SESの要員交代で引継ぎ費用は誰が負担する?理由別の目安表と条項例・交渉トーク
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
SESの要員交代の引継ぎ費用とは?
要員交代の引継ぎ費用とは、前任と後任の2人が同時に現場に入る期間の、後任側(または前任側)の稼働費用のことです。交代では、仕事の中身を後任へ渡す時間が必要になります。その間、客先から見ると「1人分の仕事に2人分の請求」が起きます。
引継ぎ期間とは、前任と後任が並んで働き、作業や資料を受け渡す期間のことです。日数は法律で決まっておらず、担当業務の広さや資料の整い具合によって、数日で済むこともあれば数週間かかることもあります。二重稼働とは、この期間に2人分の稼働が重なる状態を指します。
揉めるのは、この二重稼働分を誰が払うかです。客先は「頼んでいない2人目の費用は払わない」と考えがちです。自社は「交代は客先の要望だから払ってほしい」と考えがちです。
引継ぎ費用は誰が負担する?交代理由別の目安表
負担の目安は、交代の原因がどちらにあるかで決まります。 下の表は、契約書に定めがない場合に、交渉の出発点として使える目安です。法律で決まった割合ではありません。
| 交代理由 | よくある例 | 負担の目安 | 交渉のポイント |
|---|---|---|---|
| 自社都合 | 別案件への異動、自社の体制変更 | 自社が全額負担 | 無償の引継ぎを先に申し出ると、関係を保ちやすい |
| 本人都合 | 退職、体調不良、家庭の事情 | 原則は自社負担 | やむを得ない事情なら、期間短縮で費用を抑える |
| 客先都合(スキル・相性) | 「期待したスキルと違う」という要望 | 折半か、客先と自社で話し合い | スキルシートとの差が大きいと自社の負担が増える |
| 客先都合(体制変更) | 担当業務の変更、求めるスキルの変更 | 客先負担 | 業務が変わるなら、引継ぎは客先の依頼として請求しやすい |
自社都合の交代は自社が負担するのが基本
自社の事情で人を入れ替えるなら、引継ぎ費用は自社が持つのが一般的です。客先にとって、交代は頼んでもいない手間だからです。ここで費用を求めると、次の更新に響きます。
本人都合の交代も、客先には請求しにくい
エンジニア本人の退職や体調不良も、客先から見ると自社側の事情です。そのため、原則は自社負担で考えます。本人の事情はまず自社で受け止め、客先には交代の段取りを示すことが先です。
途中退職の対応全体は「SESの契約途中の退場|営業がやる対応5ステップと連絡例文」にまとめています。
客先都合の交代は、中身で負担が変わる
客先都合でも、「スキル不足」の指摘か「業務の変更」かで、負担の考え方が変わります。 スキル不足の指摘は、提案時のスキルシートと実力の差が問われます。差が大きいなら、自社が多めに負担するほうが筋が通ります。
一方、客先の都合で担当業務や必要スキルが変わった場合は、客先の依頼による交代です。この場合は、引継ぎ期間も客先の依頼業務として請求しやすくなります。スキル不足のクレームへの対応は「SESのクレーム対応|スキル不足で退場を求められた時の5手順」を参考にしてください。
契約書で確認する条項4つ
費用の分け方は、まず契約書で決まります。 交渉の前に、基本契約・個別契約・注文書を開き、次の4つを確認します。
| 条項 | 確認すること | 書かれていないとき |
|---|---|---|
| 要員の交代 | 交代を申し出る手順、事前通知の日数 | 両者の話し合いで決める |
| 引継ぎ費用 | 引継ぎ期間の費用を誰が持つか | 交代の原因で交渉する |
| 解約予告 | 何日前に伝えれば契約を終えられるか | 民法の委任のルールで考える |
| 精算 | 月の途中で入れ替わる時の日割り計算 | 日割りの方法を事前に合意する |
条項例:交代と引継ぎ費用
契約書に定めがない場合は、次の更新時に入れておくと安心です。次の文例は一般的な書き方の一例です。実際に使う前に、自社の顧問弁護士に確認してください。
第○条(要員の交代)
乙(受注者)は、業務遂行上必要と判断した場合、甲(発注者)に事前に通知のうえ、
業務に従事する者を交代させることができる。甲は、業務遂行に支障があると認める場合、その理由を示して乙に交代の検討を求めることができる。交代するかどうかは乙が決定する。
交代に伴う引継ぎ期間は原則○営業日以内とし、その費用は次のとおりとする。
(1) 乙の都合による交代の場合:乙の負担とする。
(2) 甲の業務内容の変更による交代の場合:甲の負担とする。
(3) 前各号以外の場合:甲乙協議のうえ定める。
第2項で「交代するかどうかは乙が決定する」と書くのには理由があります。次の章で説明する、偽装請負を避けるためです。条項全体の見直しは「SESの基本契約書とは|テンプレートと個別契約の優先・印紙7号」で確認できます。
契約書に何も書いていないとき
契約書に定めがなければ、「客先が頼んだ仕事かどうか」が請求できるかの分かれ目になります。SESの多くは準委任契約です。準委任契約とは、仕事の完成ではなく、決めた業務を行うことに報酬を払う契約のことです。
民法では、委任の規定が準委任にも使われます(第656条)。また、受任者は特約がなければ報酬を請求できないとされています(第648条第1項)。報酬は、契約で決めた内容に沿って請求するのが基本です。つまり、客先が依頼していない2人目の稼働は、請求の根拠が弱くなります。 請求したいなら、引継ぎの前に客先の合意をとることが欠かせません。
交代を決めるのは自社|偽装請負に注意
SES(準委任)では、誰を現場に出すか、いつ交代させるかは自社が決めます。 客先が特定の個人を外すよう命じたり、後任を面接で選んだりすると、偽装請負と見られるおそれがあります。
偽装請負とは、契約は請負や準委任なのに、実態は客先が作業者に直接指示している状態のことです。厚生労働省の「37号告示」は、請負と認められる条件の1つに「労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと」を挙げています。
そのため、営業は次のように進めます。
客先の「交代してほしい」は、要望として聞く
理由を具体的に聞き取り、交代するかは自社で判断する
後任は自社が選び、客先にはスキルシートで紹介する
引継ぎ中の作業の指示は、自社の責任者を通す
37号告示の中身は「偽装請負の37号告示をやさしく解説|厚労省Q&AのSES該当箇所」で詳しく扱っています。
引継ぎ費用の計算例
引継ぎ費用は「後任の単価 ÷ 月の稼働日数 × 引継ぎ日数」で出すと、客先にも説明しやすくなります。 月の途中で入れ替わるときは、前任・後任それぞれの日割りも必要です。
例:単価70万円、月20営業日、引継ぎ10営業日の場合
1日あたり:70万円 ÷ 20日 = 3.5万円
引継ぎ費用:3.5万円 × 10日 = 35万円
| 分け方 | 客先の負担 | 自社の負担 |
|---|---|---|
| 客先が全額負担 | 35万円 | 0円 |
| 折半 | 17.5万円 | 17.5万円 |
| 自社が全額負担 | 0円 | 35万円 |
| 期間を5日に短縮し折半 | 8.75万円 | 8.75万円 |
自社が負担する場合も、仕入れ側の支払いは発生します。 後任がBP(取引先企業)のエンジニアなら、引継ぎ期間の費用をBPに払う必要があります。粗利が一時的にマイナスになることもあるので、社内の承認も早めにとりましょう。
精算幅や日割りの考え方は「SESの精算幅を下回ったら?控除の計算方法と有給・固定の扱い」が参考になります。
客先との交渉の進め方と交渉トーク
交渉は、費用の話より先に「交代で客先の仕事が止まらないこと」を示すのがコツです。 客先が一番気にしているのは、業務が止まることだからです。
交渉の5ステップ
契約書の交代・引継ぎ・解約予告の条項を確認する
交代理由と、客先・自社どちらの事情かを社内で整理する
後任候補と引継ぎ計画(期間・作業・資料)を先に用意する
客先に「引継ぎ計画 → 費用の分け方」の順で提案する
合意した内容を、メールと注文書(個別契約)に残す
交渉トーク例(理由別)
自社都合の場合
「今回の交代は弊社の都合によるものです。引継ぎ期間の10営業日分は、弊社で負担いたします。業務が止まらないよう、引継ぎ資料も弊社で用意します。」
本人都合の場合
「本人の事情により、11月末で交代させていただくことになりました。ご迷惑をおかけするため、引継ぎ期間の費用は弊社で負担します。その代わり、期間は5営業日で完了できるよう準備を進めます。」
客先の業務変更による場合
「新しいご担当業務には、別のスキルを持つ要員が適していると考えます。引継ぎ期間は新業務の立ち上げにもあたるため、通常の単価でご請求させていただけないでしょうか。」
スキルの差を指摘された場合
「ご期待に沿えず申し訳ありません。弊社の判断で交代させていただきます。引継ぎ期間の費用は折半とさせていただけないでしょうか。後任は事前にスキルを確認したうえでご紹介します。」
客先への説明メール例
件名:【ご相談】○○案件の要員交代と引継ぎ期間について
○○株式会社 ○○様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
○○案件でご支援している山田の交代について、ご相談させてください。■交代の理由:弊社の体制変更のため
■後任候補:佐々木(スキルシートを添付します)
■引継ぎ期間:2026年11月16日(月)〜11月30日(月)の10営業日(11月23日の祝日を除く)
■費用の扱い:引継ぎ期間中の後任の費用は、弊社で負担いたします引継ぎ資料は弊社で作成し、11月13日(金)までにお送りします。
ご確認のほど、よろしくお願いいたします。
交代を伝えるタイミングは、解約予告の日数より前にしましょう。契約終了の連絡文は「SESの契約終了メール例文5つ|理由別の伝え方と送る時期」にもまとめています。
BPとの費用の分け方も決めておく
後任や前任がBPの要員なら、客先との合意とは別に、BPとも費用を決める必要があります。 客先から費用をもらえなくても、BPへの支払いは発生するからです。
| 状況 | BPとの取り決めの目安 |
|---|---|
| BPの要員が本人都合で抜ける | BPに引継ぎ期間の無償対応を相談する |
| 自社が後任にBPの要員を入れる | 引継ぎ期間も通常の単価で払うのが基本 |
| 客先が引継ぎ費用を払わない | 自社の粗利から払う。BPに値下げを押しつけない |
BPとの契約にも解約予告の日数があります。客先との予告より長いと、前任が抜けたあとも費用だけ残ることがあります。客先・BP両方の予告日数を並べて確認しましょう。予告が足りないときの補償の考え方は「業務委託の中途解約の違約金|何ヶ月前に通知か民法と条項例で解説」で解説しています。
交代要員の探し方|早いほど引継ぎ費用は減る
交代要員が早く決まるほど、引継ぎ期間を十分に取れて、客先との交渉もしやすくなります。 探す順番は次のとおりです。
自社の待機中・契約終了予定のエンジニアを確認する
付き合いのあるBPに、スキル・単価・参画時期を伝えて募集する
他社の営業中人材の情報から、条件に合う人を探す
フリーランスのエンジニアに直接声をかける
自分でやる場合は、BPから届く人材メールをExcelに整理し、条件で絞り込みます。ただ、交代は急ぎのことが多く、メールを1通ずつ見ていると間に合わないことがあります。後任が決まったら、入館手続きやアカウントの準備を前倒しします。手順は「SESの参画初日までに営業がやる準備|入場チェックリストと案内文」を使ってください。
チョータツとxhoursで探す時間を短くする
チョータツなら、他社と連携することで、他社の営業中人材をデータベースにして探せます。 人材の情報を社内で管理・共有できるので、交代要員の候補を営業チーム全員ですぐ確認できます。パートナーへのメール配信機能を使えば、「交代要員を募集しています」という連絡もまとめて送れます。
xhoursは、企業がITフリーランスに直接スカウトできるサービスです。 数千名のフリーランスのデータベースから、スキルに合う人を探せます。BPで見つからない時の選択肢として使えます。
よくある質問
- Q. SESの引継ぎ期間の重複分は、客先に請求できますか?
- 契約書に定めがあるか、事前に客先が合意していれば請求できます。定めも合意もない場合、客先が依頼していない稼働は請求の根拠が弱くなります。引継ぎを始める前に、費用の扱いをメールで合意しておきましょう。
- Q. 引継ぎ期間はどれくらいが一般的ですか?
- 法律で決まった日数はありません。担当業務の広さと資料の整い具合で決め、客先と合意した日数を注文書に残します。
- Q. 客先から「この人を交代して」と言われたら従う必要がありますか?
- 準委任契約では、誰を配置するかは自社が決めます。客先の意見は要望として聞き、理由を確かめたうえで自社が判断します。客先が個人を指名して交代させると、偽装請負と見られるおそれがあります。
- Q. 要員交代を客先にどう説明すればいいですか?
- 交代の理由、後任候補、引継ぎ期間、費用の扱いの4点を1通のメールで伝えます。費用の話より先に、業務が止まらない計画を示すと受け入れてもらいやすくなります。
- Q. 本人の退職で交代する場合、本人に費用を請求できますか?
- 雇用している社員に、あらかじめ違約金の額を決めておくことは労働基準法第16条で禁止されています。退職による損害の請求は、認められる場面が限られます。
まとめ
引継ぎ費用とは、前任と後任が同時に働く二重稼働の費用のこと
契約書に定めがあればその通り。なければ交代の原因を作った側が多く負担するのが交渉の出発点
目安は、自社都合・本人都合は自社負担、客先の業務変更は客先負担、スキルの指摘は折半から話し合う
交代するかは自社が決める。客先の要望は要望として受け止める
客先には「引継ぎ計画 → 費用」の順で伝え、合意はメールと注文書に残す
次の更新までに、交代と引継ぎ費用の条項を契約に入れておく
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)