退職前の有給消化は原則として断れない。最終出社日に合わせて引き継ぎと精算を調整する

  • 顧客やBPとの間では、契約書の解約予告・中途解約・損害賠償の条項が基準

  • 請求より先に代わりの要員を確保する。ふだんからチョータツで連携先の営業中人材を探せるようにしておくと、その日から動ける

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツ(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月29日|更新日:2026年9月29日

参考資料

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