役務提供委託とは?取適法(旧下請法)の取引類型と、SESの受託開発・保守運用・常駐支援の当てはめ一覧
公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日
役務提供委託とは
役務提供委託とは、会社がお客さんに提供しているサービス(役務)の全部または一部を、他の会社に任せることです。法律(第2条第4項)の言葉では「事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」です。
役務とは、モノではなく、作業やサービスそのもののことです。清掃、運送、システムの運用、問い合わせ対応などが当てはまります。
役務提供委託には、次の3つの条件があります。
自社がお客さんにサービスを提供している:有償で提供していることが前提です。
そのサービスの全部または一部を、他社に任せる:いわゆる再委託の形です。
自社のためだけに使うサービスではない:自社で使うサービスを頼むだけなら当たりません。
たとえば、ビルの管理会社が、お客さんから受けた清掃を清掃会社に任せる取引は、役務提供委託です。一方で、メーカーが自社の工場の清掃を頼む取引は、自社で使うサービスなので当たりません。
下請法から取適法へ名前が変わった
取適法とは、発注する会社が、立場の弱い受注側の会社に不利な取引をしないよう定めた法律のことです。2026年1月1日に、それまでの下請法を改正して施行されました。
発注する側は「親事業者」から委託事業者へ、受ける側は「下請事業者」から中小受託事業者へ呼び方が変わりました。役務提供委託という取引類型の考え方は、下請法のころから変わっていません。改正全体のポイントは下請法をわかりやすく|取適法への改正点とSES企業の義務4つで解説しています。
取適法の5つの取引類型
取適法の対象になる取引は、5つの類型に分かれます。下請法のころは4類型でしたが、2026年の改正で「特定運送委託」が加わりました。
| 類型 | どんな取引か | SESとの関係 |
|---|---|---|
| 製造委託 | 物の製造を他社に任せる | ほぼない |
| 修理委託 | 物の修理を他社に任せる | ほぼない |
| 情報成果物作成委託 | プログラム・設計図・デザインなどの作成を任せる | 開発案件の多くが当たる |
| 役務提供委託 | お客さんに提供するサービスを任せる | 運用・監視・ヘルプデスクが当たる |
| 特定運送委託 | 取引先へ届ける物の運送を任せる | ほぼない |
SES営業が押さえるべきなのは、情報成果物作成委託と役務提供委託の2つです。この2つのどちらに当たるかで、対象になる会社の規模の条件も変わることがあります。
情報成果物作成委託とは
情報成果物作成委託とは、プログラムや設計書など、形として残る成果物の作成を他社に任せることです。成果物には次の3つの型があります。
お客さんに提供する成果物の作成を任せる:販売するソフトの開発の一部を任せるなど
お客さんから請け負った成果物の作成を任せる:元請けから受けたシステム開発をBPに任せるなど
自社で使う成果物を業として作っていて、その一部を任せる:自社用のソフトを普段から作る会社が、一部を外に出すなど
SESの受託開発や常駐の開発支援は、多くが2つ目の型に当たります。
役務提供委託と情報成果物作成委託の違い
2つの違いは、「成果物を作る仕事」か「作業そのものを提供する仕事」かです。プログラムや設計書が残るなら情報成果物作成委託です。システムを動かし続ける作業なら役務提供委託と考えます。
| 比べる点 | 情報成果物作成委託 | 役務提供委託 |
|---|---|---|
| 何を任せるか | プログラム・設計書などの作成 | 運用・監視・対応などの作業 |
| 後に残るもの | 成果物(コード・資料) | 作業の結果(システムが動いている状態) |
| SESの例 | 開発、改修、テスト | 運用、監視、データ入力 |
| 自社利用の扱い | 自社で業として作っていなければ対象外 | 自社で使う役務は対象外 |
準委任か請負かでは決まらない
SESの契約は、多くが準委任契約です。準委任契約とは、仕事の完成ではなく、決められた作業をすること自体を約束する契約のことです。
取適法は、契約の名前ではなく、任せた仕事の中身で類型を決めます。法律の定義(第2条)は「作成の行為」や「役務の提供の行為」を任せることとしています。請負か準委任かという契約の形では分けていません。任せた仕事の中身と、会社の規模で判断します。
客先に常駐してコーディングをする場合も、任せているのがプログラムの作成なら、情報成果物作成委託に当たりえます。準委任だから、常駐だからという理由だけで対象外にはなりません。準委任と請負の違いそのものは準委任契約と請負契約の違い|業務委託契約書を見分ける判定シートで整理しています。
類型で変わる資本金・従業員数の区分
SESの仕事は、プログラムの作成か情報処理(運用)なら、資本金3億円・1,000万円と従業員300人の区分で判定します。それ以外の成果物や役務は、資本金5,000万円・1,000万円と従業員100人の区分です。
| 仕事の中身 | 自社(委託事業者) | BP(中小受託事業者) |
|---|---|---|
| プログラム作成・情報処理 | 資本金3億円超/1,000万円超3億円以下/従業員300人超 | 資本金3億円以下/1,000万円以下/従業員300人以下 |
| プログラム・情報処理以外の成果物・役務 | 資本金5,000万円超/1,000万円超5,000万円以下/従業員100人超 | 資本金5,000万円以下/1,000万円以下/従業員100人以下 |
情報処理とは、コンピュータを使って計算や検索などの作業をすることです。3億円・300人の区分になるのは、政令で「プログラム」の作成と定められています。役務では「運送」「物品の倉庫における保管」「情報処理」の3つです。システムの運用やデータ入力がどこまで情報処理に当たるかは、仕事の中身で変わるので、迷ったら確かめましょう。
たとえば、ソフトの利用者からの問い合わせ対応(顧客サポート)だけを任せる場合は、情報処理に当たらない可能性があります。その場合は5,000万円・100人の区分で判定します。迷ったら、公正取引委員会の取適法の簡易診断で確かめましょう。規模の判定例は取適法でSESの準委任は対象?適用条件と営業の変更点7つに詳しくまとめています。
SESの案件タイプ別・当てはめ一覧
SES企業がBPへ再委託するときの、案件タイプごとの当てはめは次のとおりです。開発系は情報成果物作成委託、運用系は役務提供委託が基本です。
| 案件タイプ | 当てはまる類型 | 規模の区分 | 営業が見るポイント |
|---|---|---|---|
| 受託開発(請負) | 情報成果物作成委託 | 3億円・1,000万円・300人 | 元請けから受けた開発の一部を出すか |
| 常駐の開発支援(準委任) | 情報成果物作成委託 | 3億円・1,000万円・300人 | 設計・コーディング・テストをするか |
| 保守(改修・不具合修正) | 情報成果物作成委託 | 3億円・1,000万円・300人 | プログラムを直す作業があるか |
| 運用・監視・オンコール | 役務提供委託(情報処理) | 3億円・1,000万円・300人 | 稼動管理・障害対応が中心か |
| データ入力・バッチ運用 | 役務提供委託(情報処理) | 3億円・1,000万円・300人 | コンピュータでの作業が中心か |
| ヘルプデスク(電話・メール対応) | 役務提供委託 | 内容で変わる | 情報処理に当たらなければ5,000万円・100人 |
| PMO・事務支援 | 内容で変わる | 内容で変わる | 資料作成・会議運営だけか、開発を含むか |
| 労働者派遣 | 取適法の委託ではない | ― | 派遣契約なら対象外 |
1つの案件に複数の仕事が入っているとき
SESの案件は、開発と運用が混ざっていることがよくあります。たとえば「運用保守」という案件名でも、中身はプログラムの改修が中心ということがあります。
案件名ではなく、BPのエンジニアが実際に何をするかで考えましょう。開発と運用の両方が入っていて、どちらも3億円・1,000万円・300人の区分なら、規模の判定は同じになります。ヘルプデスクなど別の区分の仕事が混ざるときは、両方の区分で確かめておくと安全です。夜間・休日の障害対応を含む運用案件の単価と契約の書き方は、オンコール対応の単価の決め方|SESの夜間・休日対応の契約を参考にしてください。
当てはめ一覧を使うときの注意
一覧は、SES企業が元請けやエンドから受けた仕事をBPに出す場面を前提にしています。発注する側がエンド企業の場合は、自社で使うための取引かどうかで結論が変わります。この点は次の見出しで説明します。
自社利用の開発が対象外になる「業として」の条件
自社で使うためのシステム開発や運用を外に出す取引は、自社がその仕事を「業として」行っていなければ、取適法の対象外です。「業として」とは、くり返し続けて、事業として行っていることをいいます。
役務提供委託の場合
役務提供委託は、お客さんに提供するサービスを任せるときだけが対象です。自社で使うサービスを頼む取引は、自家利用役務と呼ばれ、対象外になります。
自社の社内システムの運用を、運用会社に任せる → 対象外
社内研修の講師を外部に頼む → 対象外
顧客から受けたシステム運用を、BPに任せる → 対象
無償に見えるソフトのサポートでも、費用が販売価格に含まれていれば、有償のサービスとして扱われます。そのサポートの一部を他社に任せれば、役務提供委託に当たりえます。
情報成果物作成委託の場合
自社で使うシステムの開発を外に出す場合は、自社でそのシステムを作る力があり、普段から作っているかがポイントです。自社で作る力がなく、普段も作っていないシステムの開発を外に出す場合は、「業として」行っていないので、対象外になります。反対に、ソフト会社が自社で使う会計ソフトの開発の一部を他のソフト会社に任せるような場合は、対象になりえます。
| 発注する会社 | 取引の例 | 判定の目安 |
|---|---|---|
| エンド企業(小売・金融など) | 自社の業務システムの開発をSES企業に出す | 自社で作っていなければ対象外 |
| エンド企業の情報システム子会社 | 親会社向けシステムの開発の一部を出す | 親会社から請け負っているなら対象になりえる |
| SES企業・ソフト会社 | 顧客から受けた開発をBPに出す | 対象になりえる |
| SES企業・ソフト会社 | 自社の社内ツールを、普段から自社で作っている | 一部を外に出すと対象になりえる |
SES営業にとっての意味は2つあります。1つは、自社がBPに出す取引は、ほとんどが対象になりえることです。もう1つは、エンド企業から受ける取引は、対象外のことが多いことです。エンドとの取引で取適法の保護を前提に交渉すると、話がかみ合わないことがあります。
自社の取引の類型を判定する手順
類型の判定は、「誰から受けた仕事か」→「何を任せるか」→「会社の規模」の順に確かめます。営業担当が案件ごとに確認するなら、次の5つの手順です。
その仕事の出どころを確認する:元請けやエンドから受けた仕事をBPに出すのか、自社で使う仕事を頼むのかを確かめます。
BPのエンジニアがする作業を書き出す:設計・コーディング・テスト・運用・監視・問い合わせ対応などに分けます。
類型を決める:成果物を作るなら情報成果物作成委託、作業を提供するなら役務提供委託です。
規模の区分を決める:プログラム作成・情報処理なら300人の区分、それ以外は100人の区分です。
自社とBPの資本金・従業員数を当てはめる:資本金か従業員数のどちらかで当てはまれば対象です。
判定の結果は、案件の記録に残しておきましょう。記録するときのメモの例です。
【取適法の判定メモ】案件:〇〇社 基幹システム改修(2026年10月1日〜) ・出どころ:元請け△△社から受けた開発の一部をBPへ再委託 ・BPの作業:詳細設計、コーディング、単体テスト(常駐・準委任) ・類型:情報成果物作成委託(プログラム作成) ・区分:資本金3億円・1,000万円/従業員300人 ・自社:資本金5,000万円・従業員80人 ・BP:資本金1,000万円・従業員20人 ・判定:対象(資本金で該当) ・確認日:2026年9月30日(水) 確認者:◇◇
対象になったら注文書に書くこと
取適法の対象になる取引では、発注したらすぐに仕事の内容・代金・支払期日などを書面かメールで伝える必要があります。SESでは、注文書(発注書)に内容・代金・支払期日を書いて、稼働開始前に送るのが基本です。
発注の時点で決められない正当な理由がある事項は、そのとき書かなくてもかまいません。ただし、決まったらすぐに書面かメールで伝えます(取適法第4条)。単価が決まらないまま参画する場面はSESで単価未定のまま参画するときの仮単価|取適法上の扱いで整理しています。
常駐型の開発でも、業務の範囲がわかるように書いておきましょう。注文書の業務内容の書き方の例です。
| 案件タイプ | 業務内容の書き方の例 |
|---|---|
| 常駐の開発支援 | 〇〇システム開発支援業務(詳細設計・プログラミング・単体テスト) |
| 保守 | 〇〇システムの保守業務(不具合修正・小規模改修) |
| 運用・監視 | 〇〇システムの運用業務(稼動監視・障害一次対応・バッチ運用) |
| ヘルプデスク | 〇〇システムの問い合わせ対応業務(電話・メール) |
あわせて、支払期日は役務の提供を受けた日(または成果物を受け取った日)から60日以内にします。注文書の書き方はSESの注文書・注文請書は必要?違いと成立時点|条文例3つで確認できます。支払期日の数え方は取適法の支払期日60日とSESの支払サイト|計算例と手形禁止で解説しています。
BPから単価の見直しを相談されたときに話し合いを拒むことも、取適法で禁止されています。対応の仕方は取適法で単価交渉の協議拒否は違反?一方的な代金決定のNG例と対処法で解説しています。
チョータツで案件の中身と条件をそろえて管理する
類型の判定で一番の手間は、BPに出す案件の作業内容や条件を、正しく把握しておくことです。案件の情報がメールやExcelに散らばると、注文書の業務内容と実際の作業がずれやすくなります。
| 場面 | 自分でやる場合 | チョータツを使う場合 |
|---|---|---|
| 案件の中身を確認する | メールやExcelを探す | 案件情報を1か所で管理して確認 |
| チームで共有する | 担当者ごとにファイルがばらばら | 案件・人材の情報をチームで共有 |
| 情報を入力する | 1件ずつ手で転記 | AIが入力を手伝う |
| BPに案件を届ける | BCCでメールを一斉送信 | メール配信機能でパートナーに配信 |
チョータツは、3,000社以上が使うSES営業向けの案件・人材の管理・共有ツールです。無料で始められます。他社と連携すると、他社の営業中案件・営業中人材をデータベースにできます。
ただし、取適法の類型の判定や注文書の作成そのものは、自社で行う必要があります。チョータツは、その前提になる案件の中身と条件をそろえておくために使いましょう。
よくある質問
- Q. 下請法の役務提供委託の具体例は?
- ビル管理会社が、お客さんから受けた清掃を清掃会社に任せる取引が代表例です。SESでは、顧客から受けたシステムの運用や監視をBPに任せる取引が当たります。
- Q. 下請法(取適法)は準委任契約にも適用されますか?
- 適用されることがあります。取適法は契約の名前ではなく、任せた仕事の中身で判断します。常駐してコーディングする準委任も、情報成果物作成委託に当たりえます。
- Q. システム開発の委託は役務提供委託ですか?
- プログラムを作る仕事なので、多くは情報成果物作成委託です。システムを動かし続ける運用や監視の仕事は、役務提供委託(情報処理)に当たることが多いです。
- Q. 下請法の「業として」とはどういう意味ですか?
- くり返し続けて、事業として行っているという意味です。自社で作る力がなく、普段も作っていないシステムの開発を外に出す場合は、業として行っていないので対象外になります。
- Q. 自社の社内システムの運用を外部に任せるのは対象ですか?
- 自社で使うサービスを頼む取引は自家利用役務と呼ばれ、役務提供委託には当たりません。お客さんに提供するサービスを任せるときだけが対象です。
- Q. 業務委託契約なら下請法は関係ありませんか?
- 関係することがあります。業務委託は契約の呼び方にすぎません。中身が情報成果物作成委託や役務提供委託に当たり、規模の条件を満たせば対象です。
まとめ
役務提供委託とは、お客さんに有償で提供しているサービスの全部または一部を、他社に任せること
取適法の類型は5つ。SES営業が押さえるのは、情報成果物作成委託と役務提供委託の2つ
開発・改修・テストは情報成果物作成委託、運用・監視・データ入力は役務提供委託(情報処理)が基本
準委任か請負か、常駐かどうかでは決まらない。任せた仕事の中身で判断する
自社で使うための開発や運用は、「業として」行っていなければ対象外
SES企業がBPに出す取引は対象になりえるので、類型と規模を案件ごとに確認して記録する
本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日
参考資料(2026年9月30日確認)
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)」(第2条 定義、第3条 支払期日、第4条 明示、第5条 禁止行為)
e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」(プログラム・運送・倉庫保管・情報処理)
公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」
公正取引委員会「取適法簡易診断」