下請法(取適法)の納期前倒し・発注キャンセルは違反?SESの判定表と元請への伝え方例文

公開日:2026年9月30日更新日:2026年9月30日

下請法(取適法)で、納期前倒しや発注キャンセルはどう扱われる?

自社に責任がないのに、元請の都合で発注内容を変えさせ、自社の利益を不当に損なうことが禁止されています。納期の前倒しも発注の取消しも、この「発注内容の変更」にあたりえます。

取適法とは、2026年1月1日に下請法が改正されてできた、中小の受託事業者を守る法律のことです。正式名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です。呼び名も変わり、発注する側を委託事業者、受ける側を中小受託事業者と呼びます。

不当な給付内容の変更とは、受ける側に責任がないのに、発注の取消しや発注内容の変更をさせることです。不当なやり直しとは、受け取った後に、責任がない作り直しをさせることです。公正取引委員会は、どちらも「中小受託事業者の利益を不当に害する」場合に禁止としています。

条文ではこう書かれている

取適法5条2項3号は、次の行為を禁止しています。

中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、中小受託事業者の給付の内容を変更させ、又は中小受託事業者の給付を受領した後(役務提供委託又は特定運送委託の場合にあつては、中小受託事業者からその委託に係る役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること。

ポイントは「責めに帰すべき理由がないのに」と「させる」の2つです。自社のミスが原因なら、この禁止には当たりません。

そもそも取適法の対象になる取引か

対象かどうかは、元請と自社の資本金か従業員数で決まります。SESで多いのは、プログラムの作成(情報成果物作成委託)と、運用・保守など(役務提供委託のうち情報処理)です。

取引の種類元請(委託事業者)自社(中小受託事業者)
プログラム作成・情報処理の委託資本金3億円超資本金3億円以下(個人を含む)
同上資本金1千万円超3億円以下資本金1千万円以下(個人を含む)
同上(資本金で当たらない場合)従業員300人超従業員300人以下
プログラム以外の情報成果物・その他の役務資本金5千万円超資本金5千万円以下(個人を含む)
同上資本金1千万円超5千万円以下資本金1千万円以下(個人を含む)
同上(資本金で当たらない場合)従業員100人超従業員100人以下

たとえば、資本金1億円の元請から資本金1千万円以下の自社がプログラム作成を受けるなら、対象になります。従業員数の基準は、資本金で当てはまらない取引を拾うため2026年1月に加わりました(2条8項5号・6号)。自社の取引で判定するなら、下請法の対象かどうか判定|資本金と従業員数の基準をSES向けにの手順を使ってください。

準委任と請負・持ち帰りで、使えるルールが少し違う

準委任の常駐SESより、請負や持ち帰り開発のほうが、納期の前倒しやキャンセルの影響を強く受けます。成果物と納期が決まっているからです。

持ち帰り開発とは、客先に常駐せず、自社で開発して成果物を納める働き方のことです。契約は請負になることが多いです。

比べる点準委任(常駐SES)請負・持ち帰り開発
取適法での主な区分役務提供委託情報成果物作成委託
納期の前倒しで困ること参画日が早まり、人の確保が必要工程を詰めるため、増員や休日作業が必要
受領拒否の禁止(5条1項1号)役務提供委託には適用されない適用される
不当な変更・やり直しの禁止適用される適用される

判定表:前倒し・キャンセル・やり直しは違反になる?

分かれ目は「自社に責任があるか」と「元請が費用を負担するか」の2つです。よくある9つの場面を、自社(受ける側)から見て整理しました。

場面違反のおそれ理由請求できるもの
① 納期を2週間早めさせ、増員費用は払わない高い自社に責任のない発注内容の変更増員・休日作業の費用
② 納期を早め、追加費用を払うと合意した低い元請が費用を負担している合意した金額
③ 自社の遅れを取り戻すため、納期を調整した低い自社に原因がある原則なし
④ 発注書を出した後に取り消し、費用を払わない高い発注の取消しは給付内容の変更に含まれる着手済み作業・確保した人員の費用
⑤ 内示だけで、発注書が出る前に中止した取適法では判断しにくいまだ発注していない民法や契約で請求できる場合がある
⑥ 仕様変更で作り直しになったが、無償で直させる高い仕様どおりの成果物を作り直させている作り直しの工数
⑦ 仕様どおりでない不具合を、無償で直させる低い自社に責任がある原則なし
⑧ 受け取ってから1年を超えて、無償のやり直しを求める高い(例外あり)公正取引委員会の考え方で原則1年以内とされるやり直しの工数
⑨ 前倒しした納期に間に合わないとして、受け取らない高い受領拒否の禁止にもあたりうる成果物の代金

「高い」は、費用の負担がなく、自社に責任もない場合の目安です。実際の判断は、発注書の内容や、やりとりの記録で変わります。

納期の前倒し:違反になる場合と、ならない場合

元請の都合で納期を早め、そのための費用を自社に負担させると、違反のおそれがあります。反対に、増えた費用を元請が払うなら、前倒し自体は問題になりにくいです。

納期は、発注のときに書面などで示す項目の1つです。取適法4条では、給付の内容や代金、支払期日などを発注時に示す決まりがあります。そのため、決まった納期を後から早めるのは「発注内容の変更」にあたりえます。

「同意したから問題ない」とは限らない

口頭で「わかりました」と答えていても、費用の負担がなければ問題が残ります。取引の力関係で断れないことが多いからです。大事なのは、同意の有無より「費用をだれが負担したか」です。

前倒しで増える費用の計算例

請負の持ち帰り開発で、納期が2026年10月30日(金)から10月16日(金)に早まった場合を考えます。

費用の項目計算金額
追加で入れるBPのエンジニア月80万円 × 0.5か月400,000円
自社エンジニアの休日作業1日4万円 × 4日160,000円
別案件の開始を遅らせた損別案件の粗利1週間分100,000円
合計―660,000円

このように、前倒しで何がいくら増えるかを表にして元請に見せます。「大変です」と言うより、数字を出したほうが話が進みます。

発注後のキャンセル:費用を請求できるケース

発注書(注文書)を受け取った後に、自社に責任なく取り消されたら、かかった費用を請求できる可能性が高いです。公正取引委員会は、発注の取消しを「不当な給付内容の変更」の1つとしています。

公正取引委員会の取適法Q&Aでは、取消しのときは受ける側にかかった費用を発注側が負担する考え方が示されています。ただし、解約できる手配は解約し、解約できない分だけ負担してもらう形でもよいとされています。

キャンセルで請求できる費用の例

  1. すでに終わった作業の工数:設計書の作成など、途中まで進めた分

  2. 確保した人員の費用:BPと契約済みで、すぐ解約できない分

  3. 準備に使ったお金:開発環境やライセンスなどで、戻らない分

一方、発注書が出る前の「内示」だけの段階なら、取適法の禁止事項には当たりにくいです。その場合は民法や契約の問題になります。内示の取消しは、SESの内示キャンセルで請求できる?損害賠償の判断基準と伝え方で詳しく扱っています。

無償のやり直し:瑕疵(契約不適合)との違い

仕様どおりに作れていないなら、自社が無償で直すのが原則です。一方、仕様にない追加や、元請の都合による仕様変更で作り直すなら、費用を請求できます。

瑕疵(かし)とは、納めた物に欠陥があることです。2020年4月の民法改正で、今は契約不適合と呼びます。契約不適合とは、納めた物が契約の内容(種類・品質・数量)に合っていないことです。

やり直しの原因だれの責任か無償でよいか
仕様書どおりに動かない不具合自社無償で直すのが原則
仕様書に書いていない要望の追加元請有償で交渉できる
エンドの都合で仕様が変わった元請有償で交渉できる
検収に合格した後の「やっぱり変えたい」元請有償で交渉できる

取適法の不当なやり直しにあたるのは、自社に責任がないのに費用を払わずに作り直させる場合です。公正取引委員会の考え方では、受け取った後にやり直しを求められるのは、通常の検査で見つからない不具合に限られます。期間は、原則として受け取ってから1年以内です。エンドへの保証期間が1年より長く、その期間を事前に合意している場合などは扱いが変わります。反対に、発注側の顧客への保証期間より長くやり直しを求めることは問題になりえます(取適法Q&A)。

SESでの責任の考え方は、SESに瑕疵担保責任はある?契約不適合責任との違いを表で解説で整理しています。

元請に費用を請求する6ステップ

「断る」より「費用を出して対応する」を先に考えます。取引を続けながら、損をしない形にするためです。

  1. 発注書の中身を確認する:納期・成果物・代金・支払期日を、発注書と注文請書で確かめます。

  2. 変更の連絡を記録する:前倒しやキャンセルの依頼を、メールで送ってもらいます。電話なら、内容をメールで送り返します。

  3. 自社に責任がないか確かめる:遅れや不具合の原因が自社にないかを、先に社内で確認します。

  4. 増える費用を計算する:増員、休日作業、着手済みの作業、解約できない手配を金額にします。

  5. 対応案を2つ出す:「費用ありで前倒し」と「納期そのままで段階的に納品」など、選べる形にします。

  6. 合意を書面に残す:新しい納期と追加の代金を、変更の発注書や覚書で出してもらいます。

発注書に書くべき項目は、下請法の3条書面とは|SESの発注書・注文書の記載事項と例文で確認できます。取適法では、発注時に示す書面の決まりは4条に移っています。

元請への伝え方:角を立てない例文3つ

「法律違反です」と最初に言うのは避けます。相手を責めると、次の発注に響くからです。まずは「対応できる条件」を示し、それでも応じてもらえない場合だけ、法律の話を出します。

例文1:納期の前倒しを頼まれたとき

件名:【ご相談】〇〇開発の納期前倒しについて

〇〇株式会社 〇〇様

いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
10月30日(金)納期の件、10月16日(金)への前倒しのご相談をありがとうございます。

社内で調整したところ、前倒しに対応可能です。
ただし、増員と休日作業が必要になり、追加で66万円(税別)が発生します。
内訳を添付いたしましたのでご確認ください。

費用を抑えたい場合は、10月16日(金)に主要機能だけ先に納め、残りを10月30日(金)に納める案もございます。
どちらかでご検討いただけますと幸いです。

例文2:発注後にキャンセルされたとき

件名:【ご確認】〇〇開発の発注取消しに伴う費用について

〇〇様

本件の中止のご連絡、承知いたしました。
10月5日(月)の発注書をもとに、すでに次の作業と手配を進めておりました。

・基本設計の作成(完了分):〇〇万円
・BPとの契約で、解約できない10月分:〇〇万円

解約できる手配はすべて取り消しました。
残りの費用について、ご負担のご相談をさせていただけますでしょうか。

例文3:無償のやり直しを求められたとき

件名:【ご相談】〇〇画面の修正について

〇〇様

ご指摘の点を確認いたしました。
1点目の表示崩れは、仕様書どおりでないため、弊社にて無償で修正いたします。
2点目の項目追加は、仕様書にないご要望のため、別途お見積りをお送りいたします。

作業量は2人日の見込みです。進め方をご相談させてください。

言い換えたい表現

避けたい言い方言い換え
「それは下請法違反です」「追加の費用について、ご相談させてください」
「無理です」「この条件なら対応できます」
「そちらの都合ですよね」「今回はご依頼内容の変更にあたるため」
「タダではやれません」「別途お見積りをお送りします」

何度伝えても費用の話に応じてもらえないときは、記録をそろえて専門家や公的な窓口に相談します。窓口は下請法の相談窓口はどこ?SESが取引先の違反を申告する手順にまとめています。

自社がBPに再委託しているときの注意

元請から前倒しやキャンセルを受けたとき、同じ負担をBPにそのまま回すと、今度は自社が違反を問われるおそれがあります。自社がBPに発注する取引では、自社が委託事業者になるからです。

元請との契約と、BPとの契約は別の契約です。元請から費用をもらえなくても、BPに責任がなければ、BPの費用は自社が負担する必要が出てきます。発注側としての注意点は、下請法の禁止事項11個|SESの減額・買いたたき・発注取消の例で確認してください。

前倒しで急に増員が必要になったときは、1人ずつ出すより体制で提案したほうが通りやすくなります。組み方と単価の出し方は、SESのチーム提案のやり方|複数名の体制の組み方と単価の出し方を参考にしてください。

条件の記録と共有をチョータツで楽にする

前倒しやキャンセルの交渉で強いのは、「最初の条件」をすぐ示せる会社です。Excelやメールに条件が散らばっていると、担当者しか答えられず、交渉が遅れます。

自分でやるなら、案件ごとに次の項目を1行にまとめて、チームで共有しておきます。

  • 発注書の日付、納期、成果物、代金、支払期日

  • 変更の依頼があった日と、その内容

  • 合意した追加費用と、変更の発注書の有無

これをもっと楽にするなら、DrivenXのチョータツが使えます。チョータツは、SES営業の案件・人材の情報を管理・共有できるツールです。AIが入力を手伝うので、案件の条件をためる手間を減らせます。3,000社以上が使っていて、無料で始められます。

また、パートナーへのメール配信機能もあります。前倒しで急に増員が必要になったとき、取引先のBPへまとめて募集を送れます。

よくある質問

Q. 下請法で、納期の前倒しは違反ですか?
自社に責任がないのに、費用を払わずに前倒しさせると違反のおそれがあります。元請が増えた費用を負担するなら、問題になりにくいです。
Q. 下請法で、発注のキャンセルはできないのですか?
キャンセル自体が一切できないわけではありません。発注後に取り消すなら、受ける側にかかった費用を負担する必要がある、という考え方です。
Q. 下請法は2026年からどう変わりましたか?
2026年1月1日に「取適法」に変わりました。従業員数の基準が加わり、手形での支払いや、協議に応じない一方的な代金決定も禁止されました。
Q. 瑕疵(不具合)の修正は、無償でやらないといけませんか?
仕様どおりに作れていない不具合なら、無償で直すのが原則です。仕様にない追加や、元請の都合の仕様変更なら、費用を請求できます。
Q. 納期に遅れたら、下請法で守られますか?
自社の責任で遅れた場合は守られません。ただし、元請が一方的に早めた納期に間に合わなかっただけなら、自社の責任とはいえない場合があります。
Q. 納品してから支払いまで、いつまで待てばよいですか?
取適法の対象なら、受け取った日から60日以内に支払期日を決める必要があります。計算方法は取適法の支払期日60日とSESの支払サイト|計算例と手形禁止をご覧ください。

まとめ

  • 自社に責任がないのに、費用なしで納期の前倒し・発注取消し・やり直しをさせると、取適法(旧下請法)違反のおそれがある

  • 根拠は取適法5条2項3号。発注の取消しも「給付内容の変更」に含まれる

  • 元請が費用を負担すれば、問題になりにくい。営業は「断る」より「費用を出して対応する」

  • 仕様どおりでない不具合は無償、仕様にない追加や仕様変更は有償で交渉する

  • 伝えるときは「違反です」ではなく、金額と代わりの案を出す

  • 自社がBPに発注しているなら、同じ負担をBPに回さない

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の法的助言ではありません。具体的な判断は弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

運営:チョータツSES研究所(株式会社DrivenX)|編集方針|公開日:2026年9月30日|更新日:2026年9月30日

参考資料(2026年9月30日確認)

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