SES営業の差別化戦略|選ばれる5つの切り口と、取引先に伝える一文の例・強みの作り方
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
SES営業の差別化とは?
SES営業の差別化とは、取引先がほかのSES会社ではなく自社を選ぶ理由を作り、それを相手に伝わる形で示すことです。「技術力が高い」「対応が丁寧」といった、どの会社も言える言葉では差別化になりません。
SESの取引先は、同じ案件の人材を何社ものSES会社から同時に集めることがよくあります。似た経歴のエンジニアが並べば、決め手は「どの会社から来た提案か」になります。
なぜSES営業に差別化が必要なのか
SES業界は会社の数が多く、立場の近い会社どうしが同じ取引先を奪い合う構造です。公正取引委員会は2022年に、ソフトウェア業(資本金3億円以下)の調査結果を公表しました。回答企業のうち、元請は40.4%、中間下請は38.2%、最終下請は21.3%でした。
回答した会社の約6割が、誰かの下請けとして仕事を受けています。エンドとは、システムを使う発注元のことです。元請けとは、エンドから直接仕事を受ける会社のことです。どちらから見ても、声をかけられるSES会社はたくさんあります。差別化がないと、単価の安さだけで比べられることになります。
一方、経済産業省の委託調査(2019年3月公表)は、2030年のIT人材の不足を約16万〜約79万人と試算しています。中位のシナリオでは約45万人、最大は需要の伸びが大きい場合の約79万人です。人が足りないときほど、「合う人を早く出せる会社」が選ばれます。
取引先がSES会社を選ぶ理由
取引先がSES会社を選ぶ理由は、「早い・合う・安心できる」の3つにまとまります。単価は大事ですが、条件が近い会社が並んだときの決め手は、この3つであることが多いです。
| 取引先が見ていること | 具体的には | つながる切り口 |
|---|---|---|
| 早い | 案件を出してから提案が届くまでの時間 | 提案スピード |
| 合う | 要件に合う人材を、外さずに出してくれるか | 得意領域の絞り込み |
| 安心できる(商流) | 間に入る会社が少なく、話が早いか | 商流の浅さ |
| 安心できる(人) | 参画した人がすぐ辞めず、長く続くか | 人材の定着 |
| 安心できる(連絡) | 面談結果や稼働状況をこまめに伝えてくれるか | 情報共有の丁寧さ |
この表は、営業の現場で取引先からよく聞く声を、チョータツSES研究所が整理したものです。自社の取引先が何を重視しているかは、次の「強みの作り方」で実際に聞いて確かめてください。
差別化の前にやる:自社の強みの作り方3ステップ
SESの強みは、過去の実績から見つけ、取引先の声で確かめ、数字で言える形にするの3ステップで作ります。頭の中で考えた強みは、取引先の見方とずれていることが多いからです。
過去1年の成約を棚卸しする:決まった案件を一覧にし、職種・業界・商流の位置・提案までの日数を並べる。多いものが「実際に勝っている領域」です
取引先に選んだ理由を聞く:よく取引する3〜5社に、「弊社に声をかけてくださる理由は何ですか」と聞く。定例の連絡や情報交換のついでで十分です
数字を入れた一文にする:「〇〇が得意です」ではなく、数字と事実で言い切る。例は「過去1年の成約の7割がAWSのインフラ案件です」
取引先に聞くときは、次のような一言が使えます。
いつもお取引ありがとうございます。 今後のご提案の参考にしたく、ひとつ伺わせてください。 数あるSES会社の中で、弊社にお声がけくださる理由や、 逆に「ここを直してほしい」という点があれば教えていただけますか。
この3ステップで出てきた強みを、次の5つの切り口に当てはめます。
選ばれる会社になる5つの切り口
差別化の切り口は、得意領域・提案スピード・商流・定着・情報共有の5つです。自社が事実で示せるものを1〜2つ選び、取引先に伝える一文を決めます。
| # | 切り口 | 伝える事実の例 | 始めやすさ |
|---|---|---|---|
| 1 | 得意領域の絞り込み | 成約の多い職種・業界の割合 | ◎ |
| 2 | 提案スピード | 案件受領から提案までの時間 | ◎ |
| 3 | 商流の浅さ | 元請け・エンドとの直接取引の割合 | △ |
| 4 | 人材の定着 | 同じ現場での平均の参画期間 | ○ |
| 5 | 情報共有の丁寧さ | 面談結果や稼働状況の連絡ルール | ◎ |
1. 得意領域の絞り込み
得意領域の絞り込みとは、「何でもできます」をやめ、特定の職種・技術・業界に集中して強みにすることです。取引先は「この分野ならあの会社」と覚えるので、案件が出たときに最初に声がかかります。
絞り込みの軸は、職種(インフラ・開発・PMO)、技術(AWS・Java)、業界(金融・製造)のどれか1つで十分です。棚卸しで成約が多かった領域を選びます。
取引先に伝える一文の例
「弊社は、AWSを使ったインフラ構築・運用の案件に絞って人材をそろえています。過去1年の成約のうち7割がこの領域です。」
2. 提案スピード
提案スピードとは、取引先が案件を出してから、自社が要件に合う人材を提案するまでの速さのことです。人を急いで探している取引先ほど、最初に届いた提案から面談を組みます。
SESの案件は、同じ内容が多くの会社に同時に配られます。数時間の差で、面談の枠が埋まってしまうこともあります。提案の早さは、大きな会社でなくても今日から改善できる差別化です。
取引先に伝える一文の例
「案件情報をいただいてから、当日中に1名以上のご提案をお返しすることを社内ルールにしています。」
提案を早くする具体的な方法は、後半の「提案スピードを上げる:案件・人材の一元管理」の章で解説します。
3. 商流の浅さ
商流の浅さとは、エンドから自社までの間に入る会社が少ないことです。間の会社が少ないほど、条件の確認が早く、エンジニアの単価も上がりやすくなります。
エンドや元請けと直接取引している案件があるなら、その割合は強い差別化になります。ただし、事実と違う商流を名乗るのは絶対に避けてください。実際より浅く見せると、契約前の商流確認で分かることが多く、信頼を失います。
取引先に伝える一文の例
「弊社の案件の約半数は、エンド企業または元請けSIerとの直接取引です。条件のご確認を当日中にお返しできます。」
商流の位置と単価の関係はSESの一次請け・二次請けの違いで詳しく解説しています。
4. 人材の定着
人材の定着とは、参画したエンジニアが途中で辞めたり交代したりせず、同じ現場で長く働き続けることです。取引先にとって、途中の交代は引き継ぎの手間と品質の不安につながります。
伝えるときは、「定着率が高い」ではなく、平均の参画期間や途中交代の件数など、自社で数えられる数字を使います。数えていない場合は、今月から記録を始めましょう。
取引先に伝える一文の例
「現在参画中の弊社エンジニアの平均参画期間は2年3か月です。月1回、営業が本人と面談し、困りごとを早めに拾っています。」
定着のための社内の取り組みはSESエンジニアの離職対策|定着率を上げる施策7つで紹介しています。
5. 情報共有の丁寧さ
情報共有の丁寧さとは、取引先が知りたいことを、聞かれる前にきちんと伝えることです。面談の結果、エンジニアの稼働状況、契約更新の意向などを、決まったタイミングで連絡します。
SES営業では、「提案したきり返事がない」「面談結果の連絡が遅い」という不満がよく聞かれます。連絡のルールを決めて守るだけで、取引先の中での評価が上がります。
取引先に伝える一文の例
「ご提案した人材の状況は、ほかの案件で決まった場合も含め、変化があった当日にご連絡します。」
条件面の書き方をそろえることも、情報共有の丁寧さの1つです。記入項目はSESの条件面の書き方|案件・人材メールに入れる項目14を参考にしてください。
差別化を取引先に伝える3つの場面と例文
差別化は、会社紹介・提案メール・情報交換の面談の3つの場面で、毎回同じ言葉で伝えます。場面ごとに言うことが変わると、取引先の記憶に残りません。
| 場面 | 伝え方 | ポイント |
|---|---|---|
| 会社紹介資料 | 表紙の次のページに、強みの一文と数字を置く | 強みは1〜2つまでにする |
| 提案メール | 署名の上に、強みの一文を1行入れる | 毎回同じ一文にする |
| 情報交換の面談 | 最初の5分で、強みと実例を1つ話す | 実例は案件名を出さずに話す |
提案メールの例文
提案メールの最後に、強みの一文を添える例です。
件名:【ご提案】AWSインフラ構築 1名(11月2日〜参画可) 株式会社〇〇 〇〇様 いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。 10月14日(水)にいただいたAWS構築案件に、1名ご提案いたします。 【人材A】 ・経験:AWSでのインフラ構築・運用 5年 ・得意:EC2、VPC、Terraform ・参画:2026年11月2日(月)から可能 ・勤務:東京都内、週2日リモート希望 スキルシートを添付いたします。 面談のご都合をお知らせいただけますと幸いです。 ―――― 弊社はAWSのインフラ案件に絞って人材をそろえており、 過去1年の成約の7割がこの領域です。 株式会社△△ 営業部 □□
会社紹介資料のページ構成はSESの会社紹介資料の作り方|BP・エンド向けの構成10枚で紹介しています。
やってはいけない差別化
差別化で一番やってはいけないのは、事実で示せないことを強みとして言うことです。SES業界は横のつながりが強く、誇張はすぐに伝わります。
| やってはいけないこと | 理由 | 代わりにやること |
|---|---|---|
| 根拠のない「業界最安」「No.1」 | 取引先が確かめられず、信用されない | 自社で数えた数字だけを使う |
| 実際より浅い商流を名乗る | 商流の確認で分かり、取引を止められる | 直接取引の割合を正直に伝える |
| 所属を偽って自社社員として出す | 発覚すると信頼を失う | BPの人材はBPとして提案する |
| 単価の安さだけで勝負する | 利益が残らず、次の差別化に投資できない | 早さ・合う・安心で選ばれる理由を作る |
| 強みを5つ以上並べる | 何が得意か伝わらない | 1〜2つに絞る |
特に、他社のエンジニアを自社社員と偽るのは避けてください。詳しくはSESで所属を偽る名刺はNG?で解説しています。
提案スピードを上げる:案件・人材の一元管理
提案を早くする一番の方法は、案件と人材の情報を1か所にまとめ、誰でもすぐ探せる状態にすることです。提案が遅れる原因の多くは、「今、提案できる人がいるか」を調べる時間だからです。
一元管理とは、ばらばらの場所にある情報を1つの場所にまとめて管理することです。
自分でやる方法:Excelと共有フォルダで一元管理する
ツールを使わなくても、次の手順で提案スピードは上げられます。
人材の一覧を1つのシートにまとめる:自社社員・BPの人材を、職種・技術・参画可能日・希望単価で並べる
参画可能日を毎週更新する:更新する曜日と担当者を決める
案件を受けたら、同じシートで絞り込む:技術と参画可能日で絞り、候補を3名以内に
提案メールのひな形を用意する:人材ごとの紹介文を事前に書いておく
提案した記録を残す:どの案件に誰を出したかを記録し、同じ人の二重提案を防ぐ
二重提案は、早さを競うほど起きやすいミスです。起きたときの対応はSESの二重提案が発覚したら|どちらを残すかの判断と謝罪例文で解説しています。提案の流れ全体の見直しはSESの要員提案スピードと精度を上げる方法も参考にしてください。
もっと楽にするなら:チョータツで案件・人材をまとめる
Excelの一元管理は、更新が止まると一気に使えなくなります。BPから届く案件・人材の情報も、メールを読んで転記する手間がかかります。
チョータツとは、SES営業のための案件・人材の管理・共有ツールのことです。案件・人材の情報を1か所で管理し、チームで共有できます。
| 場面 | Excelで管理する場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 自社の案件・人材の管理 | シートに手で入力・更新 | チョータツで管理・共有。入力はAIが手伝う |
| BPの案件・人材を知る | 届いたメールを読んで転記 | 連携すると、相手の営業中案件・営業中人材がデータベースになる |
| 自社の人材を届ける | BCCで一斉送信(誤送信の心配) | チョータツのメール配信機能でパートナーに配信 |
| 新しい取引先を増やす | テレアポ・フォームで1社ずつ | チョータツブーストで新しいパートナーを開拓 |
連携する取引先が増えるほど、提案できる人材と案件の数も増えます。提案スピードと、提案できる幅の両方を広げられるのがポイントです。チョータツは3,000社以上が利用しており、無料で始められます。
差別化の効果を測る4つの指標
差別化がうまくいっているかは、取引先の反応を数字で追うことで確かめます。月に1回、次の4つを記録しましょう。
| 指標 | 数え方 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 提案までの時間 | 案件受領から提案までの時間の平均 | 短くなっているか |
| 面談設定率 | 面談になった提案数 ÷ 提案数 | 提案が「合っている」か |
| 指名での相談数 | 取引先から先に声がかかった件数 | 強みが覚えられているか |
| 継続取引の社数 | 3か月続けて取引がある会社の数 | 関係が続いているか |
たとえば、月に40件提案して10件が面談になれば、面談設定率は25%です。得意領域を絞った後にこの数字が上がれば、差別化が効いていると判断できます。
差別化とあわせて取引先を増やす
差別化の一文ができたら、新しい取引先に届ける場面を増やします。伝える相手が少ないと、強みがあっても選ばれる機会が増えません。
新規開拓の方法はSESの新規開拓の営業方法10選で一覧にしています。
少人数で取引先を増やすなら、チョータツブーストも使えます。チョータツブーストとは、チョータツの中で新しいパートナー企業を開拓できる機能のことです。取引が始まった会社には、チョータツのメール配信機能で、差別化の一文を添えた人材情報を届けられます。
よくある質問
- Q. SES営業の差別化で、まず何から始めればよいですか?
- 過去1年の成約を一覧にし、多い職種・業界と、提案までの日数を確認します。そのうえで、すぐ改善できる提案スピードと、得意領域の絞り込みから始めるのがおすすめです。
- Q. SESの強みが見つからないときはどうすればよいですか?
- よく取引する3〜5社に、声をかけてくれる理由を直接聞きます。自分たちでは当たり前と思っていることが、取引先から見ると強みになっていることがよくあります。
- Q. 取引先がSES会社を選ぶ理由は、結局単価ではないのですか?
- 単価は大切ですが、条件が近い会社が並んだときは「早い・合う・安心できる」が決め手になることが多いです。単価だけで勝負すると利益が残らず、長く続きません。
- Q. 小さなSES会社でも差別化はできますか?
- できます。提案スピードと情報共有の丁寧さは、会社の規模に関係なく今日から改善できます。得意領域を1つに絞ると、少ない人数でも「この分野ならあの会社」と覚えてもらえます。
- Q. 差別化の提案は、どう伝えれば取引先に響きますか?
- 数字を入れた一文を、会社紹介・提案メール・面談で毎回同じ言葉で伝えます。強みは1〜2つに絞り、「技術力が高い」のような誰でも言える言葉は使わないことが大切です。
- Q. 提案スピードを上げるのに、ツールは必要ですか?
- Excelでも、人材一覧の毎週の更新と提案ひな形の準備で早くできます。更新の手間やBPの情報の転記が負担なら、チョータツで案件・人材を一元管理すると楽になります。
まとめ
SES営業の差別化は、取引先に「先に声をかけよう」と思われる理由を1つ持つこと
取引先が選ぶ理由は「早い・合う・安心できる」の3つにまとまる
強みは、成約の棚卸し→取引先に聞く→数字を入れた一文、の3ステップで作る
切り口は、得意領域・提案スピード・商流の浅さ・人材の定着・情報共有の5つ。1〜2つに絞る
事実で示せない強みは言わない。商流や所属を偽らない
提案スピードは、案件・人材の一元管理で上げられる。楽にするならチョータツを使う
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」(2019年3月。2030年の不足は約16万〜約79万人、中位で約45万人)
公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書について」(2022年6月29日。報告書本体の取引上の立場の構成比:元請40.4%、中間下請38.2%、最終下請21.3%)
経済産業省委託事業(みずほ情報総研)「IT人材需給に関する調査 調査報告書」(2019年3月。IT需要の伸びが「高位」の場合、2030年の需給ギャップは78.7万人)